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元悪役令嬢は、出会う

 昼休みになり、私はテキパキと昼食を食べた後に予定通り図書館へと向かった。

 国内でも最高峰の図書館は、本好きなら胸を躍らせずにはいられない所蔵数である。そのため、図書館は別館として独立した三階建ての建物となっており、十分な大きさの各階にはビッシリと本棚が敷き詰められている。

 ということは当然、入り口から最も遠い本棚は三階にある。そして建物の左下隅に入り口があることも踏まえれば、該当の棚は三階の右上の隅っこにあるものだろう。

 普段読みたい本は執事が取り寄せてくれるため、あまりこの図書館を使うことがない私は、三階まで階段で上がらなければならないことに多少心が折れかけた。通りで、本をよく読んでいるご令嬢は体力があるわけだ。パーティーの場で、家族で代わる代わるダンスを踊り続けることで有名な学者肌の一族を思い出す。あの家の図書館はこの学園の図書館を凌ぐと聞く。



「はぁ…はぁ…着きましたわ…。」



 階段を上がり図書館の隅にある目的の棚へ。そして紫の本を探す。……三冊もあるじゃない。

 なければあの幻聴のことは忘れようと思っていたのに、まさかいくつもあるとは。仕方がなくその三冊を取り出し、机で読もうとしたが、三階には机がないのだったと館内地図を思い出して気づく。基本的にどの貴族も本は取り寄せるか自宅の図書館で読むため、あまりこの図書館は需要がない。だから設備があまりよろしくないのだ。きっと例の学者肌の一族の家にある図書館は、その大きさに比例して点々と机を置いているに違いない。生徒会長である婚約者に、今度それとなく設備の改善を提案してみよう。

 

 二階には机があるが、そうなるとこの本を戻すのにまた階段を上がる羽目になる。正直それはとても億劫だ。先ほどから静まり返り誰の気配もない三階。はしたないが、誰にも見られないだろうと意を決して、私は床にハンカチを置きその上に座り込んだ。どうか誰も来ませんように。



「鏡…鏡…。」



 一冊目、二冊目とパラパラとページをめくりながら、それらしきものを探す。一冊目は、科学の本だった。二冊目は昔信じられていた魔術について研究された本。どちらも専門的な内容で、しっかり中身を理解するにはここで流し読みするだけでは不可能だろう。とりあえず目次のみを確認して次の本へ。そのような二冊とは打って変わり、三冊目は世界の童話集だ。これなら今の時間に中身を吟味することができる。

 童話を順番に読んでいくと、四つ目の物語に「魔女と閉じ込められた姫」というタイトルのものを見つけた。可愛くていい子なお姫様が、ある日を境に意地悪になる。友達も大好きな婚約者も姫を嫌う中で、お姫様をずっとそばで見ていた侍女だけが、姫の変化に不信を抱く。何物かが身体を乗っ取っているに違いないと考えた侍女は、姫に直接問いただす。あなたは誰だ、と。その質問の答えは得られなかったが、その晩侍女は鏡の中で本物の姫を見つける。なんと、姫の魂は魔女によって鏡に閉じ込められていたのだ。そこから侍女と姫は奮闘し、悪い魔女から身体を奪い返して幸せになりましたとさ、というお話である。



「…ダリア?」



「っ!……ホランド、伯爵令嬢…?…私、貴女に呼び捨てにされるほど親しい仲になった覚えはありませんことよ。」



「ぁ、し、失礼いたしました、アームストロング公爵令嬢…まさか、このような場所にいらっしゃるとは思いがけず……お邪魔になるかもしれませんので、私は別の棚を見ることにいたしますわ。」



 日常的に私の悪評を流しているとは思えないそのしおらしい様子に、そういえば、と思い出したことがある。かつて彼女を兄が怪我させてしまい、その償いにと二人が婚約を結んだことがあった。その際父が言っていた。リリィ・ホランドは、非常に心優しい少女で、兄の良い支えになるはずだと。

 あの日、私のお茶会に招待した理由の一つもそれだった。心優しい者が傍に居ることは、権力を持つ者にとって非常に有益だからと。権力も優しさも持つ父がそう言うならと、良い友になることを期待してお茶会に招待したのだ。父は彼女を優しき少女だと信じていたから、兄との婚約解消も仕方がないことと割り切ったのだ。

 今となっては、父の見る目がなかっただけだと思っていたが。


 もし、父の話が本当で、本来のリリィ・ホランドは心優しき少女だったら。


 昨日の謎のお告げを、意味のない幻聴だと切り捨てるには気持ちが悪い。紫の本はあった。鏡にまつわる話もあった。ならば、それら繋がりを検証してみなければ。

 私は、中途半端が嫌いなのだ。



「ねぇ。」



「…はい。いかがしましたか?」



「貴女、誰なの?」



「…はい?」



「本当に、リリィ・ホランドなの?」



「申し訳ございません、アームストロング公爵令嬢。私にはよく、そのお話の意図が理解できないのですが…。」



「…いえ、結構。おかしなことを聞いて悪かったわね。」



「…失礼いたします。」



 物語では、侍女が正体を訪ねたその日の夜に、本物のお姫様を見つけるとあった。

であれば、もしあの声が意味あるお告げなら、今日の夜に本物のリリィ・ホランドが現れるということだ。それも、鏡の中に。

 図書館を出て教室に戻り、自身の荷物を取る。念のため紫の本は三冊とも借りてきた。これで何も起きなければ、残りの難解な二冊にちゃんと目を通さなければならないし、何か起きれば…偽物にこの本を見られると、正体が別人であると気づいたことに気づかれてしまうかもしれない。


 いつもより待たせてしまった迎えの馬車に乗り、一息吐く。階段の上り下りで髪型が崩れてないといいのだけれど。カバンから手鏡を取り出して、髪型をチェックしようとした。

 その手鏡には、私ではなくリリィ・ホランドが映っていた。


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