201話 上級国民神社?
ヤバい奴は何処にでも居る、そんな奴が近づいて来る可能性は高い業界での対処に動く事となった。
実際に市乃たちは既に数人から『喰おう』みたいな危険な目を向けられてる節があり、そんな連中を決して近づけさせないよう交渉に向かう。
この業界は権力や知名度を盾にやりたい放題にやる奴が居るそうで、芸能界ではポっと出のハッピーリレーとシャイニングゲートの所属者は標的にされる恐れがある。
惚れさせてやりたい放題やって飽きたらポイ捨て、色々と楽しませてもらった女の数を増やして『俺は○○とも色々した』と自慢したいだけの奴、とても口に出せないような精神性の奴。
番組を潰されたくなかったら○○しろ、お前らなんかウチの事務所の力でいつでも潰せるとか、そういう脅しで手籠めにしようとする奴すら居るらしい。
美人や美男が集まる業界の性の問題、大金が動く世界のどす黒い欲望の問題、それらの根は深い。
歪んだ欲望の犠牲になりたくなければ、身辺の危機管理をしっかりやるしかない。黒い欲望に毒された者達の悪意に触れれば、そう簡単に立ち直れない程の心の傷を負う事になる。
「では灰川さん、教えた通りにやれば問題ないです。とにかく皆さんの心と体の安全を守るのは裏方の大事な役目ですから」
「はい、ありがとうございます、富川プロデューサー」
灰川はOBTテレビ上層部の人には言えない秘密などの弱点情報を聞き、その証拠も入手して備えを固めた。それらは言い逃れの出来ない証拠の数々だ。
「でも…こんな事して俺や周りが狙われたりしませんかね…? それこそヤバい奴らを雇って始末とか…」
こんな事に慣れてない灰川には不安がある、しっぺ返しを食らうんじゃないかという不安だ。
「それを防ぐために知ってるのは俺だけじゃないぞという匂わせをするんです、何かしたらお前は家族も地位も全てを失うぞと匂わせるんですよ」
「匂わせるって言ったって、慣れてないですし、どうすれば確実なのか分かんないっすよ…」
「安心して下さい、そういう動きがないか網を張っておきますし、少しでも不穏な動きがあったら灰川さんの後ろ盾が黙ってませんから」
「そ、そうですか…ありがとうございます…」
「この業界であの家に盾突ける人は居ないと考えて良いです、少なくとも上層部は財布も人脈も地位も権力も握られてるんですよ」
報復や弱みの握り返しなどしようものなら、本当に破滅しかねない道が待ってると富川は言う。富川のように別の顔を持つスパイ染みた奴なら話は別だろうが、四楓院家に逆らえる力を持った人物は少なくともOBTテレビには居ないらしい。
他にも幾つか仕込みをして準備は整い、エレベーターに乗って上階へ向かう。
「芸能人もですが、配信者にも表面は良い人だけど裏ではヤバイ人なんて沢山いますよね、人間だれしも裏と表はある物ですから」
「そうですね、自分も何人か知ってます。今は上手く隠せてるようですが」
「裏を見せないのもステージに上がった人の大事な仕事です、皆さんもこれから裏を見せないよう気を付けさせてあげて下さいね」
「エリス達は裏は濃くないですよ、これから先にどうなるかは分かりませんが、今の所は安心です」
Vtuberや配信者の界隈だって芸能界と同じように裏はある。Vtuberの○○は裏では性格がマジで悪いとか、配信者の○○はファンを喰い放題、そんな裏の顔だ。やはり光がある場所には闇がある。
もちろん闇が無い人は多いし、そんなのにかまけてる暇がない人だって沢山いる。しかしやはりというか、金や性にまつわる裏話は絶えない世界になってきており、それをファンに見せないのも手腕の一つと言えるだろう。
個人勢でやってる人も企業勢でやってる人も、裏では平気でライン越えしてくる奴も居るし、視聴者だって裏では配信者やVtuberにアンチ活動してる人も居るかもしれない。人は誰しも裏がある。
「私には隠さなくても良いですよ、戦友であり恩人である灰川さんの事は、絶対に裏を調べたりしないと命を懸けて約束します。どんな裏があろうと私は干渉しませんので」
「え? いや、だから裏なんてないですよ」
「えっ? エリスさんやナツハさん、ツバサさんとも色々とお楽しみをしてるんじゃないんですか?」
「はぁっ!? してませんよ! それこそ命に懸けてやってないって言い切れますって!」
富川Pことサイトウはこういう部分がある人物で、想像力が豊かで早とちりする性格が強いのである。テレビマンと秘密機関の2足の草鞋で過ごした期間が長いため、その影響も性格に反映されてるのだ。
国家超常対処局の任務などでは、その想像力が推理力に繋がって有用になる部分も多いのだが、日常生活では考えが変な方向に向く事も多い。
「ちょっとサイトウさん! 絶対に変なこと言いふらさないで下さいよ! 俺は潔白なんですから!」
「はははっ、まあ冗談はさておき着きましたよ。まぁ、仮に灰川さんが皆さんと凄くお楽しみな関係だったとしても、皆さんと灰川さんが幸せな関係だったらそれが一番だと思ってますから」
「冗談キツいっすよ…これだからサイトウさんはなぁ~…」
実はサイトウとしては半ば本気でそう思ってたが、ここは冗談として流す事にして先に進む。
サイトウは芸能界で仕事をしてる身であり、裏の部分も知ってるが、裏があっても幸せになってる人達も多数知ってるのだ。
あるアイドルは実はデビュー前から付き合ってる人が居て、ファンにはとても言えない関係を築いてたが、アイドル卒業後に晴れて結ばれて幸せになってるという話。
ある俳優が凄く年下の異性と結婚したが、実は交際は相手がまだ年端も行かない頃から始まってたなんて裏話。
そういう話も色々と聞いており、決して不幸だけが支配する場ではないというのも見てきてる。
(まあ、変わった人が上に行く事が多い業界ですからね、癖も変わってる人が多いし、仮に灰川さんと皆さんがどんなお楽しみをしようと驚きませんけどね)
サイトウは心の中でそんな事を考えるが、もちろん声には出さない。大きな恩義もあるし灰川や2社の裏を調べる気など毛頭無い、逆にもし何か問題があったのなら隠蔽する準備すらしてる。
こんなサイトウこと富川Pであるが、子持ちの妻帯者であり家庭円満の幸せ家族を築いてる。しかし実は、妻との出会いや付き合いは裏がどうのこうの非難できるような形ではなかったりする。彼も所詮は芸能界という闇の深い場所に身を置く人物なのだ。
だからこそ灰川が何かしてしまっても、彼も相手も確実に安全になるよう手を尽くそうと考えてる。今の所はその手助けは必要なさそうだが、これから先はどうなるかは分からないのが世の常だ。
サイトウは人が不幸にならない限りは裏の面などに不快になる事はない、人間である以上はそういった欲は仕方ないのだと割り切ってる。欲望とは俗世にあって当たり前のこと、全てを否定する事は出来ない。
もちろんただ仕方ないと考えてる訳ではなく、欲の責任を果たすこと、欲で人を不幸にしない事、それらのルールを守れなければ欲を人にぶつける資格は無いと考えてる人物だ。
「すいません、取締役会長と取締役社長は今日は来社してますよね? 今すぐお会いしたいと灰川さんが仰ってるのですが」
「え? バラエティ制作局ですよね? アポはありますか?」
「アポはないんですが、他ならぬ灰川さんが頼みがあるとの事で」
「アポがないならお繋ぎできません、っていうか富川さんも知ってますよね?」
重役が居る場所は上の階らしく、そこには普通のエレベーターでは行けない作りになっていた。
28階の上層階受付で手続きをしないといけないらしく、アポイントメントが無ければ誰にも会えないのが普通だという。受付の人と富川Pは顔見知りのようだが、それでも駄目らしい。
「ん? 富川、どうしたんだ? お前は今は新番組の収録中だろ?」
「あ、津嘉山執行、お久しぶりですね」
「元気でやってるそうじゃないか、俺も鼻が高いよ、はははっ」
上層役員の人で富川Pの前の上司だった人が通りがかり、少しの間だけ調子はどうだとか、新番組はいけそうかなんて話をする。
「そちらの人は誰なんだ? OBTテレビ執行役の津嘉山です、よろしくお願いします」
「灰川コンサルティング事務所の灰川といいます、よろしくお願いします」
OBTテレビでの執行役というのは取締役の最終決定を執行するみたいな役員で、局内重役会の中では下の階級だとの事だ。
しかし全国テレビの重役ともなれば下の階級であれど凄い事であり、下の局員や子会社、番組制作会社や様々な受注発注をする取引先からすれば雲の上の存在である。
そんな地位に居る人は人物情報なども詳しく、執行役の彼にも様々な情報が入ってくる。
「灰川って……えっと富川、灰川さんってのは~~……」
「津嘉山執行、その灰川さんです。あまり深く詮索しない方がよろしいかと、この業界に居たいのであれば…」
ヒソヒソと話して目の前に居る人物が誰なのかを説明し、次第に顔が青ざめる。
話は付いていた筈だ!こっちに来るなんて聞いてない!何かヘマをしたのか!そんな気持ちが強くなる。
OBTテレビの資本はかなり大きく四楓院系列が関わっており、株式やその他の投資もかなりの金額を四楓院に受け持ってもらってる。
過去に株価が下がった際に、株価を上げて投資家にアピールするために『株式公開買い付け』という措置を取って会社の信頼を保った際など、四楓院系列がほぼ100%の裏持ちをやってくれたのも知ってる。
表立ってのやり取りはないが、その影響力は天井知らずであり、実質上は逆らえない相手であると聞いてる。
そして灰川という男は四楓院家の一番客みたいな扱いで、四楓院家から要所に配られてる金名刺名簿とかいう物の最高位の人物と記されてるのを見た。
「津嘉山執行、あの家の方に不義を働いた先々代の代表取締役がどうなったか…知ってますよね…?」
「あ、ああ…他局の話だが、あの家の客人に失礼な振る舞いをした重役が、翌日に無期謹慎になったのも知ってる…。裏であの家の資金に縛られてる会社がどれだけ多いかも聞いた…」
ヒソヒソ話が続き、富川Pが上手い感じに恐怖心を煽るような情報を思い出させたりして、彼が持つ灰川の心象を巨大化させていく。
「あの、すいません。幹部役員の人達には会えない感じですかね? それなら仕方ないか…」
「!!」
幹部役員に会いたいがアポはない、それなら少し時間を置いて出直す事も灰川は考えるが、津嘉山はそんな事は知らない。それなら仕方ないか、この言葉の続きをどうしても連想してしまう。
仕方ないか、俺の呼び出しに即応しない奴に用はないから業界から消えてもらおう。
仕方ないか、気に入らんから首はすげ替えだな、ついでにコイツも俺の気分を害したから消えてもらおう。
そんな事を連想してしまう。こういう権力が物を言う世界ではままある事であり、普通では考えられない程に超大口出資者や権力者の気分で人が消えたり登用されたりする場所なのだ。
これ自体は中小企業でもよくある事で、社長の気分を害したからクビ、社長の親族役員に盾突いたから懲戒免職、表出化してないだけでいっぱいある。表沙汰になる問題など一握りでしかない。
大企業の重役ともなれば一回でもその立場から追われれば地位回復は不可能に近い、収入も10分の1どころか100分の1なんて事にもなりかねず生活も完全に変わってしまうし、家族の人生だっておかしくなってしまう可能性は大きい。
だからこそ大企業の重役は地位に固執するし、プライドだってあるから降格なんて受け入れられない、絶対にこの立場を失う訳にはいかないから汚い事だってする。
それなのに今、目の前に居る若い男の気分如何で自分の先行きが地獄に変わる可能性がある。
この業界では『怒らせてはいけない人』の気分を害したら、本当に簡単に消されてしまうという現実があり、その現実が津嘉山執行に牙を剥く。今、彼は人生が終わるかどうかの岐路に突然立たされたと本能が警鐘を鳴らしていた。
「は、灰川さん! 少しだけ待ってて下さい! いま代表取締役などを呼んできますので!」
顔を青ざめさせながら焦って津嘉山執行は言うが、そこに富川がヒソヒソと恐怖心を煽りたてる。
「灰川さんはOBTテレビの上層部に少し苛立ってまして…早めに来てもらわないと、浜矢倉常務取締役みたいに部下を簡単に……」
「!!! 1分だけ待ってて下さい!」
浜矢倉常務取締役とは有能だが傍若無人な役員のようで、仕事時間に2秒遅刻してきた執行役員にキレて即座に実質的なクビにしたという奴だ。そのことは灰川もさっき聞いてる。
天下のOBTテレビの常務取締役である自分を2秒も待たせるとは何事か!私を不快にさせる部下など目障りだ!
地位が高くなって偉くなると、そういう精神になる人というのは本当に存在する。というか結構な割合で誰もが心当たりはあるだろう。
2秒の遅刻も許されない権力構造、不快にさせたら業界から消される程の権限、NOと言ったら出世の道も輝かしい経歴も一切が閉ざされるような忖度の世界。
こういった風通しが悪く、求められてない意見を言ったらお終いの場所は怖い。
彼らにとって上の権力を持つ者の頼みとは『逆らう事が許されない命令』であり、意見を求められた時は『俺の求める言葉だけを喋れ』という暗黙の命令なのである。
巨大な資本が出入りする場所では権力構造は普通では考えられない程に強くなる、ここはそういう場所であり、大きな企業権力を有する者達が集まってる場所なのだ。
灰川はこういった部分がある場所だと少しは理解したが、清濁を併せて吞む事を覚悟して受け入れたのだ。ジャパンドリンクの時とは事情が違うが、こういう事も許容する他にない。
「初めまして灰川さん、OBTテレビ取締役会長の深谷 健司です。よろしくお願いしますっ」
「大変お世話になっております、同じく代表取締役社長の和藤 健治です。四楓院会長には当局は大変にお世話に~~……」
「OBTテレビ専務取締役代表執行役員の三河田 憲治です。お噂はかねがね~~……」
(名前が被りまくってる……)
どうやら今日は役員会議があったようで、全員ではないが普段は局内に居ない役員なども来てる人が多いらしい。
この3名はOBTテレビ重役の上位3名であり、実質的な全権を握ってる立場だ。社内の議決権や進退の決定権、様々なGOサインを出す立場である。
大体50過ぎ60過ぎの年齢であり、厳しい業界を生き抜いてきた貫禄がある。しかし四楓院家と繋がってる灰川には頭を低くしてる。
「実は先程に会議が終わったばかりでして、後から楽屋に伺ってご挨拶をしようかと思っていました次第でして~~……」
「ジャパンドリンクさんでのお話を耳にしました、流石の手腕と言いますか~~……」
そんなおべんちゃらを口にされ、本当に四楓院家は凄いんだなと思う半面で気になる事があった。
彼らの弱みは聞いた、別会社からマージンを貰って便宜を図ってる、立場を盾に女優と何かしらした、インサイダー取引、政治家に裏金、金や性に関わる弱みがどんどん出て来たのだ。
富川Pと話して決めた予定では、適当に話したり頼みを切り出した後に。
『申し訳ありませんが、いくら何でもそのような頼み事は~~……』
『おやおや、先日はコンパニオンの方達をたくさん呼んだパーティーでお楽しみでしたね~? お酒もいっぱい飲んだようですし』
『な、なぜそれを!?』
『知ってますか? 未成年にお酒を飲ませちゃダメなんですよ? 催眠術使いの人とか、マニアックな薬を作ってる製薬会社の人も呼んでたようですね』
『い、いや……そんな…、ははは…』
『息子さんや娘さんより年下の愛人が居るのもどうかと思いますね~? それに代表取締役会長さんはなかなか素晴らしい癖をお持ちのようで~…』
『うおおお!! 何でも言うこと聞きます!!』
こんな感じで触れられたくない事を詳細な証拠付きで提示し、そっち方面以外にも金銭関係でバレたら一発アウト確定な情報を小出しにして言いなりにさせる作戦だったのだ。
ちなみにその際には富川Pは何か言い訳して役員専用応接室の外に出てもらい、灰川の情報網の強さなんかを出させて存分に怖がらせる事で、向こうが逆らえない関係性を作ろうという段取りも付いていた。
しかしそうも言ってられなくなった、富川Pもさっきと違う目を3名に向けてる。その目は霊能者としての目だ。
「あの……最近に特別な神社に行きました…?」
「「「え?」」」
神社の中には一般人が参拝出来ない場所があったり、そもそも敷地に立ち入る事が許されない神社があったりする。
入島禁止の島にある神社とか、国で最も有名なお方が住まわれる場所の敷地にある殿などが代表されるだろう。
他にも個人や法人が所有する神社があったりして、企業が敷地内に神社を持ってたりする。これは大きな神棚とも呼べるかもしれない。
「OBTテレビさんの法人神社…? いや、何か違う……普通はこんな……」
「あ、あの、どうされましたか灰川さん? 我々が何か~…」
灰川は3人から妙な霊気を感じて霊視したのだが、強い力を持つ神社に行った人に似た霊気を感じたのだ。しかし明らかに変な部分がある。
通常は強い力を持つ神社などは人が多く、御利益なども分散されてほとんど影響が無くなる傾向がある。だが3人からは強い御利益の霊気が漂っており、普通ではない神社か何かに参拝した事が伺える状態なのだ。
法人などが持つ神社にお参りした企業人などにこのような傾向があると他の霊能者から聞いた事があるが、それよりも強い何かを感じるのだ。
「紫の水…輝く石……金色の牛と馬…?」
灰川が3人から発せられる霊気から受けたイメージはそういった物だった。
高貴さと生命を象徴する紫の水、かつては権力者にしか持つ事が許されなかった翡翠石のような輝きを持つ大きな石、権力を表す牛、忠誠や勝利を表す馬、それらのイメージが籠った強い力が感じられる。
「あの灰川さん…それは権典神社の事でしょうか…? 灰川さんは知ってるのですよね…?」
「権典神社? 知らないです、流石に日本の全ての神社は知らないものでして」
「じゃあなぜ紫水の泉や大翡翠を……」
「お、おいっ…そういえば権典神社の参拝者名簿に灰川という苗字はなかったぞっ…!」
灰川に聞こえる声だったり聞こえない声で話したり忙しいが、ここで専務がある事に気が付いた。
「そ、そういえば富川君と言ったかね…? 西B区画の除霊だか何だかを頼んだ方が灰川という苗字だったような気が……まさか…」
「はい、あの家に連なるお方と灰川さんは同一人物だそうです。この事は一切の他言なきようお願いします」
「「「!!」」」
0番スタジオの事は彼らは知ってはいるが、あまり関心を払わないよう努めて来たので報告書も流し読み程度に収めてたようだ。
そんな事は灰川にはどうでもよく、注意深く霊視を進めると。
「権典神社って都市伝説にある隠し社みたいな所ですか? 正直に答えて下さい」
「っ!! はい…そのような場所だと教えられております…」
代表取締役会長が言ってはいけない事を言ってしまったという表情になるが、それも仕方ない事だろう。
都市伝説には隠し社とか名伏せ社とか呼ばれる場所が噂され、大企業の代表や重役、大物政治家などしか参拝出来ない神社があるという話がある。
一般人は知る事すら許されない特別な場所、社会を動かせる程の権力者や金持ちしか入れない神社、それが本当にあったという事だ。
「そこの参拝の時に神主とか責任者が言ってた参拝の作法は守りましたか? 正確に、一切の間違いなく、言われた通りに、礼の角度なんかも守りましたか?」
「え……あ、いえ…はい…。守ったと思うのですが……」
「本当ですか? じゃあ何か禁忌を犯してませんか? 参拝が許されない時か、参拝したらデメリットが発生する場合に参拝してませんか?」
「あのっ、何を仰ってるのか分からないのですがっ……」
灰川は3人の中の一人から強い嫌な感覚を感じてるのだ、それは富川Pも感じてる。その嫌な感じの正体を灰川は突き止めた。
「代表取締役社長の和藤さん、あなたのお子さん、20歳の誕生日に死にます。紫鏡の呪いに掛けられました」
「え……?」
権力者や大金持ちは一般人とは違う生活、違う金遣い、違う感性や精神性を持って生きてる。だからこそ高い地位に登って権力を保持できてるのかもしれない。
しかしそういった生き方をする人たちはオカルト面でも普通とは違うモノに関わったり、普通では受けないような呪いに掛かったりする事がある。
呪いとは時に『呪いを掛ける条件や発動条件』が必要になる時があり、強力な呪いになるほど条件はキツくなる。人を死なせる呪いなどは相当に困難な条件となる場合が多い。
そして呪いとは人が人に掛けるモノばかりとは限らず、動物から呪われる事もあれば、神聖な場所で何らかのルールを犯した場合のペナルティだったり、その他にも様々にある。
「その神社でルール違反したからって訳じゃないみたいっすね……、うわ…こんな条件があるのか…」
「ど、どういうこと……ですか…?」
灰川は呪いが視覚的に見える性質の霊能力が有り、詳しく見て行くと様々な事が分かった。
御利益が高い神社などは決まり事を破った場合や、その他のルール抵触などの際のペナルティも高い。権典神社もそういうタイプの神社のようで、それを明確化すると。
権典神社 レア度★10
効果1
参拝した者に強力な運勢や明晰な頭脳、人間的魅力、部下からの信頼に値する振る舞い、その他のメリットが高いレベルで付与される。
効果2
権典神社に参拝した他の者との仲間意識が生まれ、強力な人脈の形成が容易となる。異性や裏の物資を自由に出来る人脈など、一定以上の権力者しか享受できない様々な享楽を受ける足掛かりとなる。
マイナス効果1
参拝において礼儀作法を間違えた場合、効果1の発動はされない。その場合は己の力のみで上級社会を次の参拝の時まで生き抜かなければならない。
マイナス効果2
判明してない物を含む様々な『マイナスルール』があり、これに抵触すると呪い効果を受ける。
このような感じになると灰川は直感した、その呪い効果の一つが都市伝説・紫の鏡という形で参拝者の家族に降りかかったらしい。
紫の鏡、20歳になる時にこの言葉を覚えてると死ぬという完全な嘘の荒唐無稽な怪談だが、実は灰川家では同じ効果を持つ『紫の水鏡』という怪異を大昔に祓ったという記述の文献がある。灰川はそこから和藤に掛かった呪いを特定した。
「まぁ、信じるかどうかは~~……」
「私の息子は今日が誕生日で……正確には夜の8時過ぎが生まれた時間なのですが…」
「分かりました、息子さん呼び出して下さい。あと金を用意して下さい、OBTテレビの近くにTCGショップありますよね? あと用意するものは~~……」
「あ、あのっ! いきなり言われましてもっ! いったい何なんでしょうか??」
「俺に逆らうんですか? 金名刺持ってるんですよ? 逆らうんですか??」
「「「…………」」」
もう有無を言わさず金名刺の権力を振りかざして言う事を聞かせる、この呪いが発動したら絶対に人が死ぬ。
普通なら人を殺せるような霊や怨念なんか稀だ、しかし一般とは違う普通ではない世界で生きる人達には時折にこういう事が起るようだ。四楓院家もそうだった。
上級国民に降りかかった紫鏡の呪い、0番スタジオを放置してた影響もあるかも知れないが、まだ分からない部分が多い。
灰川は即座に対処法を構築して祓いに当たる事にして、局の上層部3名に無理やりに指示を出す。3名は混乱してるが説明しながら事を進めるしかない。
サラっと祓えるならそうしてるが、この祓いはどうしたって準備が要る。正確な準備をするには日数が欲しいが時間がない。ついでに結構な金が要る。
そこで灰川は祓いの時間を短縮する方法を考え出したが、やはりこれも金が必要な方法なのだ。
今回の祓いには全国で人気を博してる、とある物を使うのが最適だと判断した。判断の理由は呪いの効果の発動条件とかが似てるからで、そういった類似性がある物は解呪に効果的な場合があるという点だ。
市乃たちのテレビ局での安全を確保するために脅しに来たのだが、急遽にお祓いをする羽目になる。あちらは人生経験豊富な社長達が付いてるから今は安心だろう。




