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第92話 決死のボートチェイス②

 はい! ここで唐突過ぎる前回までのあらすじ! ラビとニーナが、奴隷にされた元レウィナス侯爵家メイドのポーラを救うため、奴隷商船ゴールデン・スレイヴ号へ潜入捜査を開始。ところが、逆に敵の刺客に襲われてしまい、ラビまでもが敵の手に落ちてしまう! 残った俺たちもまんまと敵の罠にハメられ、小型のゴンドラに乗り換えて逃走劇を繰り広げる! すぐ背後に迫る敵の警備艇! ぶっ放されるガトリング砲! 降り注ぐ銃弾の雨を避けながら、狭い運河を縦横無尽に駆け巡る! 果たして俺たちの運命やいかに――


 ……思わず勢いであらすじを並べ立ててしまったが、これってハリウッド映画か何かですかね?


 思わずそうツッコミ入れたくなるくらいにスリリングなボートチェイスを、俺たちは夜のウルツィアの街中で繰り広げていた。狭い水路には、俺たちの他にも民間の小型ボートやゴンドラが行き来しているというのに、相手が容赦なくガトリング砲をぶっ放してくるせいで、無関係な奴らにまで流れ弾が当たって巻き添いを食らってしまっていた。


『こいつら、俺たちを殺すためなら周りの被害もお構い無しか! お前らそれでも王国軍人を名乗れるのかよ⁉︎』


 まぁ、それだけ相手側も俺たちを始末しようと必死なのだろう。


「あーもう! 後ろから撃ってくる奴が超ウザいんですけどっ! このまま逃げ続けててもらちが開かないよ! メリっち〜! 何か武器とか無いの⁉︎」


 絶え間無く飛び交う銃弾に頭をかばいながら、ニーナがメリヘナに尋ねる。


「こんなこともあろうかと、ニーナ様が使っている弓矢をお待ちしました! ゴンドラの足元にあるはずです!」

「おっ、ナーイスメリっち! そうこなきゃ!」


 ニーナはゴンドラの足元に隠してあった自分の弓矢を見つけると、即座に装備して背後から迫る警備艇目掛けて弓を引く。


 しかしこの時、ゴンドラを操縦していたメリヘナが、水路前方に掛かる橋の上で蠢く数人の人影に目を付ける。その影が、橋上きょうじょうでライフルを構えてこちらを狙う敵兵であると気付くと、即座に声を上げた。


「ニーナ様! 前の橋の上にも敵兵が待ち伏せしてます!」

「まっかせろ―――いっ!」


 ニーナは俊敏しゅんびんな反射神経で即座に前へ向き直ると、背中の矢筒から一気に三本の矢を取って同時に弓にセットし、思い切り引き絞った。


「必殺! "一石三鳥レギオン・アロー"っ!」


 ニーナの手から放たれた三本の矢は、まるで標的に吸い寄せられるように、寸分違わず正確に橋上にいた三人の敵兵を次々と貫いた。ゴンドラが橋下のアーチを通り過ぎると同時に、射抜かれた敵兵たちが次々に水路へ落下する。


『いいぞニーナ! おいクロム、お前も力を貸せ! 後ろから追って来る警備艇の奴らを、思いっきりガブガブしてやるんだ!』

「えっ? あいつら、ガブッてやっていいの⁉」


 俺の言葉に、腹を空かせたクロムの目がキラキラと輝く。


『ああ、今だけなら特別に許す! 思いっきりやっちまえ!』

「分かった!」


 クロムはそう言うなり、ゴンドラから水の中へ飛び込むと、背後から追って来る警備艇の真上へ勢いよく大ジャンプを決め込み、船上へ飛び込んだ。


 途端に警備艇の中からけたたましい悲鳴が上がり、ぐちゃぐちゃと内臓を引き裂く音や、バリバリと骨を砕く音が聞こえ、飛び散る血しぶきで水路が赤く染まってゆく。


「あっ! 前方からも警備艇が来ます!」

『なにっ⁉』


 メリヘナが指差す先、進行方向前方に、敵警備艇がもう一隻、高速でこちらに突進して来ていた。このままじゃ挟み撃ちにされる! 狭い水路は一本道で、避けようにも避けられない!


『ええい、こうなったらもうヤケクソだ! メリヘナ、前方から来る警備艇に突っ込め!』

「そんなこと、自殺行為ですよっ!」

『いいから、全速で突っ込むんだ!』


 メリヘナは玉砕を覚悟で、舵はそのままに、ぎゅっと目をつむった。俺は残る魔力を全て舟の動力につぎ込み、ゴンドラは唸りを上げて、水上を怒涛どとうの勢いで突き進んだ。


 このままではぶつかる! ――という一歩手前で、俺はスキル「念動」を唱えてゴンドラごと宙に浮き上がらせた。


「ちょっ、ちょまぁああああああああぁっ!!」

「きゃあああああああああっ!!」


 宙高く飛び上がったゴンドラから響く、ニーナとメリヘナの悲鳴。前方から突っ込んできた警備艇は、俺たちの乗るゴンドラの真下を華麗にスルーし、後を追って来ていたもう一隻の警備艇と正面衝突。双方ともに木っ端微塵に砕け散り、載せていた大量の弾薬に引火して、大爆発を引き起こした。


 飛び上がったゴンドラは、そのまま水面を水切り石のように飛び跳ねて着水。辛うじて難を逃れた。


『ふぅ……間一髪だったな』


 危機が去って、安堵した俺が一息吐いていると――


「うぅ……あのさぁ……イク(飛ぶ)ときはせめて何か一言声をかけてからにしてほしいんですけどぉ……」

「こ、小石様……い、いきなり激し過ぎますっ……」


 ゴンドラの上で大の字になって目を回しているニーナとメリヘナが、弱々な声でそう言った。……何だろう、絵面えづらは全然そんな感じではないのに、二人の声がやけに卑猥ひわいに聞こえてしまうのは、俺の心が汚れているからだろうか?


 追ってきていた警備艇は、二隻とも炎に包まれて、水路の底へと沈んでいった。敵ももう追っては来ないみたいだし、取りあえずはこれで一安心、というところか……


 そう、思っていた刹那――


「……おぉ~~~い、お前らぁ~~~~っ!」


 唐突に空から声が降って来て、上から何か黒いものが落ちてきた。


 ドガァアアアアアン!


 そして、落ちて来た黒い物体は、見事に俺たちの乗っていたゴンドラに見事クリーンヒットし、船体は衝撃に耐えきれず木っ端微塵に砕け飛び、ニーナとメリヘナ、そして俺(小石)は瞬く間に水の中へ放り出された。


「………へへっ、ただいま」


 空から降って来て、俺たちの乗るゴンドラを打ち砕いたその黒い物体――シャチ顔のクロムが水面に顔を出し、頭を掻きながら照れくさそうにそう言った。

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