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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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14話 各社のテコ入れ

「来たぞ、なんか用?」


「なんか用ってヒドイよ灰川さんっ、出勤してたなら声掛けてくれれば良いのにー」


「お疲れ様です、お呼び立てしてすみません」


 4時30分、ミーティングルームの中には市乃と史菜、それともう一人


「こんにちわ灰川さんっ、ぶふっ!」


「佳那美ちゃん、顔見ただけで笑わないでよ。ホントに笑い袋だなぁ、まあ良いんだけど」


「だってっ、灰川さん面白くてっ! あははっ」


 ミーティングルームには佳那美ちゃんも来ていた、小学4年生なら何でも面白く感じてしまうのかもしれない。特に灰川はお気に召したようだ。 


「佳那美ちゃんは私たちが呼んで怖い話の練習に付き合って貰ってたんだよー、子供でも適度に怖くて面白く思って貰える話し方とか相談してたの」


 市乃が言うには佳那美ちゃんはハッピーリレーのVtuber候補生であると同時に、かなりVtuberに詳しいそうなのだ。それも女性Vtuberに詳しいらしく、女の子がアイドルに憧れる様な感覚だろう。


「灰川さんも来た事だし、ちょっと休憩ね。学校で体育あって疲れた~」


「来て頂いていきなり休憩ですみません」


「別に良いよ、俺も木島さんと色々と話して疲れたしさ」


 仕事の話もそうだがオカルトの説明というのも真面目にやると疲れる物だ、常識外のものだから信じるか信じない別にしても説明が難しい。


「そういや佳那美ちゃん、あの後はゲームはやってるの? 怪談物語だっけ」 


「それが灰川さんにお祓いしてもらったあと、無くしちゃったみたいなんですよ」


「そっか、なら良いんだけどさ」


 やはり無くなってしまったみたいだ、あのゲームソフト自体が存在する事が怪現象だから何が起こってもおかしくはない。


「そういえばハッピーリレーの今後の事なんだけどさ、法律が変わって子供でも夜に働けるようになったとか、他にも変わった所が何個かあるんだって、そういうの先に言って欲しいよね」


「うん、エリスちゃんも前から気にしてたもんね、灰川さんはどう思いますか?」


「さっき聞くまで関係ないとか思ってたけど、考えてみたら俺にも関係あったわ、エリスやミナミが深夜にホラー配信が出来るようになんだから」


 ホラーの撮影は時期を問わず配信だろうが動画撮影だろうが夜間が多い、そういった物に関わる人間は夜に仕事をすることも増える。


「来週から新体制で業務をしていくそうなので、ホラー系統やその他のジャンルの配信も動かしていくそうです。私とエリスちゃんはその旗印になって欲しいとの事で」


「私も来週からデビューが決まりました! 灰川さんも見に来てねっ、笑わないように気を付けるっ!」 


 ハッピーリレーは法改正を機に大きく勝負を掛けるようだ、既にエリスやミナミはホラー方面のファン獲得のために告知なども始めており、SNSを活発に利用して動いてる。


 佳那美も法改正と同時にデビューして児童系Vtuberという、企業系としては新機軸のジャンルを開拓する尖兵として配信界に向かうらしい。


「事務所はこれからメンバー限定コンテンツとかも強化してくって話だよ、私はあんまメン限って好きじゃ無いんだけどさ」


 メンバーとはメンバーシップとも言って配信者やVtuberの有料ファンクラブのような物であり、金額は月に100円から7000円くらいと幅がある。


 その金額に応じて見られるコンテンツやSNSなどで使用できるスタンプなどが貰え、高額になるほど様々なコンテンツが楽しめるというものだ。


「ハッピーリレーはこの機会に他の配信企業と同じように、色々と変革していこうとしてるみたいです、以前のように悪い方向に向かわなければ良いんですが…」


 ミナミは結構不安そうな顔で言った。改革とか変革という物が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない、むしろ一方的な意見しか出ない場で決まった改革などは経営者や権力を持つ者に都合の良い変化ばかりになったりする。


 ハッピーリレーの以前に実施した『意識と働き方の改革』とかいうのは、配信者の体調や都合、スタイルや個人感情を無視した改革で運営の都合や儲けたいという感情しか反映されてない身勝手な改革だったそうだ。


 その結果としてハッピーリレーが有していた人気配信者や有名Vtuberは、契約期間が終わると同時に一気に他所へ流れた。今の改革も運営の意識が前と変わってなければ同じような結果に終わる可能性はある。


 そして灰川のアルバイト募集要項を見るに、そうなる可能性は高いかもという心配もエリスやミナミにはあった。


「まあ俺は頼まれた事だけやるさ、ホラーとか心霊には詳しいけど配信に関しては素人同然だし」


 灰川は仕事の能力や学業の能力は高くない、割とオールマイティに色んな仕事をこなせるタイプだが、そのどれもが別段に凄いという事は無い普通かそれ以下の仕上がりだ。


「そういや皆は何で配信者ってかVtuberになろうと思ったの?」 


 これは是非聞いてみたい事の一つだった。


「私は中学生の時に面白そうだなーって思って、どうすればVtuberになれるのか調べてたらハッピーリレーの配信者募集のページを見つけて応募したんだよー」


 エリスはネットでVtuberを見て配信やVtuberというものに強く興味を引かれ、一時期はどうやったら自分もなれるかしか考えられない程になってたそうだ。


 それから調べていって、やがてハッピーリレーの学生配信者枠の募集を見つけ応募し、面接の日までに必死でトークやその他の自分磨きをして備え、面接に受かって今に至ってる。


 もちろんハッピーリレーで活動を始めてからも様々な事があったが、今も楽しくやれてるし、自分をデビューさせてくれたハッピーリレーに感謝してるから移籍もしなかったそうだ。


「私は実はかなりのあがり症で、人前で話したり初対面の方と話したりする事が苦手だったんです。それを見かねた家族が人に慣れる練習の一環としてオーディションに応募されて受かってしまったんです」


 ミナミは精神的な弱さを克服するために入り、それが見事に功を奏したという感じみたいだ。


 最初はビクビクしながらやってたが、それが視聴者に受けたり、内面的な優しさが見る人達に伝わって人気が出た。


 あがり症だったミナミがここまで来るのには大きな苦労があったに違いない、それでも今は視聴者を大切にしながら楽しくVtuberをやれてるみたいだ。


「灰川さんっ、私はねっ~…」


「佳那美ちゃんは何か凄い!って感じでオーディションに受かったんでしょ? 凄いねー」


「ぶふっ! なんで知ってるの灰川さんっ!? しかもテキトーだし!あははっ、はぁはぁ…」


「あ~、さっき筋肉モリモリの幽霊に聞いたんだよ、あの笑い袋はスゲェ!って」


「あ~はっはっはっ! 筋肉もりもり幽霊ってなにっ! 見たい~~っ! 笑い袋いうな~!あはははっっ!」


 佳那美ちゃんを笑わせるのは何か面白い、クセになりそうだ。そんな冗談を言いつつ、その後は佳那美ちゃんはレッスンに戻り、エリスとミナミの怪談の練習に付き合ってからハッピーリレーの事務所を後にした。




 自宅に戻り灰川はパソコンを付ける、帰宅して最初にやる事は大体パソコンの電源を付けることになりがちだ。


 夕食を済ませてシャワーを浴びパソコンの前に陣取る、今日も配信をするつもりだがエリスとミナミの配信も確認しに行った。


 今日はどちらも時間かぶりで配信しており、取りあえずパソコンでエリス、スマホでミナミ、ついでにスマホを買った時に格安で買えたタブレットを使ってハッピーリレーのSNSのページを開いてみた。すると思ってもみなかった配信界隈の来週からの本気度を目の当たりにして驚かされる。


「業界全体が割と本気で勝負に出るんだな」


 今回の法改正は配信界隈には大きな転機となってるようで、ハッピーリレー以外にも多くの配信系企業が競うように宣伝や新規の企画の発表をしていた。


 業界1位にして今は100万フォロワーVtuberを何人も有する『シャイニングゲート』は、新人Vtuberを一気に10人もデビューさせる。恐らくは最高の才能とエンタメ能力を持った新人たちだろう、虎の子を一斉放出という思い切った決断だ。


 業界2位の『ライクスペース』はお抱えの人気Vtuber達に新衣装やオリジナル楽曲、3Dモデルの改良など人気ある既存の配信者やVtuberに力を入れるらしい。


 業界3位にして多数の男性Vtuberや男性配信者を持つ、通称イケメン配信事務所の『サワヤカ男子』は本格的な男性アイドルユニットを発足させ、様々な年齢の男を組ませてオールマイティに女性ファンを狙っていくとのこと。


 業界4位でハッピーリレーとほぼ同率の配信企業の『ぶりっつ・ばすたー』は、有名声優やアニメ系インフルエンサーとコラボ配信をして、アニメファン層の視聴者を更に獲得しようと積極的に動くみたいだ。


 そして実質業界5位のハッピーリレーは……。



『来週からホラー配信やってくよー! 最初は怖い話からでさ、今すごい練習してるんだよ! みんな見に来てねっ』


コメント;当たり前だろ!絶対見に行くって!

コメント;エリスちゃんの怖い話楽しみ!

コメント;我一生幸福走推!

コメント;怖いの苦手だけど見るよ!



「おいおい…ハッピーリレーだけ方向性が変じゃねぇか…? 大丈夫なんかコレ」 


 他の企業は見栄えのする豪華な内容が目白押しだ、シャイニングゲートやライクスペースのファン達もSNSで大盛り上がり、ネット記事にもなってる。


 配信界隈はこの機に乗じてお祭り騒ぎにして、一気にファンを増やそうという算段だ。そのための素晴らしい企画のラインナップの数々だ。どこも大幅な話題性を上げる事だろう。


 SNSにはファン達が『来週は有給取った!』『何があっても絶対推しの配信は見る!』とか気合のこもった書き込みをしてる。


 そこに加えるハッピーリレーの来週のテコ入れ企画は『ホラー配信開始』『新人Vtuberが一人デビュー』という、なんとも……他と比べると地味としか言いようの無い感じだ。


 ハッピーリレーの新人Vtuberの見習い天使(設定)『ルルエルちゃん(正体は佳那美)』がデビュー、これは完全に他の企業の新人一気デビューの話題に食われて(かす)んでる。それでも箱推し(配信者やVtuberの個人のファンじゃなく、グループなどの複数名や会社に所属する者をまとめて好きなファン)の人たちは話題にしてくれてる。


 ホラー系統については『血迷ったか!ハッピーリレー!』『今どきホラーかよ…』『運営は何考えてるんだ?』とか、ファン達からも否定的な意見がチラホラ出てる。


「やべぇよ…これヤベェよ…!」


 しかもハッピーリレーはこのテコ入れを配信者や職員達に法改正時の本気のテコ入れという説明をしてなかったらしく、関係者の多くはちょっとした(こころ)みくらいに思ってたようなのだ。


 だからファン達への告知も遅れ、エリス達も準備を後手に回してしまった。上位伝達は出来てるのかもしれないが下位伝達がなってない。とはいえこれは最悪レベルのトラブルみたいな物なのだろう。


 今日のエリスとミナミは心なしか声や目に焦りがあったように思えた、後からなら何とでも言えるが。 



『皆さん、来週からは新しいVtuberのルルエルちゃんがデビューします、よろしくお願いいたしますね』


コメント;ミナミちゃんの圧が気持ち良いっ

コメント;ルルエルちゃんだよね?配信に遊びに行くよ!

コメント;でも他の箱と比べるとハピレの来週は少し地味かも



 エリスもミナミも配信をしつつ来週の宣伝を欠かさない、会社の仲間のためにとか自分たちの更なる向上のためとか様々な理由で頑張ってる。


 コメントも好意的な意見が多いが、ハッピーリレーを推してるファン達は不安感が透けて見えてる……かくいう灰川もホラーと笑い袋の投入だけで他と張り合える訳ないと感じてる。どうするべきか……少し考えたが。


「まぁ良いかぁ! どうせバイトだし、なるようになるだろ! んな事より俺も配信しよーっと」


 考えたって仕方ないし、バイトが経営に口を出す理由もない。たまに「経営者目線を持て!」とかいう人が居るが、経営者じゃ無いんだから灰川には関係ない。灰川家の人間は基本的に短絡的なのだ。


 配信画面を開いていつものように何も考えず配信を始めようとした時に、スマホの着信音が鳴ってしまった。電話を見ると画面にはハッピーリレー人事部の木島さんの名前が表示されていた。


「灰川さん、今はお暇でしょうか? いえ…暇と言って頂かないと、とても困るんですが…」


「俺と関わる人って暇かどうか絶対聞いてくる…いやまあ、暇じゃないけど何ですか?」


 木島の声は上ずり気味だ、何かしらの緊急事態なのかも知れないがアルバイトの灰川に、それもホラーアドバイザーなんて物に何もして無いのに緊急時に電話をする意味はない。


 灰川は適当に流して電話を切ろうと思ったが、木島から聞かされた話はどうやら本当に緊急を要する事態のようだった。



「灰川さんを今すぐ緊急で呼んでほしいと…ハッピーリレーの事務所にシャイニングゲートの社長と同社のトップVtuberの自由鷹(じゆうたか) ナツハちゃんが来社してます…」


「は?」



 競合他社にして業界ナンバーワン配信企業、所属するVtuberは全て女性の超人気箱、シャイニングゲートの社長とトップのVtuberが自分を呼んでほしいとライバル企業に来た……灰川は意味が分からなかった。


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