夢のお話 紗幕の向こう側
「あれ?…ここどこ?」
前を見て歩いていたはずなのに、目の前に広がる道は知らない道だった。
神社に行こうとしてたら、知らない場所に来てる?おかしい地元なのにどこだ此処? こんな場所あったっけ?再開発で知らない間にかわってたとか? とりあえず進むけどやっぱり迷子っぽい感じがしてきた。ここは、素直に人に聞こう。
近くにいた人に道を訪ねたら、そんな場所じゃないとか言われた。近くの案内板を見せられたら全然知らない場所だった。というか読めない感じがある?
「君、迷子だねー」
苦笑しながらお兄さんが言ってきた。まさか、この歳で迷子…まじか。あれ?このお兄さんの服、こんなアオザイみたいな格好だったっけ?
「こういう時はあそこだ!」
「へ?」
いきなり腕を掴まれて、どこかに連れてかれる。もしかしてやばい人だった?!
「あの…」
「大丈夫、大丈夫」
気がつけば、少し古めかしい建物の前に来てた。中華風な建物でもあり神社みたいな建物の入り口には石段が一段あって、そこにはゴザが敷かれてた。
そこにお爺ちゃんとお婆ちゃん、おばさんと若いお兄さんが横並びに座りながら、その前にもござが敷かれて、何かしらみんな相談してる場所。
思わずぽかーんと見てると、端っこに現れたおばさんに、連れてきた人が話しかけていた。
「あ、いたいた!よかった。あんたを探してたんだよ」
「そうだろうね。」
「お、やっぱりわかってらっしゃる!」
そのおばさんと目があうと、瞳の奥まで覗き込まれるような変な感覚がした。
「あー…珍しい迷子だね」
そう言うと、横並びに座ってる人たちをかき分けて、一段高くなってるゴザの上に、そして若いお兄さん退かして。
「あんたは末席だろ!」
「うげ!帰ってきたのかよ」
「はいはい、どいたーどいたー」
そう言って、どんどんお爺ちゃんの方に移動してどかりと座った。
「すご…」
「こっちへおいで、お客人」
手招きされて、並んでる人がいるのに、先頭に座らされてしまった。
「席っていうのは重要なんだよ、能力を表してるからね。」
そうウィンク付きで返された。
「はぁ」
やっぱり危ない宗教?そう思って逃げようと振り返ったら、さっきまであったコンクリートの道路は消えて、中華風な街並みに変わっってた。
「おやおや?」
夢でも見てる?思わず変な言葉が出てきちゃうくらい、頭が真っ白になった。
「夢じゃないよ。お客人。」
「ほらほら、ちゃんと手を握ってもらって、占ってもらいな」
さっきの人に前を向きなおされてしまった。
「大丈夫、この人は迷子のエキスパートだからね」
「そうさ、このオババにまかせなさい。」
握られたシワシワの手は暖かかった。
「私たちはね、占術士って言うんだよ。」
「そうそう、困ったら導いてくれるだ。だから頼っちゃうのが一番さ」
そう横にいたお客さんもいってきた。
「え?!でもお金」
「あー代金は気にしなくていいさ。ただ、占ったらちゃーんと言うことは守ることだ。」
「へ?」
「ふむ…なるほど」
にっこりと微笑んで、そのおばさんは占い結果を言った。
「南寺門へおゆき、その先で、衣食住を確保しなさい」
「え?待ってください、私家に帰りたいんですけど。」
「今行くべき場所は、南寺門だ。それに…あんた普通に帰れると思ってるのかい?」
意味深に言われた言葉。
「あ…え…?」
なんとなく、普通じゃないってわかってる。まるで白昼夢みたいなこの場所。いや、もしかしたらこれは全部夢オチとか?そうじゃない?きっと。
「まって、さっきいたところまで戻れば」
振り返ったら、さっきまで居たはずの男性はいなくなっていた。此処まで連れてきた癖に最後まで面倒みてよ!
「とりあえずお行き、行けばであう。必ず」
「ひ、ひとりで?」
こんな知らない場所で?!嘘でしょ?!
「もちろん一人でね、落ち着いたらまたココに来る事になる。さぁ、お行き。」
手をポンポンと叩かれて、立たされた。指差された先には、大きな朱色のお寺や神社にあるような大きな門が見えた。
「ほら行った」
背中をぽんっと叩かれて、思わず一歩進んだ。
周りを見れば、早く行けと急かすように見てくる。
「あ…」
不安だけど、進むしかない。きっと夢だし。
その場所に向かいながら周りを見れば、服装は着物のようなチャイナ服みたいなインド服みたいな不思議な服ばっかり、とりあえずアジアンな感じだ。
「なんで、こんな変な夢みてるんだろう…早く目がさめたい」
大きな門には確かに南寺門と大きく書かれていた。
「変なの」
いろいろ混ざりすぎ。
門を潜り抜けた先は大きな商店が並んでいた。例えるなら、時代劇で観るような街並みと人混み。進んでいくと馬車が走り抜けてよろめいた。
「うわ!」
衝撃に目をつぶったのに、何も来ない?
ふんわりと香る白檀の香り、誰かに抱きとめられてるのに気づいて顔をあげれば青みがかった黒髪の男性がいた。
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「いえいえ」
しっかりと立てば、その人は私の手を握って見てきた。
「あー君はオババに導かれたんだね。では助けなくては」
「へ?」
気づけばとられた手首にはミサンガのような紐が結ばれていた。
「あの、どういう」
「今日、南寺門で出会う人を助ける事。それが今日の占いだったんだ」
そう言ってまた腕を引っ張られて連れてかれたのは大きな建物。表は小店みたいだった。裏に回って小さな扉を開けて中に入るとそこは大きな屋敷だった。
「わー…池がある」
「それなりの豪商なんでね」
すごく都合のいい夢だと思った。
通されたお部屋はやっぱりアジアンテイスト。茶器はおしゃれな現代風な感じもしつつ柄も入ってる。美味しいジャスミンティー
「はぁー」
「落ち着いた?」
「あ、はい、ありがとうございます。」
「それはよかった。私は、ライ。この家の四男坊の自由人なんだ」
「は?はぁ、そうなんですか?」
四男坊の自由人?つまり金持ちのニートか?!くそ!羨ましい!しかも顔がいいとか!
「あははは、そんな警戒しないで。せっかくの出会いだ。」
「はぁ…」
「君は、オババになんて占われたの?」
「え?…あぁ、そういえば…南寺門へいって、そのさきで衣食住を確保しなさい…だった」
「ふむ、衣食住か…。流石にただでは泊まらせることは出来ないかなー。ウォンに相談しないとね」
「ウォン?」
「そう、この豪商で一番偉くて長男さ」
そう言うと、部屋を出て行ってしまった。
いつになったらこの夢は終わるんだろう。はぁー神社に行くだけのつもりだったのに。
「…あれ?そういえば、自分はどうして神社に行こうと思ってたんだっけ」
手元を見れば、何も持ってない。スマフォもカバンも。いやいや、散歩に出る時でも、最低限スマフォと財布と鍵は持つだろう。
「やっぱり夢か…」
それにしてはリアルな感じがする。まーリアルな感じの夢もあるんだけど。
「なーんか…変」
そういえば、勝手に手首につけられたミサンガは片手で外れなかった。何気に手首ぴったしに結ばれてる。
「むー…紫色のミサンガって…ふるくさい感じがするのはなんでだろう…あぁ!取れない!」
諦めて椅子の背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
「綺麗な花の絵だ」
木枠の天井の中に丁寧に描かれた花の絵。全部種類が違うみたい。
どこかで風鈴の音が聞こえてくる。通りの喧騒もここでは遠くに聞こえて静かだ。
ふと目がさめたら辺りは真っ暗だった。
「ふぁーよく寝た。めっちゃ不思議な夢だった。」
起き上がってどかした布団。
「…ん?」
手触りがタオル生地でも毛布でもない。見れば打掛みたいな着物。
「まさか…」
周りをよく見れば、そこは自分の部屋ではなく、畳が敷かれた部屋だった。寝ていた場所はベッドだけど、知らないベッドだ。
「待って…夢の夢ってやつ?」
頬をつねっても痛いし。何よりお腹が空いてる。起き上がって扉の辺りまで来るとちゃんと靴が置かれて、土足エリアがあった。とりあえず靴を履いて出れば、そこは回路だった。提灯がぶら下がり、仄かに周りを照らしていた。周りを見れば同じような扉が続いてる。
「あら、お客人目がさめたのね」
ビクッとして振り返れば、横に着物とズボンみたいな格好の女性が立っていた。
「ちょうどよかった。これから夕飯なのよ。いらっしゃい」
そう言ってスタスタと歩き始めてしまった。お腹もなってるし、ついていくと、食堂のような場所で似たような服装の人たちが集まって食事をしていた。おひつからご飯をよそっておかずを受け取る。
「あの…ライさんってどこに」
「ライ様たちは別の場所で食事されてるわ。そうそう、明日旦那様と顔合わせるからちゃんと食べてよく寝なさいね」
「旦那様?」
「ウォン様よ。此処では皆、旦那様って呼んでる」
「はぁ…」
訳も分からず食事をして、またさっきの部屋。眠くなったからまた眠って、今度こそ目を覚まそうと思ったけど。
「同じ部屋だ」
木の窓の隙間から日差しが入り込んで眩しい。開ければ、ガラスも網戸もない窓だ。何より回路の方で慌ただしく走り回る音がする。どうやら朝の仕事で忙しいみたい。
「んーーこれって夢じゃない?」
まさか、なんで?さっぱりわからない。
そうこうしてるうちに、呼ばれて連れて行かれたのは高価そうな調度品が置かれた部屋。そこには昨日あったライとたぶん旦那様って呼ばれてるウォンって人がいた。その人は茶髪に一本結びした男性だ。瞳は右目だけ青く左目は黒。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「あ、はい。すみません。寝床をお借りして。ありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそ、来てくれてありがとう。やはり占術士の占いは当たったか」
「あの、私」
「君に衣食住を保障しよう、そのかわり此方での生活を覚えてもらいたい」
「えっと…どう言うことでしょう?あの、私」
「君の名前は覚えてる?」
ライに言われてとっさに名乗ろうとした名前はまるで煙のように消え失せて思い出せなかった。
「あれ?」
「うむ、やはりな。」
「では、新しい名前をつけよう。シャサだ」
「シャサ?」
そう言われた瞬間腕が熱くなった。見れば紫色のミサンガが熱を持ってるみたいだった。外そうとしても外れない。次第に赤いものが浮かび上がった。
「へー君はやっぱり朱雀だったか」
「な、何を言ってるの?」
「おかえり。我らが四神」