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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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213話 軍艦での再会

 翌日の夕方、灰川はタナカの運転する車に乗って移動していた。


 タナカが事務所に来て事情を聞いて依頼を受け、車に乗って今は晴海埠頭に向かってる。


 灰川が聞かされた話は、免罪符のヴァンパイアを捕縛した時に会った聖剣の男の子が呪いに掛けられてる可能性が高いため、可能なら解決して欲しいというものだ。


 聖剣の子はやはり本国に戻る事が出来ず、大きな問題に発展しそうな状況だそうだ。それほどまでに一般社会の水面下にある聖剣という存在は大きなものらしく、もし力が失われたら大問題どころの話じゃないらしい。


 幸いにして聖剣自体は一振りではなく幾つかあるようなので、MID7の超常存在への戦力はダウンしてるものの、様々な理由で今は被害問題にはなってないそうだ。


 しかし被害がないとはいえ、それは今現在の話である。聖剣が一つ失われる事によって将来的に大きな被害が出るかもしれない、それは何としてでも避けたいのだ。他にも権力的な問題もあるらしく、厄介な事になりかけてる。




 晴海埠頭は東京都中央区にある港湾施設群であり、漁船や一般輸送船はもちろん、自衛隊や海外の軍隊の船も出たり入ったりする国際貿易港である。


 東京の海の玄関とも言われる重要な場所で、展望台や公園などの観光施設も充実しており、ショッピングモールなどもある人気スポットの一つ。


 その港湾の立ち入り禁止になってる場所に入っていく、警備をしてる人などが居るがタナカに渡された関係者証を見せたら入る事が出来た。


「あそこにある船に依頼者が居るからよ、荷物もそのままで良いからな」


「あ、あれって軍艦!? ちょっ、俺の荷物は本当に大丈夫なんすよねっ!?」


「大丈夫だ、ちゃんと裏から許可は取ってあるからよ」


 タナカは半袖シャツというラフな格好だが、何かネイビーファッション的な感じがするシャツとズボンだ。筋肉質なタナカに良く似合ってる。


 灰川は仕事終わりのくたびれた感じのスーツ姿で、いかにも頼りない感じが染み出てる。だが格好は関係ない、依頼が自分にこなせるかどうか見て、やれそうだったら受けるだけだ。


 2人の目の前にあるのは外国籍の軍艦で、砲塔やレーダー、対空防衛システムと思われるバルカンファランクスが見える。


「そもそも入って大丈夫なんすか…? 下手すりゃ国際問題って可能性も…」


「大丈夫だ、許可は取ってるんだから堂々としておけ誠治」


 乗船口が開かれて船の中に乗り込むと、思ったよりも船内は広く、快適とは言えないまでも船内生活は想像するより窮屈そうな感じはしない。


 内部に入ると見覚えのある男と出会う、0番スタジオで会ったジャックという男だが、今は戦闘服は着ておらず軍人っぽいズボンとシャツを着用していた。


「こんにちは、ジャックです。ジャパンの挨拶はこうで良かったかい?」


「灰川です、先日は俺やタナカさんとサイトウさんに銃と剣を向けて頂きありがとうございます」


 「「…………」」


 まさかの嫌味を返してジャックとタナカが驚いた顔をするが、灰川としてはこの程度は言ってやらないと気が収まらなかったのだ。アレは流石に怖かったし、いま思うと普通に怒りが湧いてくる。


 もしこれが1対1の対面だったら言えなかったかもしれないし、周囲に外国軍人が居たら怖くて言えなかったかもしれない。灰川はそこまでして嫌味を言う勇気はない小心者だ。


 彼らは悪い連中じゃなく、人々を助ける頼もしい存在だというのは分かるが、この程度は言っておかないと腹の虫が収まらなかった。


「ハハハッ、気に入ったぞミスターハイカワ、俺たち超常存在に対抗する奴はそのくらいの意気がなくちゃな」


「ちょ、握手が痛いですって!」


「ああ、すまん。以前は悪かった、こちらも余裕が無かった事は分かって欲しい。まさか君が連れて来られるとは思わなかった、こちらに来てくれ」


「ジャック、話は一通りは話してある、誠治はとても強い霊力を持った霊能者だ、まずは話を聞くのが良いだろう」


「分かった、急に呼び出してすまないミスターハイカワ、ぜひ力になって欲しい」 


 船の中を歩いて奥の方に行く、どうやら現在はこの艦は作戦行動中ではなく休息中のようで、乗員の半数が街に出て休息を楽しんでるようだ。そんな艦の中を歩きながら、ジャックに艦の説明をされる。


 47型ガルホエール級駆逐艦アロナック、種別はミサイル駆逐艦とかだそうで、全長は150mで兵装も光学機器も電子戦対抗手段も最新鋭の物が積まれた凄い艦らしい。


 哨戒ヘリコプターも1機搭載できるのだが、残念ながら乗せてもらえそうになさそうだ。


 乗員は最大で230名だそうで、普段の運用に際しては最大人数は乗って無いそうだ。これらの情報は少し調べると出て来るから、特に機密とかではないとの事だ。


 海兵隊員の練度維持や乗員の運動のためのフィットネスルームがあったり、ティールームがあったり、意外と居住性は悪くなさそうだと感じる。


「MID7の人達って本拠地は戦艦なんですか? だとしたらスゲェなぁ…」


「いや、ちょっと訳アリでな。そろそろ着くが、きちんと見て対処できるかどうか教えてくれ、ミスターハイカワ」


 どうやら聖剣の子は士官用の個室をあてがわれてるようだ、MID7は特別扱いなのかもしれない。下士官以下は2人部屋が基本だそうだが、ジャックが言うには潜水艦の激狭い6人部屋と比べれば天国らしい。 


 ジャックがノックしてドアを開け、灰川とタナカも室内に入ると、中には見覚えのある男の子が居た。前に剣を向けてくれやがった子供だ。


「えっ……? あ…こんにちは……」


「こんにちは、凄い所に住んでるんですね」


「い、いえっ、ここはMID7の関係で住まわせてもらってるだけでして…」


 目の覚めるような綺麗な金髪の青眼の男の子、この年齢で既に容姿端麗、将来は映画俳優か1流男性モデルか、そんな感想を持ってしまう。


 服装も白いズボンと白と青のラインが入ったロングスーツ、とても品のある装いである。この服で戦うのか?なんて思ってしまうくらい綺麗だ。


 少し間違えば中二病みたいな服なのに、きちんと着こなして嫌味な感じがない。こういう服って似合う奴には似合うんだな~とか、灰川は思ってしまう。


「灰川誠治です、日本語は大丈夫ですか?」


「はい、本国でしっかり学びましたので、大丈夫だと思います。アリエル・アーヴァスです、ミドルネームは長いので省略させて下さい」


「じゃあアリエルさんで良いですか? 本日は母国に帰れないという相談のようですが」


「えっと…はい…、帰国しようとするとトラブルが起きたり、ボクか聖剣の調子が悪くなったりで~~……」


 4人で入ると流石に狭い駆逐艦の士官部屋の中でアリエルに事務的に話を聞いていく、灰川としては『あの時はよくも刃物を向けてくれやがったな!』と思わないでもないが、依頼なのだからしっかりと聞いた。


 内容は母国に帰れないこと、聖剣にエネルギーを充填しないと力を失う事などが話された。


 身の上などは聞かず、どのような問題が発生してるかを聞いてメモに取っていく。




「やっぱり呪われてますね、矛盾の呪いです。国に帰れない呪い、解呪のためには国に帰らなければならないという、厄介な矛盾を抱えた呪いです」 


「そんなっ! ボクは聖剣のっ…!」


「聖剣は凄いんだと思いますけど、呪いだって現代では進化してます。それは念頭に置いておくべきだと思いますよ」


 灰川は聖剣を向けられた時に確かに強い霊力を感じた、大概の超常的な存在ならアレに斬られたらお終いだと感じた。


「あの聖剣とアリエルさんだけど、確かに呪いや怪現象への抵抗力は最強レベルだと思います。でもアップグレードが間に合ってなかったようですね」


「え……?」


「つまり情報不足という事ですね、最新の呪術に先手で対応してなかったという事です。多分ですが、個人専用呪術を使われたのではないですか?」


「………!!」


 個人専用呪術、読んで字のごとく特定個人にしか効果が無い、特定個人を呪うためだけに用意され、儀式や形式を作られた呪術だ。 


 特定個人への効果しか考えてなく、他に使われる事もないから呪いの力の分散もない、故に効果は高く様々な呪いの力を個人に及ぼす。


 しかし大きな欠点があり、それは用意すること自体が困難という点だ。個人や家を深く観察して調査して適切な呪いを研究し、効果の高い儀式や呪具を用意して初めて高い効果を発揮する個人専用呪術が完成する。


 真似事では駄目だ、杜撰(ずさん)な調査とケチった道具、いい加減な儀式では効果も意味も無い。かなり熟練した者が行わなければならないし、簡単に出来る事ではない。


「そもそも矛盾の呪いを掛けれる時点で手練れです、簡単には尻尾を掴めないでしょう。俺の推理が当たってればの話ですがね」


「個人専用呪術か…その線も考えたが、グレッグ神父は感知できなかった。それはどういう事なんだ? ミスターハイカワの意見を聞きたい」


 ジャックが言うにはグレッグ神父は手練れであり、呪いの感知は最高峰の腕前だと言う。


 グレッグ神父は0番スタジオで銃を向けて来た人物で、やはり強い霊力は感じたのを灰川は覚えてる。


「巧妙に隠されてますからね、簡単には分からないでしょう。ですが多分、グレッグ神父には殊更(ことさら)に気付かれないよう呪術が組まれてるんだと思います」


「…なるほど、アリエルの周囲の要注意人物には更に気を付けて専用呪術を作ったって事か」


「この呪いは1人や2人で掛けられるような呪いじゃないですね、数十人単位で長く準備したんでしょう」


「だ、誰が何のためにボクにそんな事をっ…!」


 これを聞いて黙ってられないのが呪いを掛けられた張本人だ、アリエルは意味が分からないといった風に取り乱す。

 

「聖剣を疎んじる奴らの仕業だろうな…ミスターハイカワ、本当にアリエルは呪われてるのか?」


「呪われてますね、俺は呪いが視覚的に見えるから気付きましたが、こんなの余程の事が無い限り気付きません。もっとも時間が経てば疑いから精査して気付いたと思いますが」


「スオード家の奴らかっ…! それとも悪魔信仰教会の奴らかっ! ボクにそんな呪いを掛けるなんてっ…くそぉ…!」


 聖剣を邪魔に思う者達は多く、簡単には絞り込めない。しかし灰川としてはどうだって良い、犯人捜しは灰川には無理な話だ。


「ところで聖剣を見せてくれませんか? そちらも調べれば何か分かるかも知れないので」


「ファースを? 誰かも知らない人に聖剣を見させるのは……」


「アリエル、そのために来てもらったんだ。聖剣を見せなさい、これ以上は失礼に当たるぞ」


「わ…わかりました…」


 聖剣は家宝であり魂のようなもの、おいそれと他人に見せたくないようだ。しかも現状で『これ以上何かあったら…』というナーバスな気持ちになってるから、渡したくない気持ちは強いのだろう。


 ジャックに調査のためだと言われアリエルは渋々だが了承し、箱型のケースから剣を取り出す。


「綺麗な剣ですね、白い飾り鞘に刀身も白なんですね、前は気付かなかったなぁ」


「ファースは鞘も剣本体も特別製ですよ、どっちもアーヴァス家の秘伝です」


 聖剣は模造品だが凄い物で、どうやら聖剣を持つ家は模造聖剣を作る秘伝製法があるらしい。刀身も鞘も特別な素材であるらしく、分かるのは鞘に付けられた立派な宝石は高価そうだという事くらいだ。


「やっぱり剣も呪いが掛けられてますね、呪念モヤが見えます。誰かが触った時か、何かを斬った時に呪いが掛かったんでしょう。あるいは複数の要因なのか分かりませんが」


「そうか…ありがとうミスターハイカワ、それで解決は出来そうか聞かせて欲しい。このままじゃアリエルは本国に戻れない、もちろん聖剣もだ」


「もう少し調べさせてください、なるほど…呪いの構造は原初型に現代型と変化型を混ぜたものか…、解呪のリスクは~~……」


 灰川は複雑かつ巧妙に練られ、多くの人が関わったであろう呪術を紐解いていく、そこから結論をしっかりと導いていった。




「結論から言います、解呪には長い時間が掛かります、数年は見ますね」


「!!? そんなっ! 時間が掛かり過ぎだっ…!」


「その理由について説明します」


 調べた結果、この呪いは現代型に重きを置いた複合型呪術で、複雑な構成と隠匿、簡単に解呪されないよう対策された巧妙な呪いだった。


「あくまで自分の見解というだけで、もっと早く解ける人も居るかもしれません」


「そうか…だが他を当たるにしたってもう一つの問題がな……」


「剣への霊力の充填に関してですが、そちらは対応が出来ます」 


 「「!!」」


 もう一つの問題は聖剣へのエネルギー補給問題だが、そちらは何とか出来る算段が灰川にはあった。


「日本にも地脈のパワースポットがあるんですが、そこの力を使えばパワーが充填出来ます」


「やった! それなら聖剣の力が失われなくて済むっ!」


「でも問題があります、これだけの強い複合地脈エネルギーを充填できるスポットは俺は知らないので、残りは人力で充填する必要があります」


「五行思想という奴か…聖剣も当てはめる事が出来るんだな」


「木、火、土の気は充填出来ますが、金、水のエネルギーが不足します。っていうか木、火、土のエネルギーも地脈からだと足りなくなるな…他にも西洋のオカルト思想の力も欲しいみたいだし」


 五行思想だけでは不十分で他にも要素が必要になり、簡単ではないが。


「俺なら条件が揃えば霊力を変化させて込められます、ここから先はアリエルさんとジャックさんが相談して決めて下さい」


 灰川はそう言って判断を待つ、頼むかどうかは灰川が決める事じゃない。


 アリエルとジャックは2人で相談するために灰川とタナカは一旦、艦の廊下に出て待つ事にした。




「誠治、本当に出来るのか? お前を疑う訳じゃないが、聖剣のエネルギー充填なんて簡単じゃないだろう」


 タナカは国家超常対処局員として様々な情報を得ており、実はアリエルの聖剣ファースに関する情報も少しは分かってる。


 厳重な警備を施された地脈エネルギーの湧き出る場所の上に建てられた個人所有の教会、アーヴァス聖堂にて聖剣の整備やパワー補給を行わなければならない。


 アーヴァス聖堂のエネルギーの力は非常に強く、簡単に代えは利かないのだ。その上で霊力の変換は高度な霊能技術であり、多くの精神力を消耗する事が多い。


「出来ますよ、霊力変換はメッチャ練習しましたし、今までだってスポーツ陽呪術って体系で霊力変換は使って来ましたから」


「そうか、まぁアイツらが頼むかどうかは別問題だが、出来るならそれに越した事は無いさ」


「でも他の条件にあの人達が頷くかどうかも問題ですよ、パワースポットの場所がアレですからね」


 灰川は親戚の灰島勝機の父からスポーツ陽呪術を受け継いでおり、その時に霊力変換術も叩き込まれた。今は様々な質に変換でき、桜の瞳術を真似た時なども使ってる。


「ただ…あんなに呪いへの抵抗力が強いのに呪われるなんて、確かに不自然ですよ。いくら数十人単位で呪ったとしても、簡単には掛からないはずですって」


「そうなると、あの子に匹敵する力を持った誰かが呪いに関与してるって事か?」


「かも知れません、それによく調べたら呪いからは邪念が感じられなかったんです。邪念でしか発動しない類の呪いなのに…」


 邪念がある筈なのに無い、それは邪念を消せる何らかの手段があるとしか思えない性質の何かを感じた。


 そしてアリエルからも同じような感覚を感じた、邪念と呼べるモノが全く無いのだ。人間である以上は多かれ少なかれ邪念は付き物だ、それなのに無い。


「聖剣の担い手の特徴なのかもしれんな、邪念が邪念としてカウントされない性質を持った人間、それが聖剣の所持者の資格なのかもな」


「だとしたら…呪いを掛けたのは他の聖剣の所有者…? でも…あの感じは……」


 段々と一件の裏側が見えてくる、アリエルの聖剣を邪魔に思う他の聖剣の所有者か家、もしくは何処かの組織が免罪符のヴァンパイアの事件を利用か企てて呪いを掛けた。


 政治的な意図が見えない所で動いてる、詳しい事は分からないが、聖剣ファースの力を失わせてアーヴァス家の力を削ぐという考えが見え隠れする。


「まあ、俺としてはどうでも良いっすね、そんな政争みたいなもんは首を突っ込みたくないし」


「そうだな、俺としてもヨーロッパの機関の問題なんて関与できん。向こうだって日本には関与できんから俺らは無関係と言い張れるさ」


 その後は話がまとまったらしく、また士官部屋の中に入って話を詰める事になった。




「聖剣の力が失われるまであと3日なんだが、ミスターハイカワはそれまでにどうにか出来るか?」


「出来ますよ、呪いを解くのは長期間になりますけど、聖剣パワーの充填なら良い場所を知ってるし、足りない要素は俺の霊力変換での充填で対応できます」


「分かった、とりあえずは充填の方を頼めないだろうか? 依頼料に関しては言い値を出す」


 依頼料は好きに請求しろと言われ、灰川は少しだけどうするべきか考える。


 昨日に三檜に物事の責任という物について考えさせられたが、やはりオカルトに関しては多額の報酬は受け取りたくないと考えた。


「一回の解呪施術につき5000円です、聖剣のパワーの充填についても1回につき5000円で請け負いましょう」


 「「5000円!? 40ポンドってこと!?」」


「おい誠治! 安すぎだぞ! アーヴァス家の聖剣のエネルギー補給なんて1回で1000万を取ったって文句は言われないことだ!」


「何か裏があるのかミスターハイカワ? MID7からもアーヴァス家からも金を引っ張れる状況なんだぞ?」


「40ポンドなんて安すぎる! アーヴァス家と聖剣ファースをバカにしてるのかっ~!」


 3人とも驚いたり疑ったり怒ったり、それぞれの反応を見せる。


 金欲に溺れるのが怖いから、霊能力で儲けるのは危険だからという考えもある。しかし今回は別の気持ちがあった。


「なら、払うべきだと思った残りの金額は募金でもして下さい、俺はこの件に関してそれ以上の報酬を受け取る気はありません」


「募金? 自分は善人だと示したいからか? だったら報酬を受け取ってから自分の名義で寄付すれば良いだろう?」


「それは無理です、俺は金を前にしたら欲に目が眩んで、寄付とか出来なくなる自信がありますから」


 金を手にして人が変わるなんてありふれた話だ、何千万円も前にして『自由にしろ』と言われ、そっくりそのまま寄付が出来る人間なんて限られると思う。


 灰川だって例外じゃない、しかも霊能力で稼いだ金で贅沢なんてしたら、霊能力が濁るという確信が最近は強まってる。


 コンサルタント名目の仕事で得た金と霊能力の依頼で得た金、物は同じでも何か質が違うのだ。霊能力で得た金は霊能力を濁らせるナニカがある、少なくとも灰川にとってはそれが現実だ。


 もちろん金を持っても欲に溺れない立派な人が居るのは灰川も分かる、しかし自分の精神はその域に達してないと判断してる。特に霊能力で得る多額の金銭は鬼門としか思えない。


「それにMID7とアーヴァス家という家は、タナカさんとかと同じように霊能力で人の助けになってる立派な人達なんでしょう? だったら俺に払うはずだった金を使って、一人でも多くの人の助けになって欲しいんです」


 灰川は世に知られてない怪異や超常現象がどれほど危険なのか、最近は更に身に染みて理解していた。


 それらの存在から人知れず人々を助ける人達を灰川は尊敬してる。もちろん彼らにだって裏はあるのは分かるが、それでもなくてはならない存在だと強く感じてるのだ。


「この聖剣は今まで多くの人を助けて来た剣だというのが分かります、そんな立派な剣と、それを振るう人、誰かを助けるための機関から多額の金を取りたくないというのもあります」


「…君が思うほど俺たちは立派じゃない、金で動く奴も居るしコソコソと利己的な政争に忙しい奴も居る。今回だってヴァンパイアを日本に入れさせてしまった」


「そうかもしれません、ですが俺だって立派な人間じゃないんです。金が入ればきっと高圧的になったりロクでもない使い方をします、だったら最初から良い使い方をしてくれた方が良いですよ」


 募金に回せと言ったが別に強制じゃない、やるかやらないかは彼らの自由だ。問題の本質はそこじゃなく、霊能力で多額の金銭を受け取らないというのは灰川の自己防衛なのだ。


「それに今回の件は時間は掛かるけど解呪に問題はなさそうだし、聖剣の充填も俺からすれば大して難しい事でもないんですよ」


「言うじゃないかミスターハイカワ、それが本当だとしたら凄すぎる事だぞ」


「ボクもミスターハイカワは悪い人じゃないとは思いますが、本当に聖剣にエネルギーを補給できるかは不安があります」


 ジャックとアリエルは流石に全てを信用できる状態ではない、料金も胡散臭いし灰川の霊能力の詳細だって見てないから無理もないだろう。


 話すより実際にパワーを充填して見せた方が早いが、失敗も怖いため少し事前にどのような霊能力なのかを見せるという話になる、しかし、ここで問題が発生した。


『Captain orders all hands, unexplained anomaly, all hands except some to leave the ship.』


 艦内に放送が掛かり乗組員に何かが英語で告げられる、灰川には何を言ってるのか分からなかったが、タナカたちには聞き取れている。


 その放送は普通だったら絶対に掛からない内容であり、日本語訳すると『艦長から総員に命令、不可解な異常発生、一部の者以外は総員退艦せよ』という内容であった。


 47型ガルホエール級駆逐艦アロナック、この艦は軍隊の所属だが今はMID7が手を回して使用しており、艦長にはジャックから特定の異常が発生した場合は問答無用で退艦命令を出すように言っていたのだ。


「この船を宿舎にしてる理由は幾つかあってな…入国申請をせず裏から話を通して日本に入ってるから、ホテルなどを使えないという理由が一つだ」 


「MID7はそういう部分は意外と融通が利かないのか、まあ緊急で来たんだろうしな」


 彼らは免罪符のヴァンパイアを追って緊急で日本に来たため、正式な手続きをしておらず公共サービスが受けにくい立場だそうだ。そこはもうすぐ本部が裏で話をして解決されるらしい。


「それと駆逐艦アロナックは現在、怪現象に遭遇してる状態なんだ…それが出てしまったらしい。すまないがタナカ、ミスターハイカワ、ご協力を願えないだろうか…?」


 どうやらこの艦は何らかのオカルトトラブルを抱えてるらしく、日本に残ったMID7の2人にどうにかする命令が出て、この艦に乗ってるらしい。


 しかしジャックとアリエルだけでは解決できない何かで、援軍も呼べる状況じゃないらしく、どうすべきか悩んでた。しかももしかしたら今回の件の延長線上にある怪現象かもしれないとの事だ。


 考えてみれば日本に来てた本国の軍艦で、都合よく問題が発生だなんて何かあると思っても不自然じゃない。


 まだ関係性があるか分からないが、タナカと灰川も対処に動く事にして荷物を持ち直す。

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