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元悪役令嬢の、とある一日

 私の名前は、ダリア・アームストロング。アームストロング公爵家の長女であり、王立ドラモンド学園の高等部二年生。


 私の日課は、祈りから始まる。

宗教があまり重要視されていない我が国では珍しい習慣で、この話をするととても信心深い人間だと思われる。

 でも、実際私のこれはただの「習慣」でしかない。幼い頃に絵本で見た信心深いお姫様がやっていた。私も同じように「神様」というものに祈り続ければ、王子様と幸せになれるのだろうと思ったのだ。

 結果、本当に王子様と婚約することにはなったが、それは祈りの結果ではなく家柄と父譲りの聡明さのおかげだ。


 お姫様に憧れた祈りは、憧れから惰性の行為となり、今では心を落ち着かせるための習慣となった。

 部屋のバルコニーから、空に向かって指を組む。頭の中で、今日の予定や意気込みを並べて、全く神聖視していない神様に「見守りよろしく」と告げる。


 これが、私の一日の始まり。




「おはようございます。ダリア様。」



「えぇ、おはよう。」



 学校につけばご令嬢たちが優雅に挨拶をしてくれる。みな、自身と私の立場を理解し賢く立ち回れる女性たちだ。味方であれば、非常に頼もしい。


 一時期は、彼女たちが味方ではない時があった。


 中等部の時だ。私の悪い噂が出回り、その噂が過去の出来事との関連性があったために少し現実味を帯びてしまった。

 結果、この賢い女性たちは私と距離をとり、敵とは言わずとも味方ではなくなった。私と、噂の出所であるリリィ・ホランド伯爵令嬢のどちらにつくべきかを、冷静に見定めていたのだ。

 そして、私の味方となった。



「俺、とうとうアームストロング公爵令嬢の噂を流せって言われた!」



「お、やったな!どんな話にする?リリィ・ホランドのものを隠したとか?」



「そんなもんでいいだろ。どうせ、誰も信じやしない。」



 みんなが私の味方となったということは、逆に言えば、みんながリリィ・ホランド伯爵令嬢の敵になったということだ。

 お昼休みが終わる頃。午前中の授業の軽い復習を人気の少ない場所で行っていたところ、男子生徒たちの会話が聞こえてくる。

 リリィ・ホランド伯爵令嬢にはもう味方がいないこと。それに気がついていないのは、本人ただ一人。味方が一人二人と失せていっても、彼女は稚拙な行為をやめず、被害者である私も相手にするほどのことじゃないと無視した結果起きているのが、今のおかしな事態である。

 彼女からもらえる褒美に釣られた男子生徒が、嘘であること前提に私の悪評を流す。それを聞いた生徒も当然嘘だと分かっているから、男子生徒をわざわざ咎めることなく聞き流す。そしてそれを把握している私も、もはや一連の出来事によるデメリットがないため知らないフリをする。


 これ、いつまで続くのかしら...。卒業するまでかしら?流石に卒業後も、となると正式に王太子妃になった後に影響が生じかねない。事情を知らない人達...例えば、守るべき国民に悪評を流されたら堪らない。

 三年生になっても続いた場合、彼女の身内には申し訳ないけど、卒業パーティーあたりでお灸を据えて大人しくさせるしかないわね。さながら、流行りの悪役令嬢の断罪式ね。








 その日の夜。

 寝る支度を終え、侍女も下がらせ、今日もあのご令嬢のこと以外は充実した一日だったわ、とベッドに入ろうとしたその時だった。



“学園の図書館......入り口から最も遠い棚......“



「...だれ?」



”棚の隅......紫の本.......“



 頭の中に直接響く声。

 辺りを見渡しても誰もいない。幻聴?それにしては、謎に具体性を帯びたメッセージだ。本の所在を伝えてきている?



”鏡“



「...かがみ?」



 部屋にある姿見に目を移す。しかしそれは、なんの変哲もない鏡のまま。この声は何が言いたいの?声に意識を集中させるも、もうその声は聞こえてこない。

 学園の図書館、入り口から一番遠い棚、棚の隅、紫の本、鏡。

 このようなメッセージが必ず良いものを運んでくるとは限らない。例えばどこかの国の物語では、頭の中に糸車を思い浮かべて糸車を探しに行った結果、その糸車に仕込まれていた毒針に触れて死ぬ、みたいなものがあった気がする。これだって、もしかしたら呪いの本だとかを私に開かせようとしているかもしれない。

 もう気にせずベッドに潜ってしまおうかとも思ったが、奇妙で嫌にメッセージ性のある幻聴が、私を落ち着かせてくれない。

 ああ、もう!!


 机の便箋に走り書きで、さきほどのメッセージの内容を記す。明日学校に見に行こう。もし該当する棚に紫の本がなければ、それで終わりなのだから。もしもあったら...タイトルを見て考えよう。

 明日の予定を頭に描いて今度こそベッドに潜る。




 その行動力が、本物のリリィ・ホランドとの出会いへと繋がるなんて、私は夢にも思っていなかった。

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