出発の時
作戦開始前に、四人は試験官から魔法道具を渡された。
イーキュライザーという金属製の杖だ。
試験合格者に贈られる予定だったが、安全を期して今装備することになった。杖の頭についた玉は、見る角度によって4色に変化する。
「正直、水晶の中の状況がどうなっているか分からないわ。私の魔法はみんなを送り出すことはできるけど、私自身を送ることはできないの。だから何かあった時に守ってあげられない。 イーキュライザーは優れた魔法道具よ。使用者のイメージを具現化できる。もちろん個人の能力にもよるわけだけど。水晶の中に足場がなかった時には中での移動はこれに頼ることになるわ。場合によっては簡単な魔法も使用できるかもしれない」
捕らわれた右半身を水晶外に出せるか分からなかったため、水晶内で回復することも想定して俺も行くことになった。
もはや動くこともままならぬほど俺は弱ってきており、トラムに背負ってもらう。トラムはこの中で一番背が高く、体格もいい。四人は杖の柄を握ってその感触を確かめたり、重さを計るように上げ下げした後、準備はできたという風に目を合わせて肯き合った。
頭の上で束ねた髪を直して試験官が言う。
「よし、それではみんな、いくわよ。水晶の前に横一列に並んで」
試験官は並んだ俺達のうしろにまわると、両手の平を背中に向けて上げた。そしてぽつぽつと何か唱え始めると、その両手は明るい光を灯した。
光が大きくなるとともに俺達の前方の影も伸びた。試験官の集中力の高まりを表すかのように。
そうしてしばらくして、試験官の口にする呪文がまるでテープを早送りしたように急に速度と高さを上げた、次の瞬間、
俺達は真っ暗な空間に放り込まれた—バラバラに宙を舞っていた。
そこは足場も重力もない真っ暗な空間で、まるで宇宙のようだけれど星や隕石の類はない。しかし不思議とお互いの姿はちゃんと視えている。
そして辺りを見渡す間もなく、俺達は水晶の中に転送されたことを確信した。
—そいつが居たからだ。




