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元悪役令嬢は、心配される



「ごきげんよう、アザレア様。」



「あぁ、おはよう。ダリア。...読んだよ、例の本。」



「読んでくださったのですね。いかがでしたか?」



「まあ、普通の子供向けファンタジーって感じの物語だったかな。」




 アザレア様にお茶会をするサロンへとエスコートされ、椅子に腰掛ける。

 アザレア様に例の絵本を渡した昨日の今日。彼は割と多忙な王子であるため、もしかしたらまだ読んでいないかもしれないと思ったが、一通り彼は目を通してくれていたようだ。

 そしてそのうえで、私があの絵本を渡したことの真意を掴みかねているのだろう。




「君は、ある女性を助けたい、と言っていたね。あの絵本で助けられている女性といえば...鏡に閉じ込められたお姫様、かな。」



「えぇ、そうです。私、鏡に閉じ込められたお姫様...いえ、ヒロインを助けたいと思っています。」



「...君は野心家だ。全てを完璧にこなすことが、君にとって一番気持ちが楽になることなのだと思っていた。しかし、やはりストレスがあったみたいだね。王妃教育はしばらく休ませてもらえるように、僕の方から伝えておくよ。」



「そのようなご配慮は結構です。私は別に、ストレスでおかしくなったわけではございませんわ。この前もお伝えしましたでしょ。私は、神のお告げを聞いたのです。」



「神のお告げ...。」



「信じてくださらないのです?」



「いや、信じたいよ。でもやはり、どうしてもすぐには受け入れられないことがあるだろう。」




 絵本の表紙を撫でながら、アザレア様は困惑の表情を浮かべている。撫でられた表紙のお姫様は、奇しくもリリィと同じアイボリー色の髪をしている。

 リリィはお姫様ではない。凡庸な伯爵家の一人娘。しかし、私は知っている。「凡庸」だからこそ、あの純粋さが際立つのだ。あの柔らかく、儚げな雰囲気を醸し出すアイボリーの髪は、「凡庸」だから目を引くのだ。公爵令嬢である私が、仮にあのような性格と容姿であれば、きっと「地味で威厳がない」と評されるに違いない。

 今でこそ、偽物のせいで悪女となっているリリィ・ホランド。でも、もしも本物のリリィが人生を歩めていたのなら。

 清く、純粋で、可愛らしくて、柔和で、距離を感じさせない愛嬌があり、まるで庭で愛らしく揺れる花のような、リリィ・ホランド。それが実現されていればきっと、彼女は学園の可憐なヒロインとなっていたに違いない。




「念のため確認したいのだけれど、鏡に閉じ込められた、という比喩を用いて私に説明している可能性はあるかい?例えば、どこかの邸宅に監禁されている事件について、遠回しに伝えているだとか。」



「比喩のために、わざわざ絵本を持ち出す必要はありませんわ。」



「...だよね。君はそんな回りくどいことはしない。」



「このことについて、すぐ信じていただくつもりはございません。無理矢理に納得させる気も。アザレア様がに、心から信じてもらわなければ意味がないですもの。」



「心から信じる、というと、絵本に出てくる侍女のように?」



「はい。」




 私は真っ直ぐとアザレア様を見つめる。そんな私を伺うように、アザレア様も私の目を見つめ返してくる。

 こうしてよく観察すると、アザレア様の容姿は少しリリィと似ている。アザレア様は全体的に色素が薄い。その瞳や髪は薄い桃色をしていて、明るい日光の下では白色にも見える。幸が薄そう、なんて無礼なことを、兄が幼い頃によく話していた。でも、アザレア様はその聡明さと誰もが認める努力で、様々な分野で優秀な成績を収める王子となられた。

 私がリリィをここまで守ろうとするのは、アザレア様に似ているからかもしれない。




「...君は、いつでも真っ直ぐな人だね。私はその真っ直ぐさが好きだ。目標達成のために、努力を怠らず突き進む。」



「光栄ですわ。」



「でもそれは、目的のために手段を選ばない、とも言える。君は、他の何かを蔑ろにしてまで突き進もうとすることがあるだろう。私はたまに怖くなる。君のその性質が、悪い結果を生まないか。」



「悪い結果と申しますと...アザレア様を裏切ったりするかもしれないと、お疑いで?」



「分からない。疑っている、とかではない。ただ、その蔑ろにする対象が、躊躇せず選んだ手段の矛先が、君に向かうことがあるのではないかと怖いんだよ。」



「...私、この国を愛しております。国母になる覚悟で、日々を過ごしております。ですから、あまり心配なさらないでくださいまし。」




 私の言葉を聞いたアザレア様は、少しだけ驚いた様子を見せたものの、気が抜けたように笑った。

 きっと彼は、母に強く求められているから私が王妃になろうと頑張っていると思っていたのだろう。確かに、昔の私はそうだった。でも、今は違う。昔から、父と兄には支えられ、婚約者も同じ視線で立ってくれている。おかげで私は、自らの意思で自らの責任を全うしたいと思えるようになったのだ。

 そのことが、少しでもアザレア様に伝わってくれたのなら幸いだ。




「正直私はまだ、君の言う“鏡に閉じ込められたヒロイン”を助ける、という話がピンとこない。受け入れられない部分が大きい。でも君が、私に信じさせると言うのなら、どうやって信じさせてくれるのかを楽しみにしているよ。」



「そんな...期待させるほどのことは致しません。ただ、地道にやっていこうと思っているだけですわ。」




 満足気に紅茶を飲んでいるアザレア様は、きっと分かっていない。私がパーティーまでの一ヶ月半、毎日押しかけてはこの話をしようとしていることを。


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