レベルアップ
グロウが怯んでいる。名家より御三家の方が上のようだ。
たしかに、ベスの指輪には紋章らしきものが入っているし、彼のフルネームは『ベス=プレジ』だ。ちなみに彼が御三家だったことは知らないし、御三家がなんなのかも俺は知らない。
とりまきB「グロウ君やばいっスよ引き下がりましょう」
「ちっ……。今日のところはこの位にしておいてやる! ただし俺の名前を憶えておけよ。『息を吸うパーフェクト』だということもな!」
とりまきC「いや、忘れてもらった方がいいっスよ」
と言ってあっさりと一味は退散した……と思いきや、グロウは振り返って一人戻って来た。
「お、おい、オマエ。名前は何という?」
「む、何よ。 サラよ。サラ=プライス」
「そ、そうか、サラか。……さっきは悪かったな」
と言い捨て、グロウはピューっと走り去った。
謝った……! 悪いヤツではなさそうだ。そもそも賢者学校の生徒なのだ、不良はいないはずだった。
しかし茫然とした俺達は事を総括できず、なんとなく損をした気分にもなり、少ししてからとぼとぼとその場を後にした。
* * *
ややトラブルはあったものの、気をとり直して俺達は街の散策に出掛けた。
ギット希望のパエリア屋でランチをし、街中の色々な商店をまわった。
サラは雑貨屋でアクセサリーや文具などを買い、「あら賢者学校の生徒さん? かわいいお嬢さんねー」と店のおばちゃんにオマケを貰ったりしていた。
トラムは古時計屋でヴィンテージの懐中時計を買った。実は魔法道具にもなることを店主が教えてくれた。
そろそろ帰らないと町に着く頃には日が暮れてしまう、そんな時間がやってきた。少々名残惜しかったが、俺達は切り上げて帰路についた。
* * *
帰りの馬車の俺達はヘトヘトだった。でもそれは充実感のある疲労によるものだ。ランチも街中散策も、みんなで過ごした一日はとにかく楽しかった。
——これから沢山勉強して立派な賢者になりたい。本校生にも負けないような。
誰かがそう言った。俺もそう思った。
入学式を終えてみんなの横顔が少し逞しくなったように見える。
レベルアップ。
蹄の音はカタコトと俺達をいつもの場所へと運んで行った。
* * *
町に着いてサラと別れた後、男子はいつものようにロフトに集まった。やっぱり今日も集まりたかった。
そして例の一味の話題で大盛り上がりした。思い返すとじわじわきた。
あのグロウという男はとにかく早く有名になりたかったらしい。俺達分校生にからんだのは「本校には将来大賢者になる男がいる」と、この町で拡散してもらうためだったようだ。買物中の俺達を見つけて謝りに来たとりまきA(Bだったかも?)が教えてくれた。以前は見た目もそんなに派手じゃなかったらしい。
賢者学校デビューというやつか。
本校にも真面目一辺倒ではなく変わったヤツがいることに安心した。いや、それは嘘だ。
まぁなんにせよ、俺達は彼の顔と名前を忘れることはないだろう。
そしてサラのパンツが白だったことも。




