組織と仕事
「考えてるような仕事もあるけど俺らはしてないよ」
ふっと微笑んでこちらを向く彩木。
どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「ごめん。少しだけ疑った」
「仕方ないよ。裏の仕事って大体決まってるもんね」
多分、何度も似たようなことを聞かれてきたんだろう。なんというか慣れている。
(というか…)
「“俺らは”って他の人たちはやってるってこと?」
ぱっと紅前の方を向く。
「鋭いね。ファイブ・センサーズは一つの組織ではなく、個々の組織をまとめているだけなんだ」
「つまり紅前たちが所属してる組織以外には言葉の通り、裏の仕事をしている組織があるってことであってる?」
「せいかーい。和沙って頭の回転は速いんだね」
「フン、それぐらい考えれば分かるだろ」
「沢山組織があるのも、裏の仕事をしている組織があるのも分かったけど、裏の仕事じゃない紅前たちはなにやってるの?」
「俺たちは主に、人に害成す存在、特に怪異や妖怪、地縛霊などに対して除霊に似たことをするのさ」
「除霊に似たこと?」
「除霊はあくまで神職の方などがすることを指しているから、分別のために俺らはたいわって呼んでいるよ」
「対話?」
「漢字で書くと…」
彩木は立ち上がり、黒板に近づくと置いてあった埃だらけのチョークに息を吹きかけ、黒板に走らせた。
「退話、話しで退けるってこと?」
「退けるっていうより退いてもらうの方が近しいかな」
「退けなんて言ったら俺らがこの世から強制退去させられる」
「こだわりが強いんだよ。だから玩具にするには不向き」
「いや雪は一回玩具にしようとしただろう」
「んー気のせいじゃない?」
「あの後かなり面倒くさかったんだからね」
「皆して同じ夢見てたなんて、偶然だね」
「何言ってんだ。その夢の元凶のくせに」
「すまないね。また話が脱線してしまった」
話を戻そうと紅前は三人に声かける。
「俺らは除霊できるような血筋でもないからね、退けと言って従わせる力がないんだ」
「なるほど」
だから”退話”、言い得て妙だなとうなずく。
それと同時にあることに気が付いた。
「もしかして退話って紅前いないとできない?」
「まあそうだな。味覚の延長の雪ならできなくもないが」
「一番安定して退話できるのは紅だね」
「ああいう声聞けないわけじゃないけど、なるべく聞きたくない」
「ん…?ちょっと待って。安定してできるのは紅前だけ?その言い方だと三人ともやったことあるの?」
私が気が付いたのは先ほどの出来事と紅前の能力を総合して考えついた結果だ。
仮に全員がやっていたとしても、彼らは私と同じで五感のうち一つしか延長していない。やったことあるというのがそもそもおかしくなるのだ。それでいくと紅前もおかしいのだが…
「ああ、それはね」
そういうと紅前は右腕の袖をめくりあげた。
あらわになった素肌には、光沢がなくシルバーに似た色のシンプルなブレスレットをはめていた。
「この腕輪のおかげだ。説明は省くが同じ金属を使用している物をを身に着けている者同士は、相手の延長している能力を一定時間使うことができる」
思わず目を見開く。まさか、そんなことが可能なんて思ってもみなかった。
何というか、不可能を可能にしてしまったような、不可能だった方が良かったような、そんな気がしてしまったが、口には出さなかった。大人しく続きを聴くことにした。
「俺は自身の聴覚の延長と、雪の味覚の延長を借りて退話をしている」
「紅は自分の能力をちゃんと操れるけど、僕は借りてる能力を操れるわけじゃないから。それでも僕は紅よりも対話はできるけど」
言いながら閃雪は黒板に対話を書き、こっちの方ねと言った。
「紅前じゃないの?」
「雪は俺らの中で一番脳の情報処理能力が高いんだよ」
「悲しいことにな」
「紺の能力にはあんまり処理能力とか関係ないからね」
「やめなよ雪」
「なんだと…?」
紺汐は眉をぎゅっと寄せ、閃雪に近づく。
「お前こそ対話持続時間は長くとも、紅のように退話はできないくせに。宝の持ち腐れだな」
「あ、そ。いいよ紺。喧嘩買うんだね」
「そうやってまるで喧嘩売ってましたみたいな言い方するのやめなって。紺が本気にしちゃうでしょ」
「あ…?」
「慧、それ火に油注いでるけど」
「あれ」
「…知るか!俺はしばらくこいつには能力を貸さねえ!」
「殴り合いとかじゃないんだ」
「ああ、こいつらが喧嘩したらどっちも骨折は確定だからな」
「俺ら巻き沿い食らって、全治2週間とかだったことあるからね」
いつの間にか私の両側に来ていた二人が遠くを見つめ過去のことを語る。
「巻き沿いで2週間、そんなに喧嘩強いんだ」
「まあね、さっきも言ったけど独立した組織の集合体だからさ。時折衝突するんだよね」
「初めは話し合いなんだが、途中からどうしても乱闘になってな」
「その時率先していくのがあの二人。俺らは二人から運よく逃げられた奴を相手するからね」
「ああ。あの二人はいわゆる最高戦力ってやつだ」
「じゃあ尚更衝突させない方が」
「「巻き込まれたくない」」
「…それはそう」
二人は死んだ目をし、声を揃えて言った。恐らく過去に止めに入ってえらいことになったのを思い出しているんだろう。私の言葉を声を揃えて遮るぐらいには。
(私だって巻き込まれたくない)
「ほら二人とも。教室じゃ喧嘩できないでしょ。さっさと喧嘩の売買やめな」
「まだ城沢に話していないことがあるからな」
「チッ」
「僕売ってない。勝手に買われただけ」
「はぁ?!」
「はいはい。密輸もしないの」
そういうと二人はにらみ合いの末、フンッとそっぽを向き、喧嘩?は終了した。
巻き込まれたくないとか言いながら喧嘩する前に止める彩木には思わず感心してしまった。
(私なら放っておくかも。彩木のこと見習おう)
心の中で静かにメモをした。
「紺、あとで腕輪の制限解除してね」
「忘れてなけりゃな」
恐らくだけど紺汐は暫く解除しないんだろう。そしてそれがきっかけでまた喧嘩が起こる未来が簡単に想像ついてしまった。




