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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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233話 バカげた話が時には救いになるかもね

 来苑のマンションに空羽が来たのだが、実はメンバーは市乃と史菜も入っており、マンションの部屋の中には灰川を含めて5人になっていた。


 目的は番組収録や今後の配信についてらしく、テレビ出演レギュラーで配信内容をどうしていくかを話し合う会のようだ。会社は違っても同じ番組に出るのだから、配信などにも双方で気を使わなければならない部分があるらしい。


「来苑先輩のマンションって眺めが良いですねー! 配信ルームも丁度良い広さだし、声とかよくマイクに入りそう!」


「お部屋も綺麗ですし、2DKって広くて良いですね。キッチンも程良い広さで使いやすそうです」


 市乃と史菜は来苑の家に来るのは初めてで、綺麗にされてる部屋を興味深そうに見てる。掃除ロボットなんかもあり、自動食器洗い機なんかもあって家事なんかも少しは楽そうに見える。


 配信業のようなメンタルや環境に成果が左右される事もある業務だと、住む場所なんかも気を使わなければならないようだ。防音がしっかりしつつもマイクに声がしっかり入るよう、音を吸収せずに防音してくれる部屋などが良いのかも知れない。


 来苑は市乃と史菜に部屋を見せてる間に少し席を外し、着替えとかをしてから皆が居るリビングに来たのだった。


「そういや史菜の部屋は広めのワンルームだったよな、収入を考えたらこういう部屋に住んでも良さそうな気がするけどな」


「私のお部屋を覚えてて下さったんですね、嬉しいです灰川さん、ふふっ」


 史菜は灰川と会話するだけで凄く嬉しい気持ちになる、好感度がナチュラルに高いから一緒にいるだけで気分が高揚するのだ。今も灰川が部屋の事を覚えてただけで嬉しくなってる。


 来苑たちはリビングで話し合おうという事になり、椅子が足りないのでソファーに座ったりして雑多な位置で小会議が開かれる事になる。


「最近は私たちの配信って、少しマンネリ気味じゃないかな? もう少し新しい事にチャレンジしても良いかなって思ってるの」


「新しい事ですか? あまりやらないジャンルのゲームやトークという事でしょうか?」


「それなら人気のあるRPGとかストーリーゲームの配信とかですか? 私けっこう得意ですよー」


 皆はそれぞれに得意な配信やゲームジャンルがあり、市乃はアクション系、史菜は最近は格闘ゲーム、空羽はシミュレーションゲーム、来苑はバトルアクションなどだ。


 得意と言ってもそれらは時によって変化するし、基本的には皆が広く浅くゲームをやるから、得意ジャンルに強く偏る事は無い。4人ともRPGやストーリーゲーム配信も普通に出来るし楽しいと思ってる。


 ゲーム配信は自分が喋るタイミングが難しい事があるが、しばらく真面目にやってればゲームのキャラがどのように喋るか等も掴めるので、合間に自分が喋るという方法が鉄板の進行だ。


「自分の配信見返しとか、切り抜きの視聴配信を増やすとかはどうでしょうか? ファンの方達も喜んでくれると思いますし、自分で改善点などに気付けることも多いですよ」


「あれって恥ずかしいよね史菜ちゃん、自分は見返しやってる最中に顔が赤くなってくるっす」


 史菜は自分の配信を見返して自分で動画を作ったりしており、そういった作業を通して欠点や短所に気付く事がある。今でも編集を自分である程度やってるのは、そういった気付きを得るためでもある。


 以前に名前が売れて無い頃に編集作業をして『私って配信で暗い気がします!』『トークの中身が薄いです!』と気が付き、それらを改善していったのだ。


 単に配信を見返すのとは違い、編集しながら細部まで見るからより多くの事に気が付けるらしい。ファンと一緒に配信で見返すと、また別の見方が出来るから短所の改善にも繋がるそうだ。


「最近はVも前と違ったタイプの人が結構出てきてるし、新しい人達に話題性を持ってかれないようにしないとですねー」


「配信でも効果音とかいっぱい付けて勢い重視の人とか、your-tubeのお勧め動画に乗れるようにアルゴリズム予想をして動画を出す人とかも増えてるよね」


 アルゴリズム予想でのお勧めに乗りやすく立ち回ること自体は空羽たちもやって来た事であり、それが今は普通の事になりかけてる。その方法を動画などで出す人も居るから、アルゴリズム予想方式はもう古いという事になりかけてるのだ。


 他にも勢いで面白さや新鮮味を演出して求心力を出すVtuber、視聴者とガチガチに喧嘩する人、○○はこうだった!みたいな時事ネタ乗っかり系など、様々な活動方針がある。


 既に新鮮味を出すのは簡単な事ではなくなっており、動画サイトで収益をこれ以上伸ばすのは難しい状態だ。そこで別の場所に収入の手を伸ばすのがテレビなどの出演であり、そこからテレビCMやコラボ商品とかプロデュース商品などを売り出して、話題と収益を作っていきたいというのが会社の目論見である。


 それが意味するところは『ブームを作る』という事であり、そうするためには話題性は不可欠である。ブームとは金になるが、それは凄い努力だったり、素晴らしい閃きだったり、技術的優位性が必要になって来る。


 努力は皆はしてるし、閃きとかは『閃こう!』と思って出来るもんじゃない、しかし技術的アドバンテージならシャイニングゲートの技術を始めとして幾つかを有してる。


 躍進だ何だと言っても大金が掛かるし個々の努力が不可欠、そこに新規を取り込むムーブもしなければならない、様々な事をやっていかなければ躍進の本質である認知の輪は広がらない。


「そこで私が考えたのは~…」


 空羽が何かを言おうとした瞬間だった、市乃と史菜が何かを感じ取る。


「あれ? なんか変わった香りがしない? 何の匂いだろー」


「くんくん…確かになんだか普段はしない香りがします」


 2人は何か普段と違う香りを感じたのだが、それはすぐに近くにある観葉植物の香りだと気が付く。


 あまり見ないタイプの観葉植物だったから、普段はあまり嗅がない香りがしたのだろう。しかしそういった事情を話す前に。


「えっ!? 自分っ、さっきワキの下しっかり拭いてっ、着替えもしたっすよ! まだワキ匂ってたんですかっっ!?」


 「「え?」」


 まさかの言葉に一同は固まる、その言葉は完全に迫真に迫る焦りが感じられる声であり、演技とかそういうのじゃないのが分かる声だった。


「………」 


「………」


「………」


 まさかの発言だった、来苑は完全に固まってるし、皆もどうしたらいいのか分からないという感じだ。


 しかも灰川の前で口に出してしまったし、皆は来苑が灰川にどのような想いを持ってるか知ってる。


 選択肢としては笑い飛ばして終わりにする、話を少し掘り下げて良い感じに収めるという道があるだろう。第一の選択肢は笑い飛ばしで、最も無難に終わらせられる道だと思う。


 しかしそれは『冗談で済ませられる雰囲気』の場合は非常に有効だが、そうでない時は当事者の傷口を癒せないままになってしまう場合がある。雰囲気が合ってない場合は雰囲気を笑って済ませられる方に誘導しなければならない。


 来苑は目を回してるような感じであり、混乱気味になってる。これは危ない兆候だと空羽が判断した。


「えっと、来苑ってワキの匂いとか気にしてるの? 私は来苑から変な匂いがするとか思った事ないよ」


「そ、そうですよ来苑先輩っ、気にしすぎですよー!」


「私も特に来苑先輩から変わった香りがするとかは感じた事がありませんが」


 今の来苑の状態では話を茶化したり素通りしたりする方がダメージが大きいという共通の認識が女子3人にはあった。それは女の勘とも言えるモノであり、それは当たってる。

 

 しかし男性が居る中、しかも来苑の意中の灰川が居る場において『掘り下げ方式』での場の乗り切りは慎重に事を運ばなければならない。


 その灰川は1人だけ『聞こえなかったフリ方式』を取っていた、これは雰囲気が軽い時は有効な策だが今は場が悪い。聞こえなかったフリが通用する空気感では無かった。


「あ、あのっ!えっとっ! ワキとか匂うとかっ、あははっ、えっとっ!」


 来苑は急激に焦り出す、ここで灰川は大学時代やブラック企業時代に身に着けた特技、気配ゼロモードを発動する。陽キャが近くに居る時とか、嫌な奴が近くに居る時に使う隠密技術だ。


 背景と同化するかのようなレベルで気配を消せる技術、これは特別な事ではない。世の中には結構な割合で日常生活において使える奴が居て、学校などで存在感がないとか言われる奴は大体がこの技術を習得してる。


 灰川のソレは割とレベルが高く、一時的に4人が『灰川さんはトイレに行ってる』というような錯覚を起こさせる。つまり意識の外に置かれる事が出来たという事だ。


 ここから4人はVtuberとしての会話から、女子高生同士としての会話に移ってしまう。その意識の中に灰川の存在は無い。


「来苑ってワキが匂うの? 私はそんなこと思った事ないけど」


「実は私も自分のワキとか気になる時ありますよー、っていうか周りの皆も気にしてるし普通ですってー」


「忠善女子高校だとゴミ箱にウェットティッシュがいっぱいになる時ありますよ、今も少し暑いから気にしてる生徒が多いようです」


「え? えっ? みんな気にしてるんすかっ??」


 空羽も市乃も史菜も揃って『気にしてる』と語る、というかそれは普通の事だと諭す。


 人の目が気になるのは普通の事だし、匂いとかだって同年代は大体は気にしてると3人は言う。


「それは分かってるんだけど…友達とかも気にしてるって言ってるし…。でも自分は本当に匂ってるんじゃないかって気になっちゃうんすよぉ~!」


「その気持ちって分かるな、私も体育の後とかウェットティッシュとかで汗を拭いたりするよ」


「私なんてこの前の体育で1500m走あった時、体育終わった後に頭から水かぶりましたよー、あははっ」


「クラスの子に匂って無い?って聞かれる事ありますけど、大体は思い過ごしですよ来苑先輩」


 4人は人気Vtuberではあるが、同時に女子高生である。灰川が近くに居る事を完全に失念しながら、学校の女子あるあるを普通に話し出す。


 来苑はその空気感に触れて少しづつ落ち着きを取り戻し、皆は更に普段は話さないような学校ネタとか、エチケットネタを話し始めた。


「ブーツとか履いた後って足がヤバくなっちゃいますよね、あれってどーにかなりませんか空羽先輩?」


「ブーツは蒸れちゃうもんね、ストッキングでブーツを履いた時は流石に匂っちゃうかな、ブーツを履く時はデオドラントクリームは必ず持つよ」


「私はブーツは履かないんですが、ハイカットシューズとローファーでも汗はかいちゃいますから、気を付けるようにしてますよ」


「皆はワキより足の方が気になるっすか!? 自分がおかしいんですかね、でも足も気になる時あるっすね」


 性別に関わらず体の匂いについては気にする人は多いし、来苑は過去の事もあって恐怖症に少し近い感情を匂いというものに抱いてた。


 学校の友達とかともその事について話した事があるし、仲の良い友達にはワキの匂いを気にしてる事を打ち明けた事もあった。


 実際に嗅いでもらって『別に何ともないよ』と言われたが、そのくらいでは怖さを克服できない程度には気にしてたのだ。


 来苑は『もし自分が聞かれたら』という主観視点で物を考え、匂ってたとしても本当の事は言えないという疑念が強かったから、何ともないと言われても信じ切れなかった。


 しかしここに来て『気にするのは普通の事』と他校の生徒である皆から言われ、特に変な匂いはしないと言われて安心する心が芽生えて来る。こういう部分はやはり普通の高校生ということなのだろう。


「あんまり気にしてたら恐怖症とかになっちゃいますよー、そんなに気になるんだったら私が確認してあげますって、あははっ」


「じゃあ私も確認してあげちゃおっかな、そしたら配信でれもんのワキの香りは良い匂いって広めちゃおっか? ふふっ」


「ええっ!? 止めて下さいって空羽先輩! そんなんされたら配信でどんな顔したらいいか分かんなくなりますって! ちょ、なんで椅子から立ってるんすか!?」


「じゃあ私も来苑先輩のワキの香り確認しちゃいます♪ どうせ変な香りなんてしないの分かってますから、安心して確認できますよ、ふふふっ」


 市乃と空羽と史菜が来苑ににじり寄る、イタズラっぽい顔を浮かべながら友達に迫る表情は青春真っ盛りの子という感じがする。


 普段は配信ではそういった感じなどは出さない空羽や史菜も、やっぱり青春期を生きる高校生なのだ。才覚が有ろうがそこは同年代と変わらない精神なのが見える。


 このままでは来苑が悪乗りした3人に色々な意味でヤバい感じに確認されてしまう、流石にそれはマズイと思って灰川は気配遮断を解いたのだった。


「ゲホンっ! あ~、喉乾いたなぁ」


 「「!!」」


 ここで3人はこの場に灰川が居たのを思い出す、それ程に灰川の気配消しは完璧だった。


「そうだった! 灰川さん居たんだった!」


「あっ、もしかして…さっきの話、聞いちゃってたかな…? あははっ…」


「灰川さんに私の秘密、聞かれちゃいました♪ これは責任を取って頂かないといけませんねっ」


「聞こえてたけど何とも思わんっての! あと史菜は別にそこまで重大な秘密って訳でもないだろ!」


 恐怖症とは何かしらの原因があってなる場合が多く、図らずしも3人は発症理由の一つとなる『知られたくない事を知られる』という経験をしてしまった。


 その様子を見て来苑は小学校の時に自己臭恐怖症になりかねなかった時のことを思い出し、皆も同じようなハプニングか何かしらの経験をしながら生きてるのだと痛感する。


 気にし過ぎ、誰だって経験するような程度の事、そう思うと来苑の心が軽くなる。恐怖症とは何が原因で発症するか分からないが、何が原因で克服できるかも分からないものである。


 来苑の場合は一緒にVtuber活動をする仲間たちの気遣いだったり、たわいの無いふざけ合いのやり取りが克服の助けとなった。


 以前にだって友達とのこんなやり取りはあったのだが、その時は自分から能動的に聞いた事で、都合の良い答えを期待するという心があったのだろう。今回は偶発的に言ってしまった事が心の向きを変えたのかも知れない。


「聞かれちゃったけど灰川さんなら良いやー、誰かに話すよーなこと灰川さんならしないもんねー」


「灰川さんが居るの忘れちゃったよ、気配を隠すの上手なんだね」


「灰川さん凄いです! 本当に気配が消えちゃってました!」


「うう~…ワキは前より気にならなくなった気がするっすけど、灰川さんに聞かれたの恥ずかしいっすよぉ~!」


「女子高生ってこんな話してんだな、まあ俺も高校の時はモテたいとか友達と話してたし、似たようなもんだわな」 


 男の内輪の話も女の内輪の話も本質は同じだ、あまり異性に聞かれたくないという感じである。しかし4人は『灰川さんに聞かれるなら良いか』みたいに考えてる、そのくらいには信用してるし好意を寄せてるのだ。


「あっ、そういえば前に雑誌で男性が女性の好きな部分に香りと書いてありました。もし灰川さんが私の香りを確認したかったら、いつでも~…」 


「史菜、ストップだぞ、流石にそんな事しないっての! ってか女の子はそういうの嫌がるだろ!」


「うわ~、灰川さん史菜のことクンクンしちゃいたーいって顔に出てるよー? キモーイ」


「なに言っとるんだ!? 仕事の話するんだろ!ぱぱっと話しちゃえって!」


 史菜も礼儀正しく大人しい子に見えるが、最近は何だか大胆さというか、灰川に対しては割と容赦ない感じで仕掛けて来る。こういう一見すると大人しい子が油断ならないのかも知れない。


 それに4人ともネットの上澄みの人間であり、どこか一般的な感性とは違う部分があるのだ。そういう部分も垣間見える時間だった。


 来苑のコンプレックスも完全には解消してないとはいえ、前よりは良くなった。恐怖症とは一気に治る場合もあれば地道に薄れていく事もあるのだ。


 苦手な事や怖いものの克服も青春の一幕なのだろう、彼女たちは青春の時間を生きてるのだ。時には笑って怖さを吹き飛ばすのも良い、箸が転げても面白いと言える時間を是非にも謳歌して欲しいものだ。




「何の話してたっけ? 忘れちゃった」


「私も忘れちゃいましたよ、なんかインパクトある女子トークでしたしねー」


 話は戻って仕事のことを話し合う、さっきは配信のマンネリ化を防ぐために出来そうな事とか、テレビを通してブームを作るにはどうしたら良いかなどの話をしてたのだが、灰川を含めて5人はその話が頭から抜けてしまった。


「とりあえず前も話したように、テレビでは配信より編集点を意識したトークをしてくれって話だな。あとVモデルとはいえカメラを意識した動きとか注意して動いて欲しいって話だ」


「編集点っすか、前にやり方聞いたんで次は上手く行くっすよ!」


「本当の本番は2回目の収録からって話だもんね、台本はあるけど次は前以上に考えて動かないとだね」


「ディレクターさんに言われましたよね、事前に学んだつもりでしたが、まだまだでした」


 編集点とは映像を切ったり繋いだりして編集する際に、編集をしやすく演者が立ち回って作る『編集しやすい部分』である。これを上手くやらないと映像的に見にくい作品になったり、状況が分かり辛い映像になったりする。


 同ポジと呼ばれる同じポジションの映像が続いたりすると映像は陳腐な物になりやすいし、演者の動作の途中で映像を切り替えたりすると中途半端な映像になる。


 これらを防ぐためには何処のカメラに写れば良いかを意識して立ち回ったり、動きっぱなしにならないようにしたり、話をしたりする時は動きを付けるなどして映像の区切りを良く出来るよう対処してるらしい。


 もちろん『何処のカメラに目線を』とかはある程度は合図や台本があるのだが、それを意識した動きを自然にやれるかは別問題だ。慣れなども重要になって来るだろう。


 テレビ番組でよく見る芸能人たちは一見すると自由に動いたり話したりしてるようだが、実は様々な事を考えながら出演してるとディレクターやプロデューサーに説明されたのだ。


 テレビ局スタッフからは『思ったより動けてる』と言われており、それはメディア業界出身のハッピーリレーの花田社長や幹部がVtuberは、テレビではどのように立ち回れば良い編集をしてもらえるかを考えて2社の出演者に教えた結果である。


 その時にも空羽や市乃は『こうした方が良いのでは?』『私はこうしたい』と意見をしっかりと言い、それを踏まえて導き出されたVtuberテレビ出演ムーブ法であった。


 もちろん完璧ではない、花田社長はメディア業界から離れて時間が経ってるし、最新の立ち回りなどは初収録の時に富川Pや広峰(ひろみね)Dに聞いて、そこから更にVのテレビ立ち回り方法の案を磨いた。


「あとよ、番組2回目と3回目の収録は同じ日に一気にやるのは聞いてたと思うけどよ。1回目は完全にVtuberの説明とかに振ってるから実質的には2回目が本番、その時にお祝いの品とかが番組に届くらしい」


「花束とかだよね、どのくらい届くのか分からないけど楽しみだね」


「はい、ハッピーリレーからも出すと仰ってました」


 新番組には花輪とかが送られてくる事があり、初回放送などは華やかな雰囲気になる。しかしnew Age stardomは初回は説明とかに振ってるため、2回目が実質的な本番になるのだ。


 テレビ局での立ち回りは灰川や社長達などが行って、皆の安全は担保が完了した。2社の出演者にはOBTテレビの特別な意味を持つ紫の入構証が渡され、局内では安全が確約されてる。


 他にも局の代表取締役会長、代表取締役社長、専務取締役代表執行役員のテレビ局上位3名から顔を良い意味で覚えてもらえた。コネにも期待できるというものだし、四楓院の力も裏に着く。


 地盤は固めた、これ以上は無いというくらい盤石な地盤だ。


「後は面白い番組を皆で作るだけっすね! 自分も精一杯ガンバりますって!」


「私も気合入って来ましたよー! 目指すは高視聴率!」


「レギュラー陣で登録者が100万人を超えてないのは私だけですから、一層頑張りますっ」


「私もシャイニングゲートのファンの総数を上げるために頑張らなくちゃ、まだやらなくちゃいけない事はいっぱいあるしね」


 地盤は固めた、しかしそれは番組の面白さに直結するものではない。


 面白い物を作って視聴者に提供し、今以上に多くの人の心を掴めるかは演者次第なのである。どんなに優秀なスタッフを揃えようと、素材が悪ければ一級品にはなれないのが現実だ。


 どんなにコネが強かろうが、どんなに後ろ盾が有ろうがテレビ的に使えないものや、番組として面白くないものを作ってしまったら視聴者の心は掴めない。


 そこをどうするか、もしくは既に出来る状態なのかは分からない。次の収録は今の水曜日の祝日、2回目3回目の収録は同日に行って撮り貯めするという方式だ。初回放映は来週の月曜日の22時から23時である。


 その収録の時に灰川は佳那美とアリエルをOBTテレビに連れて行き、顔見知りとなった会長や社長に紹介し、あと富川Pの知り合いのドラマディレクターなどに顔見せさせてもらえる話が付いている。


 花田社長が言うには佳那美は演技はレッスンを通して既に並みの子役を越えるくらいに仕上がってるらしく、アリエルも恐らく大丈夫だと直感したとの事だ。


 つまり灰川は自信を持って2人を売り込めるという訳だ。


「まだ月曜だから、皆それぞれ明後日まで頑張ろうや。来苑は早めに新しいパソコン買えよな」


「そうっすね、灰川さんパソコン貸してくれてありがとうございます! 早く買えるように後でネットで見ておくっすね!」


「えっ? 灰川さん、パソコン貸したって、あのパソコンなのかな?」


「来苑先輩だけズルイ! 私にも使わせてよー!」


「ダメだっての、あのパソコンの本領使って配信したら、普通の配信に戻れなくなっちまうかもだぞ」


 そんなやり取りをしつつ、その日はお開きとなったのであった。結局は本題の話はあまり出来なかったが、こういう話し合いなんかも仲を深めるためには良い筈だ。


 今週の水曜日は本当に本番という感じになるだろう、メイン出演者である4人もゲスト出演者も多数がテレビ局に行く事になる。


 収録も放送も上手く行くよう頑張ろうと皆で約束し、来苑の部屋から出て千代田区から渋谷駅に行って市乃と史菜と空羽が、タクシーに乗る所を見送ってから灰川も事務所に戻るのだった。


 今週からは事務所で寝泊まりする機会も増える、アリエルが事務所の横の部屋で暮らすからだ。そこら辺も加味しつつの生活となっていくだろう。

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