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第九話 王族は物騒

~事件当日 直後から夜~


 ガゼボでこれまでの経緯をまとめ、ルルディ嬢を含めて誰もが犯人の可能性があることを認めた。それを踏まえ、現場が輝光石で照らされている間に、クライファスたちは現場の状況を確認することにする。

 侯爵が丁重に運ばれていった後で、残されているのは散乱した植木鉢の破片、土、植えられていた草木、血の染み込んだ真っ赤な葉。


 あからさまに目立つのが、真っ赤なポインセチアの葉だった。

 

 昼に案内された時に、塔の四階の出窓の鉢植えは三つ。芽が出たばかりのものだった。赤い葉など無かったのを、クライファスは覚えている。

 そして、ポインセチアの鉢植えと言えば。侯爵夫人の事故をきっかけに椿が撤去されて、代わりに置かれたと説明を受けた。


 塔の傍にびっしりと隙間なく置かれていたポインセチアの鉢植え。ぱっと見ただけでも、鉢植え一つ分、隙間が空いているのがわかる。

 クライファスは念のため、口に出して確認した。


「落ちた音が一回、その後に三回ガシャンと壊れる音があって……遅れてもう一回、だったな」

「普通に考えて、塔の四階にあった鉢植えの三つと。最後の一回は、そこのポインセチアの鉢植え、ですね」


 主従二人は顔を見合わせた。


「……安直すぎるか?」

「いえ、咄嗟に、であれば、そんな複雑なこともできなかったでしょう。転落した侯爵と、真っ先に駆け寄った彼。誰にも見られていない、二人だけの時間があったはずです」


 ただ、とトランペタスが残念そうに続ける。


「わからないのは、どうして侯爵が転落することになったのか、ですね」


 転落した所に鉢植えを叩きつける、には。まず侯爵の転落が必須である。

 とりあえず、クライファスはぱっと思いついたことを口にしてみた。


「ええと……あの大柄な警備兵が、二階のバルコニーにいる侯爵を引き摺り落とした、とか? あの平民っぽい警備兵が浮遊魔法を使えると仮定して、だが」

「それだと――」


 一つ、警備兵が引き摺り落として。

 二つ、四階にいたルルディ嬢が鉢植えを三つ侯爵目掛けて落として。

 三つ、最後に警備兵がポインセチアの鉢植えを叩きつける。


「警備兵とルルディ嬢の共犯説には無理がありすぎます。警備兵が侯爵を狙うには、一と三の工程で十分です。わざわざルルディ嬢に殺害計画を話して、露見する危険を冒す必要はありません」


「えっと、たまたまルルディ嬢が窓を開けた時、倒れた侯爵が見えて、とか」


「たまたま窓を開けたルルディ嬢が、その時ちょうど兵士に引きずり降ろされた侯爵に気付き、鉢植えを落とした……運命神の戯れでしょうか。

 ですがそれだと、ルルディ嬢が鉢植えを落としたと、兵士が告発するでしょう。彼はルルディ嬢について、何一つ言及しておりませんでした。

 ――侯爵が転落した、助けてくれ、としか叫んでおりません」


 すらすらと淀みなく語るトランペタスの表情は、いかにも儚げな憂い顔で。

 クライファスは話している内容との乖離から目を背けるように、四階建ての塔を見上げた。

 二階のバルコニー、三階の出窓――はりぼての見張り、四階の出窓。


「二階の私室を見せてもらう、のはさすがに断られるだろうが。外から見る分にはかまわないだろう」


 近くを警備している兵士に一言断りを入れてから、クライファスは浮遊魔法で上空に移動した。他の随員には待機を命じ、トランペタスだけを伴って二階のバルコニーまで浮かび上がる。


 二階のバルコニーはそれほど広くはなかった。私室から三歩、四歩、それぐらいの広さしかない。

 手すりも低く、バルコニーというよりも、浮遊魔法を気軽に使える貴族用の二階出入り口、という設計思想が透けて見えた。

 ついて来てもらったトランペタスに、クライファスは思いつくままに問いかける。


「執事が侯爵の背中を思いっきり押した、とか?」


 一つ、執事が侯爵をバルコニーの外に突き飛ばす。

 二つ、四階にいたルルディ嬢が鉢植えを三つ侯爵目掛けて落として。

 三つ、最後に警備兵がポインセチアの鉢植えを叩きつける。


「三人が共犯説ですね。侯爵は私室に一人でいるのが習慣だったそうですから。ですが、執事は部屋の外の扉のそばで控えていたそうです。当然、他の従僕もいますし、警備兵もいます」


「……嘘だったら、すぐにバレるな」


「はい。それに、突き飛ばしたり、もみ合いになったりしたなら、それなりに声や音がすると思います」


 それもそうか、とクライファスは素直に頷いた。室内で異音がすれば、警備兵が仕事をするはずで――共犯説は無しか、と思って二階のバルコニーを眺め見る。

 すると、今度はトランペタスが案を出した。


「複数犯というのなら、全員が共犯、というのはどうでしょう。執事と、実行犯の大柄な警備兵、それに室内の警備兵も従僕も全員です」


「全員が全員、侯爵に恨みを持っていた、か?」


「それもありますが。次代のカラモス卿が裏で糸を引き、全員が次代の領主に従って実行した、であれば。自らの意志で殺害を実行するよりも、指示されて、の方が可能性が高いかと」


 一瞬、なるほど、と納得しかけたクライファスだったが。


「いや、トラン。それだと、おそらく普通に、もっと穏便に『事故』が起きてる。侯爵の食事に毒の方の百合根でも混ぜて、池か噴水にでも放り込めば完璧だ。そもそも、事故でなくて対外的に病死を発表すればそれで済む」


 穏便な事故ってなんだろうと自分でも思いつつ、クライファスは言い切った。全員が共犯、しかも次代が主犯であれば、こんなに凝った事故を装わなくて良い。


「確かに……あとわからないのは、四階の鉢植えが落とされた理由ですね。ルルディ嬢が落としたのでなければ、ですが」


「ああ、その理由は簡単に思いつく」


「え?」


「犯人を、ルルディ嬢になすりつけることができる」


 自分で言って、クライファスは思いっきり顔をしかめた。続けて何かを言おうとして、言葉にならず。重く、苦いため息を吐き出す。

 そんなクライファスに、トランペタスが真剣な表情で告げた。


「思ったのですが。事故に冤罪、病死……そんなことをよく簡単に思いつきますね。王族に生まれると、そういう事例にお親しくなるのでしょうか……つくづく、王家って物騒ですね」

「武闘派のキグナスバーネに言われたくはないな! ――念のため、四階の鉢植えがあった所まで見に行こうか」


 そう言って、三階を通り越して四階へ、と行きかけて。三階のはりぼての見張り、つまりは槍を持った甲冑が目に入った。

 出窓に手をかけて、中に入る。

 さすがに事件があったせいで、三階にも生身の見張りがいたが。ケレアウィス国の第三王子とキグナスバーネ侯爵家の次男坊である客人、そう周知徹底されていたため、あからさまにイヤな顔をされたが、力づくでの排除はなかった。


「こいつが人間で、今回の事件の一部始終を見ていてくれれば」


 これが生身の人間であれば、とはりぼての甲冑に八つ当たり気味にクライファスが恨み言を零す。


「……! 殿下、槍を見てください」


 突然、トランペタスが声を上げた。槍の穂先ではなく、柄の末端、金属の石突(いしづき)部分を指し示す。

 廊下の地面に突き立てられたその部分は――乾きかけた血で汚れていた。


 見間違いではなく確実に血の汚れだと確認して、二人で顔を見合わせる。よく見れば髪も絡みついていた――亡くなった侯爵と同じ色の髪が。

 周囲にいた兵士にも見せた。この飾りの騎士の槍を、最近動かしたことがあるかと問うも、無い、と断言された。

 飾りの騎士の、他の部分は特に汚れておらず。


 廊下の向こう側――西の出窓。

 二階に続く階段――二階は侯爵の私室で見張りがいる。

 四階へ続く階段――上がればすぐに作業場の扉。


 周囲の兵士の視線を受け流して廊下を見るも、他に気になるものは見当たらず。

 それから当初の予定通り、四階付近にまで浮遊で上がり、吊り下げられていた鉢植えがなくなっているのを確認する。

 特に不審な点は無く、二人はその場から離れて一度地上に戻った。

キグナスバーネ侯爵家の武闘派ぶり、今作ではあまり出てきておりませんが、かなりの武闘派です。関連作「座右の銘は常在戦場~テンプレ転生、スーパーハイパー(以下略)」でそこらが語られてます。

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