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第89話 かつての仲間との不遇な再会◆

 ラビと別れたニーナは、上甲板のパーティー会場で、賑やかな雑踏に紛れながら、ポーラの姿を探していた。


(……でも探すって言っても、実は私ポーラの顔を知らないんだよね~。まぁ、白熊族は髪が白いのと耳の形で分かるから、外見が同じような子をしらみ潰しに探していくしかないかぁ)


 「面倒だけど、仕方ないかぁ……」と一人ぼやいていると、ニーナの背後で、唐突に誰かの声が上がった。


「――お集りの皆様! 本日は豪華商船『ゴールデン・スレイヴ』号へ乗船いただき、誠にありがとうございます!」


 声のした方を振り向くと、ステージと化した船首楼せんしゅろうの上に、司会らしきタキシード姿の男が立っていた。彼は群衆の前で、被っていたシルクハットを取り、仰々《ぎょうぎょう》しくお辞儀をしてみせると、よく通った声でこう言った。


「宴も盛り上がってきましたところで、本日のメインディッシュ、目玉商品のご紹介をさせていただきます! 皆様、ご注目を!」


 司会の男がステージの方を指し示すと、光魔術によって放たれた色とりどりのスポットライトが一点に集中し、床に仕込まれたカラクリの動く音がして、ステージ上に赤い布のかぶさった四方形の巨大な箱が姿を現した。どうやらその箱は、奴隷の入れられた檻のようだ。


「こちら、本日一番オススメな品。美しい白髪を持った、世にも珍しい白熊族の女でございます! 過去にとある有名貴族諸侯の下でメイドを務めた経歴もあり、雑用から執務まで何でもこなしてくれること間違いなし!」


 司会の説明に「おぉ……」とどよめく観衆たち。


(まさか、もうポーラが競売にかけられるっていうの? さっきラビっちが下の甲板を探しに行ったばっかりだってのに、タイミング悪過ぎでしょ……)


 ニーナは渋い顔をしつつも、ステージ上で執り行われている目玉商品の競売を前に、周りの視線が集まるこの場で下手に動くことができず、もう少し様子を伺うことにする。


「それでは、どうぞご覧ください! 商品番号114番、かのレウィナス公爵家の専属メイド長を務めていた白熊族、ポーラ・アルテマでございます!!」


 バッ、と被せられた赤い布が取り払われ、檻の中身が露わになった。


 しかし、周りに居た乗客たちは、檻の中を見た途端にざわめき、口々に戸惑いの声を上げた。


 ……それもそのはず、檻の中に入っていたのは、美しい白髪を持った白熊族の少女――ではなく、王国軍人らしき格好をした一人の男だったのだから。


「―――っ⁉」


 そして、彼の顔を見た瞬間、ニーナは息を吞んだ。檻の中に居たその男を、彼女は以前にも見たことがあった。


 金髪の頭に二角帽子バイコーンを被り、右目には眼帯。ロシュール王国の軍服を肩に羽織ったその男は、檻の中でニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。


(ヴィクター・トレボック! どうしてアイツがこんなとこに居るの⁉)


 ニーナは心の中で叫んだ。かつて自分と同じ八選羅針会はっせんらしんかいのメンバーであり、「黒き一匹狼ブラック・マーベリック」と呼ばれた海賊の男が、どうしてロシュール王国の軍服を着てここに? かつての同業者との突然な再会に、ニーナは酷く混乱した。


 白熊族の少女とは全く異なる人物が檻の中に入っていて、あっけらかんとしている客たちを前に、ヴィクターは一人語りを始める。


「……こんばんは、皆さん。今宵は絶好の宴日和ですね。風は穏やかで、波も立たず、晴れた空には星がまたたいている」


 船上に居る全員の視線を浴びる中、ヴィクターは笑顔を崩さないまま簡単な挨拶をし、それからこう続けた。


「……さて、そんな楽しい宴も佳境に入ってきたところ、水を差してしまい大変恐縮なのですが―――どうやらこの会場内に、二匹のネズミが紛れ込んだようです。そのネズミは、乗船されているお客様から金目の物を奪うために侵入してきた忌まわしい海賊であり、金の為なら殺人もいとわない卑劣な悪人です」


 ヴィクターの言葉に、船上がざわつき始める。船に乗る全員が警戒心をあらわにし、疑わしい視線があちこちを飛び交い、辺りは一気に緊迫した空気に包まれた。


「しかし、どうぞご安心ください。我々ロシュール王国王立飛空軍が、あなた方を賊の脅威からお守りいたします。哀れな女海賊共も、この船に乗り込んでしまった時点で、()()()()()も同然なのです」


 ヴィクターは自分の入っていた檻の鉄格子をそっと押した。すると、その折には錠がかかっておらず、檻の扉はいとも簡単に開いてしまった。


(っ!! ――ヤバっ、これトラップだ!)


 ニーナがそう気付いた時には、もう遅かった。それまでステージ上を照らしていた照明がパッと消え、次の瞬間、ニーナの立つ場所に照明が当てられていた。


 眩しさに目が眩むニーナ。途端に、周囲からドタドタとけたたましい足音が聞こえ、群衆の中から突然現れた赤い制服姿の王国軍兵士たちが、瞬く間に彼女を取り囲んでしまった。


 兵士たちの構えるライフルに付けられた銃剣の先が、ニーナを追い詰める。


「くっ………」


 身動きが取れなくなったニーナに向かって、ヴィクターは被っていた二角帽子トリコーンを外し、得意顔でお辞儀した。


「やぁニーナ。久しぶりだね、『褐色の女神(ブラウン・グッドネス)』。かつての友よ、こうして会うのは何年ぶりになるだろうね? 元気そうで何よりだよ」

「……ふん、そういうアンタこそさぁ、羅針会を辞めて今までどこで何していたかと思えば、王国側に肩入れしてるってワケ? あはっ、意外過ぎてウケるんだけど。それに、何よそのダッサい制服。肩に付けてるのとか、トイレのモップかよ」


 ニーナは平然な態度を装って軽口を叩いてみせるものの、内心では酷く焦っていた。兵士たちに退路を塞がれ、逃げ道もない。おまけに相手が元八選羅針会のメンバーとなれば、かつて共に戦っていた経験から、こちら側の思惑や行動も既に読まれてしまっている可能性がある。


(くっそ~、マジで厄介な奴と当たっちゃったな~……)


「くっくっ……その顔からして、どうやらかなり慌てているご様子だね。ひょっとして、()()()()()()()()()()()が気になるのかな?」

「っ⁉ ……アンタ、ラビっちに何かしたの? まさか殺したとか――」

「殺す? まさか! 私がそんな女子どもを簡単に殺すような冷酷非道な人間に見えるかね? ニーナ、貴様も今ここで降伏するなら、命は助けてやってもいい」


 ヴィクターがそう言ってパチンと指を鳴らすと、それを合図として、周りを囲う兵士たちがじりじりとニーナの方へにじり寄って来た。向けられた銃剣がキラリと光り、その切っ先が彼女の肌へ触れんばかりのところまで迫る――

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