聴こえるだけ
はく、と漏れた息で紅前がこちらを向いた
(そうだ、ビビってる暇なんかない)
今までずっと視えることを隠してきたのに、あろうことか視えるような動きをしてしまったのだ。
いや違う。ばれる覚悟で飛び出したのだがまさかあのようなことになるとは流石に予想がつかなかったのだ。こういう現象に見舞わられると大抵の人間が防衛反応からか記憶が混濁することが多いらしい。実際倒れていた生徒も目が覚めた後なにがあったのか聞かれたそうだが、何も覚えていなかったそうだ。
だから今回も紅前の記憶が混濁すると踏んで助けようとしたのだが…
とにかくこの状況で最優先することは私が視えることを誤魔化すこと。どうやら紅前も何かしら訳アリのようだがこれ以上深くかかわりたくない。少しでも怪しいまれている人間とつるめば気づかれるのもきっとそう早くないからだ。
『バタッ』
「...城沢?」
悪いがここは仮病ならぬ仮気絶をする。
私が記憶を混濁するふりをすれば紅前も詳しくは聞かないだろう。聞いてきたとしても「なんとなく嫌な感じがした」と答えれば無問題。
視えることを隠し通しかつ、さっきまであったことは殆ど覚えていないというのを演出するため私は一芝居をうつ。
「......」
一向に紅前がこちらに近づいてくる気配がない。
流石に倒れている人間がいれば寄ってくるのが普通だと思っているのだが、紅前には常識が通じないと結論付けていいのだろうか。
そうなると困る。私のこの作戦が成功するには相手が常識人でないといけない。流石の紅前でも人が倒れていたら寄ってくるという常識は持ち合わせていると思ったのだが...前提から間違っていたようだ。困った。
「ひどいな。狸寝入りして関係を断とうだなんて。それと、こんな俺でも常識ある方だと思っているよ」
(...?!え、いや、え?全部筒抜け...いやおかしいでしょ)
演技だとしても気絶をしているんだ、話すわけがない。というかここで話してたら多分もう殆どの人が私が視えることが分かっている。でもそれがないということはこんなことで考えていることを口に出すような人間じゃない。
(ん...?考えていること?...まさか)
「ご名答。城沢は頭の回転が速いんだね」
信じがたいことが先ほどから起こっているせいか、この現実をあっさり受け入れてしまった。
というか自分自身に有り得ない力があるから、すんなり受け入れられたのか。
とにかくすべてが仮説の段階だが繋がってしまった。紅前の両耳から出ているように見える靄、何かと話していること、私が狸寝入りしていることがバレているかつ考えていることが筒抜けなこと。
これらがつながり導き出す結論は
(紅前は聴くことに関して特殊な能力を持っている)
「...またまたご名答」
そう言って紅前は私に近づいてくる。私は近づく気配につられ目を開けた。
私の視界には紅前の足が映る。そのままぴたりと私の近くで立ち止まった。
「そろそろ起きてくれよ。言っただろ?俺は話すことが大好きなんだ」
体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
私の視界は紅前樺月と両耳からでている靄が映る。
そして紅前は目をゆっくりと開ける。そして私に向かってこう告げた。
「校舎案内の途中だったね。次は人が来ない場所に案内してほしいな」
"城沢も聞きたいことが沢山あるみたいだし"




