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#4

 ご令嬢は高二だからバイクくらいは免許持っていてもおかしくはない……だが、あのメイドに隠して免許取得なんてできないだろう。自転車って線もなくはないが育ちを考えるとタクシーあたりが無難だろうな。

 

 まずは観光協会で伊豆中のタクシー会社の番号を調べてもらい、ひとつづつチェックする。

 いくつか電話をかける。もちろん「家出した妹を探す兄」として。

 何軒目かの電話で、女子大生がタクシーを手配したという話を拾えた。今日の昼頃とのこと。しかも、幹線道路が土砂崩れで埋もれたまま通れなくていったん街へ戻ってきたという。それもあり覚えていたのだとか。

 これだな。間違いない。俺の嗅覚は鋭いんだ。年齢なんてサバ読む可能性があるし。

 

 その後だ。

 街まで戻ってからどうする?

 

 またタクシーで違うルート? ご令嬢ならば金の心配はないかもしれないが、カードは使えば居場所を知らせることになる。そうすると現金だけで移動……どのくらい持っているか分からないが、土砂崩れというアクシデントに遭った人間の考え方として、これからもアクシデントに遭うかもしれないと考える。すると、ゆとりをもって行動しようとする……この場合は、現金の保存。

 ……バスを使う可能性もでてくるな。いや、むしろバスを使わないことを印象付けるためにあえてタクシーを……待て待て俺。

 考えすぎると、逆に見失うもんだ。

 まずは『女子大生を降ろした街』から伸びるバス路線網をチェックする。実際のルートの推理は情報を増やしてからだ。

 

 地図の中に、土砂崩れで通行禁止のエリアを書き込んでゆく。

 ん?

 メイドから教えてもらった「目的地」……工場って海の近くって書いてあったな。このルートだと海には出ないぞ?

 ……じゃあ、どこかに寄ろうとした。もしくは霍乱……。

 

「ほら、尻尾に食いついたぜ」

 俺の勘が告げる。これは、工場よりも先にこっちだ。通行禁止の向こう側に回り込む道を見つけ、今夜のうちに向かっておこう。

 

 

 

 眩しさに目を開ける。

 時計を見るともう11時過ぎか……俺は夜の男だ……そう。だから朝は弱いのだ。

 とりあえず車の外に出て伸びをする。

 路肩に停めた車の横を、幅広タイヤの跡がいくつか土砂崩れの方向に向かってついていた。土木機械でも運んだのだろうか。

 

 ここは、土砂崩れの「向こう側」で、道がいくつかに分岐している場所にいくつか並ぶ山菜そばの看板。

 そういや昨日の昼から何も食ってなかったな。

 都会に生きる俺みたいな人間は、コンビニがあるのが当たり前になっているせいか食い物の準備が甘い。

 忘れていたよ。田舎ってぇのが、こういう場所だってこと。

 

 熱い珈琲を呑みたいな……まだ眠い目に飛び込んできたのは一枚の看板。

『甘味 山菜』

 

 ……まさか、山菜を甘く?

 その看板に針金で無理やり縛り付けられているクリームパフェの食品サンプルが、店の怪しさを余計に増している。

 ディープだぜ。池袋にだってこんなディープな場所はあまりない。

 時間的にはもう営業開始しているだろう。それに珈琲ぐらいあるかもしれない。

 俺はそのカオスな店へと踏み込んだ。

 

 入るなり、汁粉のような甘い匂いが立ち込める。

 やたら、にこにこしたおばちゃんが、ひとり、机を拭いていた。

「いらっしゃいませ!」

「お姉さん、この匂いなに?」

 18歳以上はどんな年齢であろうとも「お姉さん」と呼ぶ。これは俺のポリシーだ。

「あらやだ、こんなおばちゃん捕まえて。アッハッハッハ! これはねぇ、おぜんざいよ。アッハハハハ!」

「へえ、このへんで小豆とか採れるの?」

「違うのよ。アハハハハ! うちのひとったら、このあたり山菜そばばっかだからこっちのほうがお客さんはいるだろーとか言っちゃって。アッハッハッハッハ!」

 なんだか笑い声を聞いているとあのメイドはこんな顔してたんじゃないかなどと思っちまう。

「じゃあ、昔は山菜そばのお店だったんだ」

「今でもやってるわよ、山菜そば。アッハッハハハハ! お客さん、おそば? それともスパゲティ?」

 スパ……うどんじゃなく? いや、いかん。相手のペースに呑まれちゃダメだ。

 主導権を握らなきゃな。

 

 

 


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