元悪役令嬢の、むちゃぶり
「あら、リリィ。貴女、また本を読んでいるの?」
「はい!もし身体が無事戻った時のために、できるだけ教養を身に着けたくて。時間ならだれよりもございますから。」
それに、私ではもう、手がかりも見つけられないから。
その言葉をダリア様には伝えなかった。頑張って動いてくれているのであろうダリア様に、嫌味のように聞こえてしまいそうだったから。
「私、ダリア様を信じると決めたのです。公爵夫人の機嫌を損ねてまで私に協力しているのに、当の私が悲観しちゃいけないなと思って!教養を身に着ければ、自分で未来を選べる気がしたのです。」
「ふふ、さすがだわ。貴女のそのまっすぐなところ、大好きよ。」
「えっ、え~、そんなこと言われると照れますねぇ…あ、もしよろしければ、公爵夫人からの課題、私も手伝いますよ!」
「ありがとう、でもあの人が渡してくる本はかなり難しいわよ?私も調べながら読むことが多いもの。」
公爵夫人が激高したあの日、夫人は罰だとでもいうようにダリア様に課題を課した。それは、いくつかの分野の専門書を要約すること。いくら万年主席とはいえ、かなり苦労する課題だろう。
それに対し、ダリア様は文句を言うこともなく睡眠時間を削ったりしながら取り組んでいるが、見ている私からすればそれは行き過ぎた教育でしかなく、あまりにも過酷であった。でもきっと、ダリア様は私の抑止など求めていないだろう。だからせめて、ともに勉強をする仲間として傍に居たい。それも、本を読み始めた理由の一つだった。
「私、哲学分野は結構好きで。昔から、他の分野よりも積極的に触れることが多かったんです。夫人からの課題の中にあるその黒い本、以前私が読んだ哲学書の中で触れられていたものです。なのでおそらく、それなら読めると思います。私が要約したものを、あとでダリア様にお話ししますね。」
「本当に?独学でこのレベルのものを読めるなんてすばらしいわ!…それなら少し、お言葉に甘えてもいいかしら?」
「もちろんです!他の分野のものはおそらくさっぱりなので、その一冊だけになるんですが…。」
「いいえ、それでもありがたいわ。私、あまりこの分野は得意じゃなかったの…。じゃあこの本は、ここにずっと置いておくわね。貴女の自由にしてちょうだい。」
「はい!」
ダリア様は私の世界にもちゃんと本の存在が反映されるように、本を所定の位置に置いてくれる。鏡の中に居ても、こうして現実世界の人とも繋がり、共通のものを見て楽しめる。ダリア様と過ごす日々の中で気がついたその事実は、私の心をいくらか軽くしてくれていた。
自分も役に立てることがある。その事実に少し上機嫌になりながらダリア様を見ると、ダリア様は哲学書の表紙を眺めながら何かを考えこんでいた。
「ダリア様?いかがされました?」
「…リリィは、哲学が得意なのね…。」
「得意…と言っていいかは不明ですが、好きです。」
「…そう…それなら、あの計画を実行してもいいかもしれない…。」
「あの計画??パーティーでユリ―に何かするのですか?」
「よし、決めたわ!リリィ!貴女、明日はアザレア様と哲学についてお話ししなさい!!」
「え。…ええぇぇぇえ!?!?」




