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第二話 誰も彼も怪しい


 それでは、とトランペタスが口を開いた。


「亡くなったのはキーボス侯爵家当主、ご本人であることは間違いありません。領主専属医から聞いた所、死因は頭部、それも前後を強打されてたようで」


「前後……?」


 不思議そうに問い返すクライファスに、トランペタスは淀みなく答える。


「額から頭頂部辺りと、後頭部です。石畳に叩きつけられたのと、降って来た植木鉢が考えられます。あと、首の骨が折れていたのは、落下の衝撃かと」


「ああ、そういえば、植木鉢が散乱してたな」


 クライファスは状況を思い出し、納得して頷いた。

 石畳に飛び散った血の赤と、散らばったポインセチアの葉の赤――衝撃的すぎて、忘れようとも忘れられない。


「侯爵を殺した犯人候補ですが。まず第一に挙げられるのが、ルルディ嬢です」


「そうだな、否定はしない。動機は、やはり婚約破棄を叱責されたことか? 本人は、外の騒ぎに驚いて窓を開けたと言っていたが、あまりにもタイミングが良すぎた、あるいは、悪すぎた」


 沈痛な表情で視線を落とすクライファスに、トランペタスが気遣いつつも続ける。


「そうですね。屋敷の使用人たちに聞いた所、普段の扱いもかなり酷かった、と。日の出前には毎日、花の水やりを強要……役目を命じられていたとか。婚約破棄の叱責で、限界を迎えて魔が差した――誰もが思いつく動機だと思います」


 言った後、二人ともやるせない表情を浮かべて沈黙する。

 少しして、トランペタスが口調を切り替え、あえて歯切れよく話し始めた。


「それで次は、あの第一発見者の警備兵です。どうやら解雇が決まっていたらしく、執事殿に抗議しに行って騒いでいました。解雇は前から決まっていて、決定したのは当主殿だったそうです」


「……決定した侯爵が亡くなったから、解雇を撤回してくれ、と? 逆に言えば、亡くなれば解雇が撤回されるかも、と考えたのかもしれん」


 あまりに短絡すぎるか? とクライファスが言うも、追い詰められた人間は何をするかわかりませんからね、とトランペタスからのまさかの肯定。


「破れかぶれになった人間は、思いもよらない無謀なこともしてしまうものなのですよ。

 それで、次は……ビュロン第一王子」


「現場にいなかったが……まあ、考えられる動機は、婚約破棄への抗議を潰すためだな。本人でなくとも、手の者がいるかもしれない」


「キーボス侯爵家はここ十年、王家への口出しがひどかったらしいですから。ルルディ嬢の婚約も、財力に物を言わせてのことです……ですが」


 一瞬、言い淀んだトランペタスだったが、すぐに続きを口にした。


「キーボス侯爵家が口出しし始める前のことですが。現王妃の実家や前王妃の実家――いわゆる自称王家派貴族の傀儡政権でした。キーボス侯爵家が財力で支えて口出しすることで、王家はその血の尊さに相応しい権力を取り戻した、との側面もあります。

 ……ビュロン第一王子がどう思っているかは、御察しですが」


「詳しいな」


 感心するクライファスに、トランペタスはにっこりと笑いを返した。


「ありがとうございます。ここしばらく、我が国の王太子殿下の元で文官の任についていましたから。周辺諸国の事情についてはお任せください。

 それで、次ですが」


 少しばかり誇らしげに、穏やかな口調で説明が続けられた。クライファスは大人しく耳を傾け、次の候補を待つ。


「次……カラモス殿です」


「ルルディ嬢の兄、キーボス侯爵家嫡男の彼だな。彼も、転落時にはいなかったが」


 クライファスは言いながら、転落時の光景を脳裏に思い浮かべた。


 ――石畳に倒れ伏す人影、取りすがる大柄な兵士、四階の窓から身を乗り出すルルディ嬢、そしてしばらくしてから、大声で侯爵を呼びつつ二階のバルコニーに現れた執事。


「間違いなく、あの場に姿はなかった。で、かなり経って、もう日が完全に落ちてから、ええと……花園の方から従僕たちと一緒に戻って来たな」


「はい、僕も覚えています。ランタンの明かりが近づいてきて、何かと思ったら、逆に誰何(すいか)されたので驚きました」


 トランペタスが、ですが、と続ける。


「カラモス殿は継嗣(けいし)、待っていれば当主の座は転がり込んでくるのですから、わざわざ殺す必要はないかと思います」


 その場にいなかったことに加え、動機が無い、という言葉に、クライファスは難しい表情を浮かべて答えた。


「いや、動機なら、ある。当主を引き継ぐと言っても、それはいつだ。今か? それとも、二十年後か?」


 クライファスが、どこか茫とした視線を塔へ向ける。


「侯爵はルルディ嬢と第一王子を娶わせ、その子を王へ、自らは祖父となり外戚として権を振るうつもりでいた……カラモス殿に当主の座が回って来るのは、二十年、へたをすれば三十年後だ」


 トランペタスは息を飲んだ。

 侯爵家嫡男カラモスは見た所、自分たちと同じ二十代前半に見えた。二十年、三十年後……途方もなく、先の話だ。


「父である侯爵と意見が同じであるのなら、ともかく。異として自ら采配を振るいたくとも、それが三十年後でしか為せないのならば……動機はあると、俺は思う」


「そう、ですね。考えてみれば、親しいからこそ意見を交わす機会も多いはず。意見の食い違いによる不満が、あるかもしれません。思いつきませんでした」


 感心して微笑むトランペタスに、クライファスは照れたように顔を背けた。


「それでは、最後に。ルルディ嬢が窓を開けて身を乗り出した後、執事殿も少ししてからバルコニーに出てきました。亡くなったキーボス侯爵の私室から」


 怪しいと言えば怪しいかもです? とトランペタスが候補として上げると。


「執事、か。動機は今の所、思いつかないが……。カラモス殿と同じだ。付き合いが長く、家政に加えて領政の補佐もやっていたなら、意見の食い違いに不満を溜めていてもおかしくはない、かもしれない」


「そうですね……あ、賄賂をもらった第一王子の手の者、という可能性もあるかもしれません」


 証拠はありませんが、と取ってつけたようにトランペタスが続けた。

 これで全員か、と二人が思い返していると、クライファスが肩を落として小声で零した。


「動機は分かる、と言ったが。これだと、本当に誰でも犯人になりえる。――誰が、どうやって、がさっぱりだと、動機だけ分かっても意味がないな」


「いえいえ。全員が怪しいなら、全員を疑いましょう。犯人をうっかり候補から外してしまうより、遥かに良いではありませんか……あ」


 まあまあ、と声をかけていたトランペタスが、最後に声を上げた。


「全員、ですが。とりあえず、僕と殿下と、旅団員は除外しましょう。僕と殿下、ほぼずっと一緒でしたし。旅団員も、基本的に複数人で動いています」


 互いが証人です、とトランペタスが締めくくった。


「そうだな、他にも近くにいた警備兵と一緒に現場に駆け付けたし、証人はいるな――よし。では、トラン。まずは事件の始まりから、状況をまとめよう」


 二人は近場のガゼボに場所を移し、遠くに見張りはいるが、周囲には旅団員以外に人影がないことを確認してから話し始めた。 

ミステリあるある、「全員が怪しい!」という状況。たまに、「こいつだけは無いな」とかいうのがいると、逆に「いや、完全に白っぽいから、何かあるはず、真っ黒なはず!」とかメタを張りますよね。今作は、真っ向から「全員が怪しい!」と、白いフェイクを省きました。

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