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第88話 影からの奇襲

 ――という訳で、俺たちは早速メイド長であるポーラの捜索を始めたのだが……


「……ねぇ、そこのお嬢さん。君、カワイイ格好してるじゃん」


 初っ端から壁にぶち当たった。ラビの前に、一人の男が立ち塞がり、そう言って詰め寄って来たのである。


「あっ、あの……私、用事があって行かなければならなくて――」

「へぇ、何処へ行こうというのかな? ここは船の上だぜ。そんなことより、俺と一緒に一杯付き合ってくれないかなぁ」


 若い容姿をしたその男は、高級なタキシードを着ているところから、おそらく何処かの良家のぼんぼんなのだろう。


 その男は、ラビの返事を待つこともなく彼女の腕を掴み、強引に引っ張って行こうとする。


「ちょっ、放してくださいっ!」

「まぁそう固いこと言わずに付き合ってくれよ~」


 ダル絡みしてくる男に完全に愛想を尽かした俺は、意志転移しているフラジウム結晶から魔力を引き出し、どうにか「念動」スキルが使えないか試してみた。


 すると、途端に男の体はフワリと宙に浮き、弧を描くように宙を仰ぐ。


「はっ? えっ……どうなってんだコレ?」


 しめしめ、どうやら結晶に転移した状態でも、念動スキルくらいは使えるようだ。俺はポーラ捜索の邪魔に入ったこのチャラ男を、出鼻をくじかれた怒りも込めて、そのまま船の外へ放り出してやった。


「え? ちょま、あれぇえええええっ⁉」


 ドボーン


 ラビの腕がつかまれた状態で外へ放り出してしまったので、まるでラビがその男を力ずくで投げ飛ばしたように傍からは見えてしまったらしく、周りの客たちは顔を真っ青にしてラビの傍から離れていった。


「あの……何でみんな私から離れていくのでしょうか?」

『ラビに関わると、みんなさっきの男みたいに放り出されると思っているんだろうな。本当は俺が念動スキルを使っただけなんだが』

「ええっ! 私はそんな乱暴なことしませんよ!」

『まぁ、これでラビに気安く話しかける馬鹿は現れなくなるだろうから、逆に動きやすくなったと思えばいいさ。行くぞ』


 ラビは申し訳なさそうに周りに向かってお辞儀をしてから、早々にその場を立ち去った。


 それから、ラビは下の甲板へ続く階段を降りて、ポーラの姿を探した。船の中は広々としていて、床には赤い絨毯が敷かれ、所々に奴隷を入れた檻が置かれていた。中には様々な種族の奴隷が鎖に繋がれて閉じ込められており、その周りを乗客たちが囲んで、まるで品定めをするように檻の中の奴隷を眺めていた。


「金貨十枚!」

「金貨十枚! 金貨十枚が出ました! 他にはいらっしゃいませんか?」

「俺は金貨十五枚出すぞ!」

「二十枚!」

「二十三枚!」


 中には既に競売オークションにかけられている奴隷も居て、檻の周りには目当ての奴隷を欲しがる者たちが集まり、口々に声を上げていた。


 そんなりで盛り上がっている会場を、ラビは不快そうな表情を見せながら速足で通り過ぎてゆく。


『……ラビ、平気か?』

「はい、大丈夫です。かつて自分が奴隷だった時のことを思い出してしまって……本当はここに居る奴隷たち全員を助けてあげたいところですが、今はポーラさんを探すことに専念します」


 ラビはそう割り切って、賑やかなフロアの中を淡々と足を進めた。


 しかし、どの甲板を探しても、檻に入れられた奴隷の中に、ポーラらしき女性の姿は見当たらなかった。


「おかしいですね……念入りに見て回っているのに、何処にも見当たらないです。確か招待状には、ポーラさんは目玉商品として売り出されることが記載されていましたから、目立つところに檻が置かれていてもおかしくないはずなのに」

『確かにそうだな……』


 ポーラの姿が無いことを妙に思いながら、さらに下の階へと足を進める。下の甲板へ行くにつれて、徐々に上の階で見ていたような煌びやかさは失われ、人気も少なくなってゆく。やがて、倉庫のような場所へ辿り着き、そこで行き止まりとなってしまった。周りに置かれているのは木箱や樽ばかりで、辺りも暗く、しんと静まり返っている。


「どうやら、最下層の倉庫まで来ちゃったみたいです。こんなところに、ポーラさんが居るはずありませんよね……」

『……………』


 俺は黙ったまま考え、ふと、こんな仮説を捻り出す。


 ――もし、あの招待状に書かれた情報に、嘘が混じっていたとしたら? ポーラを目玉商品としてあえて宣伝することで、真っ先に飛び付こうとする奴は誰だ?


「………なぁラビ、俺たち、まんまと相手の罠にかかっちまったみたいだぞ」

「へっ⁉ そ、それってどういうことですか師匠?――」


 と、ラビがそこまで口にした刹那――


 突然ラビの背後の物陰からスッと腕が伸びて、片腕がラビの口元に白い布を押し付け、もう片腕がラビの体をがっちりとつかんだ。


「むぐぅっ⁉―――」

『っ⁉ おいラビ! どうした⁉』


 突然背後から襲われ、俺も完全に油断してしまっていた。身動きを封じられたラビは、必死に脚をジタバタさせるも、瞬く間に影の中へ引き込まれ、強引に引き寄せられたせいでペンダントの紐がちぎれ、俺は床に転がった。


『ラビっ! 何があったんだ⁉ 返事しろ、ラビっ!!』


 俺はひたすら念話でラビに向かって呼びかけたが、ラビの返事はない。辺りに人影はなく、俺は完全にラビとはぐれ、倉庫の中に置き去りにされてしまった。

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