組織とは
「…の延長」
「声が小さいからやり直し」
「二度は言わねえって!」
「だめだよ。声が小さすぎ。ちゃんと言って」
心なしか閃雪がウキウキしているように見える。
「…きゅう、かくの…延長」
(きゅう、かくの…延長)
「嗅覚の延長?匂いとかに敏感みたいなこと?」
「!!」
「笑わない人初めてかも」
「いやまだ分かんないよ。気づいてないだけかもしれない」
「それだと困るな。過去に後々気が付いて笑い転げた奴がいるからね。笑い死ぬという表現がぴったりだと思うことはあれが最後にしたいところだよ」
「気が付いてないならいいだろ!言うなアホ!!」
「紺うるさい。ね、和沙。紺の本名は?」
「えっと、紺汐鉤斗だっけ」
「じゃあ紺の能力は?」
「嗅覚の延長でしょ」
「何か気づくことは?」
……気が付くこと。紺汐鉤斗と嗅覚の延長。何か絡むようなことあるだろうか。
「ちなみに紺の能力は簡単に言うと、匂いを辿るみたいなタイプだよ」
「匂いを辿る、匂い、痕、痕跡…?あ、もしかして」
「お。分かった?」
「やめろ!アホ!!」
「はいはい。紺は落ち着こうね」
慧に後ろから羽交い絞めにされじたばたしているのを横目に閃雪の方を向いた。
「匂いの痕跡で、紺汐。嗅ぎ取るで鉤斗…ってこと?」
「そういうこと。ね?面白よね。これ聞いて笑わなかった人いないらしいよ」
「すごいね紺」
「何がすごいんだよクソッ!」
「いや、からかってるわけじゃなくて、城沢ちゃんだよ」
「あ?」
「眉一つ動かさないよ。これ聞いても」
「んなわけねえだろ。どうせ心の中は大爆笑だろうが。おい紅、聴いてみろよ」
「自分から地雷を踏みに行ってどうするんだい?」
「るせ。心の中で嘲笑ってるのも気が食わねえんだよ」
「紺ってほんと冷静なくせに口悪いよね」
「今関係ないよ雪。火に油注いでるって」
「慧、それも火に油だと思うよ」
「だーー!!もういいからさっさとしろ!!」
「すまないね、城沢」
まるでやらないと収まらないんだとでも言いたげな瞳に私は気にしないでの意を込めてふるふると首を振ると紅前は目を閉じた。
恐らくだけど紅前には嘘も通じないんだろう。じゃないと紺汐が紅前に頼まないはずだ。聴いてくれと頼んでしまえばこちら側はどうにでも考えられる。それの心配がないということはそういうことなのだろう。
(だから自然にしていればいいかな)
数十秒ほどたった後、紅前が目を開けた。
「紺、城沢は嘲笑うどころか馬鹿にしてすらいないよ」
「すごい偶然だなとは思ったけどそれ以外は特に」
「ねえ、和沙って感情ある?面白いって思ったことある?」
「え、うーん。思ったことはあるから感情は人並みにあると思う」
「起伏が穏やかなのかもね」
「そうだな。無理して笑う必要もないことだ」
「はぁ…拍子抜けした」
暴れるのをやめた紺汐は彩木から解放され、ふらふらとそばの椅子に腰かけた。
「さて城沢。やっと三人の自己紹介が終わったから本題に戻ろうか」
「組織へのスカウトだよね。でも紅なんで急に?」
「先ほども言ったが城沢の能力がかなり珍しいからだ」
「でもその能力は秘密なんだろ?」
「城沢の許可もないし、俺もこればかりは許可があっても軽々しく言えないからね」
「つまり紅は保護目的もあるんだ?」
「話が早くて助かるよ」
「保護って、何から?」
「それを話すより組織について話した方が手っ取り早いよ」
閃雪の言葉に紅前は頷く。
「そうだな。また俺らだけで話してしまうが、分からないことがあればその都度聞いてくれ」
「わかった」
「まずは俺たちが所属している組織だが、はっきりとした名称はない。勝手に名付けるとしたら『ファイブ・センサーズ』。その名の通り五感の集まり、つまり五感が延長した能力を持つ人たちが集められた国公認の組織だ」
国公認、そうはいっても私は今の今までそういった組織を見たことも聞いたこともなかった。公認だからといって警察や自衛隊のように名称があるわけでもないから当然だが、表舞台に出てこれるような組織ではないのだろうか。
「国公認って言っても表舞台には出れない。能力者っていうのはバレると面倒くさいから」
「だからファイブ・センサーズは裏の仕事が殆どなんだ」
「裏の仕事って…」
裏の仕事といえば、手を汚すようなものを指しがちだ。
だがそのような仕事を彼らがやっているとも思えない。全部勘にすぎないが。
それでも少し疑う気持ちが芽を出してしまった。




