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第63話 クソ野郎共をブチのめしに行きましょ!(※前半まで◆)

 グレンは、ラビを洞窟の奥へと運び、自分の吐く炎の巻き添えにならないように避難させた。


 それから、彼は再び死体の捨て場に戻って来ると、大きく息を吸い、仲間の死体に向かって勢いよく炎のブレスを放った。


 紅蓮の炎が一面に広がり、積み上がった死体は瞬く間に赤々と燃え上がった。グレンは一匹も燃やし残しのないよう、盛る炎の中をのっしのっしと歩んでは、隅から隅まで余すことなく炎を放ってゆく。


 火の海と化した洞窟内に一人(たたず)むグレンは、自分の仲間たちが灰となって昇ってゆくのを、ただ黙って、ずっと見守り続けていた。


 そうして炎が治まり、全ての死体が灰になってしまったのを確認してから、グレンは再びラビの元へと戻った。


 洞窟の隅に横になったラビは、まだぐったりとしたままだったが、瘴気を放つ元凶を絶ったおかげで、幾分いくぶん顔色が良くなってきているようだった。



 それから数時間ほどして、ラビの体から瘴気も抜けたらしく、体調は良くなり、問題なく起き上がれるようになるまで回復した。


「……具合は大丈夫そう?」

「うん、ありがとうグレンちゃん。もうすっかり気分も良くなったわ」


 ラビはそう言って、グレンに微笑んでみせる。彼女の顔がいつも通りになったのを見て、グレンも安心したように息を吐いた。


 ――それから彼らは、燃え残って洞窟一帯に散らばった黒炎竜の骨を拾い集めて一箇所にまとめた。そして、その上に岩を積んで、骨を埋めてやる。


 そうして出来上がった石積みの小山の前で、ラビは頭に被っていた三角帽子トリコーンを外して両手を組み、両ひざを突いて祈りを捧げた。


「『グレンの仲間や家族たちの命が、無事天に召されますことを。聖なる神はあなたと共に』……アーレン(健闘を)


 祈りを捧げ終えたラビは、再び帽子を被って立ち上がると、グレンの元へ戻った。


「……これから、どうするの?」


 グレンがそう尋ねると、ラビは彼の背中の上によじ登り、首元へまたがる。


「そんなの決まってる。グレンちゃんの同胞を殺した犯人を見つけて、罪を償わせるの。――ほら、上を見て、耳を覚ましてみて。……少しだけれど、風が吹き込む音が聞こえるでしょ? ここに死体を捨てていたというのなら、きっとこの上は地上に通じているはずよ。……グレンちゃんには、また色々と無理強いしちゃうかもしれないけど……」

「ううん、平気……もう慣れたよ……」


 そう言って、グレンは翼を広げて飛ぶ準備を整える。


「――さぁ、あなたの同胞に酷いことをしたクソ野郎共を、ブチのめしに行きましょ!」


 グレンに跨ったラビは、海賊っぽく荒々しい声を上げて、ビシッと洞窟の真上を指差した。


「……ラビちゃんに、そんな汚い言葉は似合わないと思うなぁ……」


 不満気にそうぼやきながらも、グレンは勢い良く地面を蹴り、ラビと共に地上へ向かって飛び立つのだった。



◆◇◆



『――大嵐が起きてる原因に、ロシュール王国軍が絡んでいる?』


 俺は最初、ニーナからその情報を耳にしたとき、半ばその言葉を疑った。


「そ。私の仲間から聞いた情報によれば、王国軍が数年前からここリドエステ中大陸に駐留しているらしくて、そいつらが豊かな自然を壊したせいで、この大陸の土地神様が激おこプンプン丸なんだって。具体的に何したのかはまでは知らないけど」

『土地神様? まさか、そいつがこの大嵐を引き起こしてるってのか?』

「町の住人は神様とか何とか言って崇めてるっぽいけど、実際は『ウラカン』っていう巨大な魔物らしいよ〜。天候を操る魔物とか、ヤバくね? マジパネェし」

『確かにな……』


 そのウラカンっていう魔物がどんなヤツなのかは知らないが、大陸全土に大嵐を吹かせてしまうくらいだ。おそらく相当な魔力を持った化け物なのだろう。洞窟で遭遇した黒炎竜と同じで、とても俺一隻だけで太刀打ちできる相手じゃない。黒炎竜にしろ、ウラカンと呼ばれる化け物にしろ、この大陸には一体どれだけの強力な魔物が住み着いているんだ?


『……で、俺たちはこれからどうするんだ? 悪だくみが上手いお前のことだ。今回も何か策を練ってあるんだろう?』


 俺がそう問いかけると、ニーナはいつも見せるような悪戯っぽい笑みを浮かべ、「ふふーん、そんなの決まってんじゃん」と鼻息荒く言葉を返す。


「幸い、現時点で嵐は少し弱まってきてる。この程度の風だったら、大陸の上くらいなら余裕で飛べるっしょ。ね、オジサン?」

『ああ、もちろんだ。あとオジサン呼ぶな』

「ふふ……でね、実はさっき、町に行ったときに住人からこんな噂を聞いたの。『この町の先にある大きな湖のほとりに、王国軍が建てたらしい要塞みたいな建造物がある』って。数年前までそこには何も無かったらしいから、まず間違いなく王国軍のヤツらが建てたものと見て間違いないと思う」


 そこまで言ったところで、俺はニーナの言おうとする言葉を先読みし、こう続けた。


『……で、その要塞を俺たちが見つけて叩き潰す――ってか?』

「あぁっ! も〜〜〜っ! 私の考えを読むんじゃないよバカっ!」


 言いたいことを言われてしまい、子どものようにぷんぷんキレ散らかすニーナ。


『だが、ヤツらを叩き潰したところで、そのウラカンとやら言う魔物が大人しくなるかどうかは分からないぞ?』

「そんなの知らんし! 元はと言えばそいつらがそのウラカンを怒らせたせいで私たちは散々な目に遭わされてるんだし、最強ドラゴンにやられてラビを失ったのも、みんな王国軍のせいなの!」


 地団駄を踏みながら子どものように私怨をぶつけてゆくニーナ。……いやいや、それは少しこじ付けが過ぎやしないか? 


 ――とも思ったのだが、王国軍が引き金になって今回の大嵐が起きているというなら、この嵐を鎮めるためのヒントがそこにあるかもしれない。どのみちこの嵐じゃ、大陸の外にも出られない。それなら、今この大陸の中でできることをやるしかない。


『……分かった。その提案、俺も乗るぜ。――まぁ、俺は乗せる側なんだがな』


 俺の答えに「マジで⁉ やった!」とニーナは喜びを露わにする。


「よ~~~し、それじゃ、私たちを散々な目に遭わせたクソ野郎共を、ブチのめしに行きましょ!」


 ニーナの威勢良い叫びが、船長室に響き渡った。

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