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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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181話 市乃と来苑のアプローチ?

「皆の中だったらさ、付き合うなら誰がイイって思う? あははっ」


「じ、自分も気になるっすねっ! え…えへへっ」 


 女子高生っぽい話題だし、気になってる相手にカマをかける言葉の常套手段の一つだが、この言葉だとそこまで『思わせぶり』な感じが無いから比較的には使いやすいだろう。


 自分ってどうかな?だと思わせぶりに過ぎるし、○○さんってどう思う?だと角が立つ上に自分が蚊帳の外になる。


 市乃の聞き方は自分をフィールドの中に置きつつ、それでいて過度に気持ちを匂わせない聞き方でありながら、自分にも心の先を向けさせる言葉の選び方だった。 


 もちろん他にも幾らでも言葉の選択肢はあった、しかし『付き合うなら誰が良い?』は他の話に派生させやすく灰川に向いてると市乃は直感したのだ。


 この言葉はギャグに持って行くかマジに持って行くかなどコンボの選択肢が広く、相手のガードを崩しやすく攻めにも有効であり、例え他の人の名前を挙げられても自分やその場に居る当事者に気を引きやすい方向に持って行ける構えである。


「付き合うならって、そりゃ市乃か来苑だろ」


「えっ?」


「ええっ?」


 まさかのナチュラルな返しに2人は驚く、市乃の戦略としては何と答えれば良いか分からず困る灰川をからかいつつ、今一緒に居る自分たちに目を向けさせるという考えだった。


 しかし灰川は大人で、それなりに様々な人と関わって来た経験があり、こういった質問をされたら『波風を立てないよう、一緒に居る人を立てる』のが礼儀だと知ってる。


 それでも普段だったら今よりは動揺してたかもしれないが、そうならないのは理由がある……トイレに行きたい!


 その気持ちが前にあるから質問の受け答えは実質的に心の2番目になってしまっており、落ち着きがないのに落ち着いてるという変な状態になってる。


「え…あ、そうなんだっ、あははっ、灰川さん女の子を見る目があるねー」


「~~! え…ぁぅ…、そ、そうっすかっ、えへへっ…」


 2人も今の言葉を完全に真に受けた訳じゃない、灰川の言い方は特に深い意味は無さげな声色であり、大人の対応だったからだ。


「えっとさっ、どんな所がイイって思ったのかなー? そこも聞いときたいかもっ」


「そ、そうっすねっ、空気読んでくれたのは分かるんですすけど、自分も一応聞きたいっす!」 


 からかうつもりが形勢がおかしくなる前兆が出始めており、逆に2人が少し動揺の心が芽生え始める。


「市乃は思いやりもあるし配信の才能もあるんだろうけど、それ以上に努力家だからな。その努力を近くで支えたいって思えるぞ」


「……えっ?」


「来苑とは何か妙な縁があるよな? その縁を大事にして、何か困った時の助けになりたいって思う。あと2人とも普通に可愛いしなっ」


「………」


 この返答に2人は今まで感じた事の無い気持ちが胸に広がった。


 容姿とか直接的な内面とかではなく、支えたいと思えるから、縁を大事にして助けになりたいから、そういった心を口にされたのは初めてだった。


 そう言われて嬉しいのは分かる、とても嬉しい。でも嬉しいとは違う別の感情……本当の意味では初めて芽生える感情があるのを確かに感じる。


 その感情は『強い信頼』という感情で、その信頼は決して裏切られる事が無いという『確信』、自分たちをしっかりと見て聞いて支えてくれる人が近くに居る『安心』という3つの感情が混ざったものだ。


 灰川の言葉が嘘じゃないのが分かる、きっと支えて欲しい時に支えてくれる、縁を大事にしてくれる、私たちの事を本当に考えてくれている。それらの感情が押し寄せた時、2人の心の中に一つの答えが浮かび上がった。



「だから灰川さんの配信って誰も来ないんだ!」


「灰川さんの配信に誰も来ない理由が分かったっす!」


「何でそうなるんだよ!? ちょっとトイレ行って来るわ!」



 ここで完全に空気が壊れ、灰川は我慢の限界だったためトイレに行ってしまう。


 灰川としては普段の調子だったら「なんとなくだよ」とか答えて濁したかもしれないが、トイレの我慢で精神がいつもと少し違かったのもあって、本心の一部を言ってしまった。


 もちろん今の言葉は2人を立てるための大人の対応というのもあったし、仮に空羽や史菜に聞かれてたら「空羽と史菜」と答えてた。その雰囲気は市乃と来苑も感じ取ってる。


 しかし図らずも灰川の本心というか、本気で考えてることを聞いて彼を慕う気持ちは大きくなったと同時に、灰川の弱点が分かってしまった。


「灰川さんって人に感心を持つのは上手だけど、人に関心をもたれるのが凄い下手なんだ…」


「人間的な深さの方向とか面白さが配信だと分かり辛いタイプだよね…下手したら何日も配信見なきゃ面白さが分からないっていうか…」


 灰川は配信の時は短絡的な思考にブーストが掛かり、こういった性質を持つ人間だと視聴者には伝わらない。典型的な『会って話してみないと分からない人』なのだ。


 灰川に会って話して親しくなった市乃たちは彼の良さを知ってるが、視聴者はそんなものは知らないし、5秒くらいで戻ってしまう。


 しかも配信では短絡的な部分にブーストが掛かり、視聴者には自動的に『自分は面白いと思ってる奴』にしか映らない。配信で見せる性質と本来の性質が違い過ぎて、人間的な深みの部分や面白さが見事に隠れてしまってる。


 黙ってゲームしてたり、アクシデントでの反応が地味で普通だったり、明るい声を出したと思ったら何言ってるか分からなかったり。


 配信時に極端に短絡的な思考になるのに、普段は思慮が足りてて基本的に優しいという性質も、裏を返せば『爆発力がない人が爆発しようとしてる』みたいな感じになっており、その違和感から求心力が全く出ない。


「灰川さんの配信って、世界レベルの悪いお手本みたいなものだったんだ…面白くない配信の全てが詰まってる、みたいな…」


「配信に向いてない性質が揃ってるんだね…どうやったって灰川さんの配信は面白くなりようが無いって事っすもんね…」


 灰川配信は話も面白くないし、ゲームの腕も普通くらい、コレといった特色もないし、灰川の良い部分が出ておらず退屈なのだ。


 つまり配信における視聴者を掴むための要素が何一つなく、むしろ市乃たちは灰川の配信を無意識的に反面教師にしており、配信において『やってはいけない事の本質』を深いレベルで学んでたのだ。


 そして無意識のうちに市乃は配信の技量の基礎が、灰川メビウスという反面教師を得て強化されてたのだ。つまり正しく反面教師、その存在は意外と大きかったりする。


 彼女たちの配信が『とても面白い配信のお手本』ならば、灰川の配信は『世界に通用するレベルのつまんねぇ配信』なのである。喋っててもつまらないし、黙っててもつまらない、不快じゃないのに視聴者が居付かない。やろうと思っても簡単には出来ない、ある意味では凄い事だ。




「はぁ~、すっきりした。どうした2人とも、そろそろ帰るか?」


「あ、灰川さん戻ってきたー」


「せっかくだし少しガーデンを見て行かないっすか? 綺麗ですし」


 世界レベルのつまんねぇ配信者が戻って来て、3人で夜の銀座のデパートの屋上ガーデンを散歩してみる。思ってたより広くて綺麗で、眺めも良いからカップルなんかには良さそうな場所だ。


 今は他の客が居ないからゆったり歩けるし、灰川としては市乃と来苑が親睦を深めつつ、2人のストレス解消にもなるから丁度良いと思う。


 しかし市乃と来苑はさっきの問答もあって灰川への好感度も上がっており、今はさっきよりも明確に自分たちの気持ちを理解して受け入れていた。


 市乃も来苑も今は割と本気で灰川の事が『好き』であり、同年代の子達から聞いたりした話やネットの話を元に、アプローチしていこうと強く決めた。


 灰川が思うに自分は2人と比べれば取るに足らない存在であり、多少の好意は持ってもらえるかもしれないが、本気の好意ではなく青春の一時の迷いくらいの感情だろうと思うよう心掛けてる。


「屋上に遊歩道があるなんて凄いな、やっぱ高級デパートは違うんだなぁ」


「ガーデンは写真とか動画撮影はOKなんだってさ、さっき来苑先輩と一緒に撮影したんだよー。ね?来苑先輩っ」


「っ…! ぁぅぅ…そ、そうだね市乃ちゃんっ! えへへっ」


 屋上は簡易的な遊歩道があり、1周して景色を見回せるようになっている。写真映えするような階段とかライトアップスペースなんかもあり、隠れた自撮りや記念撮影のスポットみたいな感じなのだ。


 そこを歩きつつ3人でVtuberやハッピーリレーやシャイニングゲートの話、皆が出演予定のテレビ番組の話をしたりする。


「new Age stardomの収録はリハーサルとかもあるから、しっかりやるんだぞ。テレビ局内では顔バレとかは気にしなくて良いって聞いたけど、実際はどうなんだろうなぁ」


「顔バレは自分らには怖い事っすからね、でも挨拶とかはしなきゃですし」


「うーん、そこはもう多少の事は覚悟しなきゃなのかなー」


 Vtuberの世界から打って出るとなると壁も多く、今までのように完全に身を隠して活動というのは難しくなるかもしれない。


 多少の事は耐えるべきか、本人の秘匿性を守るか、どのような形をとるかは今も話が行われてる。


「そーいえば灰川さんっ、今日は私と来苑先輩の制服姿にドキドキしてるでしょー? ずっとチラチラ見てるもんねー?」


「そ、そううっすねっ、えへへっ」


「そうか? そこまで意識して無かったけど、知らんうちに見てたのかなぁ。ちょっと気を付けとく」 


 灰川としては自覚は無いし、市乃と来苑もほとんど言いがかりみたいな物言いだ。


 しかし2人の制服姿は可愛いなと思ってるのは事実だし、嫌がってる感じも無いので灰川は謝罪の意味も込めて気を付けるとだけ言っておいた。


「良いんだよ、もっと見ちゃいなよー。灰川さんになら見られたって嫌じゃないしねっ、あははっ」


「じ、自分も嫌じゃないっていうか……その…ぁぅ…」


「お、おう、じゃあ見とくわ。足元気を付けろよ」


 市乃の紺色と青が基調の制服姿も可愛いし、来苑のクリームホワイトが全体を包む制服もデザインが凄く良く、どちらも似合ってる。


「そーいえばさっき来苑先輩と2人で写真撮ったんだけどさっ、灰川さんにも送ったげるねー? 良いですよね来苑先輩っ?」


「う、うんっ、もちろんだよ市乃ちゃんっ。 …っていうか、そのために撮ったんすからっ…」


 灰川には来苑の後半の言葉は聞こえておらず、2人とも照れて少し恥ずかしそうな顔をしてるが、そこも灰川は気付かない。


 実は2人はタイミングを見計らって話し合いをしており、灰川の隙を突いて一緒に写真を撮影したのだ。


 その写真は市乃が友達に聞いた『アプローチする自撮り』とかの話や、ネットで見た『男が喜ぶ女の子の写真』などの情報を元に撮影したもので、2人としては結構大胆な写真だった。


 撮影する前は余裕だと思ってたが、イザその時となると結構な恥ずかしさや照れが出てしまい、顔が赤くなりそうなのを思い切り我慢して撮影したのである。


「お、来たぞ。どれどれ」


「あ、あははっ、他の人に見せちゃセッタイダメだよー、もし見せたら末代まで祟ってやるからねー」


「が、頑張って撮ってみたっす…っ! え、えっとっ…喜んでくれるとっ、ありがたいっす…!」


 市乃も来苑も異性との交友はVtuber活動もあってあまりなく、男子と学校で話す事もあまりない。市乃は男子とは教室が違うし、来苑の学校はクラスに男子も居るし多少の会話はあるが、異性として意識した生徒などは居なかった。


 今は2人とも灰川を異性として気にしており、彼にならこういう写真を送っても大丈夫だなと感じたのだ。その写真はいわば2人の灰川への信頼が形になったような物だ。


「お、よく撮れてるな。ライトアップも良い感じだし、今時の子はやっぱ写真映えを意識するんだなぁ。でもこの写真は確かに表には出せねぇわな…」


 「「え?」」


 2人としては割と頑張って、灰川の意識を自分たちに向けさせようと大胆な写真を送ったつもりだったが、それに対して灰川の反応はあっさりしてる上に何かおかしい。


 市乃と来苑が一緒に撮った写真は、2人が並んで密着して制服の上着の上の方を少し開き、ちょっとだけ胸元が見えてるという写真だったのだ。


 市乃の大きめの胸が少しだけ見えて、来苑は控えめながらも確かな胸の稜線が感じられる写りだった。この写真は灰川に隠れて試着室に2人で入った時に撮影したものだ。


 とはいえそんなに肌の露出がある訳でもなく、割と一般的な写真ではある。少しだけしか見えてないし下着なんかも見えてないのを確認もしたし、問題のある写真ではないのを確信してる。


 表情が恥ずかしさと照れっぽさを隠しきれておらず、なんだか可愛い感じがするのもよく撮れてるし、ちょっぴり恥ずかしいけど良い写真だと2人は思う。いわゆるちょっとしたサービスショットだ。


 そういう写真は送られたら『もしかして俺に気があるんじゃ?』なんて男は思ったりするが、灰川の反応はそんな感じじゃない。


 大人だと反応が違うのか、もっと大胆な写真じゃないとダメだったのか、でも下着も写っちゃうのは恥ずかしすぎるし……そんな気持ちが芽生えて、灰川のスマホをのぞき込むと。


 「「心霊写真だー!」」


 「うおおっ!?」


 市乃と来苑の胸元辺りに髪の長い女の霊が写っており、見事に頑張った部分が隠されてしまっていた。


「な、なんでー!? 撮った時にはこんなのなかったよー!?」


「あ、後から浮かび上がったんですかね…念とか今は感じないけど、不気味っすね…」


「すぐどっか行っちゃったんだろうな、霊視したけど今は何も居ないし。まぁ、念のため祓っておくか、邪気霧消っ、はいOK」


「こんなの幽霊モザイクだよー! 胸の所に出る必要ないじゃんっ!」


「うぅ…せっかく頑張ったのに、台無しっすっ…」


「心霊写真の怪談も多いからなぁ、モデル写真家の人にこんな話を聞いたことがあるぞ」


 灰川が心霊写真について知ってる怪談を語り始めた。




  グラビアモデルと心霊写真


 ある雑誌のグラビアモデルとして、業界に入りたての若くてスタイルも良く綺麗な女性が起用されて撮影スタジオに入った。


 その写真を撮影するのは出版社所属のカメラマンで、今までも色んなグラビアモデルの魅力や美しさを引き出してきた敏腕カメラマンだ。


 この日の撮影は背景は完全な白の写真なのでスタジオを使用し、カメラマンはモデルに細かく注文やアドバイスをしつつ、モデルは写りの技術を学びつつ撮影が進んでいく。


「え……なんだこの写真…?」


「どうかしましたか?」


 写真は水着グラビアなのだが、撮影中に写真を見返してみると明らかに変な部分があった。モデルの背後に女のような影が写っており、それが枚数を追うごとに鮮明になっていく。


 そして段々と背中を向けていた女が少しづつ正面を向いてきてる……このままだと完全に前を向いてしまう…。


「こんな人は居ませんでしたよ! 誰なんですか…!?」


「心霊写真……なんだろうね…、初めてじゃないけど、こんなにハッキリ撮れたのは初めてだよ…」


 こんな写真ではグラビアにならないし、撮影期日は今日までだが気分は最悪だ。カメラマンだって怖いと思ってるし、モデルだって普通に怖いと思ってる。


「撮影しましょうっ、私が表紙になるチャンスなんですから、逃がしたくないですよ!」


「しかしだね…」


 モデルはそれでもチャンスを生かすために撮影に臨もうとするが、その時に触ってもないカメラが勝手に『カシャ! カシャ!』と連続でシャッターが下りたのだ。


 2人とも怖さで声も出なくなってしまい、モデルはローブなどを羽織るのも忘れてスタジオから廊下に出て息を整えた。きっとあのカメラのデータの中には、あの女が……。


 結局は期日もあるし撮影はしなきゃならないから、スタジオではなくそのまま廊下で良い感じに撮影して雑誌の表紙を飾った。スタジオの中に置いてたカメラのデータは見ないで捨てたらしい。


 しかし流石にカメラマンもモデルも満足のいく出来にはならず、1か月後にリベンジとして撮影して再度に表紙を飾ったそうだ。




「本当にヤバイ心霊写真はテレビに出せないとか言うっすよね、そんな感じだったんですかね」


「私たちの写真も似たよーなものだよー! サイテーな気分なんだけどっ!」


「そう言うなって、ここまでハッキリ写ってるのは珍しいぞ?」


 せっかくの大胆な写真が台無しになった市乃と来苑は残念がりつつも、やっぱり少しホッとした気持ちになったりするのだった。



 その後はデパートから出て駅に戻り、市乃と来苑を渋谷のタクシー乗り場まで送って車に乗って帰るのを見届け、灰川も帰宅した。


 しかし市乃と来苑は実は示し合わせて、シャイニングゲートの配信邸宅付近に行き先変更した事を灰川は知らない。


「市乃ちゃん、来苑ちゃん、成果はどうだった? 灰川さんにアピールできた?」


「それが空羽先輩、聞いて下さいよー! 心霊写真が撮れちゃってー」


「むふふ~、れもん先輩、灰川さんかっこいいでしょ~? 私たちの仲間になろ~ね~」


「小路ちゃん、ぅぅ…うん…。私も仲間に…なりゅ…」


 配信邸宅に居たのは空羽と桜であり、市乃と来苑はここで正式に空羽、桜、史菜、由奈が入ってるテリトリーの仲間になった。


「でもさ、結構難しそうだね。市乃ちゃんと来苑ちゃんなら灰川さんの心が動くかなって思ってたけど」


「空羽先輩は何かしたんですか? いくら灰川さんでも空羽先輩にアピールされたら、気になっちゃうと思うんですけど」


「え、えっとっ…ちょっとだけ…、ASMRしてみた事があったかなっ…」


「ええっ!? 耳元でって事ですかっ!? 灰川さんどーなったんですかっ??」


「記憶がなくなっちゃった、失敗しちゃったなって思うよ。今はもっと上手に出来るように練習中かな」


「記憶が!? なに言ったらそーなるんですかっ」


 空羽が普段は誰にも見せない恥ずかしそうな表情でASMRの事を話す。それが原因で灰川は1日入院する事になり、その時の記憶は灰川は無くなってるが、何かうっすらと覚えてるような感覚があったりする。


「小路ちゃんは何かやったの? 自分、なんも思い浮かばないから教えて欲しいかも!」 


「れもん先輩、私はね~、灰川さんの腕にお胸をくっつけてあげたよ~」


「そ、そんなことしたの小路ちゃんっ! すごい度胸っす……ごくっ…!」


「そうだよ~、こんなふ~にね~、とりゃ~」


「ちょ、桜ちゃん!? うわぁ、柔らかくてあったかいっ、最高かもっ!」


 小路は隣に座ってたれもんの腕を掴んでから、ぎゅ~っと抱き着いてみた。れもんは小路に抱き着かれる心地よさに驚き、自分もこういう事をした方が…とか考えてしまう。


 小路は灰川に対しては大らかな気持ちがあり、こんな事をしてみようなんて思って実行した事があった。


「皆それぞれの方法で灰川さんにアプローチしてみよう、仲間が増えたし、6人で頑張ろうね」


「そうだね空羽先輩~、みんなよろしくね~」


「はい、頑張りましょう!」


「自分…出遅れてるから頑張らないとっすね…!」


 今は集合してるのは4人だが、合計で6人の同好会となった。


「やっぱりもっと直接的にアピールした方が良いんですかねー? 皆で制服着てローアングル写真とか送っちゃうのどーですかっ?」


「私の通ってる盲学校は制服がないよ~、その時は貸してもらいたいな~」


「ローアングルはやり過ぎじゃないっすかねっ…! もしスカートの中が見えちゃったら…ぅぅ~」


「私、授業で使う下着の上に履くショートパンツ持ってるよ? 史菜ちゃんも同じ学校だから持ってると思うな」


「そこまでローアングルじゃなくて良いと思いますよ空羽先輩っ!? あんまり露骨なのダメですって!」


 邸宅のリビングに4人の楽しそうな声が響き、あーでもない、こーでもないと笑いながら話に花を咲かせる。


 もし灰川は6人から今以上の攻勢を仕掛けられたらどうなるのか、誰かに気持ちが向くのか、それとも全員に気持ちが向いてしまうのか、誰にも気持ちが向かないよう気を改めるのか。




 しかし……それは灰川が生きていられたらの話である。


 その日、欧州のとある国の森の中で一つの重大事件が発生した。


 教会聖職者のようなローブ姿の男1名と迷彩服を着た軍人のような者が2名、合計で3名の死者が出る事件が起きたが、その事件は決して世間に公表される事はない。


 その3名の死因は全身の血が抜き取られたことによる失血死、そして周囲には激しい抵抗、もとい抗戦の跡があり、木々には銃弾の跡がある……その銃弾は材料に銀が使われていた。


 最後まで勇敢に戦った3名は結果としては負けてしまったが、仲間に最後のメッセージを己の血を使って木の幹に残した。


 『Japan』、最後の力で残したメッセージは日本を意味する文字、そして彼らの属する組織の教えには『自分が倒されたら、何が何でも最後の力を振り絞って標的の向かう先の手掛かりを残せ』というものがある。

 

 日本に何かが来る可能性がある……。

あけおめで~す

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― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 今年の更新も楽しみにしています。 学生時代にモデルをしていた知人は、カメラマンの後ろにカメラマンを睨み付けている何人もの女性の霊みたいなやつを見たらしいよ。 霊感な…
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