この物語はエピローグである【黒涙と紫石】
俺は、一人ボーっとブランコに腰を掛けながら、アイスを吸っていた。
俺、朝倉凌は、つい先日、会社をクビになったばかりだった。
高校のころから勉強を頑張って、大学でも勉強一筋。合コンも飲みも遊びも行かなかった。そうしてようやく夢だった会社に入って、頑張って働いてたのに……。
原因もよく分からないままクビになって、夢のようにふわふわした気分で帰宅。
よく眠れなくて、こんなに早く起きてしまった。
適当にコンビニに来て、アイスを買って、近くに会った公園のブランコでボーっとしてる……。
「大の大人が明け方にブランコ……ワンチャン職質……」
フッと笑いが浮かんできて、軽く笑った。
ハハハハハハハ……と笑っていると、ふいに悲しくなって、顔を伏せて覆う。
「……やっぱ青春、楽しんどけばよかったなぁ……」
軽く鼻をすすった時、「あれ?」と声をかけられた。
「オニーさん、こんな時間にブランコで遊んでるの?」
明るい声だ。指のすき間から目の前の子どもを見上げる。
十……一、二歳くらいの……少年。
「楽しそうだね!」
こいつ、どこに目ぇついてんだよ。
少年は俺の隣のブランコに腰を掛ける。鎖が音を鳴らした。
するとジーッと、俺が持っている袋を見つめてきた。
「……食いたい?」
「いーの!? やたー!」
少年はバッと両手を広げて喜んだ。バランスを崩して落ちかけたのか、「おわ」と声を漏らしていた。
その姿を見て、心の暗い部分……というか、悪いことをしたくなってきた。
「ダメ」
ニヤリと笑って見せると、少年は頬を膨らませた。
「いいって言ったじゃん、ケチ」
「言ってない。お前が勝手に勘違いしたんだ」
少年の髪に朝日がかかった。彼の前髪についてるヘアピンが光を反射する。
「大体、こんな時間にアイスなんか食べたら、お母さんに叱られるぞ」
「んー……」
そう呟き、彼はブランコに座りなおす。
少し上を向いて考えると、ニパッと笑った。
「それはないよ。だって俺、親、いないし」
は? と言いかけた。
親がいないからなんだ。親がいなくても、保護者に叱られるだろう。
というか、何でこんな時間に子どもが?
そんなことをグルグル考えていると、いつの間にか少年は俺の目の前にいた。
今まで気づかなかった。彼の目が、なぜか一般人にないものを感じさせていることに。
少年は俺の手を取り、顔を覗き込むようにしゃがんだ。
「おい、な――」
「朝倉凌さん、27歳。つい先日、入ったばかりの会社をクビになり、無職。中高大と勉強一筋だったため頼れる友人もおらず、コミュニケーションが苦手。――過去の自分の行動が、今になって”悪夢”として降りかかってきたこと……どう思っていますか? 朝倉凌さんっ」
彼の目は――全く笑っていなかった。
それどころか、黒い光を放っている。
「……え」
「ああ、いいんです。わかっていますから。貴方の考えも――原因も。ね?」
原因、そう聞いた時、思わず反応してしまった。
……いや、どうせ自分が悪いとか言うんだろ? と、首を横に振る。期待するな。
「あなた……疫病神ついてますよ」
どこで憑いたのか――それは、小学生のころ出来心で古い神社に忍び込んだこと。
神社にあった紫色の石を持ち帰り、部屋に飾っていた。それは上京する際に実家に置いて来たようですが……随分気に入られちゃったみたいですね。
言葉を発する間もなく笑顔でそう続けられ、何も言えなくなった。
「……なんで」
数秒待ってもらって、ようやく絞り出した一言がそれだ。
少年は立ち上がり、「うーん」とわざとらしく考えるふりをした。
「そうですねぇ、まず誤解しないでいただきたいのが、僕とあなたは本当に初対面ということです。僕はあなたを監視していないし、ましてやストーカーなんて被害妄想もいいところだ」
目を伏せ、やれやれと言うように首を横に振る少年。
俺は、藁にも縋る思いで言った。
「この先も……っ同じようなことが起きるのか? 不幸ばっかりで……こんな――」
言葉に詰まって下を向く。
少年は憐れむような顔をした。その表情が「yes」を物語っていた。
「でも、疫病神とはいえ神です。その石の所に戻らなければならない。その手伝いをしてあげます」
ハッと顔を上げた。
少年が、今度こそ本当に笑っていた。
ありがとう――と、言おうとしたとき、少年の笑みが意地の悪いものに変わった。
「まあでも、僕だけ働くのじゃフェアじゃない。僕の願いも――叶えてくれません?」
返事は一つだった。
ああ、もちろん! それで少しでも生きやすくなるなら!
ああ、やっぱり、人間は扱いやすい。
我はゆっくりと笑顔を作って、目の前の男に手を差し出した。
「僕は星野蒼。よろしくね」
「……もう分かってると思うけど、俺は朝倉凌。こちらこそ、よろしく」
口から動かして、少し遅れて目が細まる。
作り笑顔じゃない笑顔を演出するために。
おい、もっと頑張って疫病神を演じろよ。
朝倉の後ろで黒い涙を流している着物の少年――本物の星野蒼を睨んだ。
元からこの体を返す気なんてないが、百年使い続ければ体も心も慣れるというものだ。余計に返すつもりはない。
だからこれは脅し。
星野蒼が勝手に力を付けて反撃してこないようにするための。
我らは人間の体を借りている間は、成長できないのだから。
あっはは、続きはないよ(笑)こういう短編だからね




