339話 トラブルがあっても気持ちと予定は変わらない
灰川は蔵立百貨店・渋谷のプライベートサロンルームで、普段はあまり感じない類の緊張に晒されていた。
「灰川さん、こういうのって私に似合うと思うかな? ふふっ」
「お、おう、ブルー系統は空羽に似合うと思うぞっ」
「灰川さん~、私ってどんな色が似合うのかな~? 教えて欲しいな~」
「さ、桜はピンク系統の色が似合うと思うぞっ、薄い色のとかさっ」
「誠治! 私はこの黒のインナーのデザインが良いと思うけど、どう思うかしらっ?」
「由奈に黒はまだ早いんじゃ~…い、いやっ、これは普通の服なんだから、早いとかはないのかっ」
ノンギルティインナーは普通の服の部類には入る、実際に本家の下着と比べれば面積は広いし、これなら下着のチラ見えを防ぐのに適した衣服だと言えるだろう。
しかし、やはりと言うか面積は普通の衣服と比べれば格段に小さく、インナーとアウターの中間、それもインナー寄りのグレーゾーンな物も多いように見える。
体にフィットするタイプの衣服なので、これを見ただけでそれぞれのスタイルや体のラインがイメージ出来てしまう。灰川はなるべくイメージしないようにしているが、どうしても頭の中にイメージが湧いてしまうのだ。
「どうしたの灰川さん? これは本当のインナーじゃないんだから、普通に選んでも大丈夫なんだよ? ふふっ」
「そ、そうだよなっ! で、でも良く出来てるなコレって、はははっ…」
「むふふ~、由奈ちゃんのインナーも手触りが良いんだね~」
「桜ちゃんに合う物は柔らかさが強いのねっ、私のはサラっとした手触りの物が多いわ!」
サロンルームにはコンシェルジュは居ない、こういうレベルのサービスになれば万引きが発生するとかの危険は想定されないのだ。自分たちだけしか居ないという状況が緊張を引き立ててしまう。
他に誰も居ない、それは灰川だけでなく3人の精神にも普段とは違った効果を及ぼしている。密室で面積の少ないタイプの衣服を選ぶという行為は、精神的な大胆さも普段より強めているのだ。
「灰川さん、こっちはどう? 灰川さんってホワイト系も好きだよね? 来苑の制服が可愛いって言ってたもんね、ふふっ」
「い、いやっ、空羽の制服だって可愛いからなっ、でも空羽にも白って似合いそうだよなっ、はははっ…」
「ありがとう灰川さん、好きな人からそう言ってもらえると凄く嬉しいかな、ふふっ」
空羽の声と笑顔に灰川の精神はくすぐられる、少し際どい服を手に取りながら明るい笑顔と普段と変わらない綺麗な声で選ぶ、そんな普段とは違った状況が何とも心に来る。
しかも“好きな人”と普通に言われてしまい、それもあって灰川は自分の心臓の脈動が強くなったのを感じた。
空羽が持つ品にも目は行ってしまう、窮屈さのないフィット感が強めの品だ。大きいとは言えず、普通くらいに見えるサイズである。
その視覚情報から与えられるイメージが、どうしても想像を掻き立ててしまう。
こういう事で大人の男は精神を乱されたりしないなんていうのが一般論だが、それは時と場合にだってよるのだ。仮にこれが一般店舗の商品売り場であった場合ならば、心は乱されない自信が灰川にはあるが今は状況が違う。
「灰川さん~、これって色はライトピンクって点字タグに書いてあるけど~、私に似合うかな~?」
「似合うと思うぞっ、デザインも落ち着いた感じだしなっ、はは…」
「そっか~、じゃあコレにするね~、灰川さんが似合うって言ってくれた物が一番だしね~」
桜は普段と変わらぬ感じではあるのだが、本人は知ってか知らずか、本能的に心の何処かで緊張しているのか、少しだけ瞼が開いて目が見えた。
桜の目は先天的に色素が薄いらしく名前の通りに桜色だ。例えようのない綺麗な色で、引き込まれそうになると灰川は思ってしまう程だ。
桜の選んでいる品にも目が行ってしまう、大きいサイズであり、温かな色合いのノンギルインナーの見た目と相まってイメージが進んでしまう。
灰川は介助の際にたまに桜の柔らかな温かい部分が腕に当たる事があり、普段は気にしないその時の記憶が脳裏に浮かんでしまうのだ。
普通なら絶対に異性とはしないような買い物や会話を皆としている、その現実がどうにも精神をくすぐってくる。
「誠治!こっちはどうかしらっ? 白の無地も誠治は好きそうよねっ、初めてのブラも白だから色が透ける心配も無さそうだわ!」
「そ、そうだなっ…、そういうのも大事だろうからなっ」
「ふふんっ、もちろんよっ! ちゃんとママにも電話して、初めてのインナーはどういうのが良いか聞いたわ!」
由奈はいつもと変わらぬ明るく騒がしい感じだ、それが何とも可愛らしいし微笑ましい。けれど話してる内容は普段のソレじゃない、それが焦りにも似た感情を増幅させる。
由奈は灰川に対して好意を隠そうともしない、面と向かって普通に好意を示して来る。所詮は子供の抱く感情と最初は思っていたし、今もその気持ちは捨てないよう灰川は心掛けている。
身長も小さく小学生並みの体格、性格だって騒がしい子供みたいな部分が多い子だ。とても可愛くはあるが灰川の好みとは違う筈だった、しかしこんなにも好意を示され続ければ心だって少しは変わるというものだ。
そして何気に、由奈の母である貴子の援護射撃が灰川に少しづつ効果を及ぼしている。今は灰川の中で由奈への見方が以前とは変わってしまっている。
由奈の選んでるノンギルインナーはサイズが小さい、凹凸なんてほとんどないのが見て分かる。そこ自体には変な気持ちこそ湧かないが、今までの影響なのか由奈の可愛さも最初の時より強く見えており、以前には無かった緊張感があるのだ。
その後は皆で一通りに選んで試着もしてから購入し、少しの間だけルーム内で休ませてもらう事になったのだった。
料金はサロンルーム利用料と合わせてそこそこの値段になってしまったのだが、灰川のもらった商品券の金額で足りたのだった。持っていた商品券の金額は灰川が思っていた額より一桁多かったらしく、実は結構な金額だったと、皆に隠れて驚いたなんて事もあったりしたのだ。
サロンルーム内には試着室もあり、もちろん灰川は皆の着替えを見たりなどはしていない。
「灰川さん、本当に良いの? 買ってもらっちゃって」
「おう、もちろんだぞ。どうせ使い道のない商品券だったしなっ」
「ありがとう灰川さん~、大切に使わせてもらうね~」
「誠治、ありがとうっ! 大事に着させてもらうわねっ!わははっ!」
皆からしっかりとお礼を言われ、灰川としても普段のような心持ちに戻る事が出来た。
サロンルーム内の商品は既に片付けられ、今は落ち着いて過ごせる空間に戻っている。インナーが目に入らなければ気を取られる事もない。
「そうだ、灰川さんって今週の日曜日は暇だよね? 皆から灰川さんに話したい事があるんだけど良いかな?」
「日曜? まあ俺は大丈夫だけど、皆って市乃たちもって事だよな? スケジュールとか大丈夫なの?」
「今週は大丈夫だって言ってた~、だから灰川さんは気にしなくて良いんだよ~」
「史菜先輩も来苑先輩も、アリエルもOKって言ってたわ!」
いきなり今週末の予定が入るが、灰川としては嫌な気持ちとかは全く無い。皆で居るのは楽しいし、予定もないのだから問題ナシだ。
しかし今回の空羽たちのお誘いは灰川が思ってるような、いつものお出掛けのお誘いとは違うものだ。その事にはまだ灰川は気が付いていない。
「あと灰川さん、私たちの気持ちって、もうとっくに知ってくれてるよね? ふふっ」
「えっ、それって…ま、まあ…なんだ…っ」
「ちゃんと言った方が良いよね。私も含めて皆、灰川さんが真剣に好きだって気持ちのこと」
「っ……!」
今まで好意を示されて来た事はあったし、異性として好きだとかも言われはした。しかし何だか今までと少し違った何かを感じる、言葉にも“真剣に”という一文が付いていた。
「今週の日曜日にね、皆から灰川さんに、その気持ちを伝えようって決めたんだ。だから灰川さんもしっかり真剣に考えて欲しいの」
「えっとね~…私も日曜日に灰川さんに伝えるよ~…、だから、その時はお返事しっかり欲しいなって…って~」
「わ、私も日曜日にっ、誠治に大好きだからっ、お付き合いして欲しいって言うつもりよっ!わ、わははっ!」
「ちょっ、由奈ちゃん!? 全部言っちゃってる!」
緊張により由奈がまさかのフライングをしてしまったが、むしろ灰川のような感性の人には事前にハッキリ言っておいた方が良いかも、という事で空羽と桜の中でも落ち着いたのだった。
灰川としても由奈が口に出さずとも流石に勘づいてはおり、どうすべきかを心の中で考えてしまう。
大人としては彼女たちと付き合うのは問題がある気がする、そもそも皆は仕事の付き合いという側面も今はあり、しかも特殊な業種での仲間である。そういった関係性の人と今以上に親密になるのはどうなのか。
皆は多くのファンを抱える身であり、何かがあった時は人気に直結する場合も多い。それらの問題は無視はできない。
そして何より問題がある、これだと複数から告白されるという事態になる可能性が、ほぼ100%だ。
もし誰か1人を選んでしまったら彼女たちの関係性にも変化が出る可能性がある。そもそも誰かを選んだら他の者達は多かれ少なかれ傷付くだろう。
灰川は内心で後悔していた、ここまでそういった事を深く考えなかった、というか深く考えないようにしていたのだ。その内に目が覚めるだろうと軽く考えるようにしてたが、そのツケが今になって回って来た。
「そ、そのだな…俺は…」
「年齢差とか立場とか、私たちがネット活動者だとかは気にしなくて良いからね。これは私たちが灰川さんなら大丈夫だって考えた末の結果なんだから」
「それとね~、言いふらしたりする人はグループに居ないから、そういう部分は大丈夫だよ~」
「誠治とだったら何もかも上手く行くって分かるわ! それに年の差は本当に考えないでほしいわねっ、そうじゃないと公平じゃないものっ」
皆は物事などを考える力が高い、だからこそ今のような立場になれた。
自由鷹ナツハというキャラクター、染谷川小路というキャラクター、破幡木ツバサというキャラクターとしてVtuber活動をしている身だ。
しかしそれらはあくまでキャラクターであり、本人の全てという訳ではない。彼女たちには感情もあれば気持ちもある、れっきとした人間だ。
人を好きにもなるし嫌いにもなる、人気の活動者であっても中身は人間だ。そうなれば人並に異性に対する感情だって持ち合わせて当然であり、それを完璧にコントロールして生きる事は出来ない。
灰川は色々と考える、しかし決定的な答えなど出るはずもない。
「あとね、灰川さんの気持ちは私たちは尊重するよ。どんな答えになっても受け入れるつもりだからね」
「うん~、どんなお返事が来ても受け入れるし、灰川さんなら皆が納得してくれる答えを出してくれるって思ってるよ~」
「誠治なら私たち全員が納得する答えを出してくれるわ! だって誠治だものねっ!」
そこにはどんな答えを出せば良いかのヒントがあったが、灰川は心の中では動揺しており深く聞いてなかった。
どうすれば良い、あと数日で日曜日が来てしまう、それまでに答えを出さなければという思いが強くなる。
もし誰かと付き合ったとしてもスッパ抜かれる可能性は低い、今の自分なら対処する伝手もあると灰川は思っている。付き合った人に被害が及ぶ可能性は低いだろう。
年齢差が一番ないのは空羽だ、しかし格段の人気を誇る空羽と自分のような凡人が付き合って良い物か。空羽のような才覚ある人物に、自分という存在はノイズなのではないか。
桜が俺を好きなのは介助などで芽生えた感謝の気持ちを勘違いしてるからじゃないのか、そうでなくとも人気度の高い桜と付き合うなど、彼女に影響を与えてしまわないのか。
由奈は確かに可愛いが中学2年生、しかも身長や体格は小学生と変わらないレベルだ。しかし由奈は本気に見えるし、年齢がどうとか言っても納得しない気がする。
ここには居ない市乃たちにも似たような事を思うが、日曜日は必ず来てしまう。それまでにどんな返答であれ用意しておかなければならないだろう。
「と、とりあえずだなっ…、まあ一応は皆で落ち着いて、よく考え~~…」
プルルルルッッ!!
「「わぁ~~!」」
その場しのぎの誤魔化しの言葉で今はお茶を濁そうと思った時だった、全員のスマホに着信音が響いたのだった。
こんな空気感の中で一斉に鳴ったものだから、全員が驚いて今までの空気が吹き飛ぶ。
「はい、もしもし、ええっ!? youre-tubeとかTwittoerXが不具合で使えないっ? 何かあったんですかっ?」
「もしもし~、tika tokaもtowitvhも接続障害ですか~? そんな~」
「Instar gramも今週は使えないんですかっ! 嘘よね木島さんっ!?」
「砂遊か、えっ!? ネット終了のお知らせ!? マジかよっっ!」
ネットでは今、大騒ぎになる事態が発生しており、かなりの騒動としてネットニュースが飛び交っている状況だった。
少し前の時間、ハッピーリレーのVtuberである三ツ橋エリスと北川ミナミはコラボ配信をしていた。
「あ!ミナミ、そっちに敵行ったからお願い! あーもう!仕留められなかったー!」
「もう倒しちゃいましたよエリスちゃん、他の敵プレイヤーも撃破しておきましたから、ふふっ」
コメント:ミナミちゃん腕前スゲェwww
コメント:エリスちゃんFPSのミスは多めw
コメント:ミナミちゃんのテク上がり過ぎじゃね!?
コメント:ランクも上がってるな~
コメント:2人とも裏でゲーム練習してるって言ってるしね
配信内容は人気のFPSをプレイするという、Vtuberにはありがちな事をやっていた。
ありがちだからこそ見に来る人は多いし、今日も軽快にトークしながら配信をしている。
今日も同時視聴者は2万人を超えてるし、人気も収益も上々の配信という手応えだ。
エリスは今の視聴者登録数は108万人、ミナミは92万人と前よりも伸びて行ってる。
「あぁ~!! またスナイパーじゃんー!当てられたぁ!! 私に当てんなー!いきなり捻挫しろー!」
「スナイパーは片付きましたよエリスちゃん、あとは隠れてる敵を少しづつ追い詰めて、一気に落としちゃいましょうっ」
コメント:安定してるね、上手い!
コメント:捻挫ってw
コメント:相手の捻挫を願うなwww
コメント:ミナミちゃんの声が落ち着く!
コメント:そろそろランクマは混み合
「よっし!勝った! これで私もランクが~…あれ?」
「ふぅ、エリスちゃんとゲームやるの、やっぱり楽しいですね~…えっ、これって何でしょうか?」
配信中だった2人が異変を感じて、普段の配信ではあまり出さない感じの声になる。本気で何らかの事が発生してしまった時の声だ。
「なにこれっ!? your-tube動いてない!? 接続できませんって表示になっちゃった!」
『もしもし、エリスちゃん!? なんだかyour-tubeとか他のサイトにも大規模トラブル発生中だそうです!』
今日は2人はネットコラボであり同じ部屋には居ない、音声のやり取りはアプリを使っていた。
市乃も慌ててネットを確認すると、様々なサイトで大きな不具合が発生したとの情報が流れている。
「ちょっ、your-tubeもTwittoerXもダメじゃん! 私らが使ってるサイトがほとんど落ちてる!?」
『はい、まだ正式なニュースにもなってないので、復旧がどうなるかは分からないけど…』
「とにかくハピレに電話しなきゃ! なんで配信中にこんな事になるのー!」
『私も電話してみますっ、こんな経験は初めてですからっ』
そうこうしてる内にインターネット運営会社から声明が発表され、このトラブルは幾つかの国と地域で発生してるらしいとネットニュースで発信される。
このトラブルの原因はインターネットの根幹にも深く関わる海外の巨大IT企業のプログラムミスが原因という事が分かった。
復旧には最低でも今週末までは掛かるとの事で、各所で騒ぎとなっている。様々なサイトが使用不能となり、大規模接続障害と言うに相応しい状況となってしまう。
しかし同時にトラブル元の巨大IT企業からはリカバリー可能という声明が出されており、復旧は必ず出来るが時間は要するとも発表された。
そして運の悪い事に、トラブルが発生した時にyour-tube運営がサイトの小規模な管理作業をしていたのだが、その際に使用していた特殊なアプリケーションがトラブル原因のプログラムと干渉してしまい、リカバリーの複雑化を招いてしまったそうなのだ。
your-tubeは他のサイトより復旧が数日くらい遅れる可能性があるが、こちらもサイトプログラムなどが破壊された訳ではないため、復旧は問題なく出来ると声明が出された。
「インターネット障害が発生したみたいだけど、復旧は出来るって。驚いたけど安心したね」
「うん~、マネージャーさんから電話来た~、日本も接続障害の国に入っちゃってるんだってね~」
「色んなサイトがダウンしたそうねっ、でも直るみたいだから安心だわ!わははっ!」
少なくとも今週の日曜までは各種のサイトがダウンし、その他のインターネットサービスも制限が強くなるという状況になってしまった。
これでは配信者やVtuberは実質的にネット活動は出来ず、動きは非常に大きく制限される。むしろ活動はほぼ出来ないと言っても過言じゃないだろう。
「こりゃ事務所に戻ってスケジュール調整とかしないとだなぁ…調整したスケジュールを伝えないとだし」
「私と桜ちゃんも渋谷に居るなら事務所に一旦来て欲しいって言われちゃった、スケジュール調整が入るみたいだから」
「びっくりだね~、こんな事ってあるんだ~」
「もし復旧できなくてVtuberが出来なくなっちゃったら、その時は日本一の介護ヘルパーさんになってやるわ! わははっ!」
突然のニュースにより皆で驚いてしまったが、復旧は可能という事で落ち着く事は出来たのだった。
皆は予定の変更や配信キャンセルが確実となり、灰川もこれに伴って調整仕事をする事が余儀なくされてしまう。
ユニティブ興行は現状の所属者は4人しか居ないし、調整に時間は掛からないだろう。佳那美とアリエルも人気が出始めているとはいえ、子供だからハードスケジュールが組まれていた訳でもない。
「とりあえず今から緊急仕事だなぁ、うあぁ~、面倒だ!」
「こうなると空き時間とか何日かくらい増えるかもだね、まだどうなるか分かんないけど」
「私も出版社から仕事内容の変更があるかもって電話が来たみたいだよ~、締め切り延長だったら良いな~」
「私はユエシー先輩とのコラボ配信の予定が持ち越しになるって聞かされたわっ、早くyour-tubeとかが元通りになると良いわね!」
そこからは蔵立百貨店のコンシェルジュに頼んでタクシーを呼んでもらい、皆でそれぞれの事務所に向かおうという事になったのだった。
ここから1週間ほど大幅な予定変更をする事を余儀なくされた、それは3社に限らず様々な配信企業やメディア関係企業も同じ事だろう。
「灰川さん、日曜日のこと忘れてないよね?」
「えっ、そりゃもちろん忘れてないけど、こんな状況になってるけど良いのか?」
「もちろん大丈夫よ! 私が誠治を好きな気持ちは変わらないものっ、わははっ!」
「一度決めたことだからね~、ちゃんとやりきるよ~」
大きなトラブルは発生したが、悲観的になったり過剰に不安になったりする事なく、日曜日に皆から大事なことを伝えられるというスケジュールだけは変わらない事となる。
トラブルに対処しつつ日曜に備える、恐らく仕事の方は大した事はないだろうが、日曜に向けてどう心を整えれば良いかは迷う事になるだろう。
「灰川さん、日曜日に皆から何を伝えられるか分かっちゃってるかもしれないけど、しっかり皆の話を聞いてくれると嬉しいかな」
「え…えっとね~…、そういうことを誰かにちゃんと伝えるのって初めてだから~…、上手く言えなかったりしたらゴメンだよ~…」
「ふふんっ、今度の日曜日が楽しみねっ! 誠治に私の好きって気持ち、全部伝えちゃうわ! でも、ちょっぴり緊張しちゃうわねっ…!」
トラブル発生中ではあるが、皆は日曜の午後だけは絶対に空けておこうという事で話が一致したようだ。仕事などは先に済ませたり後に回せるものは後にするという対処を組むという。
活動に真面目な皆がそうするほどに、その予定は大事だということが灰川にも伝わる。
それほどの意気を示されたのなら、こんな状況でもそれを優先するというのなら、いい加減な返事などは絶対に出来ない。
灰川はここに来て皆の気持ちに真正面から向き合う事になったのだった。
流石にそろそろ少しは話を動かそうと思います。




