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#3

 メイドのおばはんは、話好きで、いろんな事を離してくれた。

 

 家族構成は、今回の依頼人である三島由紀男(ミシマ・ユキオ 49歳)氏を筆頭に、

 妻の富士子(フジコ 39歳)はインテリアコーディネーターで雑誌モデルもしてるとか。

 長女が由子(ユウコ 19歳)K大学一年生。勉強ができる……らしい。

 次女の紀子(ノリコ 17歳)高校二年生。あまり成績はよくないがコンピュータに詳しい……らしい。

 長男の閣男(カクオ 12歳)小学六年生。生意気……らしい。

 ……と、ここまでの情報を引き出すのに軽く一時間。おしゃべりが好きなようで情報がたくさん手に入るのは嬉しいのだが、時間と電話代とを考えるとそう喜んでもいられない。しかしよくしゃべるおばはんだ。

 この分だと今日一日が電話で終わってしまう。肝心のところを押さえて今日中にでもターゲットに近づきたいものだ。

 

「ありがとう。たいへんためになった……それで、ご令嬢の向かった先のことをそろそろ……」

「あっはっはっはっあたしったらっ!」という前置きが入り、ようやく本題に入ってもらえた。

 社長令嬢どのが向かった先は「伊豆のとある工場跡に噂の真相を確かめに」。都市伝説かなんかの恐怖の工場とやらで、心霊スポットでもあるとか。ご丁寧に雑誌の切り抜きや赤線を引いた時刻表、断片的な情報がいくつか部屋に残されているとの話。

 メイドの声のトーンが急に変わる。

「無人の、その人肉腸詰工場は今も稼動していて、愚かにも興味本位で訪れた者を次々と加工し続けている。ここへ行って戻ってきた者は誰もいない……って書いてあるのよ、この雑誌!」

「でも誰もいないのにその工場のことがなんで分かるのかしら。馬鹿な記事よねー。あたしさぁ。そういえば霊感強いのよ!」

 一事が万事、この調子。

 一つ話があるたびに、それに感想が次々と連なっていく……適当に相槌を打ちながら必要な情報だけをメモる。

 更にニ時間ほど粘られたが、なんとか電話を切ることに成功した。

 

 ため息をつきながら、得た情報を整理すると……うーん。

 親の気を引きたい思春期のガキの行動そのまんまに見えるけどな。

 探偵でなくても、ちょっと本気になれば解けそうなキーワード。

 本当は親に直々に迎えに来てもらいたいのだろう。

 こりゃ見つけたとしても連れ帰るのが面倒くさそうだ。「家族とじゃなきゃ帰らない」とか言うかもなぁ。

 うはー。

 だが、このおままごとに付き合えば日給10万強。それだけあればミンクちゃんのとこにお礼に呑みにいけるなぁ。

 ……いや、金じゃねぇ。

 一度引き受けた依頼を完遂できないなどとあっては、『池袋鮫』とまで呼ばれる俺の立場がねぇ。

 そうやって誇りを胸に生きてきた。

 クールでハードボイルドの探偵を目指して……

 がんばれ、俺。

 

 

 出かける準備にはそれほどかからない。財布とメモ帳、タバコにジッポ。いつも持ち歩いているものばかり。

 時間がもったいない。

 この治安のよくないご時世。あのくらいの可愛さの女子高生がふらふらしていたら何があるかも分からない。早速、駅に向かう。

 JRで品川経由。東海道線に乗り換える。向こうに着く頃には夜だな。

 ……伊豆で、工場……微妙に嫌な記憶があるのだが、それは今は関係ない。探偵ってのはクールにやらなきゃいけないのさ。

 

 

 

 メモ帳に書き込んだ情報を頭の中で整理し、いくつもの仮説とルートを展開する。まずはレンタカー屋で車を借りる。車ってのは移動手段と宿を兼ねる素晴らしい道具だ。

 駅の書店で買った伊豆の詳細地図を広げ『噂の場所』らしきところを特定しなきゃだな。

 おしゃべりメイドに読んでもらった記事の限りだと、電車からもバスからも遠い。近くの町から交通機関を調達しなければならないはず。

 

 ご令嬢は高二だからバイクくらいは免許持っていてもおかしくはない……ふと、自分の高校時代を思い出す……。

 なんだ? おかしいぞ? どうして今日は、こんな感傷的になり過ぎる。

 

 頭、切り替えるぜ。

 俺は一服するべくタバコを取り出した。

 

 


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