第93話 一難去ってまた一難
……こうして、ニーナとメリヘナ、そしてクロムの三人は、脱出用のゴンドラも失い、仕方なく泳いでクルーエル・ラビ号の置かれたドックまで戻ったのだった。
「ニーナ副長! 何かあったんですか? そんな濡れネズミになっちまって……」
「メリヘナ副隊長! そんな格好で戻られて、一体どうなされたのですか?」
船で待機していたニーナ海賊団のエルフや、白熊族メイドのホワイトベアーズたちが、すっかりずぶ濡れになってしまったニーナとメリヘナを見て驚き、急いで彼女らに温かい毛布を与えてやった。二人ともすっかり憔悴しきった表情をしていたが、唯一クロムだけはまだ元気が有り余っているようで、「クロム、お前たちの敵、みんなこの牙で思い切りガブガブしてやった! どう、凄い? もっと褒めて褒めて!」とウキウキしながら話していた。
「はぁ……このウザい白黒頭は後でシバいておくとして……これからどうするの? 師匠おじさん」
毛布に包まったニーナが俺にそう問いかける。俺はフラジウム結晶から意志転移して船本体へ意識を戻すと、尋ねてくるニーナに答えた。
『そりゃもちろん、さらわれたラビを助けに行く――と、言いたいところだが、船体がこの有様じゃあな……』
俺は溜め息を吐いて視線を自分の船底へと移した。俺の船体は、まだクロムによって船底に開けられた大穴を修理している最中で、まだ底板や骨組みの木が一部はまっていない状態で置かれていた。あと数日もあれば修理完了できそうな程度だが、今はその数日すら惜しい。
「このまま飛び立ったら、穴を塞いでいないところから、また底板の継ぎ目が開いて船体がバラバラになっちゃうかもしれないね~。どうする? 今から下の甲板で寝てる非番の奴らもみんな起こして、全員集めてシューセンしてから助けに行く?」
『………いや、どうやらそんな余裕もないみたいだぞ』
俺はふと何かの気配を感じて、船の外へ意識を向ける。
夜の暗闇の中に響き渡る無数の足音。数は十、二十……軽く百は超えるだろうか? 無数の人影が闇の中から現れ、俺が置かれたドックの周りを瞬く間に包囲する。
「――よく聞けっ!! 薄汚い海賊ども!! お前たちへ警告する! 直ちに全員武器を捨てて投降せよ! さもなくば、お前たちの船を包囲する完全武装した王国軍一個師団が、すぐにでも乗り込んで貴様らを皆殺しにしてやるぞ!!」
船の外から、兵を統括する将校らしき男の声が響き渡った。どうやら奴らは、この短い時間の間に俺たちの船が置いてある場所まで突き止め、予め部隊を集結させていたらしい。何て手際の良い奴らだ。逆に手際が良すぎて怪しくさえ思えてくる。
「奴らはここへ私たちが来ることもお見通しだったのよ。待ち伏せされていて当然だっつーの」
ニーナが呆れたようにそう言って背を低くすると、上甲板から船外の様子を伺う。船の周りにはライフルを構えた敵兵がズラリと並んでおり、いつの間に用意したのか、車輪付きの台座に載せられた大砲まで用意されていた。あんな近距離で砲撃されては、俺の船体が悲鳴を上げてしまう。まさに万事休すである。
「あちゃ~、こっちにも兵隊共がウヨウヨ居るんですけど。マジ最悪っ! どーすんのよ師匠おじさん!」
『ちょ、俺に聞くなよ! ノープランだ! 何も考えてねぇ!』
「ちぇっ、おじさんの役立たず!」
『うっせぇ! いちいちオジサンオジサン言うな! そういうお前こそ、何かいい悪知恵を働かせたらどうなんだよ!』
「え~、肝心な時に他人に頼るとか、マジ無責任なんですけど~。ないわ~」
「お、お二人とも落ち着いてください! 言い合っていても解決策は見出せませんよ!」
俺とニーナがいがみ合う中、言い争いを止めようとメリヘナの声が飛ぶ。――いや、マジでこのどうにもならない状況、誰かどうにかしてくれよ! 追い詰められた俺は、もう神様にでも何にでも、思いっきり縋り付いてやりたい気持ちで一杯だった。
………俺たち、これからどうなってしまうんだろう?
※この時点での俺(クルーエル・ラビ号)のステータス
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【船名】クルーエル・ラビ
【船種】ガレオン(3本マスト)
【用途】海賊船 【乗員】124名
【武装】8ガロン砲…20門 12ガロン砲…18門
【総合火力】1500 【耐久力】120/600
【保有魔力】2500/2500
【保有スキル】神の目(U)、乗船印(U)、総帆展帆(U)、詠唱破棄、魔素集積:Lv7、結晶操作:Lv6、閲読、念話、射線可視、念動:Lv10、鑑定:Lv9、遠視:Lv9、夜目:Lv10、錬成術基礎:Lv9、水魔術基礎:Lv6、火魔術基礎:Lv6、雷魔術基礎:Lv7、身体能力上昇:Lv5、精神力上昇:Lv5、腕力上昇:Lv5、治癒(小):Lv6
【アイテム】神隠しランプ
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※ステータス表記される機会が最近めっきり減りましたが、航海を重ねて、ステータスも若干上がっています。
※クロムに体当たりを食らって穴を開けられたせいで、耐久力がガタ落ちしています。