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元悪役令嬢の、画策



「ごきげんよう、アザレア様。」



「ああ、おはよう、ダリア。君がわざわざ生徒会室にくるなんて珍しいね。どうしたんだい?」




 そう言ってわざわざ私のもとへ歩み寄りエスコートをしてくれる優男は、アザレア・ドラモンド。この国の第一王子であり、私の婚約者。一つ年上の彼は、学園を卒業すれば正式に王太子として立太子する予定である。

 生徒会室の奥には密談用の個室があり、そこにアザレア様は案内してくれた。普段生徒会室に私が訪れないことから、他の生徒には聞かれたくないことがあると思ったのだろう。相変わらず察しがよいお人である。

 私たちに紅茶を用意してくれた生徒会室付きのメイドが出ていくのを確認して、私は抱えていた一冊の絵本をアザレア様に見せる。そう、あの図書室で見つけた絵本だ。




「こちらの絵本、ご存じです?」



「いや、知らないな。この絵本に何かあるのかい?」



「…お話させていただく前に、おひとつ確認を。アザレア様は、私を信頼してくれていると、私は信じております。その認識に、間違いはありますか?」



「いや、ないよ。君は昔から聡明で、美しく、すべてのご令嬢の手本となれる素晴らしい女性だ。」



「光栄ですわ。では、アザレア様。実を言いますと私、この一月ほど前に神からのお告げを聞きましたの。」



「…神?」



「そのお告げによって見つけたのが、こちらの絵本でこざいますわ。」



「…ちょっと、よく分からないな。」




 それはそうだろう。私も逆の立場であれば、すぐには理解できない。いくら信頼しているアザレア様の言葉でも、ああそうですか、とはならない自信がある。

 だからこそ、とりあえず今日は事実だけを述べるのだ。どれだけ信頼があれど、今日一日で信じてもらうことは難しい。これからパーティーまでの期間でじっくり事実を刷り込むのだ。




「私が昔から信心深いことはご存じでしょう?」



「あの祈りのことを言っているのか?あれは形だけの習慣だろう。君は神なんて信じてなかった。」



「でも私が祈り続けたことは事実ですわ。そして、それに神様はお応えくださった。」



「…なんと応えたというのだ?」



「学園の図書館、入り口から最も遠い本棚にある紫色の本を探せ、と。」



「それに従った結果がこの絵本?」



「まさに。さすがアザレア様、聡明でいらっしゃる。」



「嫌味っぽい時の君は、何か企みがあるというのが僕の経験談だ。それで?何を考えているんだい?」



「企み、だなんて、そんな大層なものではございません。ただ、ご聡明なアザレア様にこちらの絵本を読んでいただきたいだけなのです。」



「なぜ?」



「それを今お話ししても、おそらくまだ信じていただけません。私も初めは半信半疑でしたので。まずは、そちらの絵本を読まれてから。ちょうど明日は、私たちの定期お茶会をする予定でしたでしょう?そこでまた、続きをお伝えいたしますわ。……ただ、ひとつだけ。この行為は、ある女性を救うために必要なことである、ということだけは信じていただきたいのです。」



「なるほど。…まあ、絵本を読むだけならばすぐできるから構わない。それに最初に述べた通り、君のことは信頼しているから。」



「感謝いたします。」




 紅茶を飲み終わった私たちは、ともにソファーから立ち上がる。小さな部屋だというのに、アザレア様はまたしっかりと私の手を取りエスコートをしてくれるのだから、本当に紳士的なお方だ。

 個室のドアノブに手をかける直前、アザレア様がぴたりと動きを止め私に尋ねてきた。




「次のパーティーの前にテストがある。…問題はないかい?」



「えぇ。当然、今回もトップを取りますわ。」



「君のトップは疑っていないよ。ただいつも君の母君は、それ以上を求められているだろう?」



「お母様は満点を取ってもご不満がある方ですの。だから気にしていませんわ。」




 私の婚約者であり、兄の親友でもあるアザレア様は我が家の家庭事情をよく知っている。だから当然、我が家の毒も知っている。今となってはたかが知れた毒だから、すっかり気にしていなかったが、テストが終わればきっとリリィにも露呈してしまう。さすがにこれだけ我が家に居るのだから薄々は気が付いているかもしれないが。

 優しいリリィのことだ、きっと私を気遣うだろう。自身の不幸を棚に上げて、人の不幸を嘆くことができる少女だから。




「なんだか楽しそうだね。」



「ふふ、ごめんなさい。つくづく私は運がいいと思っていたのです。」



「どうして?」



「それは秘密ですわ。」




 生徒が私のことをヒロイン扱いしていることを知っている。

 でもきっと私は、運がいいだけ。もし、リリィのように自身に不幸があったなら、きっと私は他人にさらなる不幸を願う。私より不幸な立場になるまで、きっと貶めようとする。


 それはまるで、悪役令嬢ね。


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