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炭酸

掲載日:2026/05/14

真夏の熱気に浮かされた、束の間の白昼夢。

「また、遊びに行きましょうね」

そう微笑む彼女――菜々美さんに伝えられなかった想いは、炭酸の泡のように弾けて消えた。

目が覚めれば、そこは代わり映えのしない自室。

届いたのは、英検の勉強を理由にした素っ気ないドタキャンの連絡。

そして、親友の波留から突きつけられた、あまりにも「苦い」真実。

期待が大きかった分、抜けていく空気の音はあまりに虚しく響く。

甘い炭酸がただの砂糖水に変わってしまうような、少年・陽太の、長く、残酷な夏の一日を描いた物語。

炭酸

―――また、遊びに行きましょうねっ。

彼女はそう言って、くるりと身を翻した。

離れていく背中が名残惜しくて、気づけば手を伸ばしていた。

《待ってくれ、まだ伝えてないことがたくさんあるんだ。》

「僕は君が、“菜々美さん”のことが―――」

***

「……イテっ!!」

目覚めるとそこには、見慣れた部屋が広がっていた。

彼女の姿や、先程までの光景は無い。

あるのは八月特有の蒸し暑さと、ベッドから転がり落ちた時の痛みだけ。

―――ピコンッ

【陽太君ごめん。英検の勉強しなきゃだから、今日遊びいけなくなっちゃった。】

……あと、苦い現実も追加で。

「はぁ~、どうしたもんかな。」

夏休みも終盤。

世間一般で言う、“ドタキャン”をされた僕は、空いた予定をどう埋めるかで

頭を悩ませていた。

宿題?

とっくに終わってる。

ならゲームか?

やり込みすぎて最早、俺TUEEEE以外何もできない。却下。

「う~~~~ん。」

ひとまず、枕に顔をうずめて考える。

その場で三転倒立したり、犬神家の一族ごっこをしてみても

一向に良い案は浮かばなかった。

―――ピコンッ

それからしばらくして、スマホから通知音が鳴った。

《もしや、彼女からのメールか?!》

一縷の望みをかけて手に取った。

【陽太今日ヒマ~? カラオケ行かね?】

午後の予定が決まった。

***

「いやぁ、陽太。今日来てくれてサンキューな。」

「良いって事よ。波留の頼みだしな、断る理由がないさ。」

僕は今、親友であり、悪友でもある汐留しおどめ 波留はると二人で

カラオケボックスの中にいる。

彼もまた、ドタキャンされた人間の一人らしく、せっかく予約したのもなんだし

欠員メンバーの代わりに僕を誘ったらしい。

彼曰く、「メンバー全員、食中毒になった。」との事。

……それがほんとなら、軽く事件なんだが。

「そういや陽太、予定大丈夫だったか? なんかあった気がしたけど。」

「あぁ、それね~。無くなったからいいの。」

「ちなみに詳しく聞いても。」

僕は、今日菜々美さんと出かける予定だったこと、

またそれがドタキャンで無くなったことを彼に話した。

「あぁ~、なるほどそういう事か……。」

「あれ? 波留、なんか歯切れ悪いな。なんかあったか?」

「え、えっと。その……落ち着いて聞いてくれよ。」

彼のいつになく真剣な目を見て、ゴクリと喉を鳴らす。

「彼女さ―――今日彼氏と遊んでるぞ?」

心臓が痙攣を起こした。

胃の中がせり上がり、毛穴という毛穴からドロリと液体が噴き出した。

「えっ?な、何の冗談だよ。マジで面白くないって……。」

震える声で言葉を返した。

しかし、彼の顔色は依然と変わることが無い。

無言でスマホの画面を見せてくる。

【今日は彼氏とデート。めいいっぱい楽しむぞー♡♡】

「あ~、s、そっか。そうだよな……。」

「なんかごめんな、陽太。お前には、ふさわしい人が絶対―――」

波留の言葉が、一切耳に入ってこない。

まるで深い、海の底にでもいるかのようだ。

果てしない暗闇と無音が僕を襲う。

《……もう、どうでもいいや。》

―――プシュー

何かが抜けていく音がする。

それは果たして、コップの中のコーラからか? あるいは僕から出ているのか?

答え合わせをする気力を、今の僕は持ち合わせていなかった。


夏のラムネのように、膨れ上がって、最終的に炭酸が抜けていく。そんな恋模様を描きました。

読んでいただいたり、感想やアドバイス等をもらえれば励みになります。よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
親友の存在は、心の支えになることもあれば、残酷な現実を突きつけてくることもある。一つの視点だけではなく、色々な見方ができる。親友は実に厄介だ……
2026/05/18 18:41 女性恐怖症
新しい投稿待ってました!彼女にドタキャンされて挙句の果てに友達から「彼氏と遊んでるぞ」と言われた時のショックはなかなかですなー ドタキャンした理由が彼氏というこの驚きと悲しみが同時に来たのでこれが現実…
今回も良きですたい。 一瞬の炭酸の抜ける感じもいいけど、シュワシュワとプチプチと弾ける徐々に抜けていく炭酸のように彼女への思いも抜けていくような描写で続きを書いてほしかった。
2026/05/14 20:41 わさびノリ二郎
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