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第71話 要塞襲撃から帰還した俺たちのその後

 リドエステ中大陸にて、王国の秘密要塞基地を撃破して魔物ウラカンの怒りを鎮め、大陸を崩壊の危機から救ったラビと俺たちは、港町レードスに帰還していた。


 レードスでは、嵐が過ぎ去ったことを喜ぶ住人たちが次々と家の外へ出てきて、久々に見る青空を仰いでは、互いに喜びを分かち合っていた。


 そして、町に戻って来た俺たちは、まるで魔物を退治して帰って来た勇者一行のように、多くの人々から大歓声をもって迎え入れられた。どうやら昨日一晩の間に、俺たちが王国軍の要塞を一夜のうちに陥落させ、魔物ウラカンを鎮めた噂が広まってしまったらしく、俺やニーナ、ラビ、そして海賊団の皆までもが盛大なもてなしを受けた。


 こうして、再び暖かな陽光が差したレードスの町には、再び多くの旅人が集うようになり、それまで失われていた活気を取り戻したのだった。(これまで大嵐のせいで閑古鳥かんこどりだった探検家船舶組合ボート・コンパニオンの酒場にも多くの客が集うようになり、それまで不愛想だったバーテンのオヤジにも、ようやく笑顔が戻ったのだとか)


 感謝するレードスの町の人々から、抱えきれないほどの土産(湖で捕れた新鮮な魚の塩漬けや、森で捕れた山菜、鉱山で捕れた鉱石やフラジウム結晶などなど……)を貰い、船倉ホールドを土産物で満杯にした俺は、ニーナ海賊団とラビを乗せて、リドエステ中大陸を後にしたのだった。


 ――それから、俺たちは海賊たちの集うルルの港町へと戻り、レードスで貰った土産物を全て探検家船舶組合ボート・コンパニオンに納品して大金を手に入れた。海賊団たちは自分のもらえる給料が増えたことに大喜びし、皆(そろ)って新船長であるラビを持ち上げては、各々酒場で他の船の乗組員たちに、自分の船長であるラビの武勇伝を自慢話として言って聞かせるのだった。


「……あの、なんだか、周りがみんな私のことばかり話しているみたいで、妙に落ち着かないです………」


 ルルの酒場「スラッシー」の隅にあるテーブル席に着いていたラビは、周りから聞こえてくる会話がすべて自分の話で持ち切りなことを気にして、恥ずかしそうにもじもじと身を縮めていた。


『みんな、俺たちの船長であるラビの武勇伝を、他の船員たちにも自慢したいのさ。今じゃお前はリドエステ中大陸のみならず、ルルの港町でも英雄扱いだ。もっと胸を張っていいんだぞ、ラビ』


 俺がそう言葉を返してやる。


『なにせお前は、()()()()()()()船長代理を務めている間に、世界最強のドラゴンから乗組員たちを守り、王国の要塞を単身で襲撃して魔物ウラカンを鎮め、崩壊寸前だった大陸を危機から救ったんだからな』

「そ、そんな大げさですって……私はただ、自分ができることをやっただけです。でも、グレンちゃんと友達になれたことは、とても嬉しかったです」


 謙遜けんそんしながらも、ラビはそう言ってニコッと笑顔を見せた。



◇◆◇



 ――さて、ここで勘の良い読者なら気付くかもしれない。俺は今、こうしてルルの酒場「スラッシー」で、さも当たり前のようにラビと会話している訳なのだが……


 どうして船である俺が、自分の本体であるクルーエル・ラビ号のあるドックから離れた酒場で、ラビと話せているのか。酒場のある場所はスキル「念話」の効果範囲外で、普通なら俺の声はラビには届かないはずだ。


 ――実はこれ、先に結論を言ってしまうと、ラビが首から下げている小さなフラジウム結晶のペンダントのおかげなのである。そのことを少し話しておこう。



 ――リドエステでの活躍があって、ニーナから船長の座を譲られたラビは、再び自分の居室となった船長室キャビンの机の前で一人椅子に座り、ポケットの中から何やら小さな石を取り出してじっと見つめていた。


「それは何だ、ラビ?」

「ふぇっ⁉ し、師匠っ⁉」


 突然話しかけられて驚いたラビは、慌てて持っていた小さな石を隠そうとするが、俺の目は誤魔化せない。


「何を見てたんだ? 見せてみろ」

「は、はい………」


 ラビが机の上に置いたのは、紫色に輝く小さなフラジウム結晶の塊だった。


「あ、あの……前に、リドエステ中大陸の洞窟でウラカン様と初めて出会ったとき、周りにフラジウムの結晶がたくさん転がってて……一つくらいもらっても良いかなって思って、その……拾って来ちゃいました」


 おずおずとそう答えるラビ。リドエステ中大陸は他の大陸と違い、結晶化したフラジウムが多く地下に眠っていると、図書室にある図鑑で読んだことがある。結晶化させるには高度な錬金術が必要で、そう簡単にできることではないようなのだが、リドエステの地質は他とは少し異なり、天然の結晶ができる環境が整っているらしい。おそらく、大陸に住みつく魔物ウラカンの影響も何かしら関係しているのだろう。


 などと思っていると――


【ユニークスキル「意志転移」が解放されました】


 突然、俺の中で聞き慣れないスキルが解放された。


 は? 何だって? ()()()


 俺は得たスキルを確認してみた。


【意志転移(U):船に固定された自分の意志を、別のフラジウム結晶へ転移させることが可能。転移距離に制限なし。ただし、結晶重量5グリム以下でなければ発動しない】


 俺の意志を別結晶に転移させる? 解説を読んだだけじゃよく分からない。こういう時は実践あるのみだ。俺はラビの持っている小フラジウム結晶に意識を集中させてみる。


『”意志転移”!』


 声を上げた途端、俺の視線は吸い込まれるようにその結晶へ移動していき……


 気付けば俺自身が、ラビの持っている小フラジウム結晶に転移してしまっていた。ここから見えるのは、それまで俺の体の一部だった船長室の天井と、こちらを見下ろすラビの顔。結晶を手で握っているのか、彼女の温かい手に包まれている感覚が、何とも心地よい。


「……あれ、師匠? 居なくなっちゃいました?」

『俺ならここだ。なぁラビ、頼みがあるんだが、このフラジウム結晶を持って船の外に出てみてくれないか』


 ラビは俺の言う通りに船長室を出て船を降りると、俺の本体が置かれているドックから遠く離れたところまで歩いた。その間も、俺の視線はラビの持ったフラジウム結晶に固定されたままで、普通にラビと会話することもできた。


 そこで、今度は逆のことをしてみる。


『”意志転移”!』


 すると、途端に視点が切り替わり、俺本体であるクルーエル・ラビ号に視点が戻っていた。これまでのように、スキル「神の目」のおかげで、船全体に目を通すことが可能だ。


『なるほど、俺の意志そのものを別のフラジウム結晶に転移させたり、船本体に戻したりできるスキルって訳か……これは便利だな』


 これなら、例え船からどんなに遠く離れた場所でも、ラビに結晶を持ち歩かせれば、俺も彼女と一緒にどこへでも行けるという訳だ。例えラビが船から離れて迷子になっても、小結晶へ転移するだけで彼女のもとへ駆け付けてやれる。このスキルはかなり使えそうだ。スキル解説にある「結晶重量5グリム以下でなければ発動しない」というのは、小さな結晶でなければ転移できないということだと思う。他の魔導船に搭載されている結晶は最低でも10グリム以上あるから、船から別の船へ転移することは不可能という訳か……


 などと色々考えているうちに、俺はふと、ラビを遠くに置き去りにしたままだったことを思い出し、慌ててもう一度小結晶へ転移した。


『――すまんラビ、今戻った』

「あっ、師匠~~~っ! もう、いきなり居なくならないでくださいよ! 私、すごく心配してたんですからね!」


 涙目になって俺の方を睨み付けてくるラビ。……いや、マジで本当にすまんかった。

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