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寺生まれって凄い

 僕は平凡な人間だ。


 歴史に名を残す英雄のように強くはなく、国を支える賢者のように賢くない。


 どこにでもいる平凡な村人。


 そんな僕でも英雄に憧れ、同じようになりたいと冒険者としての道を歩んだ事がある。


 才能のある者たちが一年や二年で次々とランクを上げていく中、僕は五年が経っても最低ランクから上がれなかった。


 才能がなかった。


 どれだけ体を鍛えても筋肉はつかず、体は大きくならない。


 どれだけ剣を振っても、剣筋は安定せず剣に振り回されてしまう。


 それなら魔法はどうかと、魔導書を読み漁り寝る間も惜しんで勉強をして、魔法使いに師事して教えを乞うた。


 けど、魔法は使えなかった。


 剣の時と同じだ。才能がなかった。


 魔法を使う際に最も重要な魔力が僕には足りていなかった。


 必死にお金を貯めて買い集めた魔導書も、指導力料も全て無意味だったんだ。


 そこで漸く、僕は自分の才能の無さに気付いた。『薬草拾い』のセシルはその日、冒険者を引退した。





 冒険者を辞めた僕は故郷の村へと帰った。


 冒険者になりたいと無謀にも村を飛び出て行った僕を家族は暖かく迎え入れてくれた。僕が無事に帰ってきた、それだけが嬉しいと。


 家族の涙につられてたくさん泣いた。


 特別になろうと足掻いた5年間で僕が得たものは厳しい現実と、家族の優しさだった。


 それからは家族と一緒に農作物を育てたり、家畜を育てたり、ありふれた日常を過ごした。


 決して特別ではない平凡な日常。憧れて手を伸ばした理想とは違う。けど、家族が傍にいる。それだけで平凡な日常が輝いて見えた。


 孤独だった冒険者の日々はもう忘れよう。


 憧れは胸にしまって、今の幸せを噛み締めようと思う。平凡な村娘として今を生きていこう。









 ───悲劇が起きたのはそれから二月後。


 村を突如として魔物の大群が襲った。


 突然の出来事に村の皆は驚き、戸惑い、そして恐怖に駆られて逃げ出した。


 農具を片手に立ち向かう者もいた。


 けど、冒険者でもないただの村人に過ぎない僕たちでは魔物に歯が立たず、あっという間に、僕の住んでいた村は壊滅した。


 家族が、仲の良い隣人が、皆に優しかった神父さんが、皆、皆、目の前で死んでいった。


 それは僕も同じ。


 ドシン、ドシンと大きな足音を立てて1匹の魔物が僕に近寄ってくる。


 冒険者ギルドにいたお陰でその魔物が何か理解できた。だからこそ生きる事を諦めた。


 ───サイクロプス。


 一つ目の巨人として恐れられるAランク指定の魔物。最低ランクであった僕が天地がひっくり返っても勝てない化け物。


 緑色の巨人はその手に持つ巨大な棍棒を振りかぶり、僕の命を絶つ為に振り下ろした。


 恐怖がないと言えば嘘になる。けど、家族と一緒の場所に行けると思えば震えは治まった。


 最後に見る光景は化け物ではない方がいい。目を瞑り、家族の皆の笑顔を思い浮かべその時を待った。



「あれ?」



 ───痛みがなかった。




 棍棒を地面を叩きつけ、破壊する音が耳に入ってきた。だと言うのに、体を襲う筈の痛みや衝撃がまるでなかった。


 何が起きた?


 恐る恐る目を開いた僕の視界に一人の男性の後ろ姿が映り込んできた。


 見た事がない服装。太陽に反射して光り輝く頭部。


 僕の知り合いなんかではない。けれど、僕は彼を知っていた。


 僕がギルドを辞める一月前に冒険者としてギルドへと加入し、瞬く間にランクを上げていった期待の新人(ルーキー)




 ───『寺生まれ』のシンさん!




 寺という物が何か無教養の僕には分からない。


 けど、強さの秘訣や出生を聞かれた時、彼は必ずこう答える。




『寺生まれだからな』




 正直、意味が分からなかったけど、他の誰でもない彼が言うのだからそれが正しいのだと思う。


「どうして、貴方がここに!?」


 彼がいるのはギルドがある王都の筈。こんな辺境な村に何故彼がいるのか分からなかった。


「クエストで近くまで来ていたんだ。次の馬車の便が来るまで暇だから釣りをしていたら、騒音が聞こえてな」


 サイクロプスが振り下ろした棍棒はシンさんの真横を叩き付けていた。当たっていなくても常人ならその一撃で戦意を失う。


 シンさんはサイクロプスを前にしても平然としており、僕を安心させるように笑顔で言った。


「遅れてすまなかった。直ぐに終わらせる」


 サイクロプスが再び棍棒を頭上へと掲げる。必殺の一撃を叩き込むつもりだ。


 それに対して、シンさんは右手で何か掴むような構えでゆっくり腕を引いていく───。




「 破ぁ!! 」




 ───白い光が走る。


 シンさんの右手から放たれた光がサイクロプスを飲み込んでいく光景を、僕はただ見ている事しか出来なかった。


 平凡な僕とは違う。


 彼はきっと、おとぎ話に登場する勇者様のように特別な存在なんだ。


「さて、残りの魔物も片付けに行くとしますか」


 サイクロプスを倒すという偉業を成し遂げたというのに、彼は誇る事もせず!何事もなかったように動き出す。


「待って!僕はどうしたら?」

「ここら一帯の魔物を倒した筈だ。ひとまず安全な所に隠れていてくれ。後の事は『寺生まれ』の俺に任せておけ!」


 走り去っていくシンさんに従い、潰れた建物の影に潜んで隠れる。いつ魔物が襲ってくるか分からない状況。


 そんな僕の恐怖を打ち払うようにシンさんは瞬く間に村を襲った魔物を殲滅した。













 ───「寺生まれ」って凄い。

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