表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/185

第65話 決行! 嵐の夜襲作戦◆

 それから時が経って日が沈み、辺りは夜の闇に包まれた。夜になってもまだ嵐は治まらず、風は吹き荒れ雨も降り続いている。


 しかし、これだけ天気が荒れていれば、多少の物音がしても気付かれない。夜中ということもあり、目も利かず耳も利かない。この天候は襲撃するには絶好の日和だった。


 夜の闇に紛れ、グレンはラビを乗せて森を飛び立つ。グレンの持つスキル、「消音飛行」により音を殺して空を滑空してゆく中、ラビが要塞基地周辺の地形や建物の配置を確認した。


「まずは外壁の上に並ぶ大砲を全て壊してから、次に港にある船を叩きます! 相手の反撃する力を奪ってから、一気に畳みかけましょう!」

「すごく本格的にやるんだね……いいよ、やってみる……」


 グレンは急降下を始め、要塞に急速接近する。監視塔の上に居た王国兵がグレンの姿を見つけて何かを叫んでいたが、時すでに遅い。


 グレンは炎のブレスを吐き、壁上へきじょうに並んだ大砲群を一掃した。燃え上がる砲台。熱で溶ける砲身。横に積まれていた弾薬に引火し、大爆発が立て続けに起こる。炎に巻かれた王国兵たちが悲鳴を上げながらのたうち回り、火達磨ひだるまとなって壁から落ちてゆく。


 基地内にけたたましく鳴り響く鐘の音。それまで寝静まっていた軍宿舎からもわらわらと王国兵たちが集まり、てんやわんやで戦闘準備が開始される。


 しかし、そんなことをしている間に、グレンは要塞の周りを滑空しながら周回し、防壁全面を焼き払って敵迎撃用の大砲を全て塵へ還してしまった。


「いいよグレンちゃん! 今度は港へ回って!」

「……アイアイ、マム」


 グレンは弱々しい声で復唱し、大きく旋回すると、港に停泊する小型船へと突撃した。小型船は全て竜狩り用の狩猟船であるらしく、突然の襲撃に乗組員たちも慌てふためいている。自衛用として装備されたなけなしの側砲そくほうを撃ってきた船もあったが、それらの砲弾をグレンは全て腹で受け流した。背中にはラビが乗っていたため、このように腹で受けるしかなかったのだが、全身を包むうろこのおかげで、大砲の弾は全て弾き返され、あらぬ方向へと飛んでいった。


 グレンの口から放たれた火球が、次々と船を襲う。魔術師ウィザードの乗組員たちが慌てて防御魔術で結界を張るも、最強ドラゴンの火炎放射を前に虚しく貫通され、船は瞬く間に炎に包まれた。


 船の停泊する港を瞬く間に火の海に変え、再び大きく旋回するグレン。


 このとき、ラビが要塞内で敵の怪しい動きを見抜いた。


「グレンちゃん、右に注意! 敵が新たに大砲を準備してるわ!」


 ラビの指差す方向――グレンの炎攻撃を免れた倉庫の中に立てこもる王国兵たちが、急いで大砲を運び出し、砲撃配置に就いていた。


 その大砲は、普通のものより口径が一回りも大きく、やけに砲の角度が上を向いていた。


「気をつけて! 砲撃が来る!」


 ラビがそう叫ぶが早いか、地上の砲撃部隊が一斉に砲撃を始め、パパパッと地上に閃光せんこうが瞬く。


 そして次の瞬間、グレンが飛んでいる空中のすぐ近くで砲弾が炸裂した。


「きゃあっ!!」


 ラビは慌ててグレンの背中にしがみ付く。飛んで来た砲弾は、爆発すると同時に、まるで煙幕のように桃色のガスが噴出して空に飛散した。それは、ラビが要塞を偵察したときに見た、あの桃色のガスと全く同じものだった。


「グレンちゃん! そのガスを絶対に吸わないで! 毒ガスよ!」


 グレンは空に広がる桃色の毒ガスを間一髪で回避したが、それからも次々と砲撃は続き、逃げる彼の背後で、毒ガスの煙幕が次々と夜空を鮮やかなピンクに塗り潰してゆく。


 光魔術によるスポットライトが空へ放たれ、夜空に向かって伸びるいくつもの光の筋が、闇に紛れるグレンの影を捕えた。地上の王国兵たちは、捕えた影を目掛けて次々と毒ガス砲弾を詰めた大砲に火を放ってゆく。


 爆竹のように弾けては拡散する毒ガス砲弾の雨を、グレンはギリギリのところでかわしていたのだが、やがて一発の毒ガス砲弾が、彼の鼻先に命中してしまう。


「ふぇ……ふぁ……へっくしゅっ! うぅ、何これ………」

「グレンちゃん大丈夫⁉ しっかり!」


 ラビがそう呼びかけるが、グレンはフラフラになって、一気に高度を下げてゆく。


「……ちょ、ちょっともう無理、かも……頭がクラクラしてきたよ……」

「ちょっとグレンちゃ――きゃああああああっ‼」


 毒ガスにやられて力を無くしてしまったグレンはとうとう急降下を始め、ラビは振り落とされないよう彼の背中にしっかりとつかまった。


 グレンは、まるで風を捉えきれない紙飛行機のようにゆらゆらと落下していき、やがて要塞の中の広場へと不時着し、そのままぐったりと地面に伸びてしまった。


「うぅ……ねぇラビちゃん……ボク、もう駄目そう………短い間だったけど……今まで一緒に居られて、楽しかったよ……」

「そんなこと言っちゃダメよっ! グレンちゃんはこんなところで絶対に死なせない! そんなの私が許さないから! だからしっかりして! ねぇお願いっ‼」


 徐々にまぶたを閉じてゆくグレンを前に、すがり付いて声を上げるラビ。


 完全に飛べなくなって沈黙してしまったグレンの周りに、防護服に身を包み、ライフルを持った王国兵士たちが続々と群がって来た。やがて近付いていた兵の一人が、黒炎竜の傍に居る一人の娘の存在に気付く。


「おい、黒炎竜の隣に人間の娘が居るぞ!」

「何っ? まさか黒炎竜に竜騎士ドラゴンライダーが乗っていたというのか⁉」

「有り得ない……カラミティ級ドラゴンを乗りこなす竜騎士ドラゴンライダーなんて聞いたことないぞ!」


 口々に言葉を漏らし、どぎまぎしてしまう兵士たち。


「うろたえるな! どちらにせよ、我が王国に歯向かい、要塞を破壊した張本人だ。その竜騎士ドラゴンライダーを引っ捕えよ」

「「はっ!」」


 隊長らしき男の命令で、二人の兵士がラビに近付いてゆく。


「……おっ、おい、この蒼い髪はまさか――」

「この娘、あのレウィナス公爵家の娘じゃないか!」


 ラビの正体を知った王国兵たちが驚愕きょうがくを露わにした。既にライルランド男爵――今の大公の手により滅ぼされてしまったレウィナス公爵領領主、ジェイムズ・Tティーグ・レウィナスの娘が、たった一人で、しかも最上級であるカラミティ級ドラゴンを乗りこなしていたのだから。


「ふん……今は亡き領主の姫君と、こんなところでまた再会するとはな。タイレル侯爵もさぞ驚かれるだろう。黒炎竜は皮剥ぎの作業場へ運べ。娘は捕えろ。再びタイレル商会の奴隷にして売り飛ばしてくれる」


 隊長の男がそう言い放ち、ラビの捕縛を命じられた二人の兵が、グレンに寄り添うラビの両腕をつかんだ。


「イヤっ、放して! グレンちゃんお願い! 目を開けて! 目を開けてよっ! グレンちゃん!」


 ラビは必死に抵抗してそう叫ぶが、グレンが再び目を開くことはなく、ピクリとも動かない。


「死んじゃイヤっ! お願い起きて! グレンちゃんっ!!」


 両脚をジタバタさせるラビを、王国兵たちが無理やり引きずって連れて行こうとした、


 その、刹那―――


 ドドォン!


 突然、すぐ近くで爆発が起こり、王国兵数人が爆発に巻き込まれて吹き飛ばされた。


「なっ、何事だっ⁉」


 兵のリーダーが声を上げる。


「隊長っ! 湖の方角から一隻の船が急速で接近中! こちらに砲撃してきますっ!」

「何だと? どこの船だ⁉」


 その場にいた全員が湖へと目を向ける。グレンの奇襲攻撃により、業火に包まれ燃え盛る港の向こう――そこに一隻の新たな船影が、湖の上を滑るようにして進んで来ていた。船尾に掲げられた旗を望遠鏡で視認した兵が叫ぶ。


「かっ、海賊船ですっ! エルフ耳の髑髏どくろマーク! 褐色の女神(ブラウン・グッドネス)だっ!!」


 その声を聞いた途端、ラビは驚きのあまり声を上げた。


「クルーエル・ラビ号⁉︎ 師匠っ! ニーナさん! みんな来てくれたんだ!」


 ラビの表情がパッと明るくなった。エルフ耳を生やした髑髏(どくろ)マークの海賊旗。あの旗を見れば、血で血を洗う戦いは避けられない。一度見れば誰もが戦慄し、恐れを抱いてしまうであろう、混乱と戦の始まりを告げる旗印。


 ――しかし、今のラビの目には、掲げられたその海賊旗が、まるで希望に満ちた勝利の旗であるように見えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ