ルージュ・ノワール
彼女とデート中に寄った店で食事していた時のこと。
「ちょっと面白いものを手に入れたんだ」
食事が一段落したタイミングを見て、鞄に忍ばせておいたものを取り出した。
「なにこれ? 口紅と……クレンジングオイル?」
「そう。でもちょっと変わっててね。この口紅はね、もし布や紙についたら特殊な方法じゃなきゃ絶対に落ちないんだって。で、それを落とす特殊な方法がこのオイル」
「へー、絶対落ちないってホント?」
「ちょっとためしてみようか」
膝からナプキンを取り上げ口紅をこすり付ける。
そして彼女から借りたメイク落としを使ってみても、落ちるどころか薄まりもしないのを確認。
次にオイルを振りかけると、なんとナプキンはあっという間に溶けて消えてしまった。
「え、落ちるっていうか溶けたんだけど、なにこれ」
「そう聞いてはいたけど、本当にきれいさっぱり溶けたね」
溶けた跡とオイルを見比べていた彼女がしみじみと漏らす。
「……これ何のために作ったの?」
「うーん……マーキング用とか?」
両方とも人体には無害らしいから普通に使えると教えると、彼女はせっかくだから試してみるといって化粧室へ向かった。
そして彼女は戻って来るやいなや、えいっと勢いをつけて僕のシャツに顔を押し付けてきた。
「あ、ちょっ」
慌てて彼女を引きはがすとちょうど胸のあたりにべったりとキスマークがついていた。
「あーあ、だから落ちないって言ったのに……」
「いいじゃない。シャツの一枚くらい」
満足気な彼女にしょうがないなぁと言いつつ、周囲の白い目から逃げるように店を出た。
その後、これからどうしようかと相談しながら歩いていると、前方に見覚えのある影が見えた。
……妻だ。
やばい、こんなとこを見られたら言い逃れできない!
僕はばっちり残っている浮気の証拠を消そうと、例のクレンジングオイルをとっさに自分に振りかけた。
「あなたっ! やっぱり浮気してたのね!」
「ちっ違う、誤解だ! 彼女はただの同僚で――」
「ウソ言わないで! じゃあどうしてあなた今裸なのよっ!?」




