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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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82話 怪しい音楽 1

 渋谷の街を小路の手を引きながら灰川が歩く、小路は右手に白杖を持ってるから左手で灰川の腕を掴んでおり、位置取りは小路の少し斜め前という形だ。


「灰川さんの手おっきいね~、何だか安心するな~」


「そう? 俺としては小路ちゃんの手が小さいって感覚だな」


 灰川は視覚障碍者の介助は初めてであり慣れない動きだ、こういう連れ立ち方で良いのかと不安になるがネットにこう書いてあったのだ。


 しかし小路は少し疲れてるように見える、少し聞くと普段は車で移動する事が多いから、こうして人が多い場所を歩くのは久しぶりだとの事だ。


「介助はこんな感じで良いの? こういう風にして欲しいとかあったら遠慮なく言ってよ? 本当にマジで俺に気遣いとか遠慮とか要らないからね」


「大丈夫だよ~、灰川さん介助が上手いね、安心して歩けちゃうよ~」


 そんなありがたい事を言ってくれるのは嬉しいが、まだ慣れない部分があるため慎重に進んで行く。 


 今日は電車を使っての移動で駅の周辺まではタクシーで来たが、そこからは歩きだ。小路を連れながら渋谷駅に入り山手線に乗り、優先席に座って雑談しながら電車に揺られる。


「灰川さん、男の人に聞いてみたかった事があるんだけど~、聞いて良いかな~?」


「ん? おう、何でも聞いてくれて良いよ、視聴者の増やし方とかは分からんけど」


「あはは~、それは教えて欲しいな、そうじゃなくて~」


 何を聞かれるのか知らないが特に問題は無いだろう、これから行く場所がどんな感じの場所なのかとか聞かれるのかと思ってたら。


「私って可愛い~?可愛くない~? 正直に答えて欲しいな~」


「えっ?」


 まさかそんな事を聞かれるとは思ってなかった、しかも小路の雰囲気は冗談交じり3割、真面目7割といった感じで本当に気になってる様子が分かる。


 この問い掛けに灰川は少し困る、女の子に対して可愛くないなんて絶対に言えないし、かと言って可愛いと答えても25歳の男が16歳の子に言うのは何か変な感じがしてしまう。


 だがここは2択で聞かれてる質問であり、ここで話題を逸らせば答えないよりも悪い選択だ。だから灰川は思ってる事を口にする事にした。


「小路ちゃんはメッチャ可愛いよ、自分じゃ分からないと思うけど顔立ちが凄い整ってるしスタイルも良い、それに性格だってマイペースだけど優しくて一緒に居ると楽しいけど落ち着く感じがするしね」


「え…? あっ…そっか…! 私っていうのはVtuberの小路のほうだよっ、あ、あはは~」


「んっ……? んん…? ちょ…おま…!」


 まさかの勘違い、しかも灰川は小路本人に対してベラベラと可愛いと言ってしまった。


「はぁ、まぁ良いか、小路ちゃんが可愛いって思ってるのは本当だしよ、あとVtuberの方も可愛いって思ってるよ、あ~恥ずかしい」


「そっか~、灰川さんは私のことを可愛いって思ってくれてるんだね~、うれしいな~」


 灰川は小路から顔を背けて自分がやらかした事に対して精神を落ち着ける、その原因になった小路は小さな声で普段は出さない恥ずかしそうな声を押し殺していた。 


 小路は実は顔が真っ赤になっている、自分の顔も他人の顔も目視した事は無いが、この顔が熱くなる時は恥ずかしい時や照れてる時な事くらいは知っている。声でも自分が照れてる事がバレそうな気がして、必死に声色を平静に保っていた。


「そういや小路ちゃんって本当の名前は何ていうの? 聞いた事ない気がするんだけど」


「私の本名は春川(はるかわ) (さくら)だよ~、覚えてくれると嬉しいかな~」


「え…めっちゃ良い名前じゃん、病院とかでその名前呼ばれたら見ちゃうくらい良い名前だって」


「むふふ~、じゃあ名前を褒めてくれた灰川さんに~、私の名前の由来を見せてあげるね」


 由来を教えるではなく見せると言われた、意味はよく分からなかったが、小路こと桜は灰川の方を向いて普段は閉じたままの目を開けた。


 すると桜という名前の由来がすぐに分かった、小路の目の色は薄い桜色だったのだ。焦点の合わない綺麗な目の色に灰川は引き込まれそうになった。


「っ……! すげぇ綺麗……」


「ありがと~、綺麗って言ってもらえて凄いうれしいよ~」


 灰川としては完全に本心で、小路の柔らかな雰囲気や優しみのある顔立ちに色合いが強く調和しており、非常に魅力的に映ったのだ。


 小路は色という物を見た事が無いし自分の目を見た事もない、そんな盲目の少女がとても綺麗な目をしてるのは何だか少し哀愁がある。


「でも小路ちゃんが目を開けたら何か少しだけど霊能力っぽい物を感じたな、もしかしたら何らかの霊能力を持ってるのかもな」


「そ~なんだ、でも目が見えないから幽霊は見えそうにないね~」  


 思ってみれば小路が配信事務所で見た夢で、非常に不鮮明だが視覚的な夢を見たのも何らかの霊能力が原因なのかも知れない。


 それは不明だが、どの道どんな霊能力を持ってるかを調べるのは灰川は簡単には出来ない、それに霊能者など無くたって生きてくのには困らないのだから調べる必要性も薄い。


「もしかしたら手を繋いだ人とかが、どんな人か何となく分かるけど、それなのかな~?」


「え、そうなの? ん~、何とも言えないけど俺はどんな感じだった?」


 そう言われると自分に感じた感覚を知りたくなるのは人の常だ、灰川だって例外じゃなく、何となしに聞いてみた。


「灰川さんはね~、その…なんていうのかな~、ん~…秘密にしとくよ~」


「あ、それずるいって、俺は質問に答えたのに」


「むふふ~、秘密ったら秘密だよ~、言ったらミナミちゃんに怒られそうだしね~」


 そうこうしてる内に目的地に電車が到着しそうになり、会話を中断して準備する。


「あ、そろそろ着くな」


「じゃあ準備しないとだね~」


 そうこうしてる内に電車が秋葉原駅に着き、そこからタクシーに乗って向かう事にしてるのだが。



「灰川さん、ここって秋葉原なんだよね~? それなら寄ってもらいたいとこがあるな~」


「CDショップとか?」


「アニメ雑誌が売ってる本屋さんが良いな~」


「おう、分かったよ。すぐそこにあるから入るよ」


 普通に返事をしてアニメショップに入ってしまったが灰川は頭に疑問が浮かぶ、目が見えないのに本?という疑問だ。点字の本もあるが、ここにはそういう本を置いてそうな雰囲気はない。


「店員さんを呼んでほしいな~、買いたい本があるから」


 そこに居た店員に声をかけて小路が何かを注文してレジに行き、会計を済ませて外に出て人の邪魔にならない路地に入るよう言われて、すぐそこの路地に入った。


「灰川さんにプレゼント~、中身は染谷川小路ちゃん特集がされたシャイニングゲート刊行の雑誌だよ~」


「えっ、良いの? ありがとう」


 小路から渡された雑誌を見てみると、表紙にはVtuber染谷川小路が大きく載っており、配信で見る銀の髪色のロングヘアで柔らかな笑顔の小路が所々のページに写って紹介や説明が書かれてる。 


「これを見て灰川さんもファンになってくれたら嬉しいな~、むふふ~」


「やっぱ小路ちゃんの3Dモデル可愛いな、本人も凄い可愛いし、へ~こりゃ面白そうだ」


 灰川が何気なしにそう言うと小路は小声で「ぁぅぅ……そんなに可愛いって言われると照れちゃうな…」と言ったが、灰川には聞こえなかった。


「じゃあ行くか、この本は大切にするよ、雑誌ってより保存版の書籍って感じだしね」


「ありがと~、その本はナツハ先輩とか竜胆(りんどう)れもんちゃんの特集の回もあるから、気になったら探してみてね~」


「そういやエリスにシャイニングゲートの雑誌があるって聞いたような気がするな、これがそうなんだ」


「そうだよ~、これで灰川さんもシャイゲ民だ~」


 シャイゲ民とはシャイニングゲートのファンの呼び方の一つで、動画や配信のコメントやネット掲示板で使われてる俗称だ。


 灰川は貰った本を小脇に抱えて腕を掴ませ、先導介助しながらタクシーを捕まえ目的地に向かった。




「いらっしゃいませー」


 タクシーを降りて入った店は金橋古書店という店で、以前に灰川が勤めてた会社の同僚に教えられた店だった。


 元同僚から聞いた話では古書店ではあるがレコードや古めのCDの取り扱いが多い店で、店長は音楽に詳しい人だと聞かされてたのだ。


 店内は大きくはなく古書が棚に並べられ通路は狭い、本を劣化させないよう薄暗い照明で、ドラマに出てくるような古書店然とした店だった。レコードなどの音楽系の商品は2階にあるようだ。


 灰川は小路を足元に気を付けて連れながら店の奥に行き、老齢一歩手前というくらいの男性店主に話し掛けた。


「すいません、とある曲のレコードかCD探してるんですけど」


「どの曲かね?」


「それが曲名とか分からなくて、メロディーの一部分だけしか分からないんですけど聞いてもらえますか?」


「構わんよ、こう見えて私は音楽には自信があってね、知ってる曲の数ならそこらの音楽大学の教授には負けんくらいの造詣があると自負してる」


「そりゃ頼もしい! 小路ちゃん、マジで見つかるかもよ?」


「うん、店主さん、こういう曲なんですけど~……」


 小路がさっそく曲調を説明してから鼻歌で曲を再現する、歌なのか楽器演奏曲なのかも定かではない曲の覚えてる部分のメロディーを店主に聞いてもらうと。


「その曲をどこで知ったんだい? 白い慈愛って曲なんだが、無名の曲だし知ってる人は少ない筈なんだが」


「白い慈愛? 聞いた事ない曲ですね、俺は知らないです」


「その曲のレコードかCDってありますかっ? あったら売って欲しいんですっ」


 珍しく小路が興奮した様子で声を上げる、曲名が分かっただけでも儲け物だが店主に話を聞くとCDもレコードも販売はしてないそうだ。


「小路ちゃんってレコードプレーヤー持ってんの? 今どきの子ってか年寄りでも使ってる人は少なそうだけど」


「白い慈愛っていう曲のレコードがあったらプレーヤーも買おうと思ってたよ~、無かったから買わないけどね~」


「そういや店主はレコードもCDも無いのに、どうして曲の事を知ってたんですか?」


「ああ、それについてはね……白い慈愛はCDとレコードは無いんだが、カセットテープがごく少量だけ作られてた、それを持ってた事があったんだ」


 カセットテープとは昔は盛んに使われた音楽媒体で、今ではほとんど見かける事すら無くなった存在だ。


「~~! そ、それを売って下さいっ! いくらでも出しますっ」


「お、おい小路ちゃん、落ち着きなって」


 介助のために繋いでた灰川の手を小路がぎゅっと握る、本当に欲しいと思ってる事が伝わってくるようだ。それと同時に妙な感覚も覚えた。


「お嬢ちゃんもあの曲に呪われたのか…」


「呪いってことは……白い慈愛ってのは、やっぱ裏音楽なんですか?」


 灰川は恐る恐る聞いた、裏音楽なんて単語は知らない人が多いし、あまり口に出さない方が得策なのだ。


「裏音楽を知ってるのか、なら話が早い。その通り、白い慈愛は裏音楽だ」


「灰川さん、裏音楽ってなに?」


 小路に説明するために灰川は裏音楽に着いて簡単に説明した、非人道的な方法を用いて作曲された音楽であること等だ。


「白い慈愛という曲について説明しなきゃならんな、いったん店を閉めるから2階に上がってくれ」


 店主に言われ2階の音楽販売をしてる場所の奥のテーブルに座り、話を聞く事となった。


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