第6話 暇つぶしの害獣退治
『悪いなネズミ、俺の体であるこの船を傷付けるような奴を、乗せておく訳にはいかねぇんだ』
「チュウ?」
俺は目の前のテールラットに向かって、「炎生成」を唱えた。すると、テールラットのいる床に魔法陣が浮かび上がり、次の瞬間――
「ヂュヂュヂュッ!!」
ボッ! と音を立ててテールラットの体に火が付き、全身の体毛が燃えて瞬く間に火達磨となった。テールラットは断末魔の悲鳴を上げてのたうち回り、やがて黒焦げの死体となって床に転がる。
『はい完成! テールラットの丸焼き一丁! 見る限りクソ不味そうだがな』
ふざけてそんなことを口走っていると――
【経験値が一定値に達しました。各種スキルLvが上昇します】
また脳内アナウンスが何かを俺に知らせた。
『スキルLv上昇だと? ステータスが変化したのか?』
俺は自分のステータスを確認してみた。
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【船名】なし
【船種】ガレオン(砲38門)
【総合火力】710
【耐久力】500/500
【保有魔力】442/500
【保有スキル】神の目(U)、閲読、念動:Lv2、鑑定:Lv2、遠視:Lv2、夜目:Lv3、水魔術基礎:Lv1、火魔術基礎:Lv1
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なるほど、これまで覚えてきたスキルのレベルが上がっている。あと、ちゃっかり総合火力も少しだけ上昇している。どうやら、テールラットを殺した際に得た経験値でレベルアップしたらしい。……って、船にもレベルアップの概念ってあるのか? 保有魔力が減っているのは、さっき「水生成」と「炎生成」を使ったからだろうけれど……思ったより減りが早い。
『さっき、「水生成」は七、八回唱えて、そのあと「炎生成」を唱えたから……大体一回の使用で5くらい魔力が削られるのか。より強力な応用魔術だと余計にMP持って行かれるかもだし……あまり術を唱え過ぎると、あっという間に魔力が無くなっちまうかもな』
何回も練習しているうちに魔法も使いこなせるようになるだろうとも思ったが、ゲームのMPと同じで、使用できる魔力にも限度がある。必要最低限のとき以外は、むやみに魔術を使わない方が良さそうだ。
『――それにしても、このテールラットの丸焼き、どうするかね……』
ここに置きっぱなしにして蛆でも湧いたら嫌だし、外に捨てるか……
俺は黒焦げになったテールラットを「念動」で拾い上げると、そのまま外へ持って行き、湖へポイと投げ捨てた。
……と、その刹那――
サバァッ!!
突如水しぶきを上げて湖から巨大な黒い影が飛び出し、丸焦げになったテールラットの死体を一飲みしたのである。
『うわっ!』
一瞬のことで、何がテールラットの死体に食い付いたのか見えなかった。どうやらこの湖には、どう猛な肉食の海洋生物が生息しているらしい。あんな奴が俺の腹の下に潜んでいるのかよ……俺は思わず身震いしてしまう。
『そうだ、「神の目」を使って視点を船底へ移動させれば、水の中も見れるはずだよな……』
俺は視点を水に沈む船底へと移動させ、湖の中を見てみた。さっきの生き物の正体は一体何だったのだろう?
『……ん? あの影は何だ?』
すると、水面下にうごめく巨大な影を捕えた。その影はどんどんこちらへ近付いて来て、やがて俺の前にその姿を見せる。
『なっ、ネッシーかっ⁉』
体長は約八メートルほどだろうか? 長い首を持ったその姿は、まるでジュラ紀の恐竜そのもの。しかも、胴体から生えているのは四本の脚ではなく四本のヒレで、ヒレを動かすことにより、湖の中を自由に泳ぎ回っていた。
俺は泳いでいるその恐竜のような生き物に向かって鑑定スキルをかけてみた。鑑定のレベルが上がったおかげなのか、多少距離が離れていても、鑑定は機能してステータスが表示された。
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【種族】レイクザウルス
【HP】240/240
【MP】0/0
【攻撃】110 【防御】170 【体力】200
【知性】25 【器用】140 【精神】90
【保持スキル】潜水:Lv2、突進:Lv3、噛み付き:Lv4、警戒:Lv1
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『やっぱり恐竜の仲間か? こんなのが湖にいたなんて……しかもあの体だと、テールラット一匹食らったぐらいじゃ満足しないだろうな』
湖の中を確認したところ、コイツの他に小さな魚などは見当たらない。全部コイツが食っちまったのか? それならなおさら腹も空くだろう。
俺は最下甲板にある図書室に戻り、この世界の生き物たちの情報が記載されている書物を探して、テールラットやレイクザウルスについて調べた。
図書室に置かれていた「イラスト付きでよく分かる! 世界生き物図鑑」によると、テールラットは暗い湿った場所を好み、繁殖力が強く、食べ物の少ない環境でも大量発生することがあるらしい。一方のレイクザウルスは肉食獣だが、魚ばかりを食べているわけでもなく、空腹時は狂暴化し、湖にやって来た動物や人間を襲って食べることもあるという。
こいつ、空腹になると狂暴化するのか……そんな奴に体当たりされて沈めらちゃ、こっちはたまったものではない。
『……しょうがねぇ。機嫌取りにお代わりでも探してやるか』
俺は図書室から視点を移し、船の中でも日の当たらない場所――主に下砲列甲板と最下甲板でテールラットを探した。繁殖力が強いということは、俺の腹の中をねぐらにしているネズミ共がまだまだたくさん居付いている可能性がある。ゴキブリと同じで、一匹見つけたら百匹は潜んでいることもあり得るかもしれない。
――結果的に、俺の予想は大当たりだった。試しに船の両舷に置かれている大砲の台車をスキル「念動」を使って動かしてみると、台と床の隙間から、まぁ出てくる出てくる。軽く五十匹以上はいるのではないだろうか? 薄暗い甲板の上を、何十匹ものテールラットが駆け抜けてゆく様は、何とも気色が悪かった。
『こんな大量のネズミを自分の腹の中に抱えてたってのか……考えるだけで寒気がするな』
まぁいい、俺の船に許可もなくタダ乗りしているとは良い度胸だ。まとめて丸焼きにしてくれる!
俺は覚えた火魔術基礎の「炎生成」を唱えて、逃げてゆくテールラットの中に火を放った。炎に巻き込まれた数匹が、火達磨になって燃え上がる。しかし、魔術で生成された火は松明ほどの強さしかなく、効果範囲が局所的なせいで、一度の詠唱でせいぜい二、三匹程度しか殺せない。これではただ魔力を消費するだけで効率が悪い。より大きな炎を生み出す術を覚える手もあるが、木造帆船の中で強力な火魔術をブッ放すのは自殺行為に等しい。
「……ならば、雷魔術で一網打尽にしてやる」