202話 TCGとオカルトの類似性
都市伝説のような紫鏡の呪いなんて本来なら実在しないが、ごく稀に現実のものになってしまう場合がある。それは祟りという形による場合だ。
祟りとは様々な形で降りかかる物であり、悪霊に取り憑かれる、運気が低下して不幸な目に遭う、呪いが掛けられるなど様々だ。
呪いとは大概は何らかの条件が必要になる。何らかの儀式が必要、呪いを掛けた相手が何らかの呪い発動条件を満たす、他にもあるが大体こんな感じである。
一定以上の憎悪や嫉妬を抱くだったり、何らかの利害関係が元になるとか、呪いを掛ける相手と直接的か間接的な関係性も条件に入れても良いかもしれない。
「今回の呪いは人間からの物ではなく、神社という領域に定められた何らかのルールか条件に触れてしまったからと考えられます」
「あ、あの…それはどういった物なんでしょうか? 流石に信じられないと言いますか…息子の京一は健康ですし」
歩きながら灰川は霊視を続けて探りを入れ、掛けられた呪いを逆から辿って条件などを調べる。
かなり厄介な呪いだ、解呪防止のための呪いの元の特定の攪乱や、解呪のために必要な段階プロセスが複雑であり、一つ一つの条件も厄介で解呪に対するプロテクトが非常に強い。
これが意味する事は偶発的な解呪の可能性が限りなく低く、お祓いなどでも簡単には祓えないという事である。つまり掛けられたら終わりの呪いという事だ。
権典神社、この神社の秘匿性も解呪不能の理由に一役買ってる。お祓いを頼んだ霊媒師には言えない場所だろうから、呪いの元を簡単には明かせないため特定に時間が掛かるだろう。
見知ってた事例と重なる部分が多く、今回は偶然が重なって特定に至った。
「昔に紫の水鏡と呼ばれる現象があったんです、その時の事を説明しますね」
灰川家の昔の文書に残されてた今回の類似例を説明し始めた。
紫の水鏡
今から100年以上も前に当時の灰川家の人物であった灰川剛太郎が、知り合いの兼業霊能者に力を貸してくれと言われて離れた町にお祓いの手伝いに行った。
その街である時から妙な現象が発生した、20歳の誕生日を迎えた者が急死するという現象だ。亡くなった者達は「紫色の水溜りを見た」と言っており、そこを重点的に剛太郎たちは捜査を開始。
色々と調べていくと街の外れにある廃神社にある小さな泉が関係してると判明、その泉に関係した者が20歳になった瞬間に死亡するという呪いを受けてた事も判明する。
その条件は非常に分かり辛く、条件を満たした場合は残された家族や血縁者は長く繫栄するという効果があったらしい。
条件1・20歳になる1か月以内に空が紫色の状態で泉に来て、泉が空の色を映して紫色になってる状態で自分の顔を見る。
条件2・一定以上の恨みを買っておらず、生まれてから寺社仏閣への参拝も10回以上してない。
その他にも条件があり、呪いを解くにも様々な条件があったらしく、呪いを受けていた残りの一人の解呪も難航したそうだ。その年は呪いを受ける条件を満たす行為を満たしやすい年だったらしい。
「呪いを解く際に多くのお札が必要になったそうで、様々な呪術的効果を付与して使用したと聞いてます」
「それで…なぜトレーディングカードの店に行くんですか…? 流石に納得が…」
「今から夜までに様々な効果を持たせた大量のお札は用意できません、なので最初から用意された様々な効果が記述されたお札に呪術的意味を持たせて祓いに使用します」
灰川が小学生の頃、学校でカードゲームが流行った事があった。版権、オリジナル問わず様々なモンスターや魔法使い、ロボットや勇者を戦わせるカードゲームだ。
TCG、トレーディングカードゲームとはカードに様々な効果記述がされており、ゲームは効果を使ったりしながらルールに則って進行する。
これはある意味ではオカルト儀式に似てる部分があり、○○をしたから○○効果が発生というように、機序や形式に呪術的要素が嚙み合いやすい事を灰川は小学校の時に知ったのだ。
小学校で友達とカードで遊んでると、友達が発してた少し悪い気が消えてたのだ。何故かと思って霊視したら無意識に自分が霊力をゲームに乗せており、そのような効果があると発見したのである。
世の中の全ては大体は○○が原因で○○になるという感じではあるが、TCGの世界では現実には起こり得ない効果が様々に発揮され、ルールに則って処理される。そういう部分が似てる。
つまりカードゲームは呪術や降霊術などにも応用可能という事である。
「複雑な機序が必要なのに時間が無い時に使える方法なんです、この解呪法が使える人は限られますがね」
「な、なるほど……」
名付けるならばTCG霊術とでも言うんだろうか、カードやゲームそのものに霊力を付与し、パズルのように段階を踏んで効果を発動させる。
ゲームをしながらカードの持つ効果を霊力で解呪に発揮させ、カード自体を霊的なお札として用いるお祓い方法だ。
しかし欠点がある、並大抵の霊能者では霊力が足りずに十全にお祓いが出来ない、変なデッキを組んだら逆に呪いが掛かったり強まったりする可能性がある。
普通だったらこんなお祓い法は使わないが、今回は時間や条件を考えてもこれしか思い浮かばないから実行する。それに灰川の霊能力であれば何かあっても対処可能だ。
「昔からカードというのはオカルトと結びつきがあるんです、お札だって英語で言えばカードですしね、ちょっと無理やりですけど」
「タロットカードとかですか…私には少し分からない世界ですが…」
実際には神社などのお札はan amuleであり間違ってる、しかし物としてはカードのような感じがしないでもない。
タロットカード以外にもスピリチュアルカードとかオラクルカードとか様々で、カードは世界中の霊能者や占い師がオカルトに用いて来た歴史がある。
本質が同じなら現代のTCGもお祓いや除霊に使用可能だ、もちろん霊能者によって向き不向きがあり、灰川はそれに対応してるという事である。
「信じるか信じないかはご勝手ですが、金名刺を持ってるんだから信じた事にはしてくれますよね? じゃあ行きますか」
「「「…………」」」
有無を言わさず権力でねじ伏せる、彼らが散々にやってきた方法だ。
何万円かのカードを買う事にはなるが、上級国民の彼らなら端金の金額である。
「あの、すいません。息子が死ぬというのは流石に納得が……」
「灰川さんが凄い方だとは聞き及んでますが、これはちょっと強引と言いますか…」
こんな話をいきなりされたら普通は信じられない、相手がどんな権力を持ってようが信じられるかどうかは別問題だ。
「じゃあ少し待ってて下さい」
灰川は立ち止まってテレビ局の外の広場の隅で電話を掛ける、相手は。
「お忙しい中すみません陣伍さん、緊急なので少しだけお時間よろしいでしょうか?」
『おお、どうされました灰川大先生? 何やらお困りの事がおありですかな?』
「「「!!!!」」」
灰川は四楓院家の現当主、四楓院 陣伍に連絡を取った。それを聞いてOBTテレビ取締役3名の顔が凍り付く。
簡単に連絡を取れる仲、当たり前に話す間柄、本当に信頼された大客人なのか!と、今まで実感が持ててなかったものが急速に浮き上がってくる。
自分たちはこちらから電話など滅多に出来る事じゃない、もし総会長に連絡を取ろうと思ったら四楓院家の窓口を通してアポを取り、本人ではない連絡係の電話に掛けて通話しないといけないのだ。
もし向こうから掛かってきた場合は生きた心地がしない、何故なら四楓院家からの電話で先々代OBTテレビ取締役会長は解任を伝えられ、その他にも四楓院のマイナスになるような事をした役員は下ろされた。
天下のOBTテレビ上層部ですら雲の上の存在、政治家だって簡単に動かせる資産家であり投資家、その気になれば敵対的買収をされて役員はすげ替えなんて事になりかねない家なのだ。
そんな家の総会長であり、彼らにとって恐ろしい存在である四楓院 陣伍総会長に直で電話を掛ける。彼らにとっては有り得ない事だった。
「OBTテレビ上層部の方の息子さんが呪いに掛けられました、今夜がタイムリミットです。どうか俺のことを信じてくれるよう口添えをして頂けませんか?」
『おや…そのような事でしたか…。OBTには金名刺名簿を配っている筈ですがの…嘆かわしい事ですな』
通話はスピーカーモードになっており、この言葉は3人と富川Pにも聞こえてる。役員たち顔が真っ青になった。
その間も通話は続いており、事の説明をしていく。
『権典神社の影響ですか、なるほど…今度の灰川先生にも権典神社の事はお話する予定でしたが、知らされたなら話は早いですな』
「陣伍さん、神主さんに伝えて欲しい事があります。紫の水に20歳の誕生日を1か月以内に控えてる子供を持ってる人を、同じ読みの名前を持つ人を3人を揃えた状態で近づけさせないで下さいと伝えて下さい」
『それは何故ですかな?』
「益呪が害呪に……利益のある呪いが害のある呪いに変わる条件の一つのようです。呪いというのは何が引き金になるか分からないので、今まで判明しなかったようですね」
権典神社は神聖を犯すなどの要因で呪いの解析などは関係者は出来ないと思われ、今回の発動トリガーも解析されてなかったようだ。
四楓院家も神社に何かしら関係してるのかも知れないが、そこら辺を探る気にはなれない。今は目の前の事が重要だ。
他にも神社の霊力が強くなり過ぎてるから霊力調整の御札を、効力や位置をしっかり意識して結界を作るよう伝えておいてくれとかも言っておく。
「あとすいません、5万円ほど貸して頂けないでしょうか? 今回のお祓いには少しお金が必要なんですが、持ち合わせがなくって~」
『ほう…和藤がお祓いに掛かる金を出し渋ってるという事ですかな…? もちろん構いませんしが、灰川先生、少しばかり失礼します。和藤に少しばかり言いたい事がありますでな…』
そう言って陣伍は電話を一旦切り、数秒後に和藤取締役社長のスマホに電話が掛かって来た。
震えながら和藤が通話を開始して、青ざめてた顔が白くなり始める。
「はいっ! はいっ! 分かりました四楓院総会長! 灰川先生を疑うような真似は致しません! 決して総会長の大客人に弓引くような真似は致しません!どのような要望であろうと灰川大先生の仰せのままに!」
少し電話をした後、和藤は『お忙しい中でお手数をお掛けしました! 申し訳ございません!』と言って電話は切れたのであった。
『和藤には言い含んでおきましたぞ、教育が行き届いておらんで申し訳ありませんな。お祓いに掛かる料金も和藤が支払うと申し出ましたので』
「ありがとうございます陣伍さん! これでワールド・ブレイブ・リンク式お祓いが出来ます! 時間的にこれしかなかったんで助かりました!」
『ワールド・ブレイブ・リンク? カードゲームの名前ですな、お祓いに使うのですか?』
「はい、ちゃちゃっと終わらせますんで! お力添えありがとうございました!」
陣伍との通話が終わり、上層部3名を無理やり納得させて事は収まる。
後はTCGを買って良い感じにお祓いに都合が良いデッキを2つ構築し、和藤の息子と出来レース勝負をして解呪完了だ。
お金も掛かるし確実性は担保できない、だがそこは気合と霊力で乗り切れるはずだ。普通の霊能者だったら諦めてただろうが、灰川にはその自信はある。
「じゃあ行きましょう! さっさと終わらせますんで!」
「はいっ! お願いします灰川大先生! 仰せのままにします!」
「大仰な言葉は止めて下さいよ~! 今まで通りで良いですから!」
こうして普通だったら使わないようなTCG解呪法を行う事になり、時間に間に合わせるために足早に銀行に行ったりした。
紫鏡の呪いの複雑な構成とプロテクトを破るためには即席のお札を使うしかない、その考えに自信があるし実際に間違ってはいなかった。
勝ち負けの役目が決められた都合の良い解呪デッキを作って試合を儀式化して霊力を込め、解呪する側の灰川が勝って無事に呪いは解けるという筋書きだ。
「まぁ、成功は約束されたようなもんですよ。もし魂と思い入れのあるデッキを持ってたりしたら別ですけど」
「何か問題があるんですか?」
「富川P、もしそういうデッキがあったら俺が構築した出来レースのデッキにお子さんの念を込められなくなりますからね、OBTテレビ上層部のお子さんがTCGなんてやってる訳ないからクリアしたも同然ですよ」
「なるほど、もし息子さんが自身の念が籠ったカードを持ってたら、どのように対処されるんですか?」
「絶対に有り得ないけど、俺が作ったデッキで勝たなきゃいけなくなりますね、そんな可能性0%ですけどね」
「なら安心ですね、2社の収録もありますし、ぱぱっと済ませちゃいましょう」
こうして方針は固まり、出来レース勝負でのお祓いが決まった。念のため和藤に息子はTCGやってないか聞いたが、多分やってないと思うと返ってきたので安心だ。
通話が終わり電話が切れる、灰川は感謝を述べて安心したのだが陣伍は少しの不安があった。
「灰川先生が急いでて説明不足で分からん事も多かったが、大丈夫かの…? 和藤の息子は確か、ワールド・ブレイブ・リンクの…」
「総会長、お車の用意が出来ました。今からの予定は与党議員の先生方への資金会議と~~……」
「うむ、では行こうかの。それにしても灰川先生は見上げた方じゃな、身銭を切ってでも人の命を助けようという姿勢、ワシや英明には出来ん事じゃて」
こうして陣伍は次の予定に向かい、和藤の息子は灰川がお祓いをするのだから無事だろうと確信する。
隠し神社の事なども知らされて今回も利のある情報を得て、これからも灰川との関係を深めて行こうと思うのだった。
陣伍は驚いた事があった、それは灰川が権典神社の御利益を見抜いても驚かなかったことだ。並の霊能者ならご利益を見ただけで『神に愛されてる!』なんて思うのだが、それがなかった。
それが示す所は『灰川先生が陽呪術をちゃんと使った場合、権典神社の御利益を超える効果がある』という事だと考え、ここから更に縁を深めなければと考えるのだった。
四楓院ほどの資産家となると本能の中の本能とも呼べる部分が発達しており、利になる縁は見抜く前から良い縁を作れる。灰川との縁も正にそういう類だとここで確信した。
所変わってお台場に向かう電車の中、一人の若者がスマホを触りながら乗車してる。父親に緊急で呼ばれて向かってる最中だ。
彼の名は和藤 才知、今日が誕生日の19歳の青年である。親は全国テレビの代表取締役社長、もちろん金持ちで小さい頃から何不自由なく育って来た。
親が太くて陽キャ気質、勉強も出来て顔もかなり良いし背も高い。運動も出来てコミュニケーション能力も高く、友達も性別問わず多い。
小さい頃からモテており、小学生の頃から異性関係で不自由した事は無く、経験人数は今の時点で20人を超えてるモテ男、勉強なども優秀で絵に描いたようなデキる男だ。
「いきなり何なんだよオヤジ、ロクに会いもしねぇのに今さら呼び出すなんて」
才知の父親の健治はエリート街道を進む男で、彼が幼い頃からあまり家には帰って来なかった。帰って来ても夜遅くて会えない事が多く、成績で一位を取っても少し褒められて終わりみたいな生活だった。
そんな父から今になって呼び出しなど迷惑でしかない、今さら話し合うような事など無いし、父に愛人が居る事も知ってる。そんな父を軽蔑しつつ、自分も何人もの女と寝て来た。
やっぱりあの男の血が自分にも流れてるのが嫌だ、今日も女とお楽しみの予定だったのに……とかの感情は一切ない、何故なら。
「今日もワールド・ブレイブ・リンクのデュエル会があったのによ! 次の大会は世界出場権が掛かった大事な試合だから、他の事してるヒマはないんだって!」
和藤 才知、TCGワールド・ブレイブ・リンク世界ランキング25位、世界総プレイヤー数2000万人と言われるゲームの中で25位という実力を持った男である。
トレーディングカードデュエル、デッキ構築能力やルールやカード効果の熟知、果てにはカードの収集能力、交換や売買における交渉能力のようなゲーム外での事象まで含めた勝負がある奥の深いゲームだ。
彼は今、勉強などは無難にして大学に通いつつ、ワールド・ブレイブ・リンクに完全に熱を捧げていた。優れた頭脳を使って世界のステージにまで上り詰める程である。
以前はこんな子供の遊びに興味なんて無かった、陰キャのモテない奴がやる遊びだと思ってた。だが友人に進められてプレイしてみると、すぐにハマって3年間も続けてる。
小学生に負けた、女に負けた、オッサンに負けた、色んな負けを経験するたびにプライドが引き裂かれる思いをした。丹精込めて『これ以上は無い!』と言えるデッキが負けて、何度も悔しい思いをした。
他人より優れて、権力ある金持ちの家に生まれ、女にもモテる。そんな自分が全身全霊を注いで、運も味方してくれて、相手だって一切にイカサマなしで対決して普通に負ける。このゲームは才知に衝撃をもたらした。
今は完全にカードの事しか考えられない、それ程に熱中してる。
「なんか今日は鏡が紫色に見えるな…何なんだ? 今度に眼科に行ってみるかな」
そんな何不自由なく育ったリア充陽キャの才知、彼は今から対決する事になる灰川が凄く嫌うタイプの男である。
金持ちで勉強もスポーツも出来てモテる、見ていて嫌気が差すほど羨ましいと心の中で思う人種だ。
そして当然ながら彼はマイデッキを所有しており、今度の世界大会への切符を掴む大会へ臨むデッキを今も持ってる。
「はぁ~、少しデッキ構成でも考えとくか」
そんな彼が使うデッキの名前は『マジックガール&ヒーローズ』、様々なカード効果を発揮し、攻防自在の変幻自在で国内有数の強力なデッキある。
彼のデッキに対抗するのは簡単ではない、少なくとも10年以上もゲームから離れてる奴がテキトーにデッキを組んで勝てる相手ではないのだ。
この話は思い付きだけで書いてます、TCGの知識不足要素は見逃して頂けると助かります!




