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第3話:裏切りの薔薇

朝の光が差し込む城の図書室。だが、その光は薄汚れた血と混ざり、冷たい影を落としていた。ユリア・ヘルツは膝を抱え、震える手で薔薇の紋章を撫でる。昨夜、町人が倒れたのは――自分の選択のせいだ。


「誰も…救えないのか」

小さく呟いた声に、アクレムの甘い笑いが返る。

「正しい選択は存在しない。存在するのは、結果だけだ」


ユリアは立ち上がる。もう、震えているだけでは何も変わらない。町の人々が、自分を恐れ、嫉妬し、殺し合う未来が見える。だが、止められるのか――いや、止めなければ。


城を出ると、町はすでに不穏な空気に包まれていた。市場の若者たちが、互いを疑い、怒号を上げ、刃を手に取り始める。誰かが死に、誰かが嫉妬に狂う。ユリアの不死と美は、町の人々の不幸を媒介していた。


「ユリア…!」

幼馴染のレナが駆け寄る。涙を浮かべた瞳が、彼女の胸を刺す。

「私たち、どうしたら――」

「…生き残る方法はない」

ユリアの声は冷たく響く。だが、手を伸ばすことを止められない。


その瞬間、町の広場で火が上がった。嫉妬に狂った市長の息子が、若者たちに襲いかかり、混乱が連鎖する。ユリアは止めようと走るが、触れるたびに不幸は増す。人々は次々と倒れ、怒号と悲鳴が空を裂く。


「これは…誰のせいでもない。…私のせいだ」

涙と怒りが交錯する中、アクレムの声が響く。

「お前が選んだ道だ。逃げられぬ契約を、忘れるな」


ユリアは薔薇の紋章を握り締めた。掌に刻まれた黒い痣が疼く。目の前で倒れる人々、愛する者の苦悶――すべてが自分の存在の代償。


夜が来ると、町は血の匂いに包まれ、薔薇の花びらが赤く染まる。ユリアは廃墟となった広場に立ち尽くす。愛する者は失い、嫉妬に狂った者は自らを断った。笑顔で手を伸ばすレナの幻影さえ、遠くに霞む。


「…誰も救われない」

冷たい風が、ユリアの髪を揺らす。

だが、それでも彼女は歩く。薔薇の赤が、まだ誘う限り――。


誰も報われぬ世界で、美と血に囚われた少女の戦いは、続く。

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