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元悪役令嬢と元ヒロインの、邂逅


「き、きゃぁぁっ!」



「どうしました!?お嬢様!!」



 突然の私の悲鳴に、御者は慌てた様子で声をかけてくれる。



「えっ、あ、あの、なんでもないわ!驚かせてしまってごめんなさいね。」



 私は貴方の数倍驚いているけれどね!!



「…私が、見えているのですか?」



「…えぇ。」



「ほ、ほんとうに!?」



「本当よ!だから、その大きく見開いた眼を閉じて頂戴!正直かなり怖いわ!」



「あ、ごめんなさい。手鏡からそっちを見るの、初めてで。集中しないと、ちょっと難しいみたいなんです。」



 手鏡を見たら、目を見開いたリリィ・ホランドがしゃがみこみ、こちらをじっと見つめていたのだ。昨日以前に同じことが起きていたら、私はきっとこの鏡を投げ割っていただろう。



「…貴女、もしかして本物のリリィ・ホランド?」



「そうです!そうです!あぁ、まさかこんなことが起きるなんて…。もう二度と誰とも話せないのだと思っていました…。」



「本当に、まさか、ね…。」



 なぜ本物が別にいることに考えが至ったのか、その事情を一通り話していたら、もう家に着いてしまった。リリィ・ホランドに、また寝る前に話しましょうと告げると、思いのほかあっけなく了承の返事が返ってきた。私に見つけてもらえ、会話できたのがよほど嬉しそうだったから、まだ話したいと駄々をこねられると思っていたのだが。



「じゃあ、ホランド伯爵令嬢。また後で。」



「はい!」















 就寝の時間。

 疲れ切った私はベッドにだらしなくもダイブした。



「ダリア様~、お話しましょ~!」



「分かってるから、もう叫ばないでちょうだい…。」



 彼女があっけなく了承した理由。それは、家に帰ってわずか一分でわかった。

なんとこの女、家中の鏡を通じてひたすら一人で喋り続けてきたのだ。部屋に着くまでにある姿見で私を待ち伏せ、「おかえりなさいませ!」とメイドよろしく挨拶をまずかましてきた。驚きすぎて後ろに居た侍女にぶつかってしまった。

 その後、部屋についてからは、私が着替えている間もずっと部屋の姿見から話しかけてくる。その時はまだ同情心があったから、晩御飯までの一時間ほどなら会話してあげてもいいかと甘えさせてあげた。すると、今度は晩御飯の席で家族団らんの邪魔をするかの如く、大声で私に話しかけてきた。なぜ、食卓の場に鏡があるのよ。しかしおかげで、母の小言がまったく聞こえなかったからそこは感謝しよう。

 その後も湯あみの時ですら遠くから声が聞こえてきて、きっと今日の夢にはこの声が出てくるわと確信した。



「貴女、よく一人であんなに話せるわね。」



「一人で生きてきたので!」



「そうだったわね…。」



 姿見の前に立ち、彼女の姿をまじまじと見つめるとあることに気がつく。



「それ、私のドレス...?」



「あ、そうです!家に帰って着替えるのもちょっと面倒で...。ダリア様、スタイルがよろしいので私が来ても不恰好でしょうか?」



「...ダメだわ、頭が追いつかない。今の私にそんなこと、わざわざ聞かないでちょうだい。それどころじゃないの。」



「あは、すみません。でも、私、自分の姿を鏡で見れたのって10歳が最後なんです。鏡には、そちらの世界しか映らないので...。」



「...無神経なことを言ったわ。ごめんなさい、ホランド伯爵令嬢。」



「リリィって呼んでください!!ホランド伯爵令嬢という呼び名は、彼女に使ってください。」



 彼女、というのは、偽物のリリィ・ホランドのことだろう。私なら、「彼女」なんて律儀な呼称は使わないだろう。はしたないが、「あいつ」とか言うと思う。



「リリィ嬢、貴女、「リリィで!敬称なしで!」...リリィ。あなたの人生も生活も、私には全く想像つかないの。私の服を着れてることとか、鏡を自由に移動できるとことか。それに...貴女の身体を奪っている、偽物のことも。詳しく話を聞かせてもらえるかしら?」



「ぜひ、ぜひっ...!話させてください。誰にも話せないと思っていた私の半生を、どうか聞いてください。」



 そして教えられたその人生は、凡庸とはとても言いがたく、壮絶というにはあまりにも静かで孤独なものだった。


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