第45話 護衛船団襲撃作戦③
「全砲門、ぶっ放せ――――っ‼︎」
合図と共に、俺の右舷側面に並べられた大砲に次々と火が放たれ、耳をつんざく爆音が立て続けに響き渡った。重い砲身が後方へ跳ね退き、舞い上がる白煙が狭い甲板の中に立ち込める。向かい側で並走するロメリアーナ号は、こちらの一斉砲撃をもろに浴びて穴だらけになり、乗組員たちは飛び散った破片に射抜かれて即死するか、爆風に吹き飛ばされて空の底へ落ちていった。
(あ〜あ、おいたわしや……だが、恨むんなら俺じゃなくて、お前たちの船団を襲うなんて言い出したニーナを恨んでくれよな)
俺はそんなことを思いながら、一方的に砲撃して相手を畳みかけてゆく様子を傍観するように眺めていた。
それにしても、戦闘が始まってからというもの、俺はニーナ海賊団たちの卓越した戦術に驚かされてばかりだった。
まず、ニーナの乗ったクリーパードラゴンが、厄介な装竜母艦であるシルバーズファミリア号を単身で撃破。相手ドラゴン部隊をけしかけて引き付けている間に、マジックアイテム「神隠しランプ」を使って俺の体を透明化させ、雲から抜け出して船団へ接近。先頭を航行していた最も防御力の低いリトル・ジャンパー号に至近距離から砲撃を浴びせて一気に撃沈させた後、帆から風を抜いて減速し、そのまま後ろに付いていた最も攻撃力の高いロメリアーナ号へ一斉砲撃を食らわせた。素早い操船技術も然ることながら、砲手たちの腕前も見事で、装填から砲撃まで連携にいっさいの無駄がない。短時間で二度も砲撃ができたのは、彼らの一糸乱れぬ見事なチームワークのおかげと言えるだろう。
それにしても、マジックアイテム「神隠しランプ」のおかげで、俺が相手の船に鼻先まで近付いても相手がこちらに気付かないというのは何とも不思議な感覚だった。かなりチートな能力ではあるけれど、ニーナが言っていたダークエルフ族に古くから伝わる教え――”相手に気付かれぬことこそ最大の防御であり、最強の武器”ということわざにも納得だ。
しかし、こちらが相手に気付かれていない間は無敵であるとはいえ、「神隠しランプ」による神隠しの加護にもある程度の時間制限がある。ニーナ海賊団たちは、いかに短時間で船団に大打撃を与えられるか、それを踏まえた上で、このような戦術を取ったのである。すでに船団は五隻のうち二隻を失い、完全に統率を失ってパニックに陥っている。混乱している今がチャンスとばかりに、ニーナ海賊団の砲手たちもすかさず次弾の装填にかかっていた。
一方、そんな砲弾と怒号の飛び交う甲板の上で、ラビは何をしていたのかというと――
「おい新入り! 弾薬がねぇ、急いで下から持って来い! 早くしろ!」
「新入り、ボサッとしてねぇでこっちにも弾薬よこせ!」
「は、はいっ!」
あちこちで砲手たちから弾薬をせがまれ、どさくさに紛れて下層にある火薬庫から弾薬を運ぶ係をやらされていた。狭い甲板で人込みに揉まれ、立ち込める煙に息を詰まらせ、途中何度も転びながら最下甲板にある火薬庫へ急ぎ、弾薬筒の入った缶を受け取って上へ運ぶ。これを何度も何度も繰り返して、彼女は上の階と下の階をまるで小動物のように駆け回っていた。
しかし、今度は砲手を含めた乗組員たちが皆そろって外甲板へ駆け上がり始めたのを見て、ラビも慌てて彼らの後に付いて行く。
「みんな武器を持て! 敵船に斬り込むぞ!」
「歯向かうヤツらは全員地獄へ叩き落せ!」
「俺たちニーナ海賊団の意地を見せてやれ!」
あちこちから剣の刃が擦れる音や撃鉄を上げる音が響き、武装したエルフたちが武器を片手に大声で息巻いている。
「新入り、テメェも早く武器を持て! 敵船に乗り込むぞ!」
「えっ、ちょ、あの、わ、私剣術はあまり得意じゃなくて……」
「無駄口を叩くな! 目に映ったヤツをひたすら全員斬り殺せば済む話だろ!」
戦いを目の前にして、もう完全にアドレナリンMAXなエルフたちから無理やり剣を押し付けられてしまうラビ。操舵士のエルフも感情任せに舵を思いきりブン回してくれたおかげで、俺は輸送船セイント・ハウル号の左舷へ体当たりを食らわすように接舷し、ピッタリと隣へ並ばされた。
『おいおいおい! もうちょっと丁重に扱えよ! いくら何でも接舷の仕方が乱暴すぎるだろ!』
――と叫ぶものの、彼らに念話は使えないから、ただ俺一人だけでギャーギャー喚いているだけなのだが…… 別に痛くはないのだけれど、衝撃はこちらにもビリビリ伝わってくるし、俺の体に傷がいくところを想像すると、とても良い気持ちはしない。
「野郎ども今だ! 乗り移れっ!!」
「「「「ウオオ―――――――ッ!!」」」」
接舷したタイミングで、海賊たちは一団となって、相手船側へなだれ込んでゆく。雄叫びと雄叫びがぶつかり合い、剣と剣が交差し、銃が火を噴き、度を越した狂気と混沌がその場を支配した。あちこちで撃たれたり斬られたりした者の断末魔や悲鳴が上がり、瞬く間にいくつもの死体が転がって、甲板の上は赤い血で染められてゆく。その迫力はすさまじく、まさに海賊映画の海戦シーンさながらで――
『……って、おいちょっと待て! 気付いたら俺の中に誰も乗ってないんだが⁉ おいお前ら、なに俺一人だけ残して全員出払っちまうんだよ! せめて留守番組を残して行けよ! もしここで不意に敵でも現れたら――』
と、言うが早いか、接舷した反対側に、船団唯一の生き残りであるサイレント・ニコラ号が滑り込んできた。ほら見ろ! 言わんこっちゃない!
相手の船に積まれた大砲は全部で十六、うち片舷に並ぶ八門が、俺の船体を狙っている。しかも上甲板には、見たことないほど大口径の巨砲がこちらを向いているのが見えた。
『ちょいちょいちょい待て! あんなデカいのブチ込まれたら、俺の船体がもたねぇよ!』
――後々になって分かったことだが、俺を狙っていたその巨砲は「臼砲」と呼ばれる大砲の一種らしく、破裂する榴弾や散弾を詰めて、甲板上の敵乗組員を一掃したり、敵ドラゴン部隊を追い払うための対空火器として用いられるものらしい。だから、あれを撃たれたところで、俺自身へ致命的な損害を与えることはなかった訳だが……それを知らなかった俺は、情けないことに自分を狙う巨砲を前にして、完全にビビり散らかす腰抜けと化していたのだった。
「はぁ~~~い! おまたせ~~~~!」
と、そこへクリーパードラゴンに乗ったニーナが颯爽と登場し、俺に攻撃を加えようとしていたサイレント・ニコラ号に向かって甲高い咆哮を浴びせかけた。超音波にも似たその鳴き声は敵乗組員たちの鼓膜を破壊し、船に乗っていた全員が耳を塞いで悶え苦しんだ。
「必殺! 『竜巻陣風』っ!」
ニーナが技名を叫ぶと、今度はクリーパードラゴンの口から巨大な竜巻が吐き出され、敵船サイレント・ニコラ号の甲板上を一掃。乗組員だけでなく、並んでいた大砲や、大口径の巨砲すらもまとめて宙高く吹き飛ばし、空の彼方へ放り上げてしまった。
「ごめぇ~~~ん! 待ったぁ? 追っかけて来る敵がしつこくってさ、手間取っちゃったんだよね~」
まるで待ち合わせに遅れたギャルみたいな言い訳をして俺の甲板に降り立つニーナ。
『「待ったぁ?」じゃねぇよ! こっちはもうちょっとでハチの巣にされるところだったんだぞ! ってか、今の技超カッコイイな! 見ててスカッとしたぜ』
「でしょ? この子の必殺技なの! めちゃイカしてない?」
『ああ、本当に惚れ惚れした――ってかお前、追っ手の敵ドラゴン部隊はどうしたんだよ?』
「ん? 全部片付けちゃったけど?」
すごいことをサラッと言ってのけるニーナ。たしか敵ドラゴン部隊は全部で六匹いたはずだが、全て倒してしまったのだろうか?
「乗ってた竜騎士をみんなコレで射抜いてやったの。そうしたら、ドラゴンはもう追っかけて来なくなるから」
そう言って、ニーナは肩に担いでいた弓を見せてくる。なるほど、馬に乗った騎士を倒すのに馬ごと倒す必要はなく、乗っている騎士だけを落とせば良いという寸法か。空中で相手の騎士を弓矢で射抜くのも至難の技だと思うのだが、ニーナと初めて出会ったときに見せた、メタルビークを難なく射抜いたあの神エイムなら、彼女にとっては造作もないことなのだろう。
『それにしても、お前んとこの海賊はどいつもこいつも血気盛んなヤツばっかだな。いざ乗り込むってなると、あいつら俺だけ残して全員乗り移っちまうから、驚いたよ』
「あははっ、みんな戦いに飢えてるからね~。たまには派手にパーッと暴れて発散させてやらないと、航海中にアレを爆発させちゃったら、大反乱が起きかねないでしょ?」
『た、確かに……』
全員が俺の甲板の上でああでも大暴れされたら、それこそどうなるか分かったものじゃない。考えただけで恐ろしくなる……
「きゃあ~~~~~~~っ‼」
――と、そのとき、戦いの続く相手船の甲板上から、唐突にラビの悲鳴が聞こえた。
『ラビっ⁉ まさか、あいつも敵の船に乗り込んでたのか?』
「あちゃ~、私の部下たちに紛れて乗り移っちゃったっぽいね~。ヘルプ行こっか?」
『くっ……頼めるか?』
「りょ! 任しときなって!」
ニーナは軽くウインクを飛ばすと、隣に控えていたクリーパードラゴンの背中にまたがり、サイレント・ニコラ号の甲板へと飛び立っていった。




