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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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343話 パーティー前の祓いは楽勝で

「佐嶋さん、この後輩さんはねぇ~、心霊写真に関する嫌な事が連鎖して起こる状態になっちゃってますねぇ~」


 心霊連鎖写真とは心霊写真が撮れやすくなってしまった者が撮った写真であり、佐嶋の後輩がその状態になってしまっていた。


 写真撮影する時だけ酷い霊媒体質になってしまうようなもので、これが進むと何を撮影しても浮遊霊を引き寄せて、それが写真に影響を及ぼすようになり心霊写真になってしまう。


「で、でも、俺のスマホに送られて来た写真は心霊写真じゃないよっ、なぜか気味悪いけど幽霊は映ってないしさ」


「…そ…それも特徴…ですっ…、…心霊写真じゃなくても……気味の悪い感じがする写真が…撮れちゃうようになります……っ…」


 まともな写真が撮れなくなるという状態になってしまうのも、心霊連鎖写真が発生している者の特徴だ。


 幽霊やオーブが写ってなくても何故か気味悪くて不自然な印象を受ける写真になってしまう。時によっては霊に憑りつかれて怖い思いをしたり不幸な目に遭遇する事もあるが、そこまで危険な事にはならない。


「心霊連鎖写真の体質になっちゃう人は明確には原因とか分かんないんですけどねぇ、良くない場所で写真を撮っちゃったとか、写真に関連した未練とか恨みがある悪霊が映った写真を撮っちゃったとか、そういう感じじゃないかって聞きましたよぉ」


 砂遊はこの現象は一般人ならそんなに重大なモノじゃないとも付け加える。放っておけば長くても1年くらいで治まるし、明確な生活への影響もないのだ。


 灰川家に相談しに来た人は家族写真をよく撮影する人で、心霊写真や気味の悪さがある写真ばかりが撮れるようになり、功の話を誰かから聞いて除霊を頼みに来たとの事だ。


 心霊写真が連鎖してしまう決定的な原因は分からず、結局は運が悪いからという説が霊能者の中では強めの意見だった。


 良くない霊力が感じられたりする写真が撮れる事が多くなった場合は、その影響を受けている可能性が高いそうだ。


「…私は…運が悪かったんだと……思いますっ…、…原因は分かりませんが……こうなる確率は低いはず…ですっ…」


「じゃあキョウヤは長くても1年くらいで元に…それ困るって! 役者が気味悪い写真しか取れないって大問題だ! どうにか出来ませんか灰川さんっ!? アイツはモデル業務もやってるんですよ!」


「モデルもやってんのか…それだと致命的じゃん」


 佐嶋の後輩のキョウヤも悪い繋がりとかもないし、神仏を貶したりするような人物ではなく、普通に役者業などをやりつつアルバイトとかしてる若者だとの事だ。


 仲間と一緒に心霊スポット巡りにでも行ったのかも知れないし、何かの写真を撮った際に悪霊が写って影響を受けるようになったのか予想するが、そんな予想は解決には結びつかない。


「佐嶋君、やっぱ後輩には繋がらない?」


「ダメですね…連絡さえ付けばどうにかなるかも知れないのに…」


「コレを祓うのは本人が居れば簡単なんですけどねぇ」


 心霊連鎖写真体質になってしまった人の祓いは割と楽だそうで、(いさお)が祓いをした時は少し経文を読んだら効果は消えたそうだ。


 会えれば簡単に祓えるが、そうでなければ簡単に解決とは行かないのが厄介だ。


「俳優やモデルが写真で支障が出ると仕事になりませんっ、どうにかなりませんかっ?」


「う~ん、やっぱ連絡が付かないってのがなぁ」


 写真が気味悪くなるモデルや俳優なんて仕事が来る訳がない、佐嶋は後輩を助けたい思いで灰川たちに相談する。


 1年という時間は人生においては長い、夢を追いかける若者の1年という時間は尚更だ。


「一応だけど会えれば何とかなる可能性は高いよ、でも何処に居るかも分からなくて連絡不能で話も聞けないってなると難しい」


「っ…! まあ…そうですよね、もっと早く灰川さんに出会って相談できていれば…」


 前まで佐嶋はオカルトに関心も薄かったし、今だって納得はしていても理解した訳ではない。しかし早く相談できていれば後輩の行方が分からなくなる事は無かったかもしれないと感じる。


「あ~、じゃあ私と朱鷺美ちゃんで少しはどうにか出来るかもですよぉ」


「砂遊と藤枝さんで?」


「うししっ、ちょっとばかし電話を使って悪い霊力の影響を薄めて精神を良い状態にして、後は話を聞いてお兄ちゃんが祓うってことでどうかねぇ~?」


 これと同種の怪奇現象の対処をしたり見た事がある砂遊と藤枝で、電話の呼び出し音に心霊連鎖写真の現象と相性の悪い霊力を乗せ、影響を与えて効果を薄めるという方法だった。


「お兄ちゃんは心霊連鎖写真の祓いをしたこと無いから、今回は私と藤枝さんの方法を見ていておくれ。お兄ちゃんなら、方法さえ思い付いたら出来るだろうけどねぇ」


「…えっ…と…、…この方法はっ……常に使える方法じゃないですが……今回は…、…大丈夫だと…思います…っ」


 2人が言うにはこの方法で影響を及ぼせる効果は弱いらしく、それは灰川のような強い霊力を持った者でも同じらしい。電話を介して行える事は祓える力を送る限界が低いという感じだそうだ。


 砂遊と藤枝で霊力を重ねて呼び出し音に合わせて心霊連鎖写真を作り出す悪霊力と対抗するパワーを送り、佐嶋の後輩に作用させるという方法。


 やり方さえ見てしまえば灰川なら即座に使用できる術だ、そもそも方法を聞いた時に灰川はやり方が頭の中では分かった。しかし念のため砂遊と藤枝に任せ、ここは学ばせてもらうという形にさせてもらう。


 灰川誠治はオカルトにも詳しいし霊術の行使も非常に高いレベルで可能だが、全てを知ってる訳じゃないし、全局面で即座に対処法が浮かぶ訳でもない。


 灰川はこれまで対面での祓いや詳しい話を聞いてからの対処に重きを置いてきた。その方が確実だし、遠隔祓いとかは出来る事が限られるから、そこまで考えを置いて来なかった。


 この対処は方法さえ知ってしまえば確かに灰川でも簡単に出来ただろう、しかし思いつかなければ意味が無い。コロンブスの卵は霊能力界隈にも存在してるのだ。


「じゃあ佐嶋さん、後輩君に電話を掛けて私にスマホを渡してくださいねぇ~」


「わ、分かった砂遊ちゃん、藤枝さん、よろしくね」


 佐嶋は今の会話や説明は半分も理解は出来ていなかったが、とにかく灰川兄妹が言うのなら大丈夫だと信じてスマホを渡す。


 スピーカーモードになったスマホがテーブルの上に置かれ、2人が目を閉じて小さく経文や言霊祓いを唱えていく。


 それを3度ほど繰り返すと、なんと電話に誰かが出たのであった。


「っ!! キョウヤか!? 俺だっ、純輝だ! 無事か!?」


『佐嶋先輩……? 俺…もうダメです……こんな事になってスイマセン…』


「なに言ってんだ! 今どこだ!? お前、悪霊みたいなのに憑りつかれてんだよ!お祓いしてもらうから場所を言え!」


 砂遊と藤枝の遠隔祓いは効果があったらしく、キョウヤは電話に出れる程度には精神が回復した。


 そこから佐嶋がキョウヤは現在、ここから30分程で行ける自宅アパートに居るらしく、4人で佐嶋の車で急遽に向かう事になったのだった。


 佐嶋は後輩のアパートには先日に立ち寄って確認したそうだったのだが、その時は居なかったらしい。


 


 豊島区の住宅地にあるアパートに後輩は住んでおり、佐嶋の乗って来たスポーツカーに乗せられて現地に来た。


 ちなみに佐嶋のスポーツカーはドアが上方向に開くタイプのカッコイイ車だったのだが、灰川は先日に市乃と史菜と一緒に行った手羽先料理の店を思い出したのは言わないでおいたのだった。


「キョウヤっ、俺だ! ドア開けるぞ!」


 アパートは灰川が住んでいる馬路矢場アパートよりは立派だが、かなり安そうなタイプの2階建てアパートだった。ワンルームアパートのようであり、まさしく学生とか夢を目指して頑張る役者やミュージシャン志望が住んでそうな感じである。


 佐嶋が先陣を切って後輩の部屋に乗り込み、灰川たちは呼ばれるまで外で待機する事にした。


「すいません! お願いします灰川さん!お祓い料金は俺が払いますんで!」


「分かったよ佐嶋君、まず中に入っても良い? すぐに祓えると思うからさ」


 灰川たちも室内に入って話が始まる、部屋の主のキョウヤという役者は顔面蒼白で打ちひしがれていた。しばらく食事もまともに摂って無かったのだろう。


 普段は茶髪の明るい青年なのだろうが、今は暗く全てを投げだしたかのような表情だ。髪の毛の根元は黒髪になってるし無精髭まである、これでは役者には見えない。


 佐嶋は灰川たちを素性はボカして紹介した、砂遊がVな事は言えないし灰川が芸能事務所の所長というのも隠しておく。3人の事は知り合いの霊能力がある人という感じにしておいた。


「キョウヤさんでしたね、何があったか話してもらえませんか?」


「はい…実は少し前に心霊写真が撮れてしまい、そこから~~……」


 キョウヤは1か月以上前に1枚の心霊写真らしきモノが撮れてから生活が変わってしまったそうなのだ。




  心霊連鎖写真の被害


 キョウヤは佐嶋とは違う事務所に所属するまだ売れてない役者だ、しかし努力の甲斐あって少しだが仕事はあった。


 劇俳優として端役だがステージに立ち、大きな仕事ではないがモデル業務もしている。


 そんな中で少し前に下っ端役者仲間と新宿で遊んだ時に撮影したスマホの写真に、自分の肩に何者かの半透明な手が乗った写真が撮れたらしいのだ。


 仲間にも見せたのだが『アプリで弄ったんだろ?』『イタズラすんなよ~』と笑われて終わりだったそうで、気味が悪かったので写真は消去した。


 そこから明らかに変な写真が撮れるようになったそうで、居ない筈の何者かの手や足が写った写真、変なモノは写ってないのに気味悪く感じる写真ばかりが撮れるようになる。


 そんな時に限ってモデル仕事が入っており、キョウヤはこんなの気のせいだと自分に言い聞かせて仕事に臨んだ。


 結果は散々であり、カメラマンから『お前もう来なくて良いよ』と言われ打ちひしがれる。


 事務所の宣伝材料の写真を撮影しても、どんなに頑張ってもパっとしない写真になる。演劇の写真を撮っても何か気味悪いものに仕上がる。


 しかも役者のキョウヤは写真映えしないという噂が早くも一部で広まってると聞き、あまりのショックで2日くらい前まで放浪していたとの事だった。




「普通の人だったら大した影響のないことでも、職業とか時と場合によっては大変な事になるってわけか…」


「変な写真しか撮れなくなったら俳優はお終いですよ…時には映像仕事とか舞台仕事より写真仕事は大事になるんですから」


 イベント告知や作品告知の宣伝写真もあれば他にも幾らでもある、役者は写真だって大事な仕事であり、ここでもミスは許されない。


 売れてなくて仕事が少ない役者ともなれば一つの仕事でも大きなものだ、そこで失敗すれば後にも響くし良い噂は立たない。キョウヤは正にソレだ。


「まあ、もう大丈夫だよキョウヤさん。祓い終わりましたんで」


 「「えっ?」」


「うししっ、お兄ちゃん早いなぁ~。何もしないで終わっちゃったよ」


 灰川は話をするキョウヤを霊視しようと霊力を使ったら、既に心霊連鎖写真に関わる悪い霊力が霧散してしまった。


 これ自体は弱い霊力しかない霊能者や、お参りくらいでは祓えない強さはあったのだが、灰川との相性が悪かったのか霊力を行使しただけで祓えてしまったのだ。


 これなら神社や寺でお祓いを受けるとかでも祓えた可能性はあるが、そのためにはお金が必要だ。キョウヤはそんなに金がある役者ではない。


「試しに何枚か撮影してみてよ佐嶋君、大丈夫になってる筈だからさ」


「ほ、本当だ! おいキョウヤ!普通に撮れてるぞ! 不気味な所とかないですよね灰川さん!?」


 佐嶋が写真を撮って確認すると効果は消えており、心霊写真でもなければ気味の悪い写真でもなく、普通の写真になっている。


「ほ、本当ですか…? あんなに酷い写真しか撮れなかったのに……?」


「本当ですよ、この現象は簡単に解決出来ましたから」


 灰川はこうなった原因はキョウヤが撮った最初の心霊写真が発端なのだろうと思うが、原因や心霊写真が連鎖する現象についての詳しい機序などは分からないと説明した。


 しかし祓ったのは本当であり、もし何かあったら佐嶋を通して連絡してくれとも言っておく。


 その後も何枚か写真は撮影したのだが問題はなかった、しかし簡単にキョウヤの不安は拭えない。


 既にモデル仕事で大失敗をしているし、写真映えしない奴とか気味悪い写真になる奴という噂は広まりつつある。そこは変わらないのだ。


「俺…もう終わりかもですよ…、モデル仕事なんて滅多に来ないのに失敗したし、役者仲間にもアイツは才能ないって言われ始めてるの知ってますし…」


「キョウヤ!そんなナーバスになるな! お前ならやれるって!前の演劇の“皿の上の決闘”は出番も多めだったって聞いてるし、客ウケも悪くなかったって聞いたぞ!」


 心霊連鎖写真の影響下にあった期間で受けた精神と経歴のダメージは彼の中では大きい、それは簡単には癒せない類のものだった。


 そのダメージが本気で深いと感じた佐嶋は、ある決断をして電話を掛けた。


「もしもし水谷さん、来週のオールイン出版のラディウスダブルの巻頭モデル仕事、俺の後輩も一緒に出させてくれませんかって打診してもらえませんか?」


「!? 純輝先輩!?」


「絶対に損はさせません! もし許可してくれたらオールイン出版さんの独占インタビューの件を受けますって伝えて下さい! 良い役者モデルの奴が居るんですよ!」


 佐嶋は電話越しにマネージャーの水谷に頭を何度も下げる、その誠意は伝わったのか水谷は頷いたらしい。


 佐嶋純輝は今をときめく若手男性のトップ俳優、仕事は詰まりに詰まっている。今は断らざるを得ない仕事も多いし、彼に依頼したい人は後を絶たない。ネットトラブルという期間でなければ今日だってここに来る時間は取れなかっただろう。


 そんなトップ人気を誇る彼は結構なワガママも通るのだが、そういった事は今まで言わなかった。それもあって水谷と事務所は受け入れ、次のモデル仕事はキョウヤも共に行くという運びになった。この要望は恐らく通るだろう。


「キョウヤ、来週はオールイン出版の女性向け雑誌、ラディウスダブルの巻頭モデルだ! 絶対にスケジュール空けとけよ!」


「先輩…! 俺なんかのためにっ…! ありがとうございます!ありがとうございますっ!!」


「売り込んだ俺に恥かかせないでくれよ? まずは髪を染め直して髭を剃る所からだな」


「はい! 俺、絶対に先輩に恩返ししますんで! ありがとうございました!」


 その後は佐嶋から砂遊と藤枝が協力してくれた事を話し、確かにさっきの電話が掛かって来たら少し楽になって電話に出れたとキョウヤが証言したりもした。


 灰川と砂遊と藤枝もしっかり礼を言われ、キョウヤは完全復活して意欲を取り戻し、放浪していた期間に迷惑を掛けた事務所や仲間に謝罪の電話を入れたりもした。


 事務所はクビかとも思われたが、すぐにキョウヤに有名雑誌の巻頭モデルを佐嶋純輝と一緒にやるという仕事が舞いこみ、最悪の事態は回避されたのである。




「まあ一件落着って事で、後はキョウヤさん次第って感じかね」


「ありがとうございます皆さん、俺も安心出来ましたっ」


「うししっ、でも今後の仕事が上手く行くかどうかは分かんないですよぉ~、そこは運と実力次第ですねぇ」


「…ぇと…がんばって…ほしいです……」


 佐嶋の車に乗って渋谷に戻る道中ではトークタイムになる、キョウヤは悪い奴ではないのだろうが運は無さそうという話にもなった。


「役者なのに心霊写真が連鎖する現象に遭うなんて運がないし、そもそも同年代の俳優に佐嶋純輝が居るんじゃ売れるのも難易度が高くなりそうだよな」


「そだねぇ~、運を掴む嗅覚とかも普通くらいなのかもだけど、良い先輩を持ってるから絶対的に運が悪いってわけじゃないんだろうなぁ~」


 灰川の見立てではキョウヤは運がどうにも向き切らない人だと感じた。


 彼はイケメンだが中学高校では佐嶋と同じ学校だったらしく、女子の注目は完全に佐嶋が独占状態だっただろうと思う。佐嶋が卒業しても佐嶋という理想以上のイケメンを知ってる人が多いため、彼に注目は向き切らなかったと思われる。


 灰川がそう思った理由は、キョウヤには中高生時代にモテてきた男性特有の自信や雰囲気が見られなかったことだ。中高時代にモテた男というのは特有の陽キャ感がある人が多いが、キョウヤはイケメンだというのにソレがなかった。


 キョウヤは役者としてもモデルとしても佐嶋を尊敬しているようだが、同年代に佐嶋という唯一無二のイケメン俳優が居るのも運が無い。しかも大事な時期に心霊連鎖写真、やはり運が悪いと言わざるを得ないだろう。


「運が良かろうと悪かろうと芸能の世界では関係ないんです。自分の武器を見つけて上手く使えるか、運の悪さすら武器にして立ち回るかって、俺は先輩に教えられましたよ」


 佐嶋は先輩俳優に『運が悪い時なんて誰でもあるんだから、それを乗り越えられる武器を見つけて磨けるかどうかだ』と言われた事があったらしい。


 人間なんて1日を過ごす中でも運が良い出来事があったり、悪い出来事があったりするんだから、何年も活動するのだったら必ず運が悪い事だって起こると言われた。


 競争社会の中では運の良し悪しなんて言い訳にならない、芸能という世界では『運の悪いことに負けない何かが必要』だとの事だった。


「俺だって良い出来の仕事もあれば悪い出来の仕事だってあります。でも色んな要因でそれらに負けない力を付けて行かなきゃいけないんです」


「佐嶋君にとってはそれが演技力や人気の高さって感じ?」


「それもありますけど、実際にはもっと多くのファクターがありますよ。事務所の伝手の強さとか」


 首都高を安全運転で走りながら佐嶋は話す、演技力や人気も大事だし当然ながら顔の良さだって大事だけど、事務所の強さも大事なのだと語る。


 強い伝手がなければ事務所は良い仕事は取れない、どう足掻いても努力しても事務所が弱かったら所属者は浮かばない事だって珍しくもないのだそうだ。


 その点でユニティブ興行は新興事務所なのにキー局ドラマの仕事を取っているのだから、強い後ろがあるのは佐嶋は感じている。


 実際にはエイミとリエルの凄さに惚れた上層部のキャスティングだが、まず上層部に演技を見てもらえる伝手があるのが凄い部分だろう。


「俺が所属してる事務所の相田イーストの所長は、総務省の官僚の親戚なんです。学生時代に相当に援助したとかで仲が今でも良くて、俺も会った事があります」


「あ~なるほど、総務省って放送局関連の仕事もやってて、テレビ局の実質的なオカミって感じだもんな」


 テレビ局は放送事故を起こした際は総務省に届け出ねばならず、原因究明や報告を総務大臣に届け出なければならない。


 その他にも総務省はテレビ局の監督や規制や指導などもしており、テレビ局で発生する問題などは総務省にも責任の一端がある場合もあるそうだ。


 それ故に総務省はテレビ業界や芸能界に対して強い力を持ち、売れてる芸能人の後ろには総務省官僚の親戚筋とか関係者という場合もある。もちろんそれは当人に実力がなければ人気は長続きしないだろう。


「最後にモノをいうのは実力だと思うんです、伝手とかなくても大きく売れる人は全然いますし」


「実力も伝手とか人脈も大事ってことなんだろうね、実力だけで売れるには滅茶苦茶な才能と努力が必要だろうしさ」


「そうだと思います、俺は演技が上手いって言われてますが全然まだまだって自覚がありますしね」


 佐嶋は自身に溺れる事無く活動する実直なストロングスタイルなのだ、才能も努力を重ねる根性も運の良さもあり、今の時代の芸能界のトップを生きている。


 世話になった事務所に所属し続けて大きなワガママも言わず、仁義とか人情がある人物なのだろうと灰川は感じた。


 しかし佐嶋にも悩みはあるらしく、それは演技に関する事だった。


「俺の先輩というか、特に昔の時代に俳優経験がある人は演技力の底が違う気がするんですよね」 


「それは俺も思うな、昔って今みたくCGとか使えない撮影が多かったっていうし、過酷さが違うって何かで聞いた覚えがあるよ。そういうのが違いを生んでるのかね」


「俺もそう思う所があるんです、危険が多かった現場だからこそ掴めた演技とかもあるんじゃないかって。もちろん危険であれば良いなんて事はないですけど」


 昔の撮影は作品によっては現代とは比べ物にならないくらい危険で過酷な撮影もあったらしく、そういった経験が昔の俳優の演技の底深さを形成していったのかもしれないと佐嶋は語った。


 俳優だから先輩たちから色んな話を聞く機会があり、中にはにわかには信じられない話もあったそうだ。


 危険な場所で激しい格闘をする場面の撮影とか、雪山で撮影待ちしてたら寒すぎて本当に体が動かなくなった俳優の話だとか、色々あるらしい。


 そういう経験をしてきていない自分では昔の俳優ほど凄い演技は出来るようにならないのでは、そういう不安もある。


 今はコンプライアンスも強く、危険だったり過激な撮影はやりにくい。その時勢では本当に凄い経験をした人達のような、体験を伴ったことから来る迫真の演技は掴めないと考えてる。


「だったら今の時代で掴める迫真を考えないとだな、現代だって凄い芝居をする役者は居るんだし」


「それも分かって色々試したりもしたんですけど、簡単じゃないんですよね。何か良い方法とかありませんか?」


「う~ん、じゃあ色んな人の話を聞くとか、自分の知らない世界に飛び込んでみるとか~…」


 そんな話をしてる時に砂遊が後部座席から話し掛けて来た。


「お兄ちゃん、夕方まではどうすんのかねぇ? 中途半端にヒマな時間が出来ちゃったぞ」


「…あの……会場は今の服装で良いんでしょうか…っ? …うぅ…」


 その瞬間、徐々に緊張感が解けて来た佐嶋から、真面目に後輩を心配するモードが完全に抜ける。実際にキョウヤはもう心配ないのだから問題ない。


 ルームミラーには砂遊と藤枝が映っており、実は今までも心の中で『砂遊ちゃんカワイイな~!!』とか思ってはいた。


 しかし……砂遊が可愛いという気持ちはそのままに、その横に座る藤枝という子にも目が行く。


 藤枝さんという子も凄い可愛い!、黒髪のロングヘアで服装も地味、前髪で目を隠してるくらい人見知りで、完全に陰キャ女子。


 その姿、声と雰囲気は砂遊とは違った感じの陰キャ女子だ。だけど凄く佐嶋の好みのタイプの陰キャ女子、砂遊と同じくいつまでも見ていたい気持ちになる程の陰キャ女子だった。


 佐嶋にとって奇跡のような可愛さを持つ2人が後部座席にいる、その事に気が付いた。今までは真面目モードだったから気付かなかったが、藤枝という子も凄く可愛い!


 キモい系陰キャ女子だけど凄く可愛い砂遊ちゃん!、暗くて人見知り過ぎる系陰キャ女子の藤枝さん!、どっちもドストライクだ!と佐嶋の本能が告げていた。


「あの、そういえば藤枝さんはユニティブ興行さんのVtuberさんなの? 俺は手風クーチェさんと詞矢運モシィちゃんしか居ないと思ってたんだけど」


「いや、藤枝さんは事務作業バイトとして入ってくれてるんだよ。分かってると思うけど霊能者だとか、そういう情報は他言しないようにね」


「あ、そうなんですね。朱鷺美さんって砂遊さんが呼んでたけど、名前は朱鷺美さんなの?」


「…ぇ……あ…、…はい…」


「俺は佐嶋純輝っていって、俳優をやってるんだ。よろしくね、さっきは後輩を助けてくれてありがとう、もし良かったら~~……」


 佐嶋が突然にペラペラと藤枝に喋りかけるが、なんで今更に自分に喋りかけて来るのか分からない藤枝は困惑している。


 佐嶋は凄いイケメン俳優ではあるのだが藤枝はそこまで佐嶋の事を知らない、テレビで見た事あるくらいの認識しかないのだ。


「佐嶋君、ウチの事務所の人を口説くとか絶対に止めてよ? 普通に問題になるからね」


「そ、そんな事しませんって! 俺はただ挨拶をって思っただけですよ!」


 灰川は佐嶋が藤枝にも興味を持った事に気が付いた、男は本当に好意を持った異性の前ではキモくなるもので、その片鱗が見えている。


 佐嶋の陰キャ女子好きを灰川は知っている、藤枝に興味を持つかもしれないと以前に思った予感は的中してしまったようだ。


 さっきはオカルト業務だったから思考がそっちには無く、今になって灰川は気が付いた。藤枝も来させてしまったのは失敗だったかも知れない。


「な、なんかユニティブ興行さんって、凄い逸材が揃ってる事務所なんですね。エイミちゃんとリエルちゃんもだし」


「逸材ってあのねぇ…まあ霊能の逸材は揃ってるけどね」


 佐嶋には砂遊と藤枝が奇跡の可愛さを持った2人に見えて仕方ない、もし2人がアイドルとかでデビューしたなら何が何でも追っかけになる自信がある。


 もちろんそんな事はあり得ない、砂遊はVtuberはやってるが実写活動をするタイプではないし、藤枝は芸能活動もネット活動もするタイプじゃないのは明らかだ。


 そういう人物に出会える事は佐嶋は少ない、自己主張が強いタイプじゃないから目立たないし、佐嶋のような人気者には近づいて来ないタイプだ。


 自分の理想を体現したかのような2人がユニティブ興行に属している、しかも2人は所長である灰川の個人的な繋がりが強くて属している感じである。


 ユニティブ興行とは仲良くしたい、それも事務所単位で絆を深めて行きたいと佐嶋は思う。


 この2人と付き合いたいとかそういう事ではなく、心の推しとなった砂遊と藤枝という子を少しでも見ていたいという気持ちだ。でも本音を言えば付き合いたいなぁ~とか思う心だってあるけど、それはダメと芸能人としてのブレーキを心で掛けるのだった。


「パーティーはフォレストガーデン・渋谷のイベントスペース貸し切り会場でやるんだよねぇ~? メシ食ったらさっさと帰りたいなぁ~」


「あんま早く帰らないでくれよ…少しは2社の人達と交流してくれよな」


「…あの……私は、その……交流とかが苦手で…」


 夕方からは3社の親睦パーティーであり半端な時間のため、そのまま佐嶋に車で会場まで送ってもらう事にした。ついでに事務所に寄ってアリエルも拾っていく事になる。


 フォレストガーデン・渋谷は以前にVフェスを開催した場所であり、パーティー会場などとしても利用可能な場所である。


 そこでもまた色々とあるのだが、まだ灰川たちはそんな事は知らないのであった。


寒すぎでしょうに……

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