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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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53話 四楓院家の怪異 5

 灰川は陽呪術によって微弱ではあるが他者に一時的に霊能力を付与させる事が出来る、それが判明した時に光明が見えた。


「ふむ、それならば何かしらの対策が立てられるかもしれん、しかしどの程度の力を行使できるのかが問題であるな」


「…ん……最低でも抵抗力は欲しい……」


 灰川は説明を始める、使える術は『霊気(れいき)托生(たくしょう)』という陽呪術で、掛けられた者が一時的に自分の中に眠る霊的な力を起こさせる術である。


 しかしこの術は霊能力がほとんどない人に使う物であり、その効果は極めて弱い。精々が少しの間だけ霊的な耐性を強くさせ、もしかしたら幽霊が見えたりするかも?という程度の術だ。


「そうか…しかし霊験を持った者を多数用意できるというのは大きいな、大体は何人くらいに使用できるのかね?」


「今回使えそうなのは個人に掛けるタイプじゃなく、特定範囲に結界を作って、そこに踏み入った者に霊能を付与させるタイプです」


 八重香を大広間に移して、大広間に踏み入った人間に霊力を付与させれば、より多くの者に使えると灰川は踏んだ。


「でも、普通の人に霊能力を持たせても、除霊とかお祓いって出来るのかな? 見様見真似とかでも良いの?」 


 市乃が本質を突いた問題を提起してきた、まさしくそこが問題なのだ。除霊やお祓いは適当に真似るだけでは意味を成さない、むしろ雑念だらけになって逆効果にすらなりかねないだろう。


 お祓いや除霊とは修練が不可欠であり、修練なしでも出来る人は元から高い霊能力や生命エネルギーのような物を持つ人だ。


 そもそも雑多に人を集める事だって難しい、たった一日で身の危険がある場所に人を何十、何百と集めるなど不可能だ。四楓院家の人脈を駆使すれば不可能ではないかもしれないが、人を集めるだけでは意味がない。


「必要なのは八重香ちゃんを救うという気概を持ち、怨念に負けない程の気合を持つ人たちかぁ…」


「……ん…」 


 灰川の言葉に藤枝が頷く、その気概や気合というのは純然たる集中力と言い換えても良い、怨念に付け入る隙を与えず己を保ち続けられる者達、あの怨念を前にしたら簡単な事ではない。


「そもそも灰川さんっ! 人を集めても除霊やお祓いが出来ないんじゃ意味ないじゃんっ! どうするのさっ!」


「っ…! そ、そうだよな、そこなんだよなぁ…、和尚と藤枝さんは何か良いアイデア無いですか?」


「ふむ…考えてはおるのだが…如何せんな…」


「……………」


 市乃の指摘を無視して進む事は不可能だ、頭を戻してどうすれば良いか考える。いま考えるべき事は主に、どうやって人を集めるか、どんな人を集めるか、人を集めてどうするか、その三つだ。


「人を集めるに関しては四楓院家に相談するとして、残る二つが問題だよなぁ」


「………うん……」


「そうじゃなぁ…」


「う~~ん…」


 気合と集中力を持った人とは言うが、どんな人たちなのか抽象的に過ぎる。そもそも集めて何をすれば良い?お祓いや除霊が出来る人間なんてタイムリミットまでに集められないのだ。


 4人で頭を抱えてしまう、霊的な儀式を素人を集めて本当に出来るのか?やったとして成功率は?そもそもどんな手法を取れば良い?問題が尽きないし、一つ一つの問題も大きい。


「ワシが出来る事は読経と念を治める事でな、この事件をこの人数で解決する力は持っとらん」


「……ん…私も…声に念を込めて散らすのは出来る…」


 二人が出来る事に灰川が出来る事を足しても解決には及ばない、やはり多人数に霊能力を付与させて儀式を執り行うしか方法がない。


 しかしそれが現実的でない、素人を集めてお経を息を合わせて読んでもらう?出来っこない。ならば集めた人に舞を教えて踊らせる?10分も踊ればダンス経験が無い者なんて倒れるし、複雑な舞を覚えられる訳がない。


 怨念の弱点は見えている、音を伴う儀式が苦手なのは明らかだ。医者の岡崎先生の息子も『うるさい、去れ!』と言われて体調に異変をきたした、その他にも音を伴う儀式には明らかに抵抗が見えたと書類で分かった。


 しかし完全に祓うとなると生半可な音では無理だろう、それこそ多数の神職や巫女が太鼓や笛を用い、大きな火を焚いて祝詞などを読み上げるような複雑な儀式が必要になる。


「クッソ…どうすりゃ良いんだよ、案が浮かんでも時間が足りないか実現不可能の二択しかねぇ…」


「う~む…ワシも同じだぞ灰川氏、長年生きて仏職の世界におるが、今さらになって修行が足りんと思い知らされるとはな…」


 今も苦しみながら恐怖と戦う5歳の女の子を助けたい、皆がそう思ってるが名案が浮かばない。底知れぬ怨念を抱く霊への対抗策が浮かばない、状況は依然劣勢だ。


「騒がしいのが苦手かぁ…だったらゲームとかカラオケでお祓いが出来たら良いのになー…」


「ん?」


 市乃が何気なく言った言葉が灰川の中で響いてる、この言葉にこそ解決の糸口があるように感じた。


「そうか…考え方を変えれば良いんだ……!」


「何か思いついたの、灰川さんっ?」


 霊能力を持たない人たちは霊能者に先入観を持って接する、霊の気配だけが分かる人に霊が見えると決めつけて掛かったり、霊能力なんて嘘っぱちと決めつけて詐欺師を見るように接したりする。


 しかし……それは自分たち霊能者も同じなのではないか?強い霊に対抗するためには熟練の霊能者が多数必要、大掛かりな儀式をしなければ八重香に取り憑いた怨念は祓えない。それは先入観ではないのか?


 自分は四楓院家の依頼を受けた時に「普通とは違った手段を取る事がある」と言った、霊能力の世界も時代と共に変わっている、自分はミナミに降りかかった呪いを打破するのにネットのお経を使った……様々な今までの事が頭を駆け巡る。その中で思い出した話があった。




  居酒屋の幽霊  


 ある人が安いテナントだという理由で幽霊が出ると噂のある場所を借りて居酒屋を開いた。


 噂は本当で店内で一人で作業をしてる時に、黒い影を目撃したり、誰も居ない店の奥で物が倒れたりしたそうだ。


 だが店は酒も料理も美味く連日満員の大賑わい、客から「幽霊が居る!」という苦情が入っても、逆にそれがオカルト好きの客を呼び込む事にもなった。


 そんな大変な賑わいを見せる店内からは、いつの間にか幽霊が居なくなっていたらしい。騒がしく活気があった状況が図らずも除霊になったという事だった。




「俺たちの知る霊的な儀式が実行できないなら、実行できる何かを霊的な儀式に昇華させれば良いんだ!」


 灰川の案はこうだ、八重香を大広間に移動させて灰川が陽呪術で一定範囲の他者に霊能力を与える、その中で起こる全ての事を霊的な儀式として処理すれば良いというアイデアだった。


「………そんなこと……できるの…?」


「そこで必要になるのが気概と集中力だ、結界の中に入る人達には八重香ちゃんを助けたいという気概を持って貰って、その上で何かしらの、出来れば音を伴う事をしてもらうんだよ」


 霊的な儀式に必要なのは精神の力だ、祓いたい、助けたい、怨念に消えて欲しい、そういった抵抗する力を出して貰えば、大雑把ではあるが儀式としては成立する。


「ふむ、しかしそれだと神的あるいは仏的な儀式では無いから、必要になる人数が祓いの儀式よりも多くなってしまうぞ」


「そこは四楓院家に相談ですね、この案については二人はどう思われますか? 市乃もどう感じた?」


「私はよく分かんないけど、八重香ちゃんが助かるなら私も喜んで協力するよっ!」


 市乃はお祓いの事は分からないが、直感的には良いかもしれないと思ってくれた。


「……質問……いいですか……?」


「おう、何でも聞いてくれっ」


「………ひぅ…っ」


 藤枝に対して普通の言葉遣いをしてしまった、怖がらせたのを灰川は謝罪して質問を聞く。


「……八重香ちゃんの体と精神は……持ちますか……?」


「そこは陽呪結界を張る際に、結界内に居る人達の八重香ちゃんを助けたいと思う気持ちが、八重香ちゃんの精神エネルギーになるよう構築します」


 八重香の体の容態だって大事な要素だ、しかし祓えなければ24時間後には非常に危険な状態に突入してしまう。


 そこで結界に工夫を加えて八重香の精神に怨霊への抵抗力を持たせる、完璧とは言えないがこれしか出来る事はない。


「具体的に何をするかじゃが、八重香ちゃんの周りで何をすれば良いんだ灰川氏?」


 流信和尚が灰川に訪ねる、こんな事を画策した事も無いから何をするのか想像も付かない様子だった。過去には大きなお祓いなどにも携わった事があったそうだが、それらは入念な準備に裏打ちされた儀式であり、唐突に出来るのが何なのか分からない。


「そこはもう、何でもです、八重香ちゃんを助けたいと思う気持ちがあれば、どんな事でも儀式になるはずです」


「何でもか、流行りの歌を歌ったり、若者が踊るような踊りでもかね?」


「そうです、救いたい助けたい、恐ろしい怨霊に立ち向かう気概があれば、それこそが対抗する力になります。何と言っても集めた人たちには結界に入れば全員に霊能力が付くのですから」


 「「!!」」


 ここまで説明して流信和尚と藤枝は合点がいったようだ、つまり集めた人たちは疑似的に霊能者になり霊に対する抵抗力が上がる、その人たちが八重香を助けたいと思う気持ちが八重香の力になり、怨霊を祓う力となる。


「それって完璧なんじゃないの灰川さんっ!? それしか無いよっ!」 


「……わ、私もっ……間違ってないと思います……っ」


 後は年長者であり実質的なリーダーである流信和尚が納得するかだ。


「ワシは陽呪術というものに詳しくはないが、自信はあるのかね灰川氏」


「正直、運次第という事になります…集まる人が少なかったり、助けたいという気持ちが低ければ、その時は失敗するでしょう」


 そこに加えて時間の事も説明する、どの位の時間が掛かるか分からない、どんなに少なくとも半日は掛かる、成功率は変動する。


 それと同時に、この手法は医者が居て医療器具も揃ってる今なら、医療的科学的な手段とも併用が可能なこと、今の四楓院家には並みの病院以上の設備が整ってる。


「確かに現状ではこれしか無いだろうて、ワシも賛成だ」


 こうして灰川の案はオカルト組では可決された、次はこれを四楓院家に話しに行く。




「なるほどのぅ、そういう形があるか」


 四楓院 陣伍と八重香の両親、そして医者の岡崎先生と科学者の浦田を交えて4人から話す、当初は不特定多数の人間を苦しむ娘の周りで騒がせるなど!と否定的だったが、この手法の有用性を説いたら理解はしてくれた。


「陣伍殿、現状でワシらにはこれ以上の案は出せん、やるかやらないかは四楓院の者達で決めて欲しい」


「うむ、ではどうする? 英明、晴美」


「どうするって…父さん…」


「あなたっ…私は八重香が助かるなら何だって良いっ…! やって貰いましょうっ…!」


 理解はしても簡単には決断できない、事には娘の命が懸かってる。確実とは言えない手法、確率はその時によって変わる、しかもこれはオカルト勢からの実質的な最後通告だ。


 仮にここにいる霊能者3名が真っ向から当たれば怨霊に負けなくとも、それ以前に八重香の体と精神が持たない、これ以外に方法が無いのである。


「でも…確実じゃないなんて……、やっぱり医療に頼るべきなんじゃないのか…」


 八重香の父親の英明が最後の頼みの綱としたいのは現代技術だった、今からでも国立の大病院などに行けばどうにかなるんじゃないかという気持ちはある、それは普通の感情だろう。


「英明さん、自慢じゃ無いが私は国内有数の小児科医と呼ばれてます、八重香ちゃんを調べた設備は国立病院の設備と比べても同じか引けを取らない設備でした」


 八重香は自宅療養に切り替わる前に大病院でくまなく検査を受けた、その上で岡崎先生は何度も検査をして異常は見つかってない。


 しかも薬も効かず処置のしようが無い、出来る事はやり尽くしてる。


「これ以上は出来る事が無いのです、しかも容体は悪くなるばかり…今だって有効な処置が無いか世界中の例を調べてる際中でした」


 国立の病院に行っても結果は同じ、それどころか岡崎先生は暗に『国立の病院小児科は最近医者が変わってしまい、自分より格下しか居ない』と言う。


「俺としても出来る事はありませんぜ、ハッキリ言います。色々と検証はしたけど、これはまだ科学では解明できねぇ事象です」


 浦田教授もはっきりと言い切った、暗にオカルト勢の案を試すしかないと言ってくれたようなものだ。父親は押し黙る、既に何名も不可解な現象に倒れ、残された選択肢は少ない。


 国際最高峰の小児科医が手はないと言い切った、自然科学の専門家が科学では救えないと言ってる。それでも娘の命を最後に託すのが意味の分からん、存在するかどうか不確かなオカルトで良いのか、その念は拭えない。


 だが現状では全員が口には出さないが怨霊の仕業という意見で一致してる、現代技術も万能ではない事を思い知らされる現象を全員が目の当たりにしてるのだ。



「じゃあ試してみますか?」


 「「え?」」



 灰川の言葉に一同が疑問の声を上げる。


「結界に必要な呪符などはすぐに用意できるので、まずは効果を見て下さい」


「しかし…何をするのか…」


 疑似的な儀式の効果の検証を行う事になった、その方法は。


「市乃、少しの時間で良いから八重香ちゃんの居る部屋で、三ツ橋エリスとして配信して騒いでくれないか?」 


「え??」


 まさかの提案に市乃は神妙な面持ちから呆気にとられた表情になった。

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