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元ヒロインの、日常

 私の名前はリリィ・ホランド。

 ドラモンド王国の伯爵家の一人娘であり、貴族の子息令嬢が通う王立ドラモンド学園の高等部二年生。



「ダリア様について、色々なお話をお友達にしてくださる?どんなお話かは...分かるでしょ?」



 そして、目の前で男爵子息に色気を含んだ雰囲気で、なにか良からぬことをしようとしている令嬢。


 彼女も、リリィ・ホランド伯爵令嬢である。


 10歳のとある日に、人とぶつかり階段から落ち、気がついたら私はリリィ・ホランドではなくなっていた。

 いや、正式に言えば、私の身体はとある女性に奪われた。...のだと思う。

 縦に2mほどある長方形の縁の先、少し離れた二人の観察を続ける。



「お、お話をしたら...私に何か利益がありますか?」



「それは、後のお楽しみですわ。」



 また、色っぽい顔をする。本当に信じられない。私の顔で、身体で、本当に何をしてくれているんだろうか。存外可憐に育ってしまった自身の容姿を、これほど恨むことはない。

 いや、知っている。彼女はこうは言いつつも、実際にその身体を男性に開くことはしない。のらりくらりと躱しては、うまく期待は残させて、侍る男の一人に加えるだけ。しつこく迫ってくる男には、性ではなくお金を与えるのだ。そのためいつも、あまり懐の余裕があるとは言えない家の子息を選んでいる。



 私の身体を奪って以降、彼女はずっとこうなのだ。

 子供とは思えない裏表の顔を使い分けて、自身の良いように手を回す。それだけならば、貴族社会では生き上手と言えるかもしれない。

 しかし、彼女の異常なところは、あの運命の日にお茶会を主催していたダリア・アームストロングへの執着だ。

 ダリア様への悪い噂を今のように吹聴させたり、ダリア様の婚約者であられる第一王子に接触を試みたり。おそらく第一王子が好きなのだろう。

 横恋慕は勝手だが、私の身体で身の程知らずで無礼な行いはやめてほしいところだ。



 手駒を一人増やせたと浮かれている彼女は、ご機嫌な様子でパウダールームへと向かう。

 鏡の前で薄いピンクの口紅を塗り直す。その顔はひどくご満悦そうで、鏡に映る自身に対して全く違和感を抱いていない。


 ねえ、貴女が見ている鏡には、本物の私が居るのよ。


 何度この言葉を口にしただろうか。

 身体を奪われたであろうあの日の私は、とても不思議なことに、「鏡の世界」に閉じ込められたのだった。

 鏡の世界、と言っているが、本当はここがどんな場所なのかはよくわかっていない。私以外には誰もいない。本物の世界は、鏡越しでないと見ることができない。この不可思議な出来事は、幼い私の心を深く抉った。


 不幸中の幸いは、この世界の中で私は自由に過ごせることだった。


 始めは真っ暗な世界だった。しかし、時間を重ねるうちに世界は徐々に広がって、私の家、庭、街、学園、と本物と遜色のない世界が出来上がりつつある。それでも人はいないし、おそらく国外には行けないと思うけれど。

 しかも、私の行動は、本物の世界にいる私の身体に縛られない。つまり、彼女が鏡の前にいようがいまいが、鏡の前で何をしていようが、私は好きな所で好きなことができるのだ。

 操り人形のように連動してしか動けないとなっていたら、おそらく私の心は死んでいただろう。



「...まだまだこれからよ、ダリア。」



 彼女がボソリと呟いた。

 無人の世界を動き回れる私は、実際のところ彼女からはあまり離れずに生活をしている。だって、先程みたいな出来事に加え、このような独り言をできるだけ聞き逃したくないから。

 恋敵だからといって、なぜそれほどまでダリア様に執着するのか。ダリア様を羨み嫉妬する人は多いが、ここまで執念深い人は珍しい。彼女は何を企んでいるのだろうか。

 ダリア様への嫌がらせを試行錯誤するのが、彼女の日常と言えるならば、そんな彼女を観察し、彼女という人の本質について考えることが私の日常であった。



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