課すことと罰
なんで視えてるの…?
この言葉に私はうつむいた。
なんで?そんなの私が聞きたい。私は物心つく頃から視えていた。一番古い記憶にさえあいつらは遠慮もなく映り込んでくる。なのに私はあいつらに干渉できない。とてももどかしい思いを幼少のころから感じてきた。その思いとやっと折り合いがついて安心していたのに、
沸々と怒りが湧いてきた。紅前に怒っているのではない。望んでもいない能力を持たされ、あまつさえ操れない。そんな自分に、この能力に。
紅前がこの怒りを知らないのは当たり前で、紅前の発現に悪意はないことは分かっているのに止められない。
「視ようと思って視てるわけない」
自分の声か一瞬疑った。怒りがこもったのは声だった。腹の底から声を出したようだ。出そうと思って出したわけではないが、とても低かった。自分の骨さえ震わせた。耳の奥がびりびりとする。
そんな声とは裏腹に、怒りから沸いた言葉は罵詈雑言とは程遠く、私の本音がするりと出た。
それでも本音が出たことに恥ずかしさやよくわからない怒りを覚え、紅前のことを見ることができなかった。
「申し訳ない」
静寂を破ったのは謝罪の言葉だった。
驚いて顔をあげると、紅前が深々と頭を下げていた。
私は何も言っていないからきっとまた聴いたのだろう。
「…聴いたのなら分かってると思うけど、紅前に怒ってるわけじゃない」
「いや。俺の質問で君の核心を震わせてしまった。城沢が俺のことを怒らなくとも俺は反省をしなければならない」
そういって紅前は顔をゆっくりとあげた
「!?紅前、血が!」
顔をあげた紅前の鼻からは血が垂れていた。
「心の核心を震わせることしてはいけない」
「え…?」
「聞いたことはないかい?能力を操ったり強化する時、それに見合うほどの決まり事を課すことがあるって」
「漫画とかで少し、でもそういうのはフィクションの話だからでしょ…?」
からかわないで、この言葉は音にならず空気として喉を通った。
視えてしまったから。紅前の背後霊のような靄が紅前の首や頭に絡みついているのを。
紅前が苦しんでいないから物理的干渉ではないにせよ、なんかしらの罰だということは分かる。
紅前が鼻血をだしていることがなによりの証拠だった。
「何か視えたようだね」
「…うん。本当なんだね。自分に課していることがあるって」
「ああ」
紅前は血を拭い私と目を合わせた
手の甲には赤色がかすれてついていた。
「なんとなくわかると思うが、俺は"心の核心を震わすことをしない"と自分に課した。まあ実際はもう少し具体的だが」
「それでさっきの質問が私の核心っていうのを震わせたから罰が来たんだよね」
「理解が早くて助かるよ。俺が課したことで得られたメリットは能力の向上。例えば特定の相手を決め心の声を聴くことができたりね」
「シンプルだけど重要なのはわかる」
(不特定多数の心の声が絶え間なく聴こえるのはかなり苦痛だろうから…)
「ん、じゃあなんで能力を使ってるであろう時、目を瞑ってるの?」
さっき目を瞑らないと能力が使えないのかと聞いたが返答はNO。つまり能力の発動のために課しているわけじゃなさそうなのだが。
「本当に城沢は鋭いね。察しの通り課しているわけじゃない。これは俺の能力の特徴なんだよ」
「特徴?」
「昔はね普段から心の声とかよくない声がひっきりなしに聴こえたんだ。でもはっきり聴こえるわけじゃなく、ノイズがかかっているように聴こえる。かなり苦痛だったよ」
私は何も言わず聴くことだけにした。今から話すことは紅前の能力にとってかなり重要な部分のように感じたから。




