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元ヒロインは、気づく


「だめね、私じゃさっぱり理解できないわ。」




 ダリア様が私が読めるようにと本棚に収めてくれた、一か月前に図書館から借りた紫色の専門書を手に取って眺めて溜息を吐く。

 ダリア様には本を調べてみるなんて息巻いたが、そもそも私はまともな教育を受けれていない。学園で習う基本的なことすら怪しいかもしれないというのに、専門書など読めるはずがなかったのだ。

 しょうがない、こういう知識がいることはダリア様にお任せしよう。そう結論付けて私はアームストロング公爵家を後にする。当然鏡の中だ。朝、ダリア様とともに馬車で学園まで行ってしまった私は、つい十五分ほど前に歩いてアームストロング家に戻ってきたばかりだというのに。本の中身がさっぱり読めない今、あの家でできることなどないため、また歩いて学園に向かうこととなった。

 現実世界の貴族と違い、私はつい最近までの七年間は徒歩移動しかしていない。おかげで体力はあるが、行動範囲は絞られている。

 

 この一か月、ダリア様が学校で授業を受けられている間に私がやっていたことはユリ―の監視。ダリア様に確信めいたことを言われ、自身の悪行にも対処され始めた彼女が、行動をエスカレートさせるかもしれないと思っていた。もしくは、身体を奪ったことについての情報が得られるかもしれないと。

 しかし、ユリ―は不審なほどに動きを見せない。以前であれば、自室の中ならば時折独り言を呟くこともあったが、最近はその独り言すらなくなっていた。

 もしかしたら、私の存在に気が付いたのかもしれない。

 ダリア様は、あの絵本の内容はユリ―には見られていないと言っていた。しかし、彼女には私たちが知りえない情報があってもおかしくない。ダリア様からの言葉によって、ユリ―は私が鏡の中にいる可能性に気が付き警戒をしているかもしれない。


 私としては、あの身体を奪われた日にユリ―が述べた「げえむ」と言う単語が引っ掛かっている。

 あの時は幼くてよく分からなかったが、貴族の紳士たちが行う「カードゲーム」というものがある。そこではお金などを賭けているため、子どもとは縁のない場所や時間帯に行われる所謂「大人の遊戯」だ。何度か覗きに行ったことがあるが、行くたびに誰かの人生が狂っていた恐ろしい場所だった。

 ユリ―が言っていたのが、この「ゲーム」のことだとして。「公爵様が、ゲームの通りのお人よし」というのはどういう意味だろうか?公爵様のカードゲームのプレイスタイルがお人よし、と言うことだろうか。それならばユリ―の正体は、カードゲームの場に出入りでき、かつ、公爵様とゲームができるという「高位貴族の男性」ということになるだろう。…そんな人があれほど雑な手口で、ダリア様の品位を貶め、第一王子にすり寄る、なんてことは想像し難い。特に、未成年の王子様にいい歳をした男性が…なんて信じられない。相手が王子でなくとも厳罰ものだ。




「ユリ―の独り言、他に何があったかしら?怪しい単語は「ゲーム」くらいよね…。」




 ユリー=高位貴族の男性説、がかなり微妙な線である以上、「げえむ」は「カードゲーム」とは別物と考えていいだろう。となると、身体を取り戻すにあたって調べるべき不審な用語として、「げえむ」は外せない。

 彼女はたまに独り言を呟いていた。しかし、それはどれも大したものではなかった。

 そもそも普通の人は、私みたいに一人でべらべら話したりしない。だから私が聞くことができる独り言も、それほど内容の濃いものではない。だいたい漏れていた言葉は「ダリア」であり、彼女の名前を呟いてはその後ぼそぼそと独り言ちているだけ。ダリア様の何がそんなに気に入らないのだろうと、私はそれを聞くたびに謎だった。

 第一王子であるアザレア様は、素晴らしい方だともっぱらの噂。であれば、そんな人に見染められたいならば、それなりの努力をするべきだ。国政に関わる政略結婚を解消させることはかなり難関だろうが、それでも本当にアザレア様と結ばれたいならば、ダリア様の悪評など流さずに、気のにじむような努力を…。




「…おかしいわ。」




 なぜ彼女は、想い人の名前を口にしないのだろうか?

 私は恋をしたことがないが、普通、一人でいるときに思わず口にする名前は想い人ではないのか。少なくとも、恋敵の名前ではない。

 なのに彼女は、この七年間でダリア様の名前を呼ぶことは何度もあれど、アザレア様の名前を呼んだことは全くない。それではまるで…。




「ユリ―の狙いは、ダリア様?」




 彼女の想い人がダリア様なのであれば、合点がいく。しかしそれならばなぜ、わざわざにダリア様を貶めるようなことをするのだろう。

 自然と足が速くなる。

 ユリ―の真意はいまだに分からない。正体も分からない。もしかしたら、元貴族男性かもしれないが、それにしてもやはり納得がいかない部分が多い。

 ユリ―の目的は、なんだ。




「ダリア様に、伝えなきゃっ!」




 今日私は、ユリ―の監視をしていない。そのことばかりが、後悔だった。



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