第4話:血の暴露
夜明け前、城の廊下に冷たい霧が立ち込めた。ユリア・ヘルツは掌の薔薇の紋章を見つめながら、静かに息をつく。町はすでに混乱の渦中にあり、昨夜の惨劇が遠くない悲鳴となって耳に届く。
「逃げられない。誰も、私を止められない」
呟きながら、彼女は廊下を歩く。だが、その声は城の影に潜む者たちに届いていた。市長、領主、教会関係者──嫉妬と恐怖に絡め取られた権力者たちは、ユリアの存在を知ると同時に、利用しようと画策する。
広場では、町人たちの混乱がさらに激化していた。互いを疑い、争い、血が赤く薔薇のように散る。ユリアは必死に止めようとするが、触れるたびに悲劇は加速する。愛する者、幼馴染のレナでさえ、恐怖に怯えた目で彼女を避ける。
「お前がいるから、人が死ぬ」
アクレムの声は冷ややかに、だが確実にユリアの心を切り裂く。
「…でも、止めたい」
ユリアは拳を握り締め、絶望の中で小さな決意を生む。しかし、選択の余地はない。彼女の不死は、周囲の死と苦しみと連動しているのだ。
教会の尖塔から、鐘が鳴り響く。領主と教会の役人たちが城門に集まり、ユリアを「異端」として町に晒すことを決めた。噂は瞬く間に町中に広がり、人々は恐怖と嫉妬で狂い始める。彼女を見た者は次々と逃げ、または攻撃する。
ユリアは城の最上階で立ち止まる。下界で燃え広がる赤い光、血と火、絶望に満ちた人々の顔。彼女は掌を見つめ、薔薇の紋章が黒く爪を立てる痛みを感じる。
「…誰も救われない」
声は静かだが、決意に満ちていた。救いはない。だが、目の前で苦しむ者を見捨てることもできない。愛も、友情も、すべては悲劇の引き金になる。それでも彼女は、歩き続ける。
夜が町を覆い、赤い薔薇が血の海に咲く。ユリアの影は長く伸び、孤独を抱えたまま、次の悲劇の幕が開く。
誰も救われぬ町で、美と血に囚われた少女の戦いは、さらに加速する。




