ヒロインの、運命の日
今日、私はとても幸せな気持ちだった。
だって、この国の第一王子の婚約者として先日正式に発表されたお方、ダリア・アームストロング公爵令嬢のお茶会に誘われたから。
この日のために仕立ててもらったドレス、頑張り屋のメイドたちに可愛らしく整えられた髪型。
真っ赤な髪が特徴的なダリア様は、同じ10歳とは思えない、とても大人っぽくて綺麗な女の子だから、私みたいなお子ちゃまと話してくれるかしら。
好きなお菓子はなにかしら。どのようなことに、興味があるのかしら。
そんな不安とも興奮とも言える感情を胸に、私が案内されるままお茶会会場へと歩いていたら。
ドンッ
肩に強い衝撃。そういえば、ダリア様の兄君がとても活発で手がつけられないらしい、なんて噂をお母様が口にしていたっけ。
ああ、運が悪いわ。なんでこんな時に階段の近くを歩いていたのかしら。
すべてがゆっくりに感じれらる。
身体を動かすことはできないくせに、思考と視線だけは通常運転に動く。
第一王子らしき人を、視界の端にとらえる。
ああ、みっともない姿をお見せしちゃった。
身体が階段を滑っていく激痛。
そして頭に強い衝撃。
暗転。
「.....ぁ......あぁ、よかった!リリィ、目を覚ましたのね!」
大好きなお母様の声で目覚めた私。
あぁ、私無事なのね、と目を開いた先には。
「...うん、平気だよ。心配してくれてありがとう......お母様?」
心配している母に笑顔を返す、私自身。
なにこれ、どうなってるの?
母娘の感動シーンを、私は少し離れた場所から見ている。出演者は母と私。
お母様、私はここよ。そう声をかけても届いていない。
真っ暗な空間のなか、丸い縁越しに母と私ではない私に叫ぶことしかできなかった、その運命の日。
私は、鏡の世界に閉じ込められた。




