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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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185話 警戒情報と他社の今

「という訳で誠治、ヴァンパイアが日本に入ったという情報が来た」


「ヴァンパイア? そんなもん晴れの日に天日干しにしちまえば良いじゃないすか?」


 日曜日、灰川の自宅アパートにタナカが来て話をしていた。緊急事態だと聞かされてる。


「この個体は上位種、エルダーヴァンパイアらしくてな。太陽に当たっても消滅はしない、苦手ではあるらしいがな」


「じゃあ十字架を見せるとか心臓に杭を打つとかじゃダメなんすか? そんな事する前に話し合いをして共存の道とかも~…」


「話し合いは無理だ、悪質なヴァンパイアで何人も破滅や不幸に陥れてる1級標的なんだとよ。致命的弱点も不明だ」


 灰川はヴァンパイアの個体情報を聞き、それが本当なら確かに交渉は無理だと感じた。


 悪人を幸せにして、そこから生まれる不幸になる人々を眺めて楽しむサイコ精神の奴、これじゃ人間だったとしても普通の精神じゃない。


 しかも上位種で強く、元来から吸血鬼の弱点だと言われてる物に対しても強い耐性を持つ。簡単には倒せない相手だそうだ。


 その強さと悪辣極まる精神性から最大の皮肉を込めて『幸福のヴァンパイア』の異名を取るそれは、indulgence(インダルジェンス) Vampire(ヴァンパイア)、免罪符のヴァンパイアとして外国の秘密機関に要注意登録されている。


「昨夜にヴァンパイアと戦った格闘家は優れた霊的攻撃力を持ってるが、それでも効果は大きくなかった」


「なるほど、体とかも普通に強いって訳ですね、しかも何らかのオカルトパワーも使うんでしょうし」


「本来なら国家超常対処局が対策に出るし、今回だって例外じゃない。だが奴が市民のスマホを使って、配信者とかVtuberを検索してた事が分かったから伝えたかったのさ」


「…!? マジですか…!」


「もっと言うなら日本に来る前に現在の世の中の事を調べてたかもしれないし、何があるか分からん」


 何らかの方法で漠然とした情報を得て、そこから詳しく調べた可能性もあると語られた。


「そうでなくても何らかの形で協力を頼む事があるかもしれないしな、もちろんその場合は誠治に被害が及ばない形でになるだろうが」


 魔除けのお(ふだ)とかお守りとか、陽呪術とかでの手助けだろう。今回は流石に危険すぎるらしく、銃火器やその他の武器の扱いに精通してない灰川は足手まといになる可能性が高い。


「でも国家超常対処局の人達だけで対処できるんすか? あんまり人居ないって言ってたし」


「そこが問題なんだよなぁ…、サイトウも今は動きが取りづらいし、俺もなぁ」


 そもそも情報が少ないらしく、事件後に何処に行ったかも分からない。防犯カメラは全て映像ノイズが入っており、判別できなかったそうだ。


「サイトウさん以外にも誰か居るんすよね? 怪人Nの時にやられた人達とか」


「まぁな、ウエダとカワノ達の霊忍レンジャーなんかも居るが、アイツら今は国内に居ないんだよな」


「レンジャー!? そんなん居るんすか!? すげぇ気になる!」


 秘密機関だから詳しい事は言えないが、何やら戦闘隊を組んでる者達が居るらしく、全員が霊能力者でレンジャー資格クラスの人達で隊を作ってるそうだ。


「まぁ、とりあえずは即座に行動を起こすかは分からん。気配も消せるらしいから、こちらから見つけるには時間が掛かるだろう」


「待ちの姿勢ですか、そうするしかないっすもんね」


 標的のヴァンパイアは姿を変えられるらしく、戦った霊能格闘家などから特徴が聞けても無意味な可能性が高いらしい。その格闘家は今も意識を失ってる状態だそうで、回復には少し時間が掛かるそうだ。


「とにかくまだ情報も少ない、一応は誠治が関係してる会社の人達に何か無いように注意を払っておいてくれ」


「そうっすね、ヴァンパイア被害防止に効果のあるお(ふだ)とか作っときますよ」


「そうしとけ、警戒するに越した事はないからな。何か掴んだら連絡してくれ、俺も何かあったら連絡する」


 こうして食事がてらにタナカと緊急の情報交換をして、それと頼まれてた祓いのお(ふだ)を渡し、タナカは任務があるためアパートから出て行った


 しばらくは注意しながら様子見をするしかなく、灰川としても2社の所属者やスタッフなどに万が一の被害が及ばないようにしようと思う。


 しかし物事は察知できた時には既に何かが発生してる事が多く、今度のヴァンパイア騒ぎも既に何事かが起きてる可能性もある。


 ヴァンパイアには眷属という使い魔のような存在があり、それは国家超常対処局が狩った。しかし局はそれらを眷属とは認識しておらず、怪現象存在の中の一つとして処理してしまっていた。


 その影響が出ていたとしても誰も感知はしてないし、気付く方法も無い。しかも眷属を使って目星を付けてた奴に本体が接触したら……。


 不幸の種が既に撒かれてる可能性があるが、その事には誰も気付けてなかった。




 その後に、せっかくの休日なんだから配信でもしようかな~とか考えてると、アパートに来客があった。


「こんにちは灰川さん、ちょっと住居変更手続きで聞きたい事があって」


「え、ああ、ここはこういう感じに書いて~~……」


 灰川は朋絵を部屋に上げ住居変更の書類に目を通し、特に問題なさそうだと確認してあげた。後は役所に行く時に現住所や本籍地なども、念のためメモ用紙などで持って行った方が良いとアドバイスしておく。


 そこから少し雑談となったのだが、この際だから灰川はしっかり朋絵と話をしようと考える。


「朋絵さん、最近のライクスペースさん、ちょっとマズくないかい? あんまり褒められるような事してないってかさ…」

 

「……、そうですよね…」


 朋絵は落ち込むような、予想通りというような反応を示した。その理由も灰川は知っており、最近のライクスペースは明らかに変なのだ。


 実は少し前からハッピーリレーとシャイニングゲートの所属者に、ライクスペースの配信者やVtuberからコンタクトがあっても、極力は応じるなというお達しが出た。


 灰川は一応は別会社だから何も言われなかったが、関わらないで欲しいというニュアンスの話はされてる。滝織キオンと薙夢フワリだけは別枠だと話は通してる。


 所属者の中にはライクスペースの所属者と友人関係の者も居たりして反発もあったし、空羽や市乃なども面識がある人が居たのだが、それでも禁止が強行されたのだ。


「ほんとマジで相談乗るよ? ライクスペースさんに何か言うとかは無理だけど、他の事とかだったらさ」


「…………」


「取引してない会社の所属者さんに何がとは詳しく言えないけど、他の所に行ってみたいなとか、愛純ちゃん辺りも一緒にとかさ」


 明確には口に出さないが、灰川がやってるのはどんな業界でもヨシとはされない移籍を勧める行為だ。グレーゾーンで話すに留めてるが、やはり褒められたマネじゃない。


 そんなマナー違反や無責任行為をしてでもそんな声を掛けてしまった。それ程に朋絵の顔は疲れてたし、精神的にも何らかのプレッシャーが掛かってるのが伺えた。


「無理にとは言わないからさ、何かあったら遠慮なく言って良いから」


「っ……ぅぅ…! うぅぅ…ぇ~~ん…っ!」


「ちょっ、大丈夫っ!? ちょっと待っててっ、お茶とか淹れるから落ち着きなって!」


 朋絵は溜まってた物が溢れたかのように嗚咽を漏らし、泣き出してしまった。


 灰川は急いで冷蔵庫からお茶を出して朋絵に出し、落ち着くのを待ってから話をする事にしたのだった。




「なんでっ……こんなことになっちゃったんだろ…」


 最近のライクスペースは以前とは違い、本当にモラルが低いタイプのアウトロー系とか、裏では薄汚い事をしてる奴が伸びており、それに伴って嫌な連中が多くなってるという実情があった。


 その事を察知してハッピーリレーとシャイニングゲートは接触禁止令を出したのだ。


 最近のライクスペース所属者達のモラル低下はいくら何でも酷いものだった。迷惑系一歩手前を自称する配信者グループが、街の中で大騒ぎして通行人に迷惑を掛けたり、公園で獰猛な大型犬を放し飼いにして子供が遊べなくしたりした。これでは一歩手前じゃなくて完全に迷惑系だ。


 アウトロー系の配信者が一般市民を取り囲んで歩けなくさせ、「どいてくださいよ!」と少し手で触った所を、正当防衛動画と称して集団で暴行を加えたりする動画で再生数を稼いでる。


 掃除系動画投稿者を自称する連中は自分たちで田畑や森の中にゴミを撒き散らし、それを掃除するなんて悪質ヤラセ動画を撮ってるなんて朋絵は聞いた。危険物除去系配信者を名乗る奴も似たような事をしてるらしい。


 今はyour-tube以外の動画サイト、過激な内容やyour-tubeでは制限に確実に引っ掛かるような動画が推奨されてるサイトで稼いでる者も居るらしく、やはりキナ臭さが漂ってる。


「酷すぎるだろ…そんなの炎上どころか逮捕、いや刑務所行きだってあり得るでしょ、何で誰も問題にしないのさ?」 


「分かんないよっ…ぐすっ…、私が真面目に視聴者さんたちに楽しんでもらおうって思ってたの…バカみたいじゃん…っ」


「正しいのはどう考えたって朋絵さんだって! ってか流石に何か変でしょ!」 


 灰川は朋絵が言った連中の話は少し知ってたが、2社が決定的に危険視するようになった原因は他にもある。


 ライクスペースの所属者の何組かが暴露系と呼ばれる形の配信や動画をやりだし、企業勢や個人勢を問わずアレコレと話されたくない事や、秘密の話を晒し上げる内容の事をやり出した。


 『最高イケメン配信者○○の最低の裏の顔を暴く!』『大人気個人Vtuber○○の尻軽さは異常!実際に誘われた話アリ!』『○○社のファン喰い率100%!?絶対に近付かない方が良い!』


 こんな内容の動画を出し始め、視聴数もうなぎ上りで多額の収益を上げてる。詳しくはサブスクでみたいな感じでも稼いでおり、しかも内容には過剰な誇張や虚偽が含まれるそうだが、ギリギリで法に抵触しないやり方をしてて厄介だそうだ。


「どうしちまったんだよライクスペースさん、前はシャイゲとかとは路線が違ったけど正統派だったじゃん。何でいきなりこんなスタイルになったんだよっ」 


「ライクスペースのVtuberファンだった人も、最近のライスペの路線が嫌で離れてってさ…私の配信の同時視聴者も1000人も居なくなっちゃってる…」


 彼らの牙の矛先は同社の者達にも向けられ、『Vtuber見てる奴はバカ、頭良い奴はオレたちを見る』みたいなニュアンスの事を言ってたりするそうだ。


 そんな事を言う奴が居る会社のVtuberからファンが離れるのは当たり前で、登録者が70万人以上も居る滝織キオンの視聴者もどんどん離れていった。過去の炎上騒ぎも手伝って、今では最低視聴者数を更新し続けてる。


「言いたかないけど…こりゃもうライクスペースはVtuber路線は捨てたって見て良いと思う。あっ、そういや実質的な親会社が変わったんだっけか」


「うん……」


 ライクスペースの親会社はIT会社のUBIGという会社で、ソーシャルゲーム配信に強いという特徴があった。しかしUBIGは相当に力を入れた新作ソシャゲがバグで売り出せなくなり、多額の負債を抱える事になったのだ。


 そこに負債を肩代わりするという別会社が現れて実質的な経営権を渡す事になり、そこから手軽に人の目を引けてハデな動画や配信をする者が多くなったそうだ。


「正当防衛とか言ってる暴力系動画も手を出した方が悪いみたいにやってるけど、これ相当に編集されてるよね?」


「うん…それに街で襲われてる人を助けたとかって動画も悪質なヤラセみたいでさ…、もうやりたい放題だよ…」


 暴力や見た目で分かる派手な善人系は目を引きやすく、ゴシップや暴露系は興味を引きやすい。ガセネタでも飛び付く人は多いし、ヤラセでも動画に『ヤラセなし!全て真実!』とか書かれてたりすると信じる人は意外と多い物だ。


 今のライクスペースは資本形態が変わったために大幅な路線変更を余儀なくされ、今までは男女混合の少しズレた正統派だったものが、稼げれば何でも良いというタイプのアウトロー系や暴露系だろうが、人目を引いて稼げる奴歓迎という路線になってしまってる。


 しかもライクスペースが今まで培ってきた編集技術や、視聴者の信用を得る構成などで動画や配信としては面白く、割と『マジか!』と信じれてしまう造りになってるのも問題だ。


「資本が変わるとここまで変わるもんなのか…ビジネスって怖いな…」


「ライスペじゃVの冷遇も始まってるかもってさ…」


 Vtuberや正統派スタイル配信者は名を上げるまでが難しく、今では相当に工夫しないと稼げないという状態が出来つつある。つまり何やっても100番煎じくらいになるという事だ。


 そこでライクスペースの新たな親会社は『業界2位の看板を使って手っ取り早く儲けられる方針にしよう』となったのだろう。Vtuberとかが嫌いな可能性もある。


 後はその辺のアウトローや顔の良い奴らを集めて、正義ズラやアウトローだけど実は善人みたいなツラをさせつつ、あの手この手でライクスペースが築き上げてきた信頼を利用して稼いでるという訳だ。


「それにしたってだよ、そんな上手く行くもんかね。1歩どころか1mm間違えたら崖落ちみたいになるでしょ」


「実際に炎上もしてるよっ…でもそんなに大きな騒ぎになってないし、問題なくやれてるっぽいよ…」


 朋絵が言うには所属者が炎上したりはしてるそうだが、軽いものだったり火がすぐ収まったりなど、運が味方してるとしか思えない程度に収まってると言う。


「ここまでやっておいて、この程度で済むなんてやっぱおかしいって、なんか弱みでも握ってんの?」 


「知らないけど、そうなのかもね…」


「……朋絵さん、正直に聞くけどライクスペースさんで続けるつもり? ちょっと考えた方が…」


「…ぅぅ…! ぐす…っ!」


 高校2年にもなる子がまたしても泣きそうになる。


 朋絵は滝織キオンとして頑張ってきた、視聴者を掴むために様々な努力を寝る間も惜しんでやってきた、辛い事や失敗した事だっていっぱいあった。


 その末に登録者が増えて一時期は80万人を超えて大きな稼ぎも得ていたし、Vtuberという世界で成功した自分が誇らしかった。


 Vtuberになってなかったら自分はきっと、中学校時代に酷い経験をした記憶を引きずって腐ってた。そう自分でも思ってる。


「灰川さんさっ…配信で視聴者さんを増やす大変さって分かる…? 私は凄く大変だった…それなのに簡単にチャンネル捨てるなんて出来ないよっ…」


「そりゃそうだけどさ…」


 朋絵は視聴者を増やすために学校をサボって何度も耐久配信したり、視聴者参加企画を連続でやったり、長時間配信は基本、配信を面白くするためだけに頭を使い、学業の成績は最悪レベルだった。


 配信業の負の側面、視聴者を掴むために無理をして実生活がボロボロになる例である。


 苦労して増やした視聴者数があるから簡単には止められない、止めたら生活の維持が出来なくなる、会社を抜けて独立して個人Vに転生しても上手く行く保証がない。 


 まるでコンコルド効果だ、継続する事が経済的や精神的な損失に繋がるとしても、費やした時間や労力や金銭を惜しんで止められない状態になる現象である。


「個人でやるのも私は無理だよ…動画編集の才能ないし、自己マネジメントも自己プロデュースも上手くないし、危機管理だって…」


「個人で稼ぐのも今は難しいしなぁ、俺もそれは分かるし。名前が売れたら厄介ごとも増えるだろうし」


 名前が売れたなら契約満了で個人に転生して稼げば良いという考えもあるが、それが上手く行く保証があるだろうか?


 個人になったら会社は守ってくれない、炎上しようがストーカーや盗聴被害に遭おうが、デマを拡散されようが、収益化が剥奪されようが、家族が特定されて迷惑が掛かろうが、誰も守ってくれない。


 炎上は釈明しても収まらない事が多い、ストーカーや現代の盗聴は警察に言っても大した対策にならない、そもそも事件が起ってからでは遅いのだ。


 身バレや炎上の危機管理をしつつ稼ぐというのは難しいし、企業に属してた時とは活動規模が確実に小さくなるというマイナスもある。


 デマを言いふらした奴を開示請求して訴える手もあるだろうが、ログ消去VPNシステムを使ってたら特定は絶望的だ。


 海外サーバーを経由したアンチ活動だったら開示請求が実現するまで恐ろしい金額と、その国の法に準拠した手続きが必要になり、言語の壁もあって数年単位の時間が掛かる可能性も普通にある。


 賄賂が無ければ動かない国のサーバーを使われてるかもしれないし、そもそも受けてくれる法律事務所が見つかるか怪しい。特定できたところで超大損だし他にも問題点は山積みで、ハッキリ言って現実的じゃない。


 そもそもフリースポットWI-FIを使われただけでも特定は困難だ。開示請求とは万能どころか制約だらけだし、ログの保存期間だって長くない。


 だからこそネットでは開示請求で特定した!という事が大々的に喧伝され、アンチやデマは開示請求するぞ!という姿勢を見せてアンチ活動やデマの流布に対して牽制し、『ネットで何かやればバレる』という先入観を植え付けなければならない事情がある。


「開示請求して逆に炎上したストリーマーもいっぱい居るし…転生した後にそうなったらヤバすぎじゃん…」


「転生失敗かぁ、最近は結構聞くよね。ライスペの人も誰だか失敗したって聞いたし」


 転生失敗したVtuberなんていっぱい居るし、最初は順調だったけど今は名前も聞かなくなった転生Vもいっぱい居る。人気は水物、成功か否かはすぐには分からない、それは恐ろしい物だ。


 ビジネスだろうが独立起業だろうが軌道に乗せてしまえば後は楽なんて言うが、軌道に乗せるまでが大変だし上手く行く保証もない、ビジネスに不可欠な取引先が潰れて軌道が外れる事だってある。


 何事も『長くやる』というのは非常に難しいものであり、配信も長期間やればマンネリになって離脱する視聴者が多くなるし、漫画作品なども連載が長くなれば購読を止める読者も多くなる。


 一部の大成功してる人達が目立ってるだけで、99%は失敗したり、炎上や収益低下で活動継続が難しくなったり、体調や精神の問題で活動できなくなったりする。


 物事を全力でやり続けるのも難しい、全力なんて長く続かない。全力じゃなくても人気を保ち続けられる人、そんな才能溢れる人じゃなきゃ個人で長く安定的な活動は出来ないだろう。エンターテインメントの世界は恐ろしく厳しい世界だ。


(視聴者数はまだ下がるんじゃないのか…? 登録者には死にアカも多いだろうし、800人が500人になるのも時間の問題だぞ…)


 灰川としてはそう思わずに居られない、今のライクスペースでどんなに頑張っても意味が無い、それは本人も分かってる筈だが抜け出せない。


 仮に今に抜け出したとしたら、ライクスペースの悪質な所属者から『滝織キ〇ンは裏ではこんな奴だった!被害者多数!』とかの動画を出されかねない。


 人は良い情報より悪い情報に目が行くネガティビティバイアスという心理があり、それを鑑みるに被害は避けられないだろう。もしそんな動画が出されればの話だが。


「あれ…? 朋絵さん、お墓とか壊して遊んだりした?」


「はぁ? 何言ってるんですか?」


「いや…今、何となく霊視したんだけどさ、運気が恐ろしく下がってるよ。もう尋常じゃないくらい」


 灰川が霊能力を使って朋絵を見ると、凄いレベルでの運気の下がりが見られた。それはもう腕の良い霊媒師などのお祓いが必要なレベルだが、継続的に何かに運を持ってかれてる気配がする。 


「最近は配信して学校と会社に行ったくらいですよ、あとはスーパーとか行ったり」


「う~ん…普通はこんなに運気が下がるなんて無いよ、この場合の運気ってのは運そのものじゃなくて、良い巡り合わせを呼び寄せたり、悪い巡り合わせを避けさせたりする物なんだけどさ」


 それが余りに下がり過ぎて良い巡り合わせが絶望的に少なくなり、悪い巡り合わせばかりが訪れるようになってしまってる。


「灰川流陽呪術・運能渾身! すぅぅ~~、せいっ!」


「うわぁっ! な、何ですかいきなり!」


「お祓いみたいなもので運気を上げたけど、やっぱどっかに吸われてるっぽいな…何に吸われてんだろ? 金よこせとか絶対言わないから安心してね」 


「完全に信じる訳じゃないですけど…私が最近下がってるのって、何か原因が~~……」 


 何が起こってるか分からないが、とにかく何かは起こってる。どうにかしてあげたいとは思うが、朋絵とは性格の相性が悪いから、どうするべきかと思ってた時だった。


「あれ? フワリちゃんから着信だ、なんだろ?」


 朋絵が同じライクスペース所属のVtuberの薙夢フワリこと愛純から電話が来て、それに出た時だった。スマホの電話口から灰川にも聞こえるくらいの愛純の声が聞こえて来た。


『先輩っ! た、助けて下さい~っ!会社で凄く恐ろしい事を聞いちゃったんです!』


 「「!?」」


 何やら愛純はライクスペースの配信ルームで配信した後、休憩スペースで休んでた時に何か恐ろしい事を聞いたそうだ。


 しかも部分的に録音してるらしく、今すぐに会って話をしたいとの事だった。


 念のためですが、この作品はフィクションです。

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