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自己紹介


シーンと静まり返る教室。静寂を破ったのは人差し指を静かにおろした紅前だった。



「…俺はね、城沢。君をとある組織にスカウトしたいんだ」

「一応聞く、どうして?」

「君の延長した能力を、ずっと探し求めていたんだよ。それこそ組織全体が喉から手が出るほどね」

「紅前のいう組織って?何をやってるのか分からないと、何も決めれない」

「それも承知している。だから俺はここにこの三人を呼んだんだ。彼らは全員その組織に所属している。そして五感のどれかが延長した能力を持ち合わせているんだよ」

「えっ、じゃあ紅前みたいな能力が他にもいるってこと?」

「それに関しては否定できないが、この場にいる人間では俺のみだよ。人の心の声が聴けたりとかはな」

「なら、他の三人は何の能力を持って…?」

「それも込みで自己紹介してもらおうか。分からないことがあればその都度質問してくれて構わないからね」


そういうと紅前はそばにあった二つのイスを引き片方に座る。

私は軽く会釈をして座った。


「自己紹介は誰からでも。三人で決めてくれ」

「チッ…お前からしろ」

「相変わらずだな~」


そう言った彼は、まさに緑の黒髪という言葉のごとく、きれいな深い緑色の髪を揺らしこちらを向いた。


「えっと、城沢ちゃんだっけ?初めまして。俺は彩木慧(さいきけい)だよ。延長してる五感は触覚。簡単に言うと、物とか人に触れると思念が分かるんだ。あとは集中すると他の五感を限界まで使えるみたいな感じかな。よろしくね」

「思念って心の声と何が違うの?」

「少し違うんだよねー。俺の場合は他の人から一番向けられてる思いみたいなのが分かるんだ。面白いでしょー」

「うん…?」

「慧の触覚延長は簡単に説明しても分からないだろう?」

「そうだったね。試したいけど、う~ん…あ、城沢ちゃん長い間使ってるものとかある?」

「長い間…これとか?」


そういって私は腕時計を見せる。

お父さんからもらった時計、いわゆるお古ってやつだからかなり思念はこもってると思うけど、どうだろう。


「お、いいね。ちょっと触るよ」


ふわっと音がするような身のこなしで近づいた彩木は私の腕時計に触れる。



(案外近い、外せばよかったかな…まつ毛なが…)



綺麗な髪からのぞく瞳を見てそんな感想しか出てこなかった。



「ん~…二つの思念が特に強いね。一人は多分城沢ちゃん。この時計に落ち着くって思ってるでしょ」

「!!」


思わず腕時計を見る。まさか分かるなんて。別に考えていたわけでもないのに。

確かにこの時計を着けるたび、なぜか落ち着く。まさかそれが思念として残っているなんて。


(そんなに思っていたんだ)


物に伝わっていると思うと少しだけ恥ずかしくなった。



「もう一人は…」



多分お父さんだろう。

何を思ってこの時計を着けていたのか、お父さんには悪いが気になる。



「……」

「?彩木?」

「大切…だってさ。心当たりあったかな?」

「うん…ありがと」


彩木の目を見ようと顔をあげた


「!!」

「あ、ごめん」


思ったより顔が近かったらしく、彩木は屈めていた体を勢いよく戻した。

なんだが申し訳なく思い、謝ってしまった。


「いや、大丈夫。俺こそごめんね」


「気にしてないよ」

「よかった。じゃあ次は二人のどっちかだよ」

「なら次は僕がする」


数歩前に出たのは海外の人のように綺麗な白髪の男子だった。

近づかないとはっきり見えないが、おそらく目の色も白っぽい色のようだ。


「僕は閃雪(せんせつ)。髪の色はストレスから。目の色もおんなじ」

「えっ?」


思わずきょとんとしてしまう。


「うそだから気にしないで。雪って人をいじるのが好きなんだ」

「そいつの髪も目も全部生まれつきのやつだ。騙されんなよ。騙された奴はしばらくこいつの玩具になるから」

「二人ともノリ悪いな~今まで許してくれてたのに」

「許してねえよ。今までのやつが気に入らなかっただけだ」

「俺は毎回止めてたけどね~。雪ってば俺の声聞こえてないんだもん」

「慧のやめなは、やれってことだと思ってた」

「それも嘘だろう?雪。ちゃんと紹介してくれ。城沢が困っている」

「はいはい。さっきも言ったし言われてたけど、閃雪。髪も目も自前。味覚の延長ね。覚えておいてよ。テスト出るから」

「テストなんかねえだろ」

「なに、僕が和沙と話してるのがそんなに嫌?」

「何呆けたこと言ってんだアホ」

「紅、否定しないよ。和沙、気に入れられたみたいだよ。いいの?」

「よくないことか?俺からしたらいいことだと思うが」

「やっぱり紅は紅だね。つまんない」


白髪の子もとい閃雪は踵を返し机に座りなおした。

話すたびに色々動く子で、何というかつかめないタイプだ。

見た目はこの中で一番年上のように感じたため、落ち着きのある人かと思っていたので少し拍子抜けした。


「ラストは(こん)だな」

「……」


紺と呼ばれた深い青髪の彼は俯いたまま何も言わなかった。


「紺?」

「……だ」

「??」

「…嫌だ」

「紺、毎回初対面の奴と話すたびにそれやるつもり?」

「つもりもくそもねえよ!別に紺だけ分かってんなら十分だ」


どうやら自身の名を知られたくないらしい。


「別に知られたくないなら言わなくても。でも代わりに私も紺って呼ぶけど」


まだ正式に組織入るって決めてないけど。と付け加えると紺はぶるぶると体を震わせた。



「……」

「ほーら紺。どっちのするの」

「僕は自己紹介するのがいいと思うよ」

「雪は紺をからかうな」

「からかってないよ。遊んでるだけ」

「そうか」

「同じだと思うよ紅前」

「そうなのか?」


「だーーーー!!!紹介!すればいいんだろ!!」

「よっぽど外部の人間に紺て呼ばれたくないのね」

「まあそこは色々あるみたいだよ。詳しく知らないけどね」

「?そうなんだ」


閃雪は気が付くとそばにいて耳打ちしてくれた。


(詳しく聞きたいとは思わないけど)


「いいか!一回しか言わないからな。聞き逃しても知らない。一回しか言わないからな!」


ビシッと音が出そうなほど勢いをつけた指が私を指す。


「それを二回言わなくても」

「忠告だ忠告」

「僕が過去に何度も聞いたこと根に持ってるんだよ」


またこそこそと閃雪が教えてくれる。

やっぱりつかめないけど唯一わかるのは人で遊ぶのが好きなんだろうということだけだ。


「俺は…俺は…!」



「…紺汐(こんせき)鉤斗(かぎと)……」

「…こんせきかぎと?」


何とか耳を凝らして聞こえた言葉を反芻するが、何が変なのか分からず頭をかしげる。



「それだけじゃだめだよ紺。能力も言わないと」

「クソッ…」

「ほらー紺くん?僕ら全員言ったよ?」

「紺、無理にとは言わないよ」


三人から詰められた紺はさらにうつむいた。


(うつむくより項垂れているみたい)


何となく、犬みたいだなんて思ってしまった。


(言ったら絶対怒られるから言わないけど)


チラッと紅前を見ると目をつぶっていた。

そして目を開けるとふっと笑った。


(…面倒くさいかも)


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