表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/326

251話 灰川事務所の新たな門出

 月曜日、今夜の10時からは皆の出演する新番組、new Age stardomが放送される。


 SNSで話題は広まってるし、ファンの人達も期待してくれてる。ネットでもサブスクで見れるようになってるから、見逃しても番組を見る手段はある状態だ。


 それと同時に本日は灰川事務所の新たな門出の日でもあり、朝から元ライクスペースの人事部だった前園が出社してきていた。


 前園は既婚者で夫と小学生の息子が居る30代の女性、ライクスペースではバリバリと仕事をしてた経歴がある。


 しかしライクスペースが無くなってしまい、子供の事もあるから時間の融通の利く事務仕事を探してた。ライクスペースはかなり時間の融通を利かせてくれる企業だったらしい。


 灰川も休みたい時は何の気兼ねなく言って欲しいと言ってあり、給金の面などでも悪くない条件で、事務仕事以外はあまりやりたくなかった前園にも丁度良い条件だったから入所した。


「今日からよろしくお願いします、前園さん」


「今日からお世話になります、よろしくお願いいたします灰川所長」


「所長だなんてそんな、普通に呼んでもらって結構ですよ」


「いえ、こういう事はしっかりしておきたい性格なものですから」


 前園のデスクも用意してあり、パソコンなども事務作業には問題ない物をハッピーリレーから格安で払い下げてもらった。


 あまり広くない事務所だが詰めてるのが2人なら問題はない、何よりこれで灰川が外仕事をしてる時に電話対応などをしてくれる人が来てくれたのは凄く助かる。


「早速ですが仕事内容を教えて頂けますか?」


「はい、まずはハッピーリレー所属者のスケジュールのマネジメント業務と、2社への企業案件の取次業務と~~……」


 所属者の会社への要望を伝えたりなど今までの業務、そして灰川事務所に所属する朋絵と砂遊のVtuber組のマネジメントや、佳那美とアリエルの芸能活動のサポートなどもお願いしていく。


 灰川事務所への仕事の請負などは灰川や所属者が判断する事や、Vtuberモデルの制作や発注などはシャイニングゲートやハッピーリレーが協力してくれる事なんかも言っていく。


 なるべく分かりやすく説明する事を心掛け、分からない事があったら聞いてもらえれば普通に答えるとも言う。ただ自分でも分からない事はあるとは付け加えておいた。


 外仕事をしてる時は電話などに出れない可能性が高い事や、事務所に2社と灰川事務所の所属者などが来る事もあるのも説明する。


「それとなんですが、この事務所にはたまにオカルト相談とか、その他の相談の来客がある時があります。そういう時は俺が対応して、もし可能だったら藤枝さんにも解決の相談をしたりします」


「藤枝さんというのは高校1年生のバイトの子ですよね? 事務作業の手伝い業務をすると聞きましたが」


「そうなんです、霊能力が有る子で以前に霊能仕事で一緒になって、その縁でバイトに誘ったんですが、かなり人見知りする子でして」


 同じく今日からバイトとして入所する藤枝朱鷺美の説明もしていき、事情のことなんかも少し話しておく。


 酷くコミュニケーション能力に難のある子だから優しく接して欲しいとか、霊能力が有りオカルト仕事では協力者になってもらえる事だとか、そういった話だ。


 ついでに妹の砂遊にも霊能力が有る事は伝えておき、アリエルに関しては今の所は秘密にしておく


「分かりました、私も以前は霊能力だとかは強くは信じてませんでしたが、前に灰川さんに言い当てられましたからね…」


「あの時はすいません、ってかあの時の前園さんと滝織キオンだった朋絵さんと一緒に仕事する事になるだなんて思ってませんでしたよ」


「私も予想もして無かったですね、世の中何が起きるか分からない物ですね」


 そんな話を交わしつつ仕事を教えながら時間が過ぎて行き、本日の昼食などは灰川が下の王さんの店で奢ったりなどして過ごしていく。


 前園は事務畑の人間だった事もあってか覚えが非常に良く、それどころか灰川事務所の業務に『ここはこうした方が良い』などの意見をくれて、初日から次々とマニュアル化してくれた。


 午後にはスケジュール管理や収益計算なども覚えてしまい、大体の税金の計算や業務支払いなどの事も理解する。


 やはりライクスペースでの事務経験や、それ以前にやってた事務仕事の経験が生きており、灰川事務所みたいな小さな所の仕事などあっという間に習得してしまった。


 灰川が『スゲェ!』と感心してる内に午後の3時になり、前園は子供が帰って来たりしてしまうため帰宅する事になる。前園は子供を放課後学童保育に入れるつもりだったが、抽選に漏れてしまったようなのだ。


「お疲れさまでした、また来ますので」


「ありがとうございました! これからよろしくです前園さん!助かりました!」


 前園が退勤して灰川が事務所に一人となる、佳那美とアリエルは今日も学校からハッピーリレーに直接向かってレッスンをしてる。




「灰川さん、こんにちはー」


「市乃? どうしたんだ」


 そうこうしてると市乃が事務所にやって来た、学校帰りのようで紺色のスカートとアウターベストの制服姿だ。


「今日ってnew Age stardomの放送日じゃん、ちょっと緊張ほぐしに来たんだよー」


「そうか、まあテキトーにくつろいでってくれよな」


 市乃は灰川を異性として慕うようになり、灰川もそれには気付いてるが、特に関係性が変わる事は無い。


 性格の相性が良いのか市乃は灰川と居ると何だか楽しいし、灰川も市乃と居ると楽しい気持ちになる。


 市乃は好きだからと言って積極的にアピールしたり、変にドギマギするような性格ではなく、灰川もそれを知ってるから付き合いやすいのだ。


 空羽や小路なども一緒に居ても自然体だし、史菜や由奈もナチュラルな感じだ。来苑だけは少しドギマギするが、時間が経つと自然体になるという感じである。


「視聴率とれるかなー、低かったらどうしよう!?」


「今時はサブスクとかもあるから視聴率の重要性って低いんじゃないか? new Age stardomもサブスクで視聴できるしよ」


 昨今はテレビの視聴率は年々に下降の傾向があるが、その理由にはサブスクなどで簡単に番組が見れたりするのもあったりする。


 もちろん娯楽の多様化や世の中の忙しさもあって、テレビを見る人が以前より少なくなったというのもあるが、やはり世の中の話題性においてはテレビメディアは頭一つ抜けた強さがある。


「でも視聴率って今でも大事らしいよー、だってリアルタイムで見てくれる人って、それだけ熱心に見てくれる人の割合が多いらしいし」


「そうだよな、それにテキトーにテレビ点けて見てくれてる人とかに皆を知ってもらうってのが一番の目的だもんな」


「灰川さんはリアタイしてくれるよねー? あと友達とかにオススメしたり、ネットのレビューで高評価したりとかっ」


「知り合いとかはハッピーリレーとかシャイゲに関わってる事は言ってないから無理! リアタイは夜の用事が間に合ったらだな、録画は予約してあるぞ」


「えー!? リアタイで見て欲しいんだけど! その方がライブ感あるじゃん!」


「見れたら見るって、でもネットはレビュー必ず書いとくぞ! 関係者の自演だとか言われても知るか!」


「私もレビューしたいー! でも配信でポロっと言うとかでバレたら炎上するから出来ないよー!」


 そんな話をしながら、いつも通りに笑い合う。だが市乃としては本当に緊張もあるようで、今夜は楽しみ半分の怖さが半分という感じだそうだ。


 今夜はナツハとれもんと小路は3人コラボで同時視聴配信の予定があり、番組には参加してない小路も蚊帳の外に置かれる事は無いように対策してある。


 エリスとミナミとツバサは番組終了後に感想配信を予定しており、明日も学校ではあるが3人とも長時間トークをしようという感じで話は纏まってるようだ。


「今夜はオカルト仕事の依頼客が来るからなぁ、もしかしたら時間が掛かるかも知れねぇんだ」


「そっかー、灰川さんも大変だねー」


 今日の夜は霊能者としての仕事の依頼があり、話を聞かなければならないのだ。


 灰川は基本的にはオカルトの仕事は断らないし、霊能依頼をして来る人は前の依頼者の知り合いとかの感じだから、そこまで警戒はしない。もし怪しかったりしたら断わるつもりだ。


「そういやさ、車とか買おうかなって悩んでるんだよなぁ」


「えっ? 灰川さん車買うのっ? 買ったらどっか連れてってー」


「おいおい、まだ悩んでる段階だっての」


 市乃としては灰川が車を買ったら何処かしら連れてってくれそうだと思うので、是非とも買ってもらいたい所である。


 灰川としては何の警戒も無く車に乗ると言ってくれる市乃信頼の言葉に嬉しさを感じるし、ちょっとその気になって来る。


 しかし最近は皆が忙しくなって来てるから、予定とかを合わせるのが大変そうだとは思う。


「でもな~、軽自動車って自動車税とか車検料とかは安く済むけど、あんまり長持ちしないとか聞くんだよな。だったら普通車の方が良いかって考えたりするんだけどよ」


「車って税金とかあるんだねー、シャケンリョウって何だか分かんないけどさ」


 高校1年生では車の維持費の事などは分からないのが普通だ、自動車税は年に1回、車検は大体の場合は2年に1回の割合で受けなければいけない面倒なヤツである。


「灰川さんが車買ったら皆でどっか行こうよー、休みとかぱーっと合わせてさっ」


「それも良いかもな、前向きに考えてみっかなぁ」


 最近は車があったら便利だなと思う事が増えて来た状態だ、アパートから渋谷に行くためにはバスが最も時間効率が良いのだが、自家用車があれば更に良くなる。


 馬路矢場アパートには朋絵や砂遊、アリエルも居るから仕事があった際に事務所がある渋谷に一緒に連れてく事も可能になる。ついでに猫たちも乗せれる。


 その他にもちょっとした気晴らしにドライブも出来るし、離れた所に買い物とかも行けるようにもなる。やはり車があった方が便利そうな感じがした。


「でもなぁ~、車庫証明とか駐車場料金とかどーすっかなぁ~」


「車を買うのって色々あるんだねー、メンドイ感じなんだ」


「そうなんだよ! 田舎とかだったら割と簡単なんだけどよ」


 買おうかどうかとか、買ったら離れた所に遊びに行きたいとか、色々と面倒な手続きとかがあるとか話ながら時間が過ぎて行く。


 どうやら市乃は灰川とアレコレ話して今夜に向けての緊張が解けたようで、気持ちは前向きな形で落ち着く事が出来た。


 もし視聴率が低かったとしても取れる手はあるのだから、まだ心配するには早すぎる段階だ。それに大成功する可能性だって充分にある。


 灰川事務所に来てからも市乃はSNSに三ツ橋エリスのアカウントで宣伝を投稿して、イイネが沢山ついてたし今の所は何の問題も発生してない。


「じゃあ灰川さん、番組見たら感想教えてよねー」


「おう、俺は試写にも行けなかったから楽しみだぞ」


「本当は灰川さんと一緒に見てあげたかったんだけどねー、灰川さんだって可愛い女の子と一緒に見たいって思うもんねー? あははっ」


「じゃあ今度に一緒に皆で見れる機会あったら見るか? 放送は1回じゃないんだし、どうせだったら可愛い女の子はいっぱい居た方が楽しいしな! はははっ」


「可愛いって所を否定しないのが良いねー、皆で見るのも楽しそうかも!」


 そんな話をしつつ市乃は帰宅し、灰川はこの後に来る藤枝と来客を待つ。




「こんばんは……これからよろしくお願いします……、灰川さん……」


「来てくれてありがとう藤枝さん、これからよろしくね」


 5時になり藤枝が事務所に来て、これからの仕事の説明なんかを少しだけした。藤枝に任せる事務仕事は簡単な打ち込み作業くらいだから時間も掛からない。


 だが、こんな時間に藤枝に来てもらったのには訳があり、それは今から来る霊能仕事の依頼客の応対を見せるためである。


 アリエルは今日も佳那美と一緒にレッスンで、今夜は灰川事務所の隣の部屋に宿泊する予定だ。


「藤枝さんって霊能関係の仕事とかって個人でも請け負ってないんだよね、今から霊能依頼の客が来るから一緒に話を聞いて対処しよう」


「……えっと……っ、…その…」


「大丈夫、先方には同席する霊能者が居る事は話してあるからさ」


 藤枝は非常に口数が少ない子で、灰川が先に言葉の端から察した質問に答えて応対する。こうでもしないとコミュニケーションが成り立たない程に言葉を出せない性格なのだ。


 前に会った時と変わらず前髪で両目を隠し、猫背気味に俯きながら話を聞いてる。四楓院家で会った時はもう少しマシだった気がするが、あの時は霊能仕事だったから少し感じが違ったのかも知れない。


 服装は無地の濃いグレーの袖が長いTシャツと、やはり目立たない感じのロングスカートだ。オシャレとかはしておらず、とにかく目立たない事を優先した感じのファッションである。


 灰川は『聞きたい事とかあったら遠慮せず聞いてね』と言うが、やはり凄く小さな声で、返事をするだけだ。


 このままでは本当にコミュニケーション能力が低すぎて将来に影響しかねない、そんなレベルである。

 

「そうだ、折角だから自己紹介しとくよ、俺は灰川誠治、霊能力は感知が苦手だけど陽呪術っていう家に伝わる呪法を使えるんだよ」


「……え………はい…」


 お祓いや除霊などは格安で請け負うけど、灰川事務所としてのビジネスでは正当な報酬をもらってるとかも説明する。


 他にも事務所には妹の砂遊とアリエルという霊能力が有る子が所属してるとか、今までもオカルト仕事はそこそこ受けて来たとかの身の上話なんかもした。


「………………」


「…………」


 灰川の自己紹介が終わり、藤枝が自分の事を話してくれるかなんて思ったが、その気配が無い。


「えっと、藤枝さんは自分の事とか話したくない感じ?」


「……ぁ…ぅぅ……、…はいぃ……」


「あー…大丈夫だよ、霊能の事とかって人に話せないこととかあるの知ってるしさ、無理しないで良いからね」


「……あの……でも……その」


「え? 除霊の時には声を出さなきゃいけない? そういや四楓院さんの時に声出してたもんね、言霊法とか呪言法って感じかぁ」


「……ぅぅ……ぅん……」


「もしかして口寄せ術とか出来る? あ、それは出来ない感じかぁ、俺も超苦手なんだよね」


 どうやら藤枝は霊力を声に乗せて祓いをするような系統の方法を取るようだが、詳しい事は分からない。だが霊の強さに応じて声の大きさは変えなければならないらしい。


 四楓院家のお祓いの時は今までに最も大きな声を出したが、祓うには遠く及ばなかったそうだ。藤枝は霊力は強く感知は得意だが、祓いに関してはそこまで強い能力は発揮できないようだ。


「そろそろ依頼人が来るから、取りあえずは隣に座って話を聞いてて。何か意見とかあったら俺に言ってくれて良いからさ」


「…………」


 藤枝は無言で非常に小さく頷き、そのまま少し待つと依頼者が現れた。


「こんばんは、失礼します。山脇といいます」


「灰川とです、よろしく。こちらへどうぞ、今お茶も出しますので」


「…ぇ…と…、…藤枝…です…」


 事務所に来たのは50代くらいの女性であり、綺麗な感じの服装とアクセサリーを付けた人だ。


 この人物は都内の海外資本高級ホテルの幹部従業員で、ホテルの副支配人の指示で灰川事務所に依頼に来た。そのホテルは四楓院グループの経営ではないのだが、土地関係などの事でやり取りがあるらしい。


 そのやり取りは副支配人が先頭でやってるらしく、その伝手で灰川の事を知ったようだ。


 四楓院家は自分たちの客人も宿泊する事もあるホテルとあって邪険にする訳にもいかず、灰川に紹介して解決してもらおうという話になった。もちろん支配人にも話は通してる。


 直接に副支配人が来なかったのは、今は仕事で海外の本社に行ってるからだそうで、現場の事情なども知ってる幹部従業員を来させたという事情がある。


「それで、どのような事があったんでしょうか?」


「はい、お話いたしますのでお聞きください」


 藤枝は知らない人が目の前に居るからか緊張してる感じだが、灰川は特に変わらず普段通りに話をしていく。


 藤枝は四楓院の事なども知ってるし、霊能関係の事なども隠す必要がないから話を進めるのは楽だ。実は灰川にとって藤枝は割と都合の良い立場に居てくれてる人材でもある。


「私はイギリスに本社があるブリティッシュ・アールホテルという所に勤めているのですが~~……」


 そうして山脇が話し始めた、その内容は最近にホテルで発生するようになった奇妙な現象の話だ。




  高級ホテルの異様な気配


 ブリティッシュ・アールホテルは格式高い英国式ホテルで、千代田区に面した港区の赤坂にある。


 赤坂は政治中枢の永田町から非常に近い事もあって、要人などが宿泊する高級なホテルなども多い。その一つがアールホテルだ。


 ホテルは今まで何人もの要人や旅行客を迎えて、質の良いサービスやアフタヌーンティー、高級な料理などを提供して高い満足度を誇って来た。もちろん内装も高級感がある素晴らしいホテルである。


 しかしここの所、ホテルの最上階である35階のスイートルーム階層が何か不気味な雰囲気が漂ってると言うのだ。


 従業員が清掃をしてると震えが止まらなくなる、スイートルームの宿泊客は居ない筈なのに悲鳴のようなものが聞こえた、異様な匂いがしたが原因が分からない。幽霊が見えると言ってた従業員が体調を激しく崩し、あの階層は絶対に行かないと言ってる。


 などのオカルトを多分に含む異変が起きてるそうで、現状では最上スイートルーム階層である35階に客を入れる事が出来ない状態だとの事だ。何かあったらアールホテルの名折れである。


 しかし2週間後に海外からの要人が最上階のロイヤルスイートの部屋に宿泊するらしく、その予約は何か月も前から入ってたため今さら断れないらしい。


 現状では予約された以上の部屋が用意できないため、至急にお祓いだか除霊が必要だとの事だ。これはホテルの品格と看板にも大きく影響する事である。




「なるほど、分かりました。実際に見てないので何とも言えませんが、とりあえず承ります」


「はい、では明日にでも当ホテルに来て頂いて……あ、すいません、電話が」


 山脇に電話が来てしまい、灰川は藤枝と少しばかり話し込む。


「藤枝さんは明日は学校だよね? じゃあ同行は無理だな」


「…ぁ…ぅ…、…ぇ…っと…」


「学校は単位も今は大丈夫だから行かなくても問題ない? だめだって、これで俺が同行させたら問題になっちゃうって」


「…ん………」


 明日の同行はナシだが依頼の話の聞き方は見せれたはずだ、それだけでも意味がある時間だと思う。


「藤枝さんはどう見る? 俺は山脇さんを霊視したけど、特に呪いとかのモノは見えなかったんだけど」 


「…ぇっと……私も…、…あまり……分からない…」


 藤枝が言うには何かの気配はするのだが、それが何か分からないらしい。幽霊ではないが怪異に似てるけど、それもしっくり来ないという感じだそうだ。


「とりあえずは行ってみるしか無いって感じかぁ」 


「……ん……ぅん……」


「え? もし明日で解決しなかったら、明後日は連れてって欲しい? まぁ、その条件なら良いか、明日に解決しちゃえば良いだけだしね」


 藤枝としても霊能方面では頑張りたいという気持ちがあり、もし明日以降まで掛かるようなら力になると言ってくれた。


 もちろん灰川としては明日に解決するつもりだから、その提案は受けることにした。


 今夜は依頼を聞くだけ聞いて明日に現地に行って調査とお祓いという感じになるだろう、どうやら今夜は皆の出演する新番組が見れそうだ。


「すいません、電話はホテルからでした」


「仕事の電話でしたか、お忙しいんですね。お疲れさまです」


「いえ、その…実は仕事場からの電話ではあったんですが、重ねてお願いしたい事が出来てしまいまして…」


 そこから更に話を聞く事になるが、内容は依頼条件の変更に関する事であった。




「今日のレッスンを終わります、2人とも頑張ったわね。ダンスも演技力も歌も凄く成長してるわよ」


「ありがとうございます先生っ、褒められちゃった! えへへっ」


「コーチっ、今日もありがとうございました!」


 アリエルと佳那美はハッピーリレーの動画撮影スタジオ兼レッスン場でのトレーニングが終わって、後は帰ってゆっくりするだけという状態だ。


 今夜はハッピーリレーやシャイニングゲートの皆が出演する新番組が始まるから、是非とも見たいと思ってワクワクしてる。特に佳那美はエリスやミナミに優しくしてもらってるから楽しみもひとしおだ。


 佳那美とアリエルはハッピーリレーにあるシャワールームで汗を流してから着替える、シャワールームは女性用と男性用があるのだが、それぞれ1個ずつしかないから交互に入ってサラっと汗を流す程度の早浴びである。


「じゃあカナミっ、またレッスン頑張ろうねっ!」


「うんっ! また明日だねアーちゃんっ!」


 こうして今夜のレッスンは終わり、佳那美は母の車に乗って帰宅する。アリエルもハッピーリレーの社屋から出て帰ろうと思ったが、スマホを確認すると家からメッセージが届いてる事に気が付いた。


「ええっ!? 今夜にオカルトのワーク?? これってもう少し先のはずじゃなかったのっ?」


 メッセージの内容は、アーヴァス家も関係のある日本のホテルにオカルトの事件の可能性が高い事象が発生、予定を早めて今夜に解決をしなさいという指示だった。


 この件は一人で解決しろとの指示も同時に出ており、その理由はアリエルは『この程度の事は聖剣の担い手として一人で解決できなければならない』という意味だと解釈する。


 その解釈も間違ってはいないのだが他にも理由はあり、アリエルはMID7で既に幾度も超常存在と戦っており、そろそろ一人で戦えるようにならなければならないという理由もある。


 それと高級ホテルに重要人物が宿泊する予定があったが、その予定が早まる可能性が出た事だ。そのため急遽に祓いが必要になった。


 灰川に協力を要請しない理由としては、アーヴァス家の資本が大きく関わってる所に、信用できるかどうか完全には分かり切ってない者を頼って任せるのはしたくないとかの理由もある。それをしてしまったら聖剣の家系としての権威の失墜すら招きかねない事なのだ。


 アリエルの両親は灰川に協力を要請する事を押したのだが、やはり信用的な問題や体面的な問題で却下となった。それに被害者すら出てない怪現象ならば、アリエルの一人仕事にも丁度良いという判断もある。


 つまり安全度が高くて無理のない祓い仕事だと判断し、しかもアーヴァス家の息が掛かった場所だから丁度良いという事情もある。


「じゃあ準備しないとね、ボクだって兄さんのようには行かないけど、凄いんだって所を見せてやるんだからっ」


 アリエルはまだ9才の子供であり、幼い故の自身の力の過信やプライドの高さも年齢並みにある子だ。

  

 聖剣の担い手としての矜持だって勿論あるし、ファースの力だって強いから大抵のモノは祓える力を持ってる。剣術の加護を受けれなかったとはいえ、実際の現場で剣術が必要になる場合など稀なのだ。


 アリエルは渋谷の部屋に戻って聖剣ファースを収納したケースを持ち、タクシーを呼んで現場に向かう事にする。


 灰川の事務所は電気が消えており、灰川も居なかったためメッセージで『アーヴァス家のミッションがあるから行って来る』とだけ送っておいたのだった。




「ここがブリティッシュ・アールホテルですか、立派な建物ですねぇ~」


「はい、イギリス建築家に依頼して設計してもらい、内装もブリティッシュ様式で統一しております」


 灰川は予約客が来る予定が早まる可能性が出たとの事で、急遽に今夜から仕事に当たる事になってしまった。


 夜遅くになる可能性があるため藤枝は帰宅させ、一人での調査と祓いになる。


 だが、支配人と副支配人が判断して呼んだ別系列の有力者と関りのある灰川と、表に出たがらない秘密主義のメイン出資者が呼んだもう一人の聖剣霊能者とブッキングしてる事は分かってない。


 今の所は何も変な感じはしないが問題の場所は35階だ、そこに行くまでは何があるのか分からない。

 251話は本当は別の内容にするつもりだったんですが、センシティブ内容に寄り過ぎてしまったため書き直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ