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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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260話 いつもと違う刺激のステージ

今回は怪談要素が強めです、苦手な人はご注意下さい。

 市乃と一緒に渋谷の繁華街の外れにある怪談カフェに入る、どうやら夜には怪談バーになるようだ。


 時刻は4時過ぎで、まだバータイムには入ってない。夜の7時以降は未成年は入店できなくなるようで、時間的には余裕がある。


「バイタリティーさんの紹介のお客様ですね、こちらにどうぞ」


「おおっ、雰囲気が良いですね! こりゃ良さそうな店を見つけたぞっ」


「灰川さんが好きそうなお店だねー、私に感謝してねっ、あははっ」


 店内は怪談師が話を披露するミニステージと客席に分かれており、客席はボックス席が3つくらいとカウンター席などがある。


 小さな店で飲み屋が数件入ってる雑居ビルの3階にあり、知る人ぞ知る怪談好きのための店という感じだ。


 照明は雰囲気を出すために少し暗く、インテリアなんかも和風ホラーや洋風ホラーの小物だったりが飾られてる。怪談がちゃんと聞こえるようにスピーカーなんかも用意されてるようだ。


 入場料を払ってからステージに近い小さなボックス席に案内されてドリンクを注文する、今日は少し暑かったからアイスコーヒーを2人で頼んだ。


「今日はコンセプト怪談会らしいな、“部屋”に関する怪談が多いらしいぞ」


「じゃあ折角だし、あの話しちゃおっかなー」


「あの話って何だ? とっておきのがあるとか?」


「聞いてからのお楽しみっ、期待しててねー」


 この怪談カフェは怪談師以外の客がステージに上がって怪談披露を出来る日があり、今日がその曜日だったようだ。


 予約をしておけば間違いなくステージに上がれるが、してない場合で飛び入り希望者が多い時は抽選となるらしい。


 現在の客数は灰川達以外に3組ほどで、時間的にも客入りが多くなるのは少し後という感じだろう。怪談なんてのは夜に聞くのが良いものだ。


「お、怪談ステージが始まるっぽいぞ、あの怪談師はyour-tubeで見た事あるな」


「私は知らないけどイケメンだねー、やっぱステージに上がるから身嗜みは大事にしてるんだねっ」


 やがて怪談カフェのステージに怪談師が上がる、30代くらいの男性で動画サイトなどでも怖い話を投稿してる人だ。


 灰川はネットでもよく怪談を聞くから知っており、どんな話が出るのかと楽しみに耳を立てる。


 市乃はこの後にステージに上がるので、怪談師の話し方などを参考にしようと真面目にステージを見ていた。


「こんにちは、怪談カフェ、ゴーストーク怪談師のシンバラです。今日は部屋に纏わる怪談ということで~~……」


 少しの間だけ前フリ話が入る、実はシンバラはお笑い芸人をやってるが、そっちでは売れてない事をネタにして笑いを取ったりする。


 だが怪談は子供の頃から好きらしく、今までもかなりの数の話を趣味や好奇心から聞いて来たそうだ。


「皆さんは部屋の怖い話と聞くとマンションの部屋だったり、家とか会社の部屋を思い浮かべますよね? 今から話すのもそういう話なんですが~~……」


 そこからシンバラの怪談が始まったのだった。




  部屋に居たモノ


 シンバラは芸人を目指そうと思い立った時に、田舎から上京して養成所に入る事が決まって部屋を借りるために不動産屋に行った。


 もちろん金なんて無いから安い部屋を探したが見つからず、どうしようかと途方に暮れてると渋谷の一角に訳アリ物件に強い不動産屋を見つけ、すぐさま入ったそうだ。


「駅からは近くないですが1か月2万円で1DK、洋室と和室で風呂トイレ別でマンションの9階です。見に行きますか?」 


「いや契約しますって! でも一応は見に行った方が良いですかね」


 値段に釣られて即座に契約しようとしたが一応は見に行こうとなり、どんな訳アリなのかも現地で聞く事になった。


「良い部屋じゃないですか! 日当たりも良いしエアコンも付いてるしっ! どんな訳アリなんですか?」


「実は前にこの部屋で亡くなった方が居まして、それ以来は誰が入っても長く居付いてくれないんですよ」


 3年前に訳アリ物件になった後に既に7人が入っては出てくを繰り返してる物件だそうで、退去の理由に関しても怪奇現象があったという話が出て来たと不動産屋は言う。


 正直な不動産屋だなとシンバラは思うが、隠されるよりは良い。


 立地は少し不便だが月2万円、エアコンまで付いてるというのは超魅力的だ。怪奇現象はちょっと怖いが怪談話には慣れてるし、別に部屋は不気味な感じはしない。しかも敷金礼金ゼロだ!


 即座に入居を決定し、その日の内に日用品などを買い揃えて新生活に向けて準備を整えた。この時は芸人への道を歩み出した嬉しさや、良い部屋を見つけた嬉しさがあったらしい。


 その日の夜1時過ぎにインターホンが鳴る。マンションはセキュリティは強くなく、誰でも入れるタイプのものだった。


 養成所の同期にもまだマンションの事は話して無いし、そもそもそこまで仲の良い人はまだ出来てない。人が訪ねてくるような時間でもなかった。


 ここでシンバラは不動産屋が語ったこの部屋での出来事や、入居者に聞いた怪奇現象の話を思い出したと言う。


 この部屋で亡くなった人は実は住人ではなく、空き部屋だった時に子供が侵入し、ベランダから転落して死亡したということ。


 その後に入った住民は夜毎に子供の声が聞こえたとか、部屋の中で誰かの声が聞こえたなどの体験から怖くなり退去したとの事だった。


 シンバラは恐る恐るとドアに近付きスコープを覗くが誰も居ない、しかし外から子供の声がした。


「10」


「10? 10ってなんだよ…?」


 怪談には毎日に誰かがカウントダウンをして0になった時に何かが起こるという話があったりするが、それなのではないかと考える。


 0になった時に何が起こるかは話によって違うし、場合によっては住人が死亡するなんて話もあったりする。

 

 シンバラは『こんな体験は滅多にない!』と考え、芸人としてのバイタリティーの肥やしにしようと考えた。


 翌日に寺や神社から御守りや御札を買ってきて万が一に備え、その日も夜が来る。


「9」


 やっぱりかと思う、このまま行けば明日は8で次は7、ゼロになった時に何が起こるのか怖いながらも興味が尽きない。


 そして翌日になり、またしても夜の1時過ぎにインターホンが鳴る。しかしその日はシンバラの予想を裏切った。



「8、7!ロク!ご!4サン2いち!ぜろぉぉ!!」


 「!!!?」



 昨日までと違う甲高い女の声が一瞬の内にカウントをゼロまで数え、その瞬間に部屋の中に背中がゾワっとするような気配が立ち込める。


 思わず部屋の方を見ると、ベランダには見た事の無い女が子供を突き落とす光景が繰り広げられていた。


 子供が恐怖に塗れた表情で8階から落下する、女は憎しみの浮かぶ笑顔で突き落とす。それを見てシンバラは気を失った。


 その後は金銭の問題もあって少しの間は住もうとしたそうなのだが、どんどん体調が悪化して結局は引っ越す事に、すると体調は嘘のように回復したそうだ。

 

 あの部屋の危険な存在は子供の幽霊じゃなくて女の霊だ、きっと子供もあの女の霊にやられたに違いないと睨んでる。


 せめて子供の霊は成仏させて欲しいと思い、御守りや御札はベランダで焚き上げて退去した。そのマンションは今でもあるとの事だ。




「というお話でございました、ご清聴ありがとうございます」


 怪談師シンバラの話が終わり店内から拍手が起こる、なかなか雰囲気のある話し方をしており迫力があった。やはり本職同然に怪談をやってる人は違うなと感じる。


「おおっ、怖くて良い感じだったなぁ! 流石は怪談芸人のシンバラさんだ!」


「ちょっと後味悪い感じだったけど怖かったねー、あんな感じで話せば良いのかな」


「後味はちょっと悪いけど、怪談は基本は作り話が多いから気にするなよな」


 怖い話は大体は誇張や作り話という事を忘れてはいけない、あまり思い入れを強くし過ぎるとメンタル的にも危険だ。


 それにもし危険な霊などが居たとしても、国が抱える秘密機関の霊能者や、悪霊を倒すキックボクサー、無能配信霊能者、霊能漫画家などが黙ってはいないので少しは安心という物だ。


「じゃあ行って来るねー、ちゃんと聞いててよ灰川さんっ」


「おうよ、楽しみに聞かせてもらうぜ」


 席を立って市乃がステージに上がり、イスに座ってマイクを調整したりする。


 店内にはさっきより客が増えて今は4組の合計で14人となっていた、この位の人数でキャパシティは割といっぱいになるくらいの店である。


「こんにちは、飛び入り参加させてもらったカミノンです」


 仮名でステージに上がった市乃は少し緊張しつつも話を始める、やはりネット配信とリアルステージは違いがあり、観客の顔や反応が直に見えるステージでのトークは普段とは違う緊張があるようだ。


 こういう普段とは違う緊張や刺激こそが経験として積み上がり、それらがバイタリティーとして育っていく。それは得難い経験という物だろう。


「私ってけっこう怖い話とかが好きでネットで読んだり聞いたりしてるんです、色んな話があって本当に面白いし怖いですよね」


 普段の配信と比較して少し喋りが安定してないが、店スタッフからも緊張せず楽しくやってねと言われており、過度に緊張してる様子もない。元から市乃は陽キャ気質が強い子だ。


 客は常連が多いようで静かに聞きつつも悪い雰囲気は出さず、スマホなども触ってない。市乃としても思ってたよりは話しやすい環境だった。


 話し方などから三ツ橋エリスだとバレないよう注意しており、普段の少し間延びした口調は鳴りを潜めてる。


「学校の7不思議とか都市伝説とかも好きなんですけど、今日は部屋の怪談ということなので、私もソッチ系の話をしますね」


 市乃はさっき灰川に『部屋の怪談だったら私と灰川さんが初めて会話した時の話とかどうかなー?』と聞かれたのだが、それだと人づてに話しが伝わって万が一の身バレの可能性があるかもだから止めておこうとなった。


 市乃との出会いの発端になった出来事には灰川にも話してない事もあるそうなのだが、それはまたの機会という話になった。


「この話はとある旅館の話なんですけど~~……」


 流石はトークやテンションなどを武器に配信で稼ぐVtuberで、市乃は上手く雰囲気を出しながら話す。


 声も良く通り、普段は可愛い系の声だが今は少し低めの声だ。ステージで怪談を話すという事を意識しての事であり、順応性も高く緊張もさっきより解けてる感じがする。


 やはり前フリ話は話者にとって客の反応を見たりステージの雰囲気に慣れたりして、何を話すか、どのように話すかなどを決める大事な時間なのだ。


 ネット配信とは違う空気感、それをしっかりと感じ取りつつ市乃は自身の糧とするため怪談に臨んだのだった。




  旅館の部屋


 旅館やホテルには客を泊めない部屋があるなんていう噂があったりするものだが、本当にそんな部屋があったら旅館側が損をするだけだとカミノンは思ってた。


 しかし旅行会社に勤める知り合いから、そういう部屋は本当にあると聞いた。そういった客室は旅行会社の添乗員や運転手などが超格安で泊まるためにあてがわれる。


 もちろん全てのホテルや観光旅館にそういう部屋がある訳じゃないが、そういう部屋がある宿泊施設は割とあったりするとの事だ。


 大方の予想通り曰く付き部屋が多く、旅行業界の中では『マジでヤバい添乗員部屋』という感じで噂される旅館やホテルの部屋があるらしい。


 部屋で自殺や死亡事故があったという理由が多くを占めるそうで、そこから幽霊騒ぎが発生するというのが王道だと説明された。


「でも、本当にヤバい部屋はそういう理由じゃない所が多いらしいんです」


 ある旅館にそういう部屋があるらしく、そこは添乗員すら泊められないという部屋だったそうなのだが、観光シーズンでどうしてもガイドがその部屋に泊まらなくてはならなくなった。


 その部屋に宿泊したガイドは翌日に行方不明になり、今も見つかってない。部屋にはドアも窓にも鍵が掛かっており、どうしても外に出たとは思えない状況だったそうだ。


 警察なども捜索したが何も出て来ない、防犯カメラなどにも何も映ってない、靴や荷物もそのまま、携帯電話だけは見つからなかった。


 争った跡もなく事件性もどうしても見つからず、結局は原因の分からない行方不明事件として処理される事になったらしい。


 だが、旅行会社のスタッフは警察官が話してた会話を聞いてしまった。


『○○旅館か…あの部屋は幽霊が出れなくなる部屋で呪われてるって話だもんな…』


『ずっと前にも添乗員が泊って、翌日に髪の毛真っ白になって見つかったって事があったよな…今も精神科に入院中だって噂だし、何があるんだよ…』


『あの部屋は絶対にダメだって女将は言ってるらしいのに、どうしてもって旅行会社はあるらしいんだよな』


 不信に思った警察はその部屋の事を更にしっかり調べたそうなのだが、やはり事件性は無かった。


 髪の毛が白くなった人の身に何があったのか、行方不明になった添乗員は何処に行ってしまったのか、それらは完全に謎だ。


 幽霊が出られなくなる部屋、それだけしか話の手掛かりは無いそうで、今も何も分かってない状況だ。その旅館は今も存在している。




「という都市伝説っぽい話でしたっ、旅館とかホテルの部屋に幽霊とかいたら怖いですよね」


「嬢ちゃん、話すの上手いねぇ! ゾクゾクしたよ!」


「その旅館って知ってるかも! 前に噂で聞いたかも知んない!」


 店の客からの反応も上々だ、やはりトークの世界で生きてるだけあって話は上手かった。


 声の抑揚の付け方なんかも良かったし、話が乱れる事もなく良い感じに話せてた。緊張も適度に解けてトークに集中できてたし、かなり雰囲気も作れてたように思える。


 市乃はステージから下りて席に戻り、灰川に感想を聞いて来る。


「かなり良かったぞ、声が良いから迫力が出るなぁ」


「ありがと灰川さんっ、ホラー配信で鍛えてた甲斐があったよー」


 さっきの話には誇張がかなり入っており、行方不明になった人が居るとかは作った部分だそうだ。しかし幽霊が出れなくなる旅館の部屋は本当だという。


「やっぱ話し方とか声の抑揚とか大事なんだな、どんなに怖い怪談でも話し方が悪かったら怖さ半減だもんな」


「灰川さんの怪談の話し方とかも参考にしてるよー、雰囲気の固め方とかさ」


 ステージでの怪談披露は市乃に大きな刺激になったようだ、きっとバイタリティーも鍛えられた事だろう。


「こういう店って良いな、色んな怪談が聞けるしよ」


「怪談師さんもお客と話して怖い話を仕入れたりしてるらしいよー、さっきスタッフさんに聞いたんだ」


「あ~、そりゃそうだよな、知り合いとかから聞ける怪談の数なんて高が知れてるだろうしな」


 店でステージに立つからには誰も知らない怪談を話す必要があるし、常に怖い話のネタを求めてる事だろう。職業で怪談師をやるというのは凄い情熱やホラー好奇心が強くなければやってられないと思う。


「お、次の人がステージに上がるっぽいぞ、もう少し聞いて行こうぜ」


「うん、私もトークの勉強にさせてもらいたいしねー」


 こうして灰川と市乃は怪談を2話ほど聞いてから、席に来た怪談師の人とオカルトトークなんかをして楽しく過ごしたのだった。




「変わった体験出来て良かったじゃん、お客も良い怪談だったって言ってたしよ」


「でもさっきの話は配信じゃ使えなくなっちゃったねー、それとやっぱ本職の人には勝てないなーって感じたし」


 世の中には様々な“何かに特化した人”が居る、さっきの店には怪談に特化した人達が揃っていた。


 それぞれの職業や日常によって何に特化してるかは千差万別、料理に特化してる人も居ればプログラミングに特化してる人も居る。


「自分たちと全く違う生活をしてる人達は、自分らと違うバイタリティーってのがあるんだろうな。仕事でもプライベートでもよ」


「うんっ、なんか私、焦っちゃってたかもだね。空羽先輩と来苑先輩を見て、自分も追い付かなきゃって思ってたし」


 誰かに追いつくとか負けたくないと思う気持ちも大事だが、本来の気持ちを忘れてしまったら本末転倒だ。


 市乃は最初は軽い憧れでVtuber事務所に応募し、痛い目を見て意識が変わった。そこからは活動を通して誰かを笑顔にしたい、皆の心に響く歌を歌ってみたい、自分の力を上げて人気を更に得たいと思うようになった。


 それが最近は自分より上の人を見て焦る気持ちが強くなり、見劣りしないよう動かなきゃいけないという精神になってしまったのだ。


「バイタリティーってのは向上するのも大事なんだろうけど、整えるってのも大事なんだろうな。いくら上げたって精神がブレてたら意味ないしな」


「そだねー、自分に合った活力とかじゃないとダメなんだろーね」


 活力だって焦りや不安が先行してたら逆効果だ、活動すればするほどドツボに嵌ってスランプになったりするだろう。


 それにバイタリティーなんて少し何かやっただけで根本から跳ね上がるなんて事は無さそうだ、やはり少しづつの積み重ねが大事なんだろう。


「やっぱ灰川さんと一緒だと悩みとか困った事とか解決するねっ、ありがと灰川さんっ」


「それは市乃が悩みとかネガティブな事を引きずらない性格だからだろ、俺じゃなくても市乃なら自分で解決できてたさ」


「そんな事ないよー? 学校でムカつく事あったら引きずっちゃうし、ネットでエリスの悪口書いてるSNSアカとか見たら荒したい!って思うしさー」


「そんなもんかぁ、まあ普通だろ?」


「灰川さん、さては女特有の陰湿さとか知らないねー? めっちゃドロドロしてるんだから」


「そういう市乃こそ男特有の結論ありき精神みたいな、嫌な論理組み立ての性質とか知らないだろ? めっちゃネチネチしてるんだぞ」


 そんな会話をしながら2人で笑顔になりつつ渋谷の街を歩く、今日の灰川も市乃も街を行く人々も、仕事に勉強に急速に忙しい。


 それぞれの日常の中にバイタリティーが溢れてる、何一つ学びが無く無意味な時間なんて現代には無さそうだ。


 ステップアップとか向上心とか騒がれる今の時代だが、焦ったり心の余裕がない状態だったら、まずは落ち着いてから普段とは違う事でもして刺激を得るのも近道かも知れない。


「これで明日の収録も良い感じで行けそうかもっ! なんか元気出たし!」


「そりゃ良かった、まあミスしたって取り返しが付くんだしよ、気負わず行けば大丈夫だって」


「あははっ、確かにそう考えると配信より楽だよねっ、大勢の人が関わってるから責任は重いんだろうけどさー」


 仕事が違えばやる事も責任の重さも変わるもの、それぞれの難しいとこや良い部分がある。


 配信とテレビの仕事は違うが、どちらも楽しみつつ気負い過ぎず行くのが大事だろう。


 市乃としては実はnew Age stardomの放送後に、ナツハとれもんよりSNSでの話題性が思ってた以上に低かったのもショックに繋がっていた。


 それらのショックは今日の体験でかなり緩和できた、灰川のようなお気楽者と一緒に居るのは良い薬になったらしい。


 明日は朝から午前中に掛けて収録の予定が入っており、灰川もアリエルや佳那美を連れてマネージャーとして帯同する事になってる。


「あ! そういや明日って午後はアリエルと佳那美ちゃんを秋葉原か池袋に連れてく事になってたんだった!」


 前にアリエルが日本のサブカルチャーを学びたいと言い、秋葉原か池袋などのサブカルの街へ連れて行くという話になっていた。


 明日は午後からはオフなので時間的にも丁度良く、これからの活動のためにも早く見せておかなければと思って見物の予定を入れていたのだ。


「アキバか池袋? アニメとか漫画を紹介するって感じなのー?」


「あとゲームとかアイドルとか、欲を言ったら舞台とか歌謡曲とかも教えたい所なんだけどよ」


 流石に全てを教える事など時間的に無理だろうし、灰川だって全てのサブカル知識を持ってる訳じゃない。


「ちょっと考えとくかな、明日に決めてもそんなに変わらないだろうしな」


「アキバと池袋だとけっこう雰囲気が違うよ? 佳那美ちゃんは前にアキバの方が面白いって言ってたけど」


 佳那美の両親にも撮影見学後に出掛ける許可は取ってあるから大丈夫だが、まだ予定は完全には決まってない。


「まあ良いさ、今日は楽しかったよ。明日も収録頑張ってくれよな」


「うん、私も楽しかった! リアルステージも悪くないなーって思ったよ、あははっ」


 こうして今日という日が終わり明日が来る。


 時にはバイタリティーや前向きな心を充填して、明日も同じように山あり谷ありで楽しく生きて行こう。

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