334話 人気俳優の安全度を探る
灰川は佳那美とアリエルをnew Age stardomの撮影スタジオに行かせ、予定通りに見学して撮影の雰囲気や立ち回りを見る事になった。
今は佐嶋の楽屋に灰川は来ており、3人での話し合いになっている。
「とりあえずですけど、今日の所は佐嶋さんのマッサージを請け負います。後の事はもう少ししてから考えさせて下さい」
「分かりました、ありがとうございます…」
「可能であればスランプ治療プロの人が教えてもらえれば良かったんですが…誰だか分からないのでは、どうしようもないですね…」
水谷は今も灰川の見た治療法を使う人物を知りたがっているが、その人物は海外の人で連絡先も知らず、調べようがないと言って諦めさせた。
灰川はnew Age stardomの打ち合わせの予定が入っており、ずっとここに居る訳にもいかない。
「佐嶋さんの施術は撮影の合間に抜けて来てもらって、その間にマッサージするって事にしましょう」
「はい、ではそのようにお願いしますっ! どうにかして早く治さなければっ…!」
まずは目先の撮影の対処が最優先だ、時間もないから後の事は切り離して考える他にない。
「佐嶋さんにマッサージして効果がある時間は施術後15分くらいみたいですね、今日って1度に15分以上撮影する部分ってありますか?」
「いえ、今日はありません。撮影順も変更してもらって施術の時間を作ってもらいます。ですが先々の仕事では純輝は長時間撮影なども…」
「もし今日で治らなかったら…急病って言って休むか、下手をすればキャンセルなんて事も…そうなれば違約金が発生する可能性だってっ…」
芸能仕事では不備があって仕事がキャンセルとなった場合、多額の違約金が発生する事もある。それは事務所が払ったり本人が払ったりなどの場合があるようだ。
現状の佐嶋の演技では少なくともゲームのプロと呼ばれたい!のドラマ仕事は無理だろう、今回のようなスランプの場合は違約金が発生するケースは少ないそうだが、それだって可能性はゼロじゃない。
さっきみたいな演技しか出来なくなったら、もう役者としてはやっていけない。それは今までの努力や積み上げてきた物を全て失うという意味になる。
「あの…失礼を承知で聞きたいのですが、本当にプロの人の所在は分からないんでしょうか…? 以前に仕事した人も1人も分からず連絡も付かないというのは…」
「本当に分からないんです、当時の自分はバイトみたいなものでしたし、その時の会社は今は無くなってまして」
水谷は灰川にアレコレと聞いて来るが、灰川はのらりくらりと躱して知らぬ存ぜぬを通そうとする。
灰川の施術の効果は目で見ているから信じており、佐嶋も水谷もそこは疑っていない。しかしビジネスの世界は嘘同然のグレーな騙し合いの世界だ、施術の効果以外の部分で疑っている部分があった。
「単刀直入にお聞きします、いくらお支払いすれば教えてもらえますか? もしくは何か望みがあれば可能な限りお応えします」
「水谷さんっ…すいませんっ、そんなこと言わせちまってっ…!」
水谷は灰川が何かを隠している事くらいは勘付いていた、彼はプロマネージャーであり、そういう事には勘が働く。そういう勘が働かなければ、駆け引きが出来なければ売れっ子芸能人のマネージャーはやって行けないのかも知れない。
しかし何を隠してるかまでは分からない、そういう場合に手っ取り早い方法は金、もしくは要求を聞くという姿勢を見せることだ。
水谷はユニティブ興行の所長が隠してる事はスランプ治療のプロの所在だと当たりを付け、まずはそこに絞って話を切り出した。
実原エイミと織音リエルが居る前では裏の金の話とかは出来ない、今の状況だからこそ切り出せた話だ。
「ですから連絡先とか分からないんですよっ、お金でどうこう出来る問題じゃないんですって!」
「既に当事務所、相田イースト芸能と連絡を取って、どうにか聞き出せと言われてます。あまりに法外な値段は難しいですが、30万円ほどならすぐにでも」
「例え何億円もらっても無理なもんは無理なんですって! 何度も言いますけど金の問題じゃないんですよぉ!」
幾ら積まれようが、どれだけの要求が通ろうが無理な物は無理だ。役者のスランプ治療のマッサージ師なんて実際には居ない。
「…分かりました、ではどうしたら我々を信用して頂けますか? 時間が無いため不躾な聞き方になってしまい、申し訳ございません」
「っ…、いや、だからっ…!」
金を払うと言ってもダメ、要求を飲むと言ってもダメ、なのに何らかの隠し事はしている可能性が高い。
ユニティブ興行の所長はスーツを着てるが安物だ、腕時計もしてるが安物、風貌も雰囲気も金持ちのソレではないし、水谷はユニティブ興行の所長は富裕層でないのを見抜いていた。
それなのにOBTテレビの会長と社長とは懇意のようだし、凄い才能を持った所属者を2人も抱えてるのを見た。なんとも不思議なタイプの人間だと感じている。
金がないなら金に釣られるだろう、人気俳優の佐嶋の名声を利用したいなら何らかの要求をして来るだろう、そのように考えてエサを撒いて情報を引き出そうとしたのだ。
しかし彼は釣れず、隠してるであろう何らかの情報は喋らなかった。
「すいませんが水谷さん、駆け引きで情報を引き出そうとするのは止めて下さい。俺だって流石にそのくらいは分かります」
「灰川所長…相田イーストは後がないんですよっ…! 佐嶋の才能を失ったらお終いなんですっ…このドラマがコケても同じなんですよっ…!」
どうやら佐嶋たちも何やら事情があるらしく、人気俳優を抱えてる事務所らしからぬ危機感がある声で水谷マネージャーは焦る。
「水谷さん!もう良い! お願いです灰川さん!どうにか今日だけでも俺を普通に演技させて下さい! 謝礼はします!お願いします!」
佐嶋は遂に居ても立っても居られず椅子から立って深く頭を下げた。もはや後がないという切羽詰まった顔であり、これは演技には見えなかった。
どんな人にも事情はある、仕事の事情、経済の事情、感情やプライドの問題、それらを全て他人に話すのは難しい。ましてや会ったばかりの者にあらゆる事情を話せる人などそうは居ない。
彼らは芸能人、噂は一発で各所に広まる業界の人間だ。簡単にアレコレ話したり出来ないし、灰川としても彼らが口が堅いかどうか分からないから迂闊に真実を話せない。
灰川は渡辺社長と花田社長に、俳優の佐嶋純輝のトラブル解決に関わると電話で言っており、そこに関しては問題はなかった。
関わるのはユニティブ興行なのだし、もし何かあったとしても佐嶋ほどの知名度がある者なら何とでも取り繕う余地はあるそうだ。
「佐嶋さん、水谷さん…まず、少し話をしませんか? 何と言うか、多少なりとも互いを知らないと話もしづらい部分があるでしょうし」
「「……!!」」
この提案は灰川からの譲歩だ、ここで信頼関係が少しでも築けて口が堅いと感じたなら、完全解決に向けて動き出す事が出来る。
どの道にこのドラマ仕事以外でヘマを連発されたなら、そっちで精神を崩して通常の演技にも支障が出るだろうし、佐嶋の名前や業界評判も落ちるに決まってる。
そうなられては困る、そうならないように対処しなければならない。エイミとリエルの初ドラマ仕事にケチが付くなど嫌なのだ。
こうして急遽に撮影の合間時間を縫って、互いの事などを話して信頼に足るか否かを判断する事となる。
灰川はなるべく人の助けになりたいと考えてはいるが、ここは軽い油断や口滑りが何に繋がるか分からない世界だ。簡単に人を完全信用する事は許されない業界なのだ。
このドラマは四楓院の息も掛かってるが、信用できる人ばかりが集められてるかは怪しい。new Age stardomとはスタッフも演者も全く違う。
ここに来て灰川は以前に富川Pから言われた『人を見る目を養いなさい』という言葉の重要性に気付いたのだった。
まずは撮影の休憩時間に話をして自分で判断する、その後で富川に秘密相談をして佐嶋が信頼に足る人物かを聞く事にしようと考えた。
現時点での灰川の佐嶋への評価は『信用できない』だ、これは先程に0番スタジオで富川から聞いた佐嶋のゴシップ情報に由来する。佐嶋は俳優業で忙しい身だが、同時に夜の街でけっこう遊んでるそうなのだ。
港区で実業家や芸能人が集うパーティーに顔を出し、個室バーやタワーマンション上層階などに集って綺麗な女性たちと遊んでる。
その話はあまり表立って広まってないし、スキャンダルという程のものでもない。
しかし、そういう場所に出入りしてる人物だと、何かの弾みで何処かの社長とか芸能人とかに『ユニティブ興行はカルト集団』みたいな事を言いふらされる可能性があると灰川は思う。
「佐嶋さんって本当にイケメンですよね、羨ましいなぁ。演技も凄いし、ははっ」
「い、いえ、そんな大それたものじゃ…」
話をして信頼できるかどうか判断するといっても、何を話せば良いのか分からない。そういう状況だと自動的に無難な話の切り出し方になる。
「前にボクサーが主役のドラマの主演をやった時も、女子中高生を中心に大人気になったって話ですもんね」
「リング・ザ・ヒートですね。あのドラマも凄く人気が出たようで、嬉しく思っています」
このドラマは由奈も見たらしく、かなり面白かったそうだ。灰川は見ていないが結構なヒットを飛ばしたそうで、サブスクなどでも高評価が付いている作品だ。
「佐嶋さんほどイケメンだとモテ過ぎて大変そうですね、役者をやってなくてもモテ過ぎて大変な思いをしちゃいそうだ。羨ましいですよ、ははは」
「それは…まあ、はい…。運が良くてイケメンに生まれたようですけど、でも実際には良いことばかりじゃないんですよ……ははは…」
今の佐嶋は情緒が不安定になっており、スランプが治らなかった時の事を悲観して暗い雰囲気になっている。
灰川は祓いのために少しでも情報を引き出しつつ信用できる人物かどうかを見極めようとするが、流石にまだその答えは出ない。
「俺…子供の頃から凄くモテたんです、小学校の時から何度も告白されて、中学で役者デビューしてからは更にモテました」
「やっぱそうですよね、こんなイケメンは同級生も放って置きませんって、劇団とかも絶対に勧誘するでしょうしねぇ」
「劇団にも最初は勧誘で入団したんです、中1の時に入団して1か月で舞台デビューして、中2の時にはドラマと映画に出演しました…顔が良かったおかげですよ…」
佐嶋は自分の事を話し始める、気落ちし過ぎて誰かに聞いてもらいたい気分なのかもしれない。
彼は人生で最大レベルの危機に瀕しており、普段なら話さないような事も灰川に話し始める。
マネージャーは事前に佐嶋から話を止めないでくれと言われており、ここで出張るような事はしなかった。
「でも、モテるって良いことだけじゃないんです。同時に凄く嫌なことも経験してきました…」
佐嶋はハッキリ言って顔の良さだけで食っていける程のハンサムであり、それが元になって酷い苦労や嫌な経験もしたそうなのだ。
イケメンの苦労コワ話
佐嶋は昔からイケメンで、幼稚園から今に至るまでモテ属性だ。性格も基本的に温厚な陽キャという事もあって、女子からの人気は常にMAX状態である。
そんな佐嶋は昔から異性に関する事になにかと悩まされて来て、それは小学生の時から続いている。
小学生の時、佐嶋には好きな人が居た。隣の席になった女の子で、少し地味な優しい子だったそうだ。
佐嶋はその子とよく談笑したり、一緒に帰ったりしていた。たぶんあの子は自分を好きになってくれたと思っていたそうだが、ある時期からその子は暗くなっていき、やがて学校にも来なくなって転校してしまった。
後から聞いた話によると、その子は佐嶋を好きな別の女子グループのリーダーから苛烈なイジメを受けていたそうなのだ。
酷く悔やまれる事であり、それがトラウマにもなったが、その子の連絡先は知らないため今も何も言えずに居る。
中学の時には劇団に所属して芸能界にも少しづつ足を踏み入れたが、小学校での経験もあって女子と仲良くする事は控えめにしていた。
だが裏では、女子生徒が佐嶋と会話した場合は上位女子カーストグループから裏で何を話したか根掘り葉掘り聞かれ、何か気に障る内容があった場合は『お前はもう佐嶋君と話すな』『次に佐嶋君と話す時はこういう風に受け答えしろ』などという、指示がされてたらしい。
つまりカースト下位は万が一にも佐嶋に好かれないよう学校生活を送れという、上位カーストによる管理が横行していたのだそうだ。それを知った時に佐嶋はゾっとしたと語る。
高校では既に俳優としての活動が始まっており、芸能界では名が知られてないものの、俳優をしてるという特別性も相まって佐嶋の人気は学校では衰えることが無い。
同校生はもちろん他校生からも告白されるし、友達男子から佐嶋はモテて良いななんて話を1日に1回はされる。そんな高校生活の中で事件が発生した。
ストーカー被害に遭ったのだ、それも複数の女性から一度にだ。過去に告白を断った人、中学の同級生、全く知らない成人女性など、色んな人からつけ回されたり、郵便物が盗まれたり非通知電話が掛かって来たりしたらしい。
佐嶋の家は裕福という訳でもなく、様々な都合もあるため引っ越せず、犯人もストーカーとは警察に断定されず、被害届は受理されなかった。
大学では芸能活動が活発になり人気も出て、一人暮らしもして事務所が守ってくれるようになり、少しは安心できる環境になったが、女性に関する問題は変わらず発生したそうだ。
「こ、怖いですね…! イケメンって良い事ばかりじゃないのかぁ…」
「俺…前は少し女性不信になってたんですよ…、だから大学在学中から治すためと役作りのために港区とか新宿に行って遊んで、少し慣れることが出来ました…」
「そうなんですかっ、佐嶋さんって遊んでるって聞いてたけど、そんな事情があったんですか!」
「はい…でも港区や新宿でも、色んな争いというか裏とかがあって…」
いわゆる大人の遊び場である港区に佐嶋は役作りと女性不信の治療ために通ったそうなのだ。
六本木、麻布、赤坂、表参道などに芸能人仲間や活動を通して知り合った若めの資産家と行き、女性と話したりして少しづつ慣れることが出来たらしい。
しかし金と欲と性が集まる所に影は付き物で、楽しくはあるが肌に完全に合ってるとは言い難いとの事だ。
綺麗な女性たち、高級なシャンパン、有名シェフの料理、どれも楽しいは楽しいが佐嶋は港区の色にも何処か染まる事が出来ない。
「俺…マジで演技が出来なくなったら、何にもならないんすよ…! 芸能界だけは俺が居ても過剰に持ち上げられたり、周りがおかしくなったりしなかった…! ここしか居場所がないんですっ…!」
佐嶋は凄いイケメンであるせいで嫌な目にもあって来た人物だった。演技力は高いが精神は普通の域を出ず、それもあって苦しみは深かった。
「今まで俺のせいで親にも迷惑かけたしっ、俺が原因で人間トラブルとかもあって、この業界じゃないとやって行けないんですよっ! お願いです灰川さんっ、助けて下さい!」
イケメン過ぎて周囲や人間関係が変になるという経験を繰り返しており、恐らく会社員とかになっても彼は同じ経験をするような気がする。彼は恵まれた容姿のせいで一般社会に溶け込めない。
人を魅了する容姿があるが、それに見合った図太さや強い精神性、もしくは欲に溺れる浅さがないから苦労する体質だ。
そんな話を聞きつつも灰川は役霊魂祓いのヒントがないか、霊視などをしながら探っていた。
変化は少しあり、佐嶋が役作りのために港区などで遊んでたと言った時に、少しだけ役霊魂の気配が出ており、そこに解決のヒントがありそうだと当たりを付ける。
「佐嶋さん、水谷さん、ユニティブ興行としても佐嶋さんがスランプから抜け出してもらわないと、大変に困る事になります」
「はい、もちろん分かっています。大きな仕事ですから、主演が降板となれば大変な段取り変更が発生しますので」
灰川は決めた、やはり彼は助けるべきだ。事務所の利益のためにも、佐嶋のファンのためにも、彼のためにもなる。
何より灰川自身も助けたいと思ってるし、信用できる人物な気がする。
「佐嶋さん、港区では節度を持って遊んでましたか? 誰彼構わず食い散らかしたり、滅茶苦茶なマネをしたりとかしてませんか?」
「してません! そこそこには遊びましたが、界隈のルールに則って遊んでましたからっ」
金と欲と性が集まる場所には、それなりの遊びのルールがある。
いわゆる、喰われ目的、喰い目的の人とは意味深な意味での自由恋愛を楽しむのもアリだが、ギャラ飲みとかプロ彼女志望の人とはそれなりの関係を築いてからでないといけないとからしい。
そういうルール無視の場所などもあるらしく、酒に睡眠薬を盛るとか、ドラッグをやれる場所とか、そういう場所には行ってないかも強く聞いた。
佐嶋は全てに対して『危ない事はやってない』と言い、女性関係もスキャンダラスな事はしてないと言う。
「佐嶋さん、とりあえず時間が無いので施術しましょう。後は撮影の合間を縫って施術します」
そろそろドラマ撮影が再開される時間であり、灰川もユニティブ興行所属者がnew Age stardomに出るための打ち合わせに行かなければならない。
そのまま10分ほど霊能施術をしてそれぞれの仕事に行き、互いに打ち合わせや撮影の合間に集合して施術をしていく。
それらの施術中に灰川と佐嶋はそこそこに打ち解けて、灰川の方が年上である事や、互いの仕事の話なんかをして仲良くなっていった。
「え、マジ? 俳優のドラマオーディションとか撮影って、そんな嫌な事あんの!?」
「ありますよ、ってか監督が怒鳴りまくるとか普通ですって、前に共演した柿牧 陸也なんて真冬に川に入る撮影で3回もNG出して泣いてましたしねっ」
「そりゃヒデェ! 撮影と川の恐怖症になっちまいそうだ!」
そんな話をしながら施術して親睦を深め、灰川は佐嶋は信用できる奴なんじゃないかと感じていった。
「西麻生のタワマンの30階でIT社長が毎週のようにパーティーしてるんですけど、この人が驚くくらい女に手出ししないし、金払いは良いしで人気なんですよ」
「それって何か裏がありそうだなぁ、何かあった?」
「実はその社長、マジで結婚相手を探すためにパーティー開いてたらしくて、だから女の子にも手を出さなかったらしいんですよね」
「なるほどなぁ、そういう人も居るんだ」
打ち合わせに行く道中で富川やSSP社の三檜に電話して、佐嶋にスキャンダル行動などはないかなども聞いて、灰川の人を見る目が合ってたかの答え合わせもした。
特に危険な情報はないらしく、三檜経由で佐嶋は港区でも悪評などは立ってない事も教えられた。参加してるパーティーなども危険なものではなく、完全な健全でこそないものの、危ない人物ではないという情報も得た。
富川からは『佐嶋さんとは良好な関係を築ける可能性が高いですよ』と言われ、三檜からは『人間性に問題はない』との結論が出た。
しかし彼の事務所である相田イースト芸能は、亮専建設傘下企業の社債であるRS債をかなり購入してたそうで、それが暴落した事によって酷い被害を受けてるらしい。
既に債権は損切りしているため大損は確定であり、このままでは事務所が破産する恐れがあるそうなのだ。
事務所存続は佐嶋の新ドラマの成功は絶対みたいな条件であり、降板など絶対にあってはならない状況だと聞く。
佐嶋は相田イースト芸能の社長に恩があり、マネージャーの水谷にだって良くしてもらって非常に感謝してる。事務所移籍などは今も考えて無いらしく、かなり義理堅い性格でもあるようだ。
「そういやさ、俺この前にお台場の高級レストランのチケットもらって入ったんだけど、変な言葉とか連発してすげぇ笑い者になっちゃったんだよね」
「はははっ、お笑い芸人みたいなエピソードじゃないですか、灰川さん面白い人ですね」
「肉のソースのこと謎の液体って言っちゃって、めっちゃ笑われたしよ」
「それはヒドい! ははははっ!」
new Age stardomの打ち合わせは、人気俳優の佐嶋にトラブルがあって対応しないとならないと説明しており、それなら仕方ないと言われて途中で席を外す時間が出ることを納得してもらった。そうさせられるだけのネームバリューが彼にはあるのだ。
市乃たちとは少し挨拶をしたが、向こうも今日は忙しくてそんなに会話は出来なかった。少し残念そうにしてもらえて、灰川の心に何とも言えない嬉しさが込み上げたりもする。
やがてどちらの仕事も終わり、エイミとリエルはしっかり撮影を見学してnew Age stardom出演者がどのように立ち回っているのかも勉強したのだった。
「あーあ、今日は灰川さんとあんまり会えなかったねー」
「またすぐにオモチとにゃー子ちゃん達に会いに行くよ灰川さん、もちろん灰川さんにも会いに行くね、ふふっ」
「お疲れ様でした灰川さんっ、今度にまた事務所にお邪魔させて頂きたいです」
「うあー! 今日はNG連発してゴメンなさ~い! 灰川さんに見られてなくて良かったっす!」
「来苑はやらかしちゃったか、別に大丈夫だって、誰でもやらかしはあるんだからよ、はははっ」
他の出演者や2社のスタッフが居ない所で市乃たちと談笑し、後はそれぞれ配信や他の仕事もあるためお開きとなったのだった。
new Age stardomは視聴率は悪くなく、宣伝なども滞りなくやっているから安定して人気が取れている。Vtuberが屋外でロケをするという企画VTRも好評で、話題性は上昇中だ。
その他にも配信や番組での企画は考えられており、まだまだ躍進の途中段階である。
「じゃあ皆、今日もお疲れ様! あ、そういや今度にホラー系動画で心霊スポット企画やるんだよな? 要望あったら送っといてくれよ」
「分かったよー、怖さ優先かエンタメ優先か、ちょっと迷ってるんだけどねー」
「灰川さんが知ってる場所とかも教えて欲しいかな、私たちはどういう所があるのか詳しくないからね」
「おう、空羽も流石に俺よりはオカルトには詳しくないもんな、数少ない勝ってる部分だ。はははっ」
シャイニングゲートとハッピーリレーは灰川のカメラを使って様々な企画を考えており、その中にはオカルト企画なんかもある。
そんな話をしてから先の事を考えつつ、今日はお開きとなって、佳那美とアリエルを車に乗せて帰って行ったのだった。
夜の7時過ぎ、灰川は馬路矢場アパートにアリエルを連れて帰って来て、朋絵も交えて4人で夕食を済ませた。
その後は各自の時間となり、アリエルはぬいぐるみのフォーラの手入れ、朋絵は配信、灰川は砂遊を連れて出掛ける事となる。
「お兄ちゃん、佐嶋純輝に会うって本当だべなぁ~? 昔に似たような嘘ついて歯医者に連れてかれたこと、まだ覚えてるかんなぁ~?」
「嘘じゃないって、マジでイケメンだからよ。まあ期待してろって」
「うししっ、別にファンって訳でもないけど、サインもらったら転売するかぁ。でも役霊魂かぁ~、しかも酷いのに憑りつかれるって、厄介だねぇ」
砂遊には佐嶋純輝に発生した出来事を話しており、今回の祓いには砂遊が必要になる可能性があるため付き合ってもらった。
佐嶋にはさっきは話せなかった事が色々とあると言っており、妹もスランプ治療の情報を持ってるから、事情を話して着いて来させると伝えてある。
もしかしたら今日の夜に解決できるかもしれないとも話し、秘密が守られる店を指定して来てもらう事にした。もちろん店の利用料とかは向こうが持つ。
灰川としては佐嶋と良好な関係を持っていたい、彼は様々な若手や有名俳優などに伝手があるし、ユニティブ興行としても恩を売っておきたいのだ。
流石に佐嶋と水谷はスランプ治療のマッサージ師など本当は居なくて、灰川が何かしらの解決手段を知ってるんじゃないかと勘付かれてる。話をするごとに細かな齟齬が出ているからだ。
「よし到着だ、入るぞ」
「イケメンにどんなの憑いてるか見てやるとするかぁ、うししっ」
車を駐車場に置いて誠治と砂遊は指定した店に入る。
そこは馬路矢場アパートからもそれなりに近い所にある料亭の蘭月だ、ここは由奈の親戚がやっている店でありプライバシーは絶対順守される。
今日にいきなり予約を入れてしまい迷惑かとも思ったが、最もプライバシーが守られる部屋は空いていたため問題ないと返事をしてもらった。
「客用の裏導線から入るぞ、念のために今日は離れの客室を取ってもらったから」
「なんだか業界人っぽいなぁ、ついに私もそのレベルになっちゃったかぁ、うししっ」
裏導線とは従業員が使う通路などの事を本来なら差すが、客用の裏導線とは有名人などがコッソリ入るために使う入り口である。
マネージャーや他事務所の所長も同伴とはいえ、佐嶋が夜に女子中学生と会っていたなんてスッパ抜かれたら面倒になる可能性がある。それを防ぐために使うのだ、別に砂遊が有名人という訳ではない。
誠治と砂遊は蘭月の敷地内に裏導線から案内され、離れの客室まで連れてってもらった。
「先程はどうも、こちらが妹の砂遊です」
「どうも、そちらが灰川さんの妹さんで~~……、っ…!」
「うへぇ~、モノホンの佐嶋純輝だべ! 後でサインおくれ!転売するから!」
「ははっ、何だか変わり者の妹さんのご様子で。 ん?どうしたんだ純輝?」
変な事を言った砂遊を誠治が『お前は何言ってんだ!?』なんて言いつつ、佐嶋は驚いた顔で砂遊を見ていた。しかし誠治と砂遊はコソコソと話をしている。
「お兄ちゃん、芸能人なんて女と金の事しか考えてないクズどもなんだろぉ? この後に佐嶋が私だけどっか連れてくとか言ったら呪い殺すぞぉ?うししっ」
「いや、流石に偏見が過ぎるっての……佐嶋君はクズじゃないから安心しとけって」
「本当かぁ~? 芸能人ってドラッグとレイプが趣味で、デスゲーム観戦しながら高級ワイン飲んで笑ってるイメージあるぞぉ、うししっ」
「お前なぁ…、たぶんそんなの芸能人の中でも30%くらいしか居ないだろ…、俺は高級焼肉を食いながら何処のヤクザやマフィアと繋がってるって自慢してるイメージだなぁ」
そんな偏見にまみれた冗談を言いつつ、誠治と砂遊は席に着いて向き直った。その瞬間から佐嶋の雰囲気が別物になる。
「あ、あのっ、妹さん…砂遊さんは、どういった方なんでしょうかっ? 俺は佐嶋純輝、俳優をさせてもらってますっ」
「私はしがない中学生ですよぉ~、見ての通り髪の毛モジャモジャの陰キャちゃんですねぇ、うししっ」
「そのっ、趣味とかってありますかっ? 俺はグランピングとビリヤードと旅行です」
「うへぇ、私は全く興味無い趣味ですねぇ、私はBL本漁りとPCゲームとかでぇ、あと妄想を少しばかり~」
「じゃあ、好きなドラマとか俳優は~…」
「ちょっ、純輝!? どうしたんだっ、そんな質問攻めして失礼だろうっ、怖がらせたらどうするんだっ」
超人気の実力派俳優、女性が憧れる男性ナンバーワンの佐嶋純輝が、なぜか砂遊に緊張しながら質問をしまくる。
まるで自分が超スランプである事を忘れたかのような、それより大事な何かを見つけたかのような目の色をしていた。
「砂遊さん…砂遊ちゃんって呼んで良いかいっ? 砂遊ちゃんは彼氏とか居る? どんな感じの人が好きなのっ?」
「うししっ、リアル彼氏は居ないですよぉ~、中学生にそんなこと聞くかぁ? 好きなタイプはお兄ちゃんみたいな面白いヤツって感じですかねぇ~」
「ちょっ、純輝!? お前っ、まさか中学生にガチでっ…! しかもユニティブ興行の所長さんの妹にっ…!?」
これには誠治も驚きだが、水谷マネージャー程には驚いていない。
役霊魂に憑りつかれた者は役の精神に引っ張られる事があるのだ。演じる役の事を真面目に考え、性格や精神性などの深い所まで考察していた者ほど強くなる傾向があり、佐嶋は正にそのタイプだった。
佐嶋に憑りついている役霊魂が誰なのか確定した、それは特番ドラマ“オタク女の私が超金持ちイケメンアイドルにガチ恋された”の男アイドル役、琉戯土 イツキだ。
オタク趣味の女子高生の主人公がイケメンアイドルにガチ恋されるというドラマで、佐嶋はその主人公に惚れるイケメンアイドル役を演じて好評を博した。
イツキは最初は高級な店で遊びまわる感じの奴であり、佐嶋はその精神性を理解しつつ女性不信を治すために港区などで遊んでいたのだ。
砂遊はそのドラマの主人公と同じオタク趣味であり、しかも佐嶋が頭の中でイメージしていた感じに近かった。ちなみに実際のドラマで主人公を演じた女優は砂遊とは全く違う容姿である。
灰川は佐嶋との会話の中で、役霊魂を構成する役の当たりを付けていたのだ。
「砂遊ちゃんっ、料亭のメニュー全部頼むから、好きなもの好きなだけ食べてほしい。良かったらシャンパンタワーチーム呼ぼうか? バッグとか服のブランドはどこが好き?」
「夕飯は食ったから、そんなに食べれませんよぉ~。あと中学生にシャンパンなんて勧めるなよなぁ~、服もバッグも安くて丈夫なら何でも良いぞ、うししっ」
「…っ!! こ…こんな感情は初めてだっ…! 俺がこんな感情になるなんてっ…!」
佐嶋は明らかにオタク少女の砂遊に大きな好感を持っている、トップ俳優がオシャレっ気のないオタク中学生に惹かれるなんて普通はあり得ない。
まずは役霊を引き出せた、後は祓う必要があるのだが、そのためには説明なんかも必要になってしまうだろう。




